しばらくすると、幼虫たちの吐き出した糸は、辺りを白く染め。
そのまま、湯宇宙もまた、何だか繭の中にと納まっているようだ。
どうやら今の糸吐きは、繭を作るためのものだったらしい。
…えっと?
……?
「あれ?ヴォルフラムは?」
みれば、ヴォルフラムの姿が見当たらない。
「彼も一緒にまきこまれちゃってるよ。というか。ユーリを繭の中に入れるなんてできないしね。
  フォンビーレフェルト卿は間違われたとはいえ、親の役目をやってもらおうとおもってね」
何か楽しそうに、オレの横でふわふわと浮かびつつも何やら言ってくるアンリ。
「……親の役目って……」
シャボンダマのようなものの中に入って浮かんでいるオレとアンリだけど。
そんなオレの問いかけに。
「繭から出る方法だよ。中から出ることによって、その音と。
  そして糸の切れた感じをうけて、幼虫たちは成虫になって外にでるんだよ」
にこやかに説明してくるアンリ。
「……ふぅん。よくわかんないけど……何かアンリ…やけに詳しくない?」
オレの素朴な疑問に。
「だって僕昔かってたもん」
「飼ってたの!?」
思わずびっくり。
どうりで、アンリのヤツ…何かやたらと詳しいわけだ。
…でもさ。
その肝心なクマハチ…って……どんなハチ?

「…ぷはっ!こら!ユーリ!貴様だけずるいぞ!!」
「…いや、そういわれましても……」
すべての幼虫が繭となり、オレとアンリは床にと足をつける。
アンリ曰く、彼らは繊細な動物、というか種族なので羽化するまでは親がそばにいないと。
繭のまま死んでしまうとか……
どうにか、幼虫たちが吐き出した糸によって自らも繭の中にと閉じ込められていたヴォルフラムが、
自力で中からでてきて、オレにと文句をいってくるけど。
オレにそういわれてもさぁ。
オレはアンリにひっぱり上げられたんだしさ……
不可抗力だとおもうけど?
「あ。とりあえず。二人とも♪最低一日か二日はこの場から二人して離れたりはしないでね?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
『なにぃぃ!?』
アンリの言葉にしばしオレとヴォルフラムは顔を見合わせ、無言となり、そしてまったく同時に思わず叫ぶ。
「ちょっと!?アンリ!?どういうことだよ!?」
オレの叫びに。
「だから、このクマハチってとっても繊細でね。繭になっても外に親の匂いを感じつつ。
  繭の中で成虫になるんだけどね。その匂いが途切れデモしたら、悲しみのあまり死んじゃうわけ。
  ユーリに説明するとするならば、さなぎになったけど、その中で外に出ることが出来ずに死んでしまう。
  カブトムシやクワガタ。あんな感じになるわけで」
サナギにまで育ってもう少しで羽化…というのに、羽化が出来なくて死んでしまったカブト虫や。
そしてまた、幼虫たち。
オレはそれを小さなころから、毎年のように小六まで。
夏場、カブトの幼虫を育てていたから知っている。
……あれはきついよな……
「それじゃ、トイレは!?ねぇ!?」
オレの叫びに。
「おまるでももってこようか?」
「お…おまるって……」
ここにもそんなものがあるんだ……
「食べ物はとりあえず、ニルファやシーラ。それにフレイに持ってきてもらえばいいし」
「?フレイ?」
何か始めてでてくる名前だぞ?
「ああ。火の大精霊。フレイアンのことだよ。だからフレイ」
『ひ…火の大精霊って……』
アンリのさらり、というその言葉に、思わず同時に突っ込むオレとヴォルフラム。
いやまあ。
風や水といった大精霊がいるんだから、火の精霊がいてもおかしくはないんだろうけどさ。
いや、それ以前に。
「…というか……。こんなところで火なんてつかったら…やばくない?」
何しろここは、一応地下室だ。
火事にでもなったら大変だ。
「大丈夫だって。それに暖をとるのには便利だし。僕もクマハチがきになるから見届けるつもりだし」
そんなことをいいつつ、虚空から杖をとりだして何やらアンリが唱えたかとおもうと。
瞬間。
地下に元々あったであろうソファーらしき物体と、テーブルと椅子らしき物体が一瞬。
ばっ!
と光に包まれ、思わず目をつむってしまう。
そして、次に目を開いて見直すと。
そこには、先ほどまでの埃や蜘蛛の巣だらけ…といった何かわからない物体ではなく。
ほぼ新品同様の物体が……
いやあの…だからぁ……
何でアンリ…こんなことができるわけ?
ねぇ??
「さって。とりあえず座るところなどはゲット。っと」
にこやかに、アンリがそんなことを言っているけど。
「…アンリ?いま何やったの?」
オレの問いかけに。
「物質再生」
『―――・・・・・・・・・』
アンリに関しては、あまり突っ込まないほうがいいかもしれない……
どうやら、ヴォルフラムもオレと同じ意見らしく、オレの顔をみて何やらうなづいてきているし。
「…仕方ないな。羽化するまでつきあってやる」
などとため息まじりに言うヴォルフラムに。
「……ま。いなくなったら死ぬ。ってわかって…見殺しにはできないし…ね……」
どうやらこの部屋にはトイレもついているらしいしさ。
トイレにいくときは、身につけているものでも置いていけば、少々の時間ならば大丈夫…だろう。
アンリに聞いてみると、それはそんなに時間がたっていなければごまかしはきく、とのことらしい。
そしてまた。
大体、平均、二日から三日でクマハチ、という種族は繭から孵るらしい。
他の繭と比べてひときわ大きな繭があるけども。
アンリ曰く、女王クマハチの繭だとか。
……三日もここにいたら、コンラッドたちが心配しないかな?
………ま、まあ後できちんと説明すればいっか。
だってオレやヴォルフラムがここから離れたら、この繭の中の幼虫たちは死んじゃう。
ってアンリがいってたし。
とりあえず、シーラにでも伝言してもらっておこう……


