「……今のは……」
しばらくシーラを凝視していたアルが何やら戸惑いの声をだしてくる。
「今の?風の大精霊シラルークだけど?」
アンリのさらり、とした返事に。
「大精霊…って……あなたはもしやっ!?」
何か驚いているアルフォード。
いったい全体何がどう、というのやら。
「とにかく!アンリ!毒キノコだけはやめろ!
  またとってくるつもりだったろうが!今のおまえの表情だとっ!!
  コンラッド。ちゃんと予備の食事あるんだろ?」
アンリに釘をさしておいて、コンラッドにと問いかける。
「ええ。用意してありますよ」
「近くに川もあるしな」
川がある。
ということは、魚もいる。
ということ。
焼き魚とかもできる、ということだ。
「とにかく、おなかもすいたし。夕食にしようよ。ね?
  アルも一緒にさ。あ、ポチって何を食べるのかなぁ?」
そんなオレの素朴な疑問に。
「こいつの名前はリースエールだ」
何やら横でそんなことをいってくるヴォルフラム。」
「え〜?ポチのほうがいいって。こいつも気に入ってるしさ。な?ポチ?」
「みきゃっ!」
オレの言葉に答えて軽く炎を吐いてるポチ。
「おお!小さいのに炎が吐けるのか!すごいぞ!ポチ!」
「だから!リースエールだっていってるだろうがっ!」
そんなオレとヴォルフラムのやり取りをなぜか目を点にして眺めつつ。
「こ…これが魔王?……な…何か頭いたくなってきた……」

何かそんなことをいって頭を抱えているアルの姿が。
どういう意味?
ねえ?
とりあえず、食事をとり。
今日のところはここでキャンプを張ることに。


「う〜ん!いい朝!」
「おはよう。ユーリ」
「何かキャンプっていいね。気持ちいいし」
朝の空気の冷たさにふと目がさめる。
「ぴぎゅみゅ?」
オレと一緒に寝ていたポチは、何やら寝ぼけてか目をこすっているけど。
見ればアンリも目を覚ましたらしくオレにといってくる。
「あ。ポチはまだ寝ててもいいよ?」
「うにゅ〜……」
オレの言葉にポチはまたうとうとしているし。
「おはようございます。陛下。猊下。早いですね」
軽く体を動かす目的で、ラジオ体操をしているオレたちにとコンラッドが言ってくる。
どうやら、彼は早くにおきて周囲を見回っていたらしい。
「おはよう。コンラッド。だから陛下ってよぶなってば。名づけ親のくせに」
「癖になってるんですよ」
「まったく……」
そんな会話をしていると。
どうやら、目が覚めたらしいアルフォードがオレたちのほうにと歩いてきて。
そして。
「……何をしてるんだ?」
などと問いかけてくる。
「何って?見ての通り。体操」
「軽く体をほぐしておいたほうがいいよ?君も。今日はだいぶ歩くだろうからね。」
おいっちにっ。
さんしっ。
ラジオ体操をしつつ、アルにと交互に話しかけているオレとアンリ。
「さて。それじゃあオレはヴォルフを起こしてきますよ。
  ギュンターは野宿というかキャンプの片付けをしてますし」
言いつつ、まだ寝ているヴォルフラムを起こしに向かってゆくコンラッド。
「とりあえずさ。ポチたち親子。山奥に移動させるらしいよ?」
「そっか。そういえばアルと一緒にいたあの人たち…あきらめたかなぁ?」
「あきらめてないんじゃない?……最も、僕にも気づいたかどうかはわかんないけど。
  ユーリには間違いなく気づいただろうしさ。
  ドラゴンを捕らえて殺して売るより、ユーリ捕まえたほうがお金になる、と踏んでるとみた。
  何しろユーリ、剣はてんでダメだしさ。まだ自分で魔術も使えないし」
「というかさ。本当にオレってそんな魔術なんて使っているわけ?」
オレとしてはほとんど実感ないんですけど?
だって覚えてないし。
「自覚しようよ?いい加減……」
そんなアンリとオレの会話になぜか唖然とし。
「…剣がてんでダメって…魔王だろ?術もダメ…ってそんな!?」
何か驚きの声を発しているアルの姿。
「一応はね。ついモノのはずみで、王になってやるっ!て宣言しちゃったからねぇ。オレ……
  即位はしてるよ。一応は。まだ何もこの国のこととか世界のことなんてわかってないけどさ。
  この世界の状態そのものもはっきりとわかってないのが現状だし。
  ま、人間みな、話せば分かり合えるって信じてるし、またそう思ってるから。
  人類種族皆平等計画、世界平和を目指して微々たるものながらがんばるつもりではあるけどね」
そんなオレの言葉に。
「…ま、魔王が世界平和って……何かおまえ…かわった魔王だな……」
何かあっけにとられていってくるアル。
「あはは。よくいわれるよ。それより。アルって勇者なんだろ?いいなぁ。すごいよね。
  オレなんかいきなりこっちの世界に呼ばれちゃってさ。
  いきなり、『あなたは今日から魔王です!』だったもんなぁ〜……
  普通は勇者をやりたいよ。普通は。
  異世界でしかも剣と魔法の世界。ときたら、やっぱり勇者だしさぁ」
そんなオレの言葉に。
「この世界にはいろいろと種族がいるからねぇ。ま、一般だと勇者と魔王って。
  相反するモノ同士だけどさ。ユーリの場合は特殊だし」
横で同じく体操をしながら、アンリが何やらいってくる。
「だからさぁ。その特殊って何よ?特殊って?アンリ?
  あ、そういえばさ。アンリのお父さんも勇者だったの!?」
動きを止めて、アルに問いかける俺の言葉になぜかびっくりしつつ。
「あ。ああ。二十年前にレイゲンの町を焼き尽くした竜をたった一人で倒した勇者だ。
  今は田舎でのんびりと養生している」
戸惑いつつも答えてくる。
「すごっ!本物だぁ〜!!…あれ?でも何でその竜って町を襲ったんだろ?」
オレの素朴な疑問に。
「大方。町の人間が子供を捕らえて殺したんでしょ。竜は母性本能が強いからね。
  子供を守ろうとして怒りに我を忘れることもあるほどに。
  殺さなくてもさ、きちんと話せば牙も鱗ももらえるというか、分けてもらえるのにねぇ。
  何でも力づくっていうのはよくないよ」
アンリが横で同じく動きをとめて答えてくる。
「でもさ。子供を殺されたお母さんの気持ちはわからなくもないけど……
  …何もしていない人まで巻き込むってことは、自分と同じ立場の人たちを作りかねない…
  ってことだし……」
そんなオレの言葉に、かるく微笑み。
「だから。常に心は強くもっていなくちゃね。そんな悲しみを増やしたり、また起こしたりしないように。
  そういうのをなくすためにもユーリはがんばらないと。ユーリならできるって」
「誰もそもそも、やろうとしたりしない世界みたいだし。だからやるっきゃないけどね」
どうも、この世界の人たちって。
ムリ、と思ったらやらない傾向があるような感覚を受けてるしなぁ……
話を聞く限り……
例外な人たちもいるけど。
コンラッドとかさ……
そんなオレとアンリの会話になぜか無言となっているアルの姿がそこにあるけど。

