「ねえ?ポチのお母さん。ちゃんとついてきてるのかなぁ?」
頭にポチをのせて、がさがさと草を掻き分けながら進みつつのオレのといかけに。
「大丈夫ですよ。竜はとても鼻がきく動物です。ちゃんと上空からついてきてますよ」
ギュンターが振り返りつついってくる。
「そっか。なら大丈夫だね」
キャンプポイントから出発してそろそろ数十分は経過する。
そんなオレの言葉に。
「何が大丈夫なものかっ!この人間をつれていったら新しい巣の場所がわかってしまうだろうがっ!!」
何やら後ろから叫んでくるヴォルフラム。
「え〜?アルはもう竜を狙ったりはしないって。
  アルが竜を狙ったのは、竜の心臓が薬になるってだまされたからだろ?
  今はもうそれが迷信で嘘だってわかった以上。心配ないってば。
  それにさ。勇者が意味もなく殺したり、命を殺めたり、傷つけたりはしないって。
  人のため、正義のために心から尽くす職業なんだしさ。勇者って」
「だから!おまえはへなちょこだというんだ!
  そいつが仮に大丈夫だとしても!そいつをだましていた仲間がいるだろうがっ!」
「……あ」
忘れてた。
「一度村にともどり、彼の身柄を引き渡しましょう。それからポチをつれて山に入れば大丈夫ですよ」
ギュンターの言葉に。
「ああぁぁ〜〜〜!!!そうだよ!卵だよ!僕としたことがっ!!」

何かいきなり叫んでアンリが立ち止まる。
「?アンリ?」
「「「猊下?」」」
オレとコンラッド達三人の声が重なる。
「たしか、君と一緒にいたひと。法術つかってたよね?!」
アルにと問いかけるアンリの言葉に。
「エルマのことか?ああ。彼女は法術使いだからな。
  法術使いのエルマ。盗賊のマーカー。武道家のティルマ。この三人が共に行動していたが……」
戸惑い気味にアルが答え。
「幻術とかも使えるかどうか聞いてる!?」
「?それは俺にはわからないが?」
何やらそんなことをアルにと聞いているアンリだし。
「アンリ?どうしたんだよ?いったい?」
オレの問いかけに。
「うっかりしてた!まだ巣の中にその子の卵の欠片がのこってたんだよ!
  少し力ある法術使いならば、その殻をつかって子竜と錯覚させることも可能だし。
  …シーラッ!母親竜がどこに今いるか今すぐに確認してっ!」
『――わかりました』
アンリが空にとむかって叫ぶと同時。
風が周囲を吹き抜ける。
と。
『……何かの塊の物体をもった人間を追いかけて麓の村にと向かっておりますが……
  どうやら、怒りに我を忘れているようですね。わたくしの声も届いてなかったようですし』
シーラの声のみが辺りにと響き渡る。
「?どういう?」
オレが質問するよりも早く。
どっん!!!
辺りに振動が鳴り響き、麓の村がある方向から煙が立ち上る。
「あれはっ!?」
「村のほうです!」
口々に叫ぶオレたちに。
「走っていくより。一気にいくよ!!」
『……え??』
アンリがそう言うや否や。
アンリがふっとその手に杖を出現させたかとおもうと。
小さく何かつぶやき。
次の瞬間。
オレたちの体は浮遊しているような錯覚にとらわれ……そして……


「なっ!?!?」
「ここは村…って…ああ!?あれはポチのお母さん!?」
ふと気づけば、一瞬の間に麓の村にともどってきているオレたち。
まあ、オレもごくたまぁにあるし。
いきなり他の場所に移動してしまったりしてること。
オレの場合は自分の意思ではないけども。
どうやらアンリ達いわく、無意識にオレはやっているらしい。
いまだにそんなこと信じられないけどね……
「何で暴れてるの!?」
みれば、村を壊して何やら暴れているポチのお母さん竜の姿が目にはいる。
「まさか…エルマたちが何か……」
戸惑い気味の声を出しているアルに対し。
「それしかないだろうがっ!」
即座に突っ込みをいれ、一言のもとに言い放っているヴォルフラム。
そんなことよりも!
「とにかく!村の人たちを安全な場所に避難させないと!
  シーラ!ニルファ!お母さん竜の説得に協力して!力をかして!」
いって。
「アンリ!この子をおねがいっ!」
「あっ!ちょっと!ユーリ!!」
アンリにポチを手渡して、シーラの力を借りて空中にと飛び上がる。
とにかく、お母さん竜を落ち着けないことには話しにならない。
「皆は村の人たちを!」
風に抱き込まれる形でふわり、と浮かび上がりつつ、それだけいってお母さん竜の元にと移動する。
お母さん竜の目の色がかわり、完全に怒りで我を忘れている状態になっているのが見て取れる。
ちらり。
としたをみると、アンリがポチを保護している状態で、村人たちを誘導している姿が目にはいる。
お母さん竜にと話しかけても、どうやら完全に頭に血が昇っているのかまったく反応はない。
こちらにも気づいてないようだ。
そんなお母さん竜をどうやってなだめようか?
と思っていると、ふと、直接脳の中にと言葉を送れ。
という単語がうかび、とにかく思いついたまま、手を竜の体にあてて強く念じてみる。
……と。
不思議なことに、成功したのか、はたまた偶然か。
赤く爛々と輝いていたお母さん竜の瞳が落ち着きを取り戻し、しずまっていき。
やがて、きょとん。
とした視線がオレにと向けられる。
「大丈夫。おちついて。子供は無事だから」
そんなお母さん竜に話しかけつつ、視線をしたにと向けると。
アンリが頭にポチをのせた状態でこちらにむかって手をふってきている姿が目にとまる。
その姿をみてか。
「くぁぁ〜〜!!」
大きく、一声いななき。
そのまま、子供めがけて降りようとしているお母さん竜。
「って!?まてまて!今いる場所は村人が多いいってば!
  アンリ!その子のお母さんが降りるから、人のいない広い場所に移動して!
  あと村人たちに怪我とかない!?」
そんなオレの問いかけに。
「村人たちは大丈夫だよ!わかった!」
いって、オレの言葉に答えて少し離れた場所にと走ってゆくアンリの姿が。
「オレも下におりよっと。…もう暴れたりしたらだめだぞ?」
「くあっ!」
オレの言葉にお母さん竜がうなづくのをみてとり。
シーラの…つまりは、風の力を借りてオレの空中より地面にと降り立ってゆく。


