少女が立ち去るとほぼ同時。 と。 「うりゃぁ!てめえらさっきはよくもっ!!」 何か十数名がかりのごろつき…いや、盗賊たちが手に棍棒や武器を持ってこっちにいってきているし。 あらま。 なりふりかまわなくなってきてるし。 あの盗賊たちは。 「任せろ!」 オレを手で制し、剣に手をかけて、男たちにと向かってゆくヴォルフラムの姿。 「ヴォルフラム!傷つけたらダメだぞ!いくら悪人でも!!」 オレの叫びに。 「だからおまえはヘナチョコだ!というんだ!傷はつけないっ!」 それだけいうと同時。 剣を抜き放ち、男たちの中で舞うように剣を一閃させる。 「へ〜…すごい」 「そりゃ、ヴォルフも剣の達人ですから」 そんなヴォルフの剣さばきに感心した声を上げるオレにといってくるコンラッド。 「オレ、ヴォルフの剣裁き、初めてみたなぁ」 「そうでしたっけ?」 見れば、男たちの服のみを切り刻み、武器をも切り刻んで。 それから剣をしまっているヴォルフラムの姿がそこにある。 『きゃ〜〜〜!!!』 それを隠れてみていたらしい町の女の人たちが 黄色い声を上げて、ヴォルフラムの周りにと走り寄ってるし。 男たちは蜘蛛の子を散らすようにと逃げていっていたりする。 『きゃ〜〜!!ヴォルフラム様ぁぁ!!』 とか叫んでいる女の人も。 …あれ? 服を変えててもバレてる? ……ま、いっか。 「そうだ。彼にも協力してもらいましょうや!さあ!ただいま修理を頼んだ人や。 紹介してくれた人にはもれなくヴォルフラム閣下の握手つき!本日のみの特典でっせ!!」 「なっ!?おい!?ヨザック!?」 ヨザックの叫びに抗議の声を上げるヴォルフラムだけど。 「あ。それいいかも」 「おい!」 オレの同意の声に何やら抗議の声を出してるし。 「まあまあ。ここはユーリのためとおもって」 そんなヴォルフラムに笑いつつ、そんなことを言っているコンラッド。 「何でこうなるんだぁぁ!?」 なぜかその場にヴォルフラムの叫びがこだまする。 その一声をうけ、女の子たちはおもいっきり張り切ってるし。 …う〜ん。 ヴォルフラムって人気あるんだなぁ。 「ま、ヴォルフは女の子に人気がありますからねぇ」 「そういう隊長もな」 「へぇ」 あっという間に、その条件を出したところ、店の中は満員御礼と成り果てる。
「コンラート!僕だけ!というのはずるいぞ!おまえも参加しろ!!」 女の子たちに囲まれつつ、何やら叫んできているヴォルフラムだし。 あらま。 「裁ききれないんだったらオレ参加しようか?コンタクトはずせばいいだろうし?」 オレの言葉に、なぜか。 『ダメですっ!!』 「ダメにきまっているだろうが!!」 なぜか異口同音でコンラッド・ヨザック・そしてヴォルフラムにまでダメだしが。 「だからおまえはへなちょこだ!というんだ!」 何かヴォルフはオレにと叫んできているし。 「へ…じゃなかった。坊ちゃんはお客さんの相手より、父親や弟の方を手伝ってあげてください」 コンラッドの言葉に。 「そうそう。ここはオレたちに任せて。隊長と一緒に。ね?」 「……何かはぐらかされてるなぁ?」 理不尽さを感じつつも、とりあえず。 確かに父親たちもてんてこ舞いしている、というのは事実なので。 来てくれたお客さんたちに飲み物サービスを開始する。 何か。 「あの子誰?ヴォルフラム様と仲よさそうだけど?」 「コンラート閣下ともよ!?ヨザック様とも!」 とかいう女の子たちのささやきの声が聞こえてくるけど。 しかも、どうやら話を聞く限り、オレのこと女の子と間違えてるようなんだよなぁ? ……男だってば。 オレは…… しばらく、ヴォルフラムのおかげでか、店の中は満員状態で。 初日から半額にしている、というのに結構の収入を得ることに成功する。 何だか握手だけでなく質問攻めにあっているヴォルフの姿もあったりするけど。 それはそれで、何か叫びつつもうまくこなしているし。 とりあえず、そんなこんなでしばらく手伝っていると。 いつの間にやら時刻は夕方に。
夕方だから、というのでそろそろ店じまいをし。 そして、手伝ってくれていた血盟城の三人の女の子たちもまたもどっていった。 「は〜…気持ちいい」 ようやく店もどうにか起動にのってきたようだし。 ふと、裏庭にといったオレの目にと飛び込んできたのはどうみてもドラム缶風呂。 一度入ってみたかったんだよな。これ。 なのでダメモトでお願いしてみたら、汗をかいているだろうから。 というので快く貸してくれたこの家族。 う〜ん。 いい人たちだ。 「でも、あれ…夏の簡易風呂ですよ?家の中の風呂のほうが……」 とまどいつつ、ロゼがそういってきたけど。 「いやぁ。一度はいってみたかったんだよね」 そんなオレの素直な言葉に。 「…入ったことないんですか?」 「うん」 即答するオレになぜか戸惑い顔のロゼ親子たち三人の姿があったりしたけど。 何はともあれ、とりあえず、店も閉めたことだしひとまず一息つくことに。 オレはそのついでに、裏庭にあるドラム缶風呂を少し拝借して夕方のお風呂、としゃれ込んでみたり。 「湯加減はどうですか?」 「うん。ちょうどいいよ」 店を閉めて、あとは今日の売り上げの集計などを残すのみ。 