どうかしたのかな?


「う〜……」
そんな会話をしている最中。
何やら今だに眠たいのか、目をこすりつつおきてくるヴォルフラム。
「ヴォルフ。もう朝だぞぉ?」
とりあえず、そんな寝ぼけ眼なヴォルフラムにとハナシカケル。
「さ。みんなおきたようですし。朝ごはんを食べて出発しましょう」
片付けがおわったらしいギュンターが、朝食の準備をしつつ言ってくる。
「わかった。けど何かこういうのってキャンプみたいでいいなぁ」
実際。
キャンプみたいなものだけど。
そんなオレの言葉に。
「ユーリ。何をのんきな……。
  あの三人、間違いなくユーリを狙ってくるだろう、というのにさ。間違いなく」
あきれた口調で突っ込みをいれてくるアンリの姿。
「話せばさ。わかってもらえるとおもうけど。あとこの子達狙わないように説得してさ」
そんなオレの言葉に。
「話して判る相手じゃないとおもうけどね」
そんなオレたちを横目でみつつ。
「……回りの大人たちなどから俺が今まで聞いていた魔王のイメージとはまったく逆なんだが……
  本当にあんた…魔王なのか?」
何かとまどいつつも問いかけてくるアル。
「一応。多分」
「『多分』って…陛下」
アンリの質問に即答しているオレに笑って言ってくるコンラッド。
「こいつはこんなへなちょこだが。本人の自覚がないにしろ、魔力はかなりもってるぞ?これでも」
腕をくみつつ、何やらいっているヴォルフラムに。
「自分の意思ではいまだに使いこなせていないからねぇ。
  ユーリは無意識によくいきなり豪雨とかは降らせたりはしてるけど」
何やらしみじみといっているアンリ。
「??突発的な雨や集中豪雨は偶然じゃん?昔からよくあることだって」
オレの言葉に、なぜかオレとアンリ以外の全員がため息をついてるけど。
…?
よくあることじゃん?
突発的な一部のみの限定集中豪雨ってさ。
オレの言葉に、なぜかアルまで頭をかかえて、何やらうなってるし……
変な皆……

とりあえず、朝食をたべて。
ポチたちの新たな巣を探しに出発することに……



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