それは、どこか雪の中の小さな食堂。
そして、そこで声をかけられているアルに……
さっきの三人が話している会話が。

「なっ!?何であのときの光景が今ここで!?」
それをみて、何やら驚きの声をあげているアル。
どうやら彼の過去の出来事らしい。
…何か、十二国記の水遇刀なみ??
「君。この力すらも使いこなせてなかったの?この剣には、過去、現在。
  そして少し先の未来程度くらいならば見通せる能力はつけてるよ?
  で、ついでにこういう機能も……ね」
「あ……」
アンリの言葉と同時。
剣によって映し出されていた光景に変化が生じる。

三人の体からオレには見えていた黒いオーラ。
それが形を成したかとおもうと、アルに説明していることとはまったく逆の言葉を発していたりする。

しばし、映し出されているその光景をみつつ。
「えっと?ドラゴンの心臓で不治の病が治るの?」
思わずギュンターたちにと問いかけるオレに。
「いまだにそんなに迷信を信じている人間もいるんですね。まったくもってなげかわしい。
  おそらく、こちらの表向きにいっていることは嘘ですね。
  猊下?こちらは本心の心を表しているのでは?」
オレの問いに答えつつも、アンリに聞いているギュンター。
「そう。伊達に僕が作ったわけじゃないよ。ウリちゃんの…つまりは賜詞巫女の力をも組み入れてるしね。
  人の心の善悪を判断する力をオプションとしてつけてるの。」
そんなギュンターの問いにあっさりと答えているアンリだけど。

映し出されている光景の説明では、あの三人のうちの一人の女性が。
アルフォードに子供の命を助けるために、力をかしてください!
と悲壮な表情でいっているけど。
一方の黒い人影のほうはといえば。
こいつは、どうやら聖剣をもっていて、しかも世間知らずそうだし。
うまくだまくらかして、口でごまかしてこいつに竜をころさせればドラゴンのうろこなどをうって大もうけ!
などといっていたりする。

「……何だ!?何なんだ!?これは!?」
それを目の当たりにして、とまどうアルに。
「う〜ん…。この力を使いこなせていないばかりか。人を見る目もないの?君?
  人の目をみれば、大概、善か悪か、なんて結構わかるよ?
  最も。何があくで何が善か。というのを考えたり、教えられたりしていなければ意味ないけど」
冷ややかなアンリの視線がアルにと向けられる。
まあ、嘘とか、何か悪いことしようとする人って。
大概、人の目をみて離さずにそらしたりするからね……
嘘をつきなれているものならまだしも。
オレの場合はオーラの色でそれが判断できる、という特性をもってるけど。
ま、これも産まれ付きの体質らしいし。
「なるほど。つまり…だ。今猊下が見せてくれた映像によると。そいつはだまされていたわけか。
  まぬけなやつ。ドラゴンの心臓で不治の病が治るどころか病が治るというのは迷信だ。というのに」
何やらいわなくていいことまでいってアルにとどめをさしているヴォルフラムの言葉に続き。
「ドラゴンの生命力は強いですからねぇ。そんな噂が生まれてしまったわけですけど」
などといっているコンラッド。
「というかさ。ドラゴンの血肉を人の体にいれたら逆に拒絶反応おこして命にかかわるってば。
  最も。そんな噂もあって、四大元素の力を凝縮してつくる薬に『竜胆』なんて名前がついたんだけどさ」
コンラッドの言葉につづいてアンリが何やらいっている。
えっとぉ??
「えっと?つまりどういうこと?」
オレ以外は何かわかったような顔をしてるし。
「つまり。その人はあの三人に不治の病の子供の病気を治すのに。
  生きたドラゴンの心臓から作られる薬が必要だ、とかいわれて。
  言葉巧みにだまされていたってわけ。それで協力させられていたわけだね。
  この剣の力を少しでも使えれば、自分で見極める力がなくてもわかったのにね。
  これ、相手などの心の声を持ち主にと伝える機能ももってるから」
オレに説明してくるアンリに続き。
「ドラゴンの鱗や爪は、高価なものとして高額なお金で取引されているんですよ」
コンラッドが追加説明をしてくれる。
「まったく。いまだにそんな迷信のドラゴンの心臓の薬の話など信じている人間がいるなど。
 なさけない。これだから人間というのは……」
ダメだしのように何やらぶつぶつといっているギュンター。
そんな彼らの言葉をうけ。
「まさか!?…心臓からできる薬で病が治る…というのは……」
「だからぁ。迷信だってば。それより、僕やユーリの血肉が薬になる。
  っていう迷信のほうが確実性はあるけどねぇ。ドラゴンのほうは人の体にいれたら死ぬけど。
  まず間違いなく拒絶反応で。僕達のは違うし」
『あるんですか!?』
「あるんかいっ!」
アンリの言葉に、アル以外の全員の突っ込みが一致する。
「僕はまあ、当たり前だけど。ユーリの体にも魂に影響されて巨大な力が宿っているからね。
  簡単な病気とかは、僕やユーリの血でものんだら直るよ?
  ちなみに、様々な妨害効果もなくなるし。
  一番確実なのは僕らが翼をだしている状態のときの力は。誰にもどうすることもできないしね。
  そんなこともあってか、どこかで話がこじれてか。
  双黒のものは不老不死の力を持つ。とか噂になっちゃったみたいだし。
  以前僕が千年以上も同じ姿のままでいたのも噂に影響してるみたいだけど。
  アンリ・レジャン。といえばどの種族も知らないものっていないしね。この世界では」
何やらしみじみと腕を組んでいっているアンリ。
「…四千年前…おまえはいったい何やったんだよ……」
アンリが、アンリ・レジャンとして生活していたのは、この世界では確か四千年ほど前のはずだ。
オレの当然の突っ込みに。
「別に何もしてないよ。エドを手伝って、創主たちを倒して箱に封印して。
  この世界が再生を始める手伝いと、それらを見届けるのに。
  千五百年ばかり、同じ姿のままでいただけだってば」
「……それって十分すぎるとおもうんだけど……変な伝説が生まれるの……」
なるほど。
それもあって、エドさんやアンリは神様的な存在。
と呼ばれていたり、されていたりするわけだ。
……普通、千五百年も生きられないしね…普通に考えたら……

