「え。えっと。どうも。昨日は手伝いにくる。っていっときながらこられなくてごめんなさい」
とりあえず、いいつつも、ぺこり、と頭を下げてロゼにと謝っておく。
「?あの?」
お客さんが不思議がってロゼにと問いかけているけど。
「あ。僕達、この家族とはちょっとした知り合いなんです。
  で、彼は本来ならば昨日店を手伝いにくる予定だったんですけど。そのいろいろとありまして。
  今日、気になったので様子を見によったんです」
そんなお客さんにとアンリが説明しているが。
そんなアンリの言葉に。
「彼?…って、その子男の子なの!?…てっきり女の子だとおもったけど……」
店の中にいたお客さん全員がそのお客の言葉にうなづいているし。
がくっ。
思わず肩をおとしてしまう。
しくしくしく……
「…ど〜せ。ど〜せ。物心ついたころからずっと女の子に間違われてますってば…オレは……」
しくしくしく……
思わずイジケモードになってしまうのは仕方ないとおもう。
少し濃い目の青いガラスの眼鏡ゆえに、第三者からは瞳の色は横からでも覗き込まれないかぎり、
そうは簡単にはバレないはず。
「まあ。ユーリは母親似ですからねぇ」
「その子。ユーリっていうの?」
「まあ。ユリティウス陛下と名前が似てるわね」
ぎくっ。
本人です。
とは絶対にいえないな……
「彼七月生まれなので。ユーリとなったんですよ」
「ああそれで。ルッテンベルグ地方だね」
「ええ。」
??
何やらにこやかに、そんな会話をお客さんとしているアンリだし。
「でもどうしてお二人が…あの?もしかしてお二人だけなんですか?」
戸惑いつつもオレにと聞いてくるロゼに。
「うん」
とりあえずいじけつつも即答しておく。
「それでは危険なのでは……」
などと心配してくれてるらしくいってくる。
とりあえず、弟にと魔石での修理をバトンタッチして、ロゼがオレたちの座ったカウンター前にとやってくる。

「どうにか繁盛しているみたいだね。何かオレ、昨日ばたばたしててさ。
  本当。手伝いにこれなくてごめんね。ロゼ」
「いいえ!そんなとんでもない!!へ…いえ、お二人にはとてもよくしていただきましたもの。
  そのお言葉すらもったいないですわ。それに助けてももらいましたし」
ロゼの言葉に。
「助けてって…あはは…オレはまったく覚えてないけどね…それ……」
「?そうなんですか?」
「オレって力使うとき記憶なくてさぁ……」
オレの言葉をさえぎり。
「そのうち、イヤでも判るようになるってば」
「そっかなぁ?」
アンリの言葉に思わずつぶやいてしまう。
だって。
今までのすべてほとんど覚えてないんだよ?
「……何か陛下ってこう近寄りがたいイメージでしたけど…逆なんですね…」
「オレも自分で自覚ないし」
「…あのな…ユーリ……」
小声で話しているので他のお客さんたちには聞こえていない。
「あ。でも出来たらユーリって呼んで?そう呼ばれるの何か心苦しくてさ」
ロゼにというオレに。
「いい加減になれなよ。ユーリ」
「ムリっ!!」
アンリの言葉に即刻即答。
ぷくくっ!
そんなオレとアンリの会話をきいてか、なぜか目を丸くして、
次の瞬間には笑いをこらえだしているロゼの姿が。
「?ロゼ?」
「あ。ごめんなさい。何かあまりに一昨日のイメージとかけ離れてて……
  そういえば。先刻。コンラート閣下が見えられましたわ」
「え?」
「様子を見に来られた。とおっしゃってましたけど。
  …もしかして、もしかしなくても黙って城から出られている…とかではないんですか?」
小声で問いかけてくるロゼの言葉に。
「だまって…って。まだ今回というか今日、日本からこっちに来てからもどってないし。
  それに眞王廟から手紙はだしたよ?歩いてもどるって」
オレの言葉に。
「…それはかなり問題あるかとおもいます」
「そっかなぁ?あれ?でも今の説明でわかったの?」
ふと気づき問いかけるオレに。
「あなた様がたが、異世界からこちらに来られている、というのは国民の大半がしっていますわ」
そういってくるロゼ。
「そ〜なの?」
「ま、知ってるのは王都に長く住んでいる人たちくらいだろうけどね」
「へぇ〜」
思わず感心。
というか、そうなってるんだぁ。
「…へ〜って…ご存知なかったんですか?」
「うん。いまだにオレこっちの国のこととかいろいろわかってないからさぁ。ダメだよね。こんなんじゃ」
オレの言葉にびっくりするものの、すこし微笑み。
「時間はしっかりとありますわ」
などといってくるロゼ。
「まあそうだけどさ。…所で、その敬語つかうのやめてくれないかなぁ?」
そんなオレの言葉にアンリが横で大きくため息。
「だ・か・ら。慣れろってば。」
「だってさ。なれないものはなれないもんだって。そもそも人は平等だし」
「ユーリの場合は特殊が重なってるんだってば」
「そういうアンリこそ」
「僕はなれたよ?伊達に四千年以上にも記憶を持ったまま転生してないってば」
「オレは慣れそうにないや……」
オレのため息まじりの言葉に。
「ユーリの場合は昔からそうだしね。でもなれないと。外交に差し支えるよ?」
「うぐっ!?」
ぐさり。
といわれて思わず言葉につまる。
ま、確かにそうなんだろうけど…さ……
オレたちがそんな会話をしていると。
カララン。
店の扉が開かれる。
一体誰が入ってきたのかな?
