「いらっしゃいませぇ!って、あ。巡回ご苦労様です」 見れば…ぎくっ!? 一瞬思わずパイを食べる手がとまってしまう。 何でか兵士らしき人が三名ほど店の中にとはいってきてるし。 …まさかもうバレたとか!? 「かわりはありませんか?」 「はい。いつも巡回ご苦労さまです。何かお飲みになりますか?」 「いや、勤務中なもので……。あ、それはそうと。 もし変わった二人連れを見かけましたら。詰め所までご連絡いただけませんか?」 そんなことを言ってるし。 「何かあったのですか?」 「いえちょっと…どうやら、とある上のほうからのお達しでして……」 何かそんな会話をしているし。 って…げっ!? もしかしてもう手紙…コンラッドに届いちゃったわけ!? 急がなくてもいいっていっておいたのに…… 手紙でコンラッドに伝えるようにしたからなぁ。 今回眞王廟から歩いていく、という旨は。 事前にアンリがウルリーケにも話していたらしく、今回血盟城には連絡いってなかったらしいし。 「かわっている。といえばそこの二人連れのお客さんですけど。旅人さんらしいですわ」 そんなことをいってオレたちを示してくる。 …ま、まずい。 顔見知りの兵士とかだったらどうしよう? それだと即刻まずアウトだ。 それにアンリのことを知られていてもアウト。 「ど…ど〜も」 思わず声が上ずるが。 「旅人か。男女二人連れ…ということは違うな」 「って!!オレは男だって〜の!!」 オレとアンリをみてそうつぶやく兵士に思わず突っ込み。 「まあまあ。僕達はちょっとフォンカーベルニコフ卿アニシナさんに用があってね」 びっしっ! あ、兵士や店の人たちまでアンリの言葉に固まった…… しかも、彼らからはものすごい恐怖したときに出るオーラが立ち上ってるし…… 「珍しいものを手にいれたから。あ、何なら君達が先に試してみます?」 にこやかに兵士たちにといっているアンリ。 ま、まあ嘘も…方便…というか、何というか…… