エピローグ:

「ははは。そうか」
にこやかに笑っている父親に対し。
思わず、がっくりと肩を落としてしまう。
「…父さんは知ってたんですね?」
人々が噂している魔族の姿とは、実際は異なる。
というその事実を。
ユーリたちと別れ。
とりあえず、一度父に報告するためにと実家にもどってきた。
そこで。
眞魔国にいって魔族とであった…と話したところ。
予想に反しての父の反応。
「だからいっていただろう?アルフォード?
  回りに惑わされてはだめだ。と。常に自分の信念をもち、正しいことを。とな」
「……それは……」
今になって父のいっていた言葉の意味がよくわかった。
「しかし。そうか。コンラート殿に出会ったのか……彼は元気だったか?」
もう、三十年以上も前のこと。
あのときの光景は今でも昨日のことのようにと思い出される。
初めて出会って、旅の剣士だという彼に剣の勝負を挑み。
あっさりと負けたときの衝撃。
そしてまた……
彼が実は魔族と人間との間に産まれた子供である。
と知ったときの……
いや、それ以上に。
「ええ。とても。今では双黒の魔王の護衛係になっているみたいですけどね」
そんな息子の言葉に。
「そうか。では、魔王の交替があった。という噂は事実なのだな。
  カヴァルケードのほうからそのような噂が届いてはいたが……
  なるほど。双黒…ねぇ。それはさぞかし、アルの様子が目にうかぶな。
  双黒の姿をみて『魔王!覚悟っ!』といってつっかかっていったんだろ?おまえのことだ。
  おまえはどうも、周りにだまされてそのまま間違った知識のままで突っ走るところがあるからな」
「うっ!!」
図星を指されて思わず固まってしまう。
双黒の持ち主。
といえば。
おそらくは……
では十八年前に聞いたあの噂は、おそらくは間違いなのであろう。
そう彼は確信しつつ。
「しかし。そうか。だが、どうやらおまえの誤解と偏見も解けたみたいだな」
「……魔王があれじゃぁ……拍子抜け…というのが俺の素直な意見です……」
何しろ。
ものすごい力をもっているのにまったくといっていいほどに、当の本人は無自覚。
さらには、普段はものすごい人がよすぎるほどの性格の持ち主。
おもわずあきれてしまうほどに。
そんな息子の言葉に。
「はははっ!まあ、そんなものだよ。…では。これはきいてないのかな?
  話によれば、一緒にいたのは、金髪の少年もいたとか?名前をヴォルフラム、とかいってたか?」
「はい」
「彼らは…コンラート殿とそのヴォルフラムという少年は兄弟だよ?」
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・
「ええぇぇ!?」
父の言葉に思わず一瞬無言となり、そして思わず叫んでしまう。
「あはは。驚いたようだね。私も話に聞いただけなのだが……
  彼ら三兄弟は…。コンラート殿は次男で、金髪の少年が三男。
  一番年下だね。全員父親が違うらしく、外見だけではまずはわからないらしい。
  ちなみに。彼ら三兄弟の母親は、前魔王ツェツィーリエ陛下だぞ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
それこそ、目が点になる。
というもの。
「……いやあの?…父さん?今何て……」
「聞こえなかったのか?だから。彼らの母親は双黒の魔王となった今の魔王の前の国王。
  魔族の王位は世襲制ではないらしいからね。
  しかも、その母君のもっとうは恋愛至上主義だったらしく。
  その結果、魔王の立場でありながら、コンラート殿の父君。
  人間であるダンヒーリー・ウェラー殿と恋に落ち、結婚したらしいしな」
「……えっと……」
何やら頭が痛くなってきたような気がするのは…何も自分の気のせいではないはずだ。
「…本当なんですか?」
魔王が…人間と結婚?
あの少年とウェラー卿が兄弟。
というのも驚きだが。
だが、それ以前に…彼らが先代魔王の息子である。
というのも驚愕だが。
「間違いないはずだよ?昔コンラート殿から聞いてるからね」
「・・・・・・・・・・・・・・ま…魔族って………」
あきらかに、回りの大人たちが噂をしていたような存在とはかけ離れているような気がするのは…
絶対に自分の気のせいではない。
普通、魔王。
といえば諸悪の根源…と回りの大人たちは物心ついたころからいっていた。
だから、自分もそう思っていた。
だけど、実際に出会った魔王は…あのユーリで。
さらには、そのユーリの前の魔王という人が…あのウェラー卿の母君で。
しかも…魔王だというのに人間と結婚!?
「何でも。城を抜け出していた先代魔王殿は、素性のわからないダンヒーリー殿と。
  旅先で出会って恋におち、反対を押し切って結婚したらしいよ?
  詳しくは私も聞いてないけどね。そんな話を彼から聞いたことがあるし」
伊達に、数ヶ月以上。
というか約一年くらい。
一緒に行動していたわけではない。
結局一度たりとて剣の勝負において勝つことはできなかったが……
「……俺何か頭いたくなってきました……」
「ははは。現実。というのもはそんなものだよ。アルフォード。
  だからこそ。自らの目でいろいろと見て知る必要があるのさ。いい勉強になっただろ?」
「…ええ。ものすっごぉぉく……」
高らかに笑う父親の姿をみて。
…自分はまだまだだな。
と狭い視野でしか物事を見極めることができない。
父がいっていた自分の目で確かめる。
その重要性が…とてもよくわかったような気がする。
そんなことを思いつつ。
ただただ、頭を抱えるしかないアルフォードの姿が。
しばし。
アルフォードの実家にて…見受けられてゆくのであった……



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