「…アンリ・レジャン?…大賢者?…まさか……」
そんなオレたちの会話をききつつ、何やらつぶやいてるアルの姿もあったりするけど。
「とりあえず。彼だまされていたんだろ?だったらさ。理由わかったし。
  縄をといて束縛もといてやろうよ?このままだと寝るのも、食べるのも、トイレいくにもこまるしさ」
そんなオレの最もな意見に。
「おまえは!自分の命を狙ったやつを自由にさせろ!というやつがどこにいるんだ!!」
ヴォルフラムが何か叫んでくるけど。
「ここにいるけど」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・』
即答するオレに、なぜかほぼ全員、ため息まじりで無言になっている。
別におかしいことはいってないと思うけどなぁ?
コンラッドとアンリだけは、オレの即答になぜか笑いをこらえているようだけど。
「それにさ。オレ一回やってみたかったんだぁ。縄をきるのって」
「…ユーリィ……。ま、言い出したら聞かないの知っているから止めないけど。
  でも、彼には一応見張りをつけるよ?――シーラッ!」
『はい?およびですか?』
アンリの言葉に、オレたちの前に風が吹きぬけたかとおもうと、その風が形となり。
一人の女性の姿にと変化する。
ちなみに、女性の姿にはなってはいても、後ろが完全に透けている。
俗にいう、透明人間みたいな感じの姿が目の前にある状態だ。
「このアルフォードがユーリに危害を加えそうになったら手段は任せるから止めて。殺さない程度にさ」
アンリの言葉に。
『まあっ!?シル様に危害を!?…何とこの人間は恐れ多いいことを…わかりました』
「…いや、だからシルって何!?シル。って!?オレの名前にシルなんてついてないよ!?」
「ついてるよ?というかソフィアさん側の名前のミドルネームにね」
「そうなの?」
アンリの言葉に思わず目が点。
なら理解できなくもないけど……
そういや。
オレ、ソフィア母さんのフルネーム…知らないや。
聞いたこともないし。
「でもさ。ユーリって呼んでもらったほうがわかりやすいんだけどなぁ?誰のこと?とかおもうし?」
そんなオレの至極最もな意見に。
「そのうちに、彼ら大精霊たちがどうして君をそう呼ぶのカ。ユーリにも理解というか理由はわかるって。
  今はまだ早いけどね」
「?何かはぐらかしてないか?アンリ?…と、とにかく。この人の縄…とくよ?」
いって、モルギフにと手をかけて。
すらり、と鞘から剣を引き抜き、縄をきる。
「変な動きをしたら…わかっていますね?」
「この人間もそれはわかってるさ」
縄がほどけ、戸惑う彼にそんなことをいっているギュンターとコンラッド。
アルは縄がほどかれて、何やらまだ戸惑い気味だ。
視線はなぜかシーラのほうに凝視されたままで固まっている。
「このへなちょこめ」
そんなオレにと何やらいってくるヴォルフラム。
「あ。このアルの食べ物もあるよね?」
そんなオレの問いかけに。
「何なら、きのことってこようかv」
アンリが何やら楽しげにいってくるけど……
「…アンリィ〜。昔冗談。といって毒キノコとってきたやつがそれいうか?」
「……猊下。そんなことをなさったんですか?」
オレの言葉にため息つきつつ問いかけているコンラッドに。
「いやぁ。ユーリに毒の体制をつけさせようかとおもってね。あ、でもたかが笑いだけだし」
「毒とわかってて食べさせようとすなっ!!」
「少しは毒に対して免疫とかつけないとさぁ。それに何か面白そうだったしさ。自由研…あ、何でもない」
何かいいかけて止めるアンリ。
だけども。
オレは聞き逃さない。
「そういえば、アンリ?自由研究がどうのとか、以前いってなかったか?」
あのとき、毒キノコを採ってきて、直前で気づいて破棄したときに、何かそんなことをいってたし。
こいつは……
「いやぁ。毒キノコを食べたときの反応を研究しようかなぁ?なんてさ。
  治療すれば問題ないし。それにさ。たかが子供のしたことだし。ね♪」
「子供って…中学のときのことだろうがっ!!」
中学一年のときの話だし……
「「…猊下ぁ〜……」」
そんなオレとアンリの会話に、ギュンターたちの疲れきったような声が投げかけられる。
普通はこういう反応だよね…普通は……



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