パチパチパチ。 コンラッドがちょうどよく薪をくべてくれて湯加減はちょうどいい具合だ。 パチパチと薪が焚ける音がする。 何か仕組みでもあるのか、このドラム缶風呂のふちのほうはそんなに暑くない。 コンタクトをはずし、お湯の中に。 お湯が汚れるので髪の色はそのままだけど。 「う〜…極楽、極楽。まさかこっちでドラム缶風呂に入れるなんてさ。 一度はこれ、はいってみたいってあこがれてたんだよねぇ」 オレの言葉に笑って。 「ユーリの住んでいた場所ではちょっと無理そうですね。アウトドアとかではやらなかったんですか?」 そんなことを笑いながら聞いてくるコンラッド。 「風呂付キャビネットカー。または川で水浴びか、もしくは借り別荘」 「なるほど」 いいつつも、薪をくべてくるコンラッド。 「そういえば、ヨザックは?」 そういえば、少し前からヨザックの姿が見当たらない。 「ヨザックも一度もどりましたよ」 「そうなんだ」 そんな会話をしていると。 「こらぁ!!何をしているっ!」 なぜか叫んで走ってくるヴォルフラムの姿があるし。 「何っていわれても…風呂」 オレの言葉に。 「風呂?これが?」 などといって、不思議そうな顔をしているヴォルフラム。 「そ。どうみたってドラム缶風呂じゃん?一度はいってみたかったんだぁ」 オレの言葉に続き。 「ヴォルフラム。これは庶民が夏の間に使う簡易風呂だ」 ヴォルフラムにと説明しているコンラッド。 にこやかに言うオレや、コンラッドの説明に。 「何をのんきな」 などといってそっぽを向いて腕を組んでくるけど。 「なあ。ヴォルフラム?」 「?」 オレの問いかけにこちらを向きなおすヴォルフラム。 「何かさ。町の人たちの暮らしって知らないことだらけだよなぁ。 オレさ、この世界のこと少しは判ったつもりだったけど。 でもまだなぁ〜んもわかってなかったんだなぁ…って」 自分の膝元、ともいえる城下町で、半年も店を閉めている家族があったなんて、オレは知らなかった。 人々が使っている道具なんかも見たことないものばかりだった。 でもミシンはどの世界も共通らしく、形は何となく似てたけど。 そんなオレの言葉に、なぜかはっとして、下をむきつつ。 「風呂も小さいし家も小さい。けど…家族と一緒に働ける。こんな暮らしも悪くないかもしれないな」 などとぽつり、と小さくつぶやいているヴォルフラム。 そっか。 こいつって…… そりゃ、家族と離れて暮らす…というのはつらいよな。 同じ兄弟でもそれぞれ城も住んでいる場所も違うし。 ツェリ様はほとんど留守だし。
…ん? こぽっ…コポポッ…… 「うわっ!?」 「陛下?!」 「な…何か、何かドラム缶の中に渦ができてるんですけど!?」 思わず叫ぶオレの言葉と同時。 バシャっ!! 『うわっ!?』 オレとヴォルフラムの声が重なる。 なぜかいきなり水しぶきをあげてお湯が立ち上り思いっきりお湯をかぶってしまう。 ――と。 「ぷはっ!って!?うわっ!?」 ざばっ!! 何やらオレの後ろでものすっごぉぉく聞き覚えのある声が。 思わず顔を後ろにとむけると。 「ってアンリ!?」 『猊下!?』 オレとコンラッドとヴォルフラムの声が同時に重なる。 「何ここ!?って何でドラム缶風呂!?あっ!ユーリ!一体君は何やってるの!? あっちでは騒ぎが大きくなり始めてるのにさっ!!」 がくがくとオレの肩を狭いドラム缶風呂の中でつかんで言ってくるのは、お懐かしともいえるアンリの姿。 「って!?アンリ!!狭い!狭いから!そんなにつばえたらドラム缶が倒れる!!」 オレの叫びに。 「猊下?どうして?確か陛下がおっしゃっていたことには。 今回は猊下は到底こられないだろう、ということだったはずですけど…?」 器用に水をよけたらしいコンラッドがドラム缶の中にと出現したアンリに問いかける。 「来ざるを得ないよ。まってももどってこないし!!三分経過して、観客たちも騒ぎ始めてる。 とりあえず、僕が探してくる!っていって水に飛び込んだんだけどさ。 今にも他のダイバーを呼びそうな雰囲気だよ!? そうなったら、ユーリの姿が影も形もないのがばれるし!? エドは何やってんの!?今回の用事。こんなところ…というか、こんなものに入っている。 ということは終わったんじゃないの!?」 何やら珍しく、アンリがそんなことをいいながら、ドラム缶の中に入ったままで叫んでるけど。 「…とりあえず、猊下。その風呂からおあがりください。服を着たままですし」 いって。 「ヴォルフ。タオルを借りてきてくれ」 「わかった」 コンラッドの言葉をうけて、家の中にと入ってゆくヴォルフラム。 「まあ、それもそうだね。というわけで、ユーリもでるっ!」 「えぇ!?入ったばっかりなのにぃ!…うっ。わかった、わかったよ……」 ぎろり。 とにらまれて素直に従うことにする。 こういうときのアンリは逆らうと危険だ。 というのは長い付き合いで判っている。 アンリにせかされ、オレも同時に風呂から上がる。
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