只今の腕時計が示す時刻は夕方四時。 どうにか多少の精神集中だけでは眠気もおこらなくなってきている今日このごろ。 …それはそうと。 この場にこの二日の間。 誰もこない。 というのも不思議なものだ。 何でも繊細な動物らしいから、皆遠慮してるんだろうか? そんなことを思っていると、何やら繭がぴくぴくと動き始める。 「これは……」 「ようやく孵るのか!?」 「楽しみだねぇ〜♪」 そんな会話をしつつ、ソファーや椅子から立ち上がり、繭達の中心にとあるいてゆく。 と。
「陛下ぁ。猊下〜。ヴォルフラム。そこにいますかぁ〜?」 何か上にほうから声がしてくるし。 見上げれば、そこにはコンラッドと、二〜三名の兵士たちの姿が。
「あれ?コンラッド?」 オレの言葉に。 「ちょうどいいところに。今にも産まれそうだよ?」 とか言っているアンリ。 そんなアンリの言葉をうけ。 「ええ!?産まれるってヴォルフが産むんですか!?それとも陛下が!?」 「……もしもし?」 オレの突っ込みは何のその。 「何をとぼけたことをいっているっ!クマハチが今にも繭から孵りそうなんだ! それより遅かったな!コンラート!」 上にと向かって叫んでいるヴォルフラム。 そんなヴォルフラムの言葉をうけ。 「それが…情報が何か錯綜しててね。猊下からの伝言が。何しろ。 『子供が生まれそうなので僕達を探さないでくださいね。』ですもの」 ・・・・・・・・・・・・・・・・ コンラッドが上のほうから何やらいってくるその言葉に、思わず無言となってしまう。 「…アンリィ〜〜……」 「猊下ぁぁ〜〜……」 コンラッドの声に思わず顔を見合わせアンリをにらむ。 「嘘は僕はいってないよ♪」 何やら楽しげなアンリの声。 「ギュンターなどは陛下の御子が出来て産まれそうなのか!?とかいって半狂乱になるし。 周囲では駆け落ちだの何だのって……。で、もしかしてと思って、ここにきてみれば。 まやかしの術がかけられているだけで鍵が開いてるし……」 そんなことを上のほうから言ってきているコンラッド。 そして。 「それより、三人とも怪我は?」 何かといかけてくるけど。 「ないよ……」 もう突っ込む気力もどこにやら…という感じである。 「まそんなことより。そろそろ産まれるよ?」 一人、まったく悪びれた様子もなく、左右や前後をみていっているアンリ。 見れば、確かに繭たちはカタカタと動いて今にも産まれそうだ。 小さな繭がカタカタとなるのと同時。 大きな繭が、まばゆいばかりの光につつまれ。 それと同時に、部屋が光に満ち溢れたかと思うと同時。 思いっきり、繭が卵の殻のようにと割れ落ちて、中から何かがでてくる気配が。
…どしっ
…? どしっ? 「……えっとぉ…ティディーベア…&ハチ?」 出てきた物体は…これは何といえばいいのだろう。 どうみても、でっかいティディーベア。 ちなみに、背中に薄い四枚の羽。 それでもって、なぜかヌイグルミの熊の顔に触覚らしきものと、 お尻の辺りにはミツバチのパッチワーク模様。 というか、ミチバチのお尻…… 「…え…えっと……」 戸惑うオレとは対照的に。 「おお!女王クマハチだ!」 何か上のほうでは兵士のどよめきの声が。 パリッ。 パリパリッ! ゆっくりと、その巨体を繭の中から動かして、なぜか片手をあげて。 「ノギスッ!」 何かいってくる。 ・・・・・ 「…って!?しゃべれるの!?これ!?」 おもわずびっくり。 と。 バンッ! パパンッ! 周囲からも、何やら殻が割れるような音がして、繭の中から、二〜三歳児程度の大きさの…… こちらは、ピンクのティデーベア&やっぱりはねつき。 そしてミツバチのおしめつきもどき…が多数でてくるし。 そして、それらはオレたちのほうにと飛んできて。 「ノギスっ!」 とかいって、飛びつつ擦り寄ってくる。 え…えっとぉ……
「おお!かわいい!」 「生きててよかった!!」 「無事に産まれたぞぉぉ!」 何か、などと上のほうで騒いでいる人の声も聞こえるけど。
「…もしかして、これがクマハチ?」 何やらピンクのティディーベアもどき。 どうみてもかなり愛らしい。 巨体なティデーベアもどきの女王クマハチらしきものは茶色だけども。 そんなオレのつぶやきに。 「クマハチは前にもいったけど。絶滅危惧種でね。この外見と人懐っこさで乱獲されちゃってね」 一体のクマハチを抱きながら、そんなことを言ってくるアンリ。 見れば、部屋全体にあった繭が孵ったのか、部屋の中をピンクの物体が飛び交っている。 「ともかく。ユーリたちは彼らを外に導かないとね」 『……は?』 アンリの言葉を理解するよりも早く。
ぶわっ!!