「村人たちに怪我とかない?」
オレの問いかけに。
「ええ。皆ひとまず避難させました。陛下が母竜をなだめてくださったおかげで。
  村の被害も最小限にとどまってますし」
いいつつも、村人の避難誘導を終えたコンラッドがオレの横にきつつ言ってくる。
視線の先では大地に降り立った母竜が子供とたわむれている。
何かとってもほのぼのとした光景だ。

と。

「キャ〜〜!!!」
何やら耳を突き破る女の人の悲鳴と。
「貴様ら!」
怒りに満ちたアルの声が聞こえてくる。
条件反射でそちらに駆け出すと。
小さな子供を羽交い絞めにして、その両横から杖や剣を突きつけている三人組の姿が。

「うごくんじゃないよ!動いたらこの子の命はないよ」
「おかあさぁ〜んっ!!」
「うちの子をかえしてっ!」
母親らしき人が泣き叫んでいる。
「やめろっ!その子をはなせっ!」
駆けつけたオレの目に飛び込んできたのは。
卑怯にも小さな子供を人質にとっている、アルをだましていた三人組。
彼らはオレの姿をみて、口元に笑みを浮かべ。
「子供を助けたかったら。双黒の魔王一人でこっちにきな。
  おっと!変なまねをしたらこの子の命はないよ!」
いって、子供の喉下に剣を突きつけている。
「やめろっ!その子をはなせっ!…わかった」
「「陛下っ!!」」
「ユーリッ!!」
コンラッドとギュンター。
そしてヴォルフラムの声が重なるけど。
何か兵士たちまで動揺した声をあげている。
「エルマっ!子供を人質にとるなど!人にあるまじき行為だぞ!?」
横のほうでアルが叫んでいる。
「お〜や。勇者様はいつから魔族側の味方になったのかしら。こまった勇者さんね。
  いっとくけど。誰か一人でも変な動きをみせたら、この子がどうなるか……」
いいつつ、さらに剣をつきつけているエルマたちの姿が。
「よせっ!」
いいつつ、前に出ようとするオレを止めようとしてくるコンラッド達だけど。
「皆は手出しをしないで!…子供の無事が最優先だ」
「しかしっ!」
「オレなら大丈夫だって」
いいつつも、後ろからやってきているアンリに目配せ。
こういう場合、相手を刺激しないほうがいい。
というのはよくわかっている。
兵士達や村人たち。
そしてコンラッド達を止めておいて。
一人、彼らのほうにと近づいてゆく。
そして。
「子供をはなせっ!」
とりあえず、言われるままに一人で彼らのほうにと出向き。
交渉開始。
オレが近くまで来たのを確認し。
大柄の男がいきなりオレをひっぱり、そのままホールドアウトしてくる。
それと同時に、子供が開放され。
「おかぁさぁぁん!!」
泣きながら走っていっている子供の姿が。
どうやら怪我とかはないらしい。
「ちっ!ユーリのバカっ!」
何か叫んでいるヴォルフラムに。
「エルマっ!彼をどうするつもりだ!これ以上の罪を重ねるのはやめろっ!!」
説得しようとしているアルの姿がみてとれる。
「まったく……。世間知らずで困った勇者さんだこと。双黒の魔王にかけられている賞金をいただくのさ。
  魔族の村で騒ぎを起こせば魔王がでてくる。
  間本当ならそっちの双黒の男の子もほしいところだけど。こっちのほうが捕まえるのに楽そうだしね。
  臣下に後生守られた魔王様はどうやら術も使えないみたいだし」
オレを羽交い絞めにしているままで、そんなことをいってるし……
……ぷっち…
「…そんなことのために村を…ポチのお母さんを利用したのか!?」
「ついでに。竜の子も連れてきてもらいましょうか。おっと。動いたら大切な魔王様に傷がつくよ?」
そんなことをいいつつ、オレに何か赤っぽい石のついた杖を突きつけている、
エルマ、と呼ばれていた女性。
……そんなことのために……
そんな…自分勝手な……
どくんっ!!
心臓が高鳴り…
そして――
いつものごとくに、オレの意識は真っ白にとなってゆく……



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