「大丈夫?」
やっぱり来たか。
と半ばあきらめつつ。
ふわり。
と屋根の上に降り立ちロゼを保護しているアンリ。
「あ…あの?あなたは?」
「僕はユーリの親友さ。あ、ユーリっていうのはフーリのことだから」
「は…はぁ。でも…あれは……」
アンリに抱えられ、視線を向けたその先に映るのは。
魔力の放出によって出来た光の月にと浮かび上がっているユーリの影。
「さて。今回はどのパターン…かな?」
アンリがつぶやくと同時。
「ひかえおろう!!」
高々としたユーリの声が響き渡る。
「あ。今回は役者と遠山の金さんパターンとみた。ウェラー卿!!」
「わかってます!!」
突風にて壁になどに叩きつけられていた男たちとは対象的に、まったく何ともないユーリ側。
つまりは兵士たちやコンラッドたち、といった人々の姿が目にとまる。
あれが来てしまっては仕方がない。
ともかくあのモードが終わるまでに彼の後ろにいって支えないと。
あんな高いところから落下する、という危険性をはらんでいる。
屋根や人々の肩を器用に使い、そのままユーリのいる場所にと。
コンラッドはリゾットを他の兵士にと預け、塔をかけのぼってゆく。

遠目にもはっきりとユーリの体から何か銀色の光のようなものが出ているのが判る。
それに気のせいか。
顔つきや髪がたまで違っているような……
などと思い戸惑うロゼの頭上にて。
高々としたいつものユーリの魔王口調が開始されてゆく。
ロゼには何が何だかわからない。
だが、確かにいえるのは、
ふと見た自分を支えている人の瞳も髪も…信じられないことに黒だ。
ということ。
その人物が眼鏡をかけているので、すぐには瞳の色には気づかなかったが。
だがしかし、ロゼがそんなことを口にするよりも先に。
「自らの悪事を棚にあげ、脅す誘拐するなどの非道の数々。
  更には罪なきもの、幼きものにまで手をかけようとする。もはや情緒借料の余地はなしっ!
  モノを壊し、命を奪うは本位ではないが、やむをえぬ。おぬしらをきるっ!」
盗賊たちは口調から雰囲気から何から何まで変貌したユーリにと戸惑うばかり。
高い位置なので顔もよく見えない…が。
一人が。
「馬鹿な!?双黒!?」
それに気づき声を張り上げると同時。
「成敗っ!!」
ずがしぁぁぁんん!!!
ものの見事に盗賊たちの頭上にのみ、雷が幾重にも落下していく。
それは建物の中などにいた盗賊の一味ら、すべてを含めて雷の攻撃をうけている。
盗賊たちの一味すべて、ユーリの放った雷によって叩き伏せられてゆく。
「あ、雷の威力が抑えてある。さすがユーリらしいよね。この程度だと死ぬことはないなぁ」
などと、自らの周りにも雷が落ちている状態だ。
というのにもかかわらずにのんきにそんなことを言っているアンリに。
雷にと直撃されて、次々と焦げて気絶してゆく盗賊一味の姿が見受けられていたりする。

「…今回は結構まともだな」
それをみて、こちらもまた、のんきなことをいっているヴォルフラムに。
「…か、雷の威力までコントロールできるんですか?あの陛下は……」
あっけにとられてつぶやいているヨザック。
そして。
「さすが陛下ですっ!!」
などと自分の世界に入りかけているギュンターの姿。
人それぞれ、その感想は違うにしろ。
だが、起こっている現実は紛れもない事実。

やがて、そんな雷の裁きも一瞬のことだったかのように、辺りにやがて静けさが訪れる。
盗賊たちが屋根の上で、建物の中で倒れているのは何のその。
「娘よ」
「は…はいっ!」
いきなり自分が呼ばれてあわてて返事をするロゼ。
「自らの身をなげうってまで弟を助けようとしたそなたの心根。まことにあっぱれである。
  これからも姉弟なかよく親子つつまじくくらしてゆくのだぞ」
そんな声がなげかけられてくる。
今みたのは夢か現実か。
自分に害をなそうとしていた男たちはすべて雷に打たれて気絶状態。
こんなことが簡単にできる人といえば……数はかなり限られてくる。
そんなユーリの声に思わず瞳を涙で潤まし。
手を合わせ祈るような格好で。
「は…はいっ!」
元気よく答えるロゼ。
おそらく彼は……
ならばすべてつじつまがあう。
彼の連れが見たことのある、軍のえらい人だったことも。
金髪の少年が閣下、と呼ばれていたことも。
ヴォルフラムとコンラート。
この二人の名前を知らないものなどは…まずはいない。
何しろ前魔王の子供たちの名前なのだから。

とは思ってはいたが。
そんなロゼの気持ちを知ってかしらずか、ロゼが大きくうなづいたのをみてとり。
「うむ。これにて一件落着!」
手を以前にだして何やら歌舞伎役者口調。
そのまま、ユーリは後ろのめりに倒れ付す。
が。
すでにユーリの後ろにと移動していたコンラッドがすばやくそんなユーリの体を抱きかかえる。
「ウェラー卿!ユーリ大丈夫そう?」
塔の上に向かって叫ぶアンリに。
「ええ。大丈夫そうです。猊下。それよりそちらの娘さんは?」
ユーリを抱きかかえた状態で答えているコンラッド。
「ウェラー卿…それに猊下…って…やっぱり大賢者様に魔王様ぁ!?」
国王のそばに双黒の大賢者がこのたび一緒にいる。
というのはもはや町の人々の噂の常識となりはてている。
事実なのだから仕方ないとして。
ユーリと自分の後ろの人物を交互にみて驚きの声を上げるロゼに対して、クスリ、と笑い。
「「内緒ですよ。」」
もののみごとにアンリとコンラッドの声が重なる。
「あ…あの。それでその……」
やっぱり石は返すべき…なのよね。
などと思いつつも問いかけるロゼに対し。
「あ。そうだ。はいこれ。君に」
ごそごそとズボンのポケットから何やら赤い石を取り出して、
にっこりと微笑みつつロゼにと手渡すアンリ。
「え!?これは!?え!?でも!?」
確かに、さっき、あの石は魔王陛下が手にされていたはず。
…では?
ロゼはそう思いとまどうが。
「ユーリがね。君たち家族には必要なものだからって。
  あ、それは別に昨夜血盟城に向かう途中に盗まれたものじゃないから安心してね。
  まったく別なものだから気にしないで家族のために使ってもいいよ」
にっこりいって、とまどうロゼの手をにぎり、その石を握らせる。
「拾ったのよりはちょっと透明感とかも違うけど、あれよりは威力は倍あるから」
というか、新たに作ったもののほうが『魔石』としての力は格段にいいのだが。
「え!?あの!?でも!?」
戸惑いの声を上げるしかないロゼであるが。
「それより。僕とユーリのことは内緒にしててもらえる?ね♪」
「は、はい!それはもちろん!!」
ロゼが固まりつつ、返事をすると同時。
「猊下!!陛下!お怪我はありませんかぁあ!?」
道路よりギュンターの声がなげかけられてゆく。



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