『うわっ!?』 なぜか足元から吹き上がるようにと巻き起こった突風ともいえる竜巻にと体を絡めとられ。 オレとヴォルフラムはそのまま空中を飛び、地下から一階にと飛ばされる。 つまり、コンラッドたちがいる場所へと。 「まってノギスッ!」 そんなオレたちをおって、大きいクマハチが続き。 それに続いて小さなクマハチもまた、続いてのぼってくる。 「あ…あのなぁ!アンリッ!」 オレが文句を言いかけると。 「とにかく。ほら。外にでるよ」 次の言葉が出なかったには二日ぶりにともどった…というか上がった建物の様子が。 この建物に入ったときと比べ見違えるほどに綺麗になっていたこと。 思わず言葉に困り、立ち尽くすオレをぐいぐいおいて、建物の外にと連れ出すアンリ。 そして、そんなオレと一緒に、驚きながらも後をついてくるヴォルフラム。 そして、そんなオレたちの後ろから、ぞろぞろとティディーベアもどきの団体さんがついてくる。 ……どうやら、子供が親の後ろをついていく…という動物的本能からの行動らしい。 よく、卵から孵った雛が、産まれて初めてみた動くものの後をくっつきまわるような…… そんな後ろからつづき、クマハチを頭上にみつつも、コンラッドたちもまた。 建物の中からオレたちを追って外にと出てくる姿が目にはいる。 何だかなぁ〜……
「しかし。無事でよかったですよ。猊下。まぎらわしい伝言はできればやめてください」 外に出ると、なぜか空にはオーロラがかかっている。 この世界にもオーロラはあるんだ。 しかも、こんな城の真上に発生するなんて。 磁場は大丈夫なんだろうか? だってオーロラって磁場の関係でできるものだし…… などと、そんな心配も産まれるけど。 外に出たオレたちをみつつ、アンリに何やら言っているコンラッド。 オレたちの周りではいまだにクマハチが飛び回っている。 数匹はオレとヴォルフラムにしがみついて擦り寄ってきていたりするけど。 どうやらこの子らはかなりの甘えん坊とみた。 「僕は嘘はいってないよ♪クマハチの子供が大人になるまで。 っていう、そんなストレートな伝言じゃ面白くないじゃない♪」 コンラッドの言葉に、楽しそうにといっているアンリ。 そんなアンリの言葉に、がっくりと肩を落としているコンラッド。 ……あきらめるしかないってば。 コンラッド…アンリは昔からこんな性格だぞ?…… 何はともあれ。 「でもよく。コンラッド。オレたちがあそこにいる。ってわかったね」 そんなオレの言葉に。 「あなた方のことなら検討はつきますよ。 城の中にいる。というのはニルファーレナ様が保障してくれましたしね。 となれば、もう迎賓館くらいしかないですからねぇ」 オレのそんな素朴な疑問に答えてくるコンラッド。 そして。 「迎賓館にクマハチが産卵した、と知って。人を寄せつけないように怪物、ということにしておいたんです。 何しろ絶滅したとも言われている種族ですからね。よからぬ輩にみつからないように。 ところが、産卵してまもなく、親が息絶えてしまったようで……」 苦笑しつつも説明してくれる。 そして。 「で。ユーリとフォンビーレフェルト卿はその親と間違われた。と。 僕は彼らの兄とでも認識されたとおもうよ?」 コンラッドの言葉に続いて、にっこりと悪びれもなく言ってくるアンリ。 「連絡はきちんとお願いしますね。猊下。とりあえず、陛下たちのおかげで女王も無事生まれたようですし。 