「ちっ!」
剣を構えようとするアルフォードを制し。
「ユーリなら大丈夫だってば。そろそろ我慢の限界だしねぇ。あれは」
のんびりと、ユーリのほうをみつつ、そんなことを言っているアンリ。
「しかし…このままでは……」
心配そうな声を上げているギュンターの言葉に。
にっこりと微笑み。
「ユーリをつれたままで、彼女たちに移動はできないってば。そろそろくるよ?三・二・一……」
「?来るとは?」
意味がわからずに、アンリの台詞にアルフォードが首をかしげると同時。

ドッン!!!!

「うわっ!?」
「きゃっ!?」
ユーリを羽交い絞めにしていた男までもが、見えない強力な力に吹き飛ばされる。
周囲には突発的な突風が吹き荒れ、彼ら三人を吹き飛ばしていく。
それをみて。
「陛下っ!きましたね!」
「まったく。へなちょこめ」
「しかし。今回はかなり助かったなぁ」
のんびりとそんなことをいっているギュンター・ヴォルフラム・コンラッドの三人の姿。
一方で。
彼らの言葉の意味がわからず、ふと視線をユーリのほうにと彼がむけると。
何やら光の気みたいなものに包まれて立っているユーリの姿が目に入る。
だがしかし。
ユーリからものすごい威圧感を感じるのは…彼の…アルフォードの気のせいではない。
立っているだけで、何というか…全身がしびれてくるような…そんな感覚。

「己の欲望を満たすため。罪なき村を襲いかよわき子供に刃をむける。
  あまつさえ子を思う母親の気持ちを踏みにじり。
  獣の親子にまで害をおよばせ、その心を利用する……」

今までのユーリの口調とはまったく違う。
思わず唖然とするしかないアルフォード。

「その行状!万死に値する!命を奪うことは本位ではないが、やむをえぬ!おぬしらをきるっ!!」

マーカー達がユーリに斬りかかろうとするが、見えない力にと弾き飛ばされる。
おそらくは、あれが魔力なのだろう。
そんなことをアルフォードは内心思うが。
言葉にはならない。
「こないでっ!」
いきなり豹変したユーリに驚きつつも、恐怖しながら杖をユーリに向けているエルマ。
だがしかし、その杖の先にとついている法石はいともあっさりと砕け散る。
ユーリの力に耐えられるはずもないのである。
どんな物質においても……
そんなことはエルマたちは知る由もないが。

「…魔力の壁にまもられている?それに…何か姿もかわって……」
どうみても、目つき、そのほか。
髪の長さまで変わっているように見えるのは気のせいではない。
ユーリをみてつぶやくしかないアルフォードに対し。
「魔王としてのユーリの姿はアレだからねぇ。一応。父親譲りの姿だしさ。
 でもさ。今回でてきたの、父親サイドの…つまり魔王としての力でよかったよ。
 万が一、シルの…創世神側の力がでちゃってきたりしたら……
 ユーリの体にかかる負担は大きいからねぇ」
横でしみじみとそんなユーリの姿をみて何やら言っているアンリの姿。
そんなアンリの言葉に、
「?」
アルフォードが質問するよりも早く。

「成敗っ!!」

高々とユーリが言い放ち、手を上空にと掲げる。
と。
その辺りに転がっている木々や薪が一瞬にて一箇所にと集まり。
それは瞬時に木の竜の形をとっていたりする。
「あ。今日は木のドラゴンだ」
「デッサンがいまいちだな。でも今回は結構まともじゃないか」
「きっとドラゴンにちなんでそうなんでしょう。ですが……たしかに、今回は大人し目ですねぇ」
アンリ・ヴォルフラム・コンラッドがそんなのんきなことをいっているが。
一方では。
「さすが陛下ですっ!」
一人感激モードに入ってしまっているギュンターの姿もみてとれる。
ドラゴンの形をした、それは。
口から大量の木々を吐き出し、
エルマたち三人を姿をかえつつ、からめとりながら一箇所にとあつめていき、
そのまま、三人を取り囲むかのように、あっという間に檻が作成される。
そして。
なぜか一瞬で形成されたその木の檻の柵の上には。
兵士達が使用していたであろう、テントの幕がかぶせられ。
ご丁寧に『正義』の二文字が木炭にてかかれていたりする。

「そのほうたちは、自らの罪をその中でしばし悔い改めるがよいっ!おって沙汰を申し渡すっ!」
いって、次には再び手を空に掲げ。
「心なきものの手によってはからずとも人々の生活の場を壊してしまった、
  母なる心をおもんじ、今ここに修復せんっ!」

ユーリがそう言い放つと同時。
ガラッ!!
ザザザッ!!
地面に落ちていた屋根の木々などといったものが、一斉に空中にと浮かび上がり。
次の瞬間。
ユーリが作った木のドラゴンの遠吠えとともに、それらは壊れた家屋にと集まっていき。
そして、それは一瞬のうちに収縮し……
次の瞬間には、何ごともなかったかのように元通りになっていっている家々の姿が。

「これにて一件らくちゃ……」
ばたっ。
「おっと」
「いつのまに!?」
倒れるユーリをいつの間にか、自分の横にいたはずなのに。
移動して支えているアンリをみて驚きの声をあげているアルフォード。
いや、それもあるが…それ以前に……
「一瞬で……」
一瞬で壊れた家屋すべてを元通りにさせているのに気づき思わず固まってしまう。

「さってと」
ざばっ!!
「うわっ!?」
いきなり顔にと水をかけられ。
思わず飛び起きるユーリの姿にも驚愕を隠せない。
そんな彼の姿をみて、ただただ驚くしかない人々の姿がその場にて見受けられてゆく。



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