と何のきなしに、ふっと視線をむけてみれば。
…バチッ。
……目があったし……
「まあるこれは閣下。見回りですか?」
「ええまあ」
客にと話しかけられ、答えているのは人当たりのいい笑顔の……
そして、
「ちょっと失礼」
いってこちらに歩いてくるし。
そして。
「み〜つ〜けましたよ!お二人とも!!」
何か腕を組んでオレとアンリの真後ろにとやってきてそんなことをいってくる。
あた〜……
「あ…あはは。ただいまぁ。…ってよくわかったねぇ」
思わず振り向きつつ話しかけるオレに。
「ウルリーケから聞きました。お二人がカツラ持参で今回はやってきた。と。
  まったく…心配させないでください!!眞王廟にいって確認してきたんですよ!?」
何か多少強い口調でいってくる。
えっと…何か怒ってる?
「まあまあ。ウェラー卿。他にも人目があることだしさ」
「げ〜い〜か〜。そそのかしたのはあなたでは?」
「あは。ばれた?」
「…あなた方というひとは……」
何やら顔に手をやって、がっくりと肩を落としているのは……
「でもさ。それより。よくわかったねぇ。オレたちだって。だってカツラで髪型も色も違うしさ」
「陛下と猊下の立ち寄られそうな場所ならば検討はつきます。
  眞王廟から出られた時間からして、ここ城下町にたどり着いてからの行動。
  おそらくはしはらく町をみてから、どこかの食堂にでも入って遅めの昼食をすませ。
  そして、彼女たちロゼの家族が気になって様子を見に来ていた。違いますか?」
「うっ!?」
「ドンピシャ!さっすがウェラー卿!それに、きちんと人目を考えて日本語でいってきてるし」
「へ?そうなの?」
ずばり、と言い当てられて固まるオレとは対照的に。
パチパチと手を叩いていっているアンリの姿。
「?あの?閣下?それはもしや…異国の言葉ですか?」
コンラッドに戸惑いつつも問いかけているロゼ。
…やっぱ、オレには同じように聞こえるよぉ。
つまりは、両方日本語に。
そして又。
「?コンラート閣下?どうなさいましたの?」
などと、そんなコンラッドの様子に不思議がっている客たちの姿が。
「お二人が育たれた国の言葉ですよ。さ。皆が心配しています。お戻りください。お二人とも」
ロゼにと説明してオレたちにといってくるコンラッド。
「は〜い。結構すぐに見つかるもんなんだね」
「ま、とうぜん、といえば当然ともいえるけどね」
いいつつ、渋々立ち上がる。
そして。
「あ、ご馳走さまでした。えっと。はい。代金」
オレがサイフからお金を出すと。
「そんなっ!いただけませんっ!」
いってロゼは断ってくるし。
「ただだったらこっちが悪いじゃん。オレたちお客なんだしさ。ね?」
「でも……」
ロゼどころか父親までもが戸惑い顔だ。
「申し訳ありませんが、彼の気持ちを汲んでやってくださいませんか?さ。いきますよ」
「はいはい。あ、そうだ。あとでコンラッドたちに渡すものがあるから」
コンラッドに促され、席を立ち店から出ようとするけども。
ふと思い出してひとまず言っておく。
「ユーリ。荷物、荷物」
「あ。そ〜だ」
肝心な袋を忘れてた。
紙袋を手にとり、店を出ようとするオレたちに。
「あら?そちらの人たち?コンラート様のお知り合いでしたの?」
さきほどオレを女の子、といってきた女のお客さんがコンラッドに話しかけてくる。
「ええまあ。さ。いきましょう」
「ああもう!そうせかさなくてもいく!いきますってば!!」
首をかしげる店の人というか客たちの前をあとにして。
オレとアンリはコンラッドに連れられて店の外にと出るハメに……
…まさかこんなに早く見つかるとは…城下町って広いのになぁ〜??



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