これで絶滅は免れるでしょう」 コンラッドがオレたちにとそんな説明をしていると。 何やら見知った三人の女の子たち…この前、城下町でロゼたちの店の手伝いをしてくれた子たちだ。 そんな彼女たち三人を引き連れて、何やらよくわかんない機械らしきものをもったアニシナさんと。 その後ろにはグウェンダルと数名の兵士たちが見えてくる。 と。 そんな彼らの姿が見えたかとおもうと。 「へいかぁぁ!!」 髪を振り乱して駆け寄ってくるギュンターの姿が。 「うわっ!?」 あわてて、コンラッドの後ろにと隠れるオレ。 せっかくの美形が台無しになってるぞ? …ギュンター……
「ノギスッ!ノギスッ!さよならノギスっ!」 オレがコンラッドの後ろに隠れると同時。 巨大クマハチが手をふりつつも、ふわり、と浮き上がる。 よくもまあ、あの巨体があんな小さな羽で浮かぶものだ。 オレが感心していると。 「クマハチたちが旅立っていきますよ」 みれば、女王だ。 という巨大クマハチにと続いて、小さなピンクのクマハチたちもその後に続いてとんでゆく。 何やら上空で一度彼らはとまり、オレたちに向かってぺこり、と頭を下げてから。 再び空高くとんでゆく。 どうやら巣立ちのときのようだ。 「たっしゃでなぁ!」 そんなクマハチたちを見送っていると。 「また来年もまってるぞ〜!!」 何か横でヴォルフラムが叫んでるし。 ……は? 来年? 「クマハチは一年ほど気候のいい土地をめぐった後。元の場所にもどって卵を産むんですよ」 オレの戸惑いを見越してか、コンラッドが説明してくれる。 「え?それじゃ…迎賓棟は?」 クマハチがいなくなったんだから、ヴォルフラムがこっちに移動して、オレは晴れて一人部屋に…… って、そうなるんじゃないの!? ねえ!? 「何いってるの?ユーリ?この建物はきちんとあけとかないと。 それかクマハチ研究チームの人が寝泊りすればいいし。 何しろ今だに詳しくは生態知られていないからねぇ。この国の人々の間では」 オレの言葉を見越してか、アンリがにこやかにといってくる。 「そんなっ!?オレの一人部屋の夢がぁぁ!!」 ノギスぅぅぅぅ!! なぜかクマハチの泣き声を心の中で叫んでしまう……
そして……
どうやら、クマハチ研究チームが作れて。 迎賓館で暮らすことになったものの…… 結局、オレはというと、いまだにヴォルフラムに部屋に居座られていたりする…… しくしくしく…… ああ。 一人部屋が恋しいよぉ…… この前のパズルはもうこいつ、作り終わってるしさぁ…くすん。
ちなみに。 後でしったけど。 アンリの伝言で。 オレが妊娠した!と城内は大騒動と化したらしい…… お〜い… だから、オレは男だっての…… それとも、魔族ってそういうことがありえるのかもしれないが…んなバカな。 男が妊娠するなんて。 産まれ付き知らずにその器官を産まれ持っていれば可能だろうけど。 パタリロのマライヒは子供を生んだけど…さ…あれは天使だったしなぁ……
ともあれ。 どうやらこの国はそんな噂がたつほどに、今のところは平和らしい。 ということはわかったけど。 気になるのは…… 兵士が何やらつぶやいていた。 『オレトト』って…何だろう? 誰に聞いても教えてくれないんだよなぁ???? う〜ん……
― Misson End Go To Next……
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