「…あれ?」
あまりに暇なので、繭の様子を確認しがてら、ぐるぐると広い部屋の中を見回っていると。
何やら他と違い、繭がカラータイマーごとくに点滅しているのが目にはいる。
「ずいぶん繭は硬いんだな」
オレと同じく見回りつつ、コンコンと繭を叩いていっているヴォルフラム。
「ああ!?ヴォルフ!アンリッ!何か紙か何かもってない!?」
繭をよく見てみると、ちょっぴりと切れたような穴が開いてるし。
「何だ?…ん?穴があいてるのか?…ちょっとまて」
いいつつも、その辺りにある、繭のねばねばした成分をごそごそと懐から紙を数枚取り出して。
それにとくっつけているヴォルフラム。
よく紙なんてもってたなぁ。
と感心しつつ、手渡された紙をみてみると、そこには何やら細かい文字でいろいろと書かれている。
オレには文字はわからないけども、だけども紙の上にでっかく書かれている文字だけは、
どうにか今のオレの語学力でも理解可能。
「って!?婚姻届ぇぇ!?」
オレの叫びに。
「いつでも書いていいぞ?」
「……あのな……って!だから!オレたちは男同士だってば!」
オレに言ってくるヴォルフラムに思わず叫ぶ。
こいつはいつもこんなモノを持ち運んでいるのか……
な…何考えてるんだろ?
いやマジで……
「これについては、あとでいろいろと突っ込みするとして。とにかく穴をふさがないと!」
何かカラータイマーの点滅期間が短くなってきているし。
「がんばれぇ。ここで死んじゃったら意味ないぞ?」
励ましつつも穴をふさぎ、大きな繭を抱きしめる。
三人で抱きしめてもまだ手が一周しない大きさだ。
他のはそんなに大きくないのに、これだけが異様に大きい。
アンリがこれは何か女王だっていってたけど。
でも、クマハチ…って、本当、どんなのだろう?
しばらく抱きついていると、どうやら赤のカラータイマーが青にとかわり。
抱きついている繭が発しているオーラから、危機が脱したことが見て取れる。
それをみて、おもわずほっとしてしまう。
だって、せっかく繭にまでなって、死んだら意味ないし…ね。
「ま、のんびりといこうよ。のんびりと。あ、僕何か食べ物でも仕入れてくるね〜」
あってアンリがその場から掻き消える。
う〜ん……
瞬間空間移動。
便利なことこの上なし。
オレもできるようになったら楽なんだけどね。
ルーラ!
とか叫んでさ。
ドラクエの主人公とかになった気分が味わえるし。
ヴォルフラムたちがいうには、オレはどうもその瞬間移動をやっているらしいけど。
でもさ。
覚えてなくて使っているのと、意識して使うのとでは雲泥の差があるよなぁ〜……
オレ的には、だからそんなものができる。
などとはいまだに到底信じられないし……
何はともあれ。
オレたちは、このまま。
クマハチたちが繭から無事にと孵るまで。
この場にと滞在することに……


時間。
というのもは、短いようで長い。
どうせ、せっかくの機会だから。
とアンリがオレの力のコントロール方法の特訓を始めてくる。
無意識をすべてに広げ、呼吸をあわせる。
んな火輪のリーアンじゃあるまいし……
とにかく、簡単な力だけでもできるようになっとこうっ!
というので、しぶしぶながらも特訓へ……
特訓。
といっても精神集中が主で、無心になることが何ごとにおいても肝心だとか。
少しやっただけで体がだるくなり、激しい睡魔にと襲われる。
そのために、ときたま少々眠りについていたりすると。
いつの間には時刻は刻々とすぎてゆく。
アンリがシーラやニルファに頼んでコンラッド達に伝言してくれたらしいので、多分問題はないだろう。
きっと。

気づけば、そんなこんなをしていると。
いつのまにやら二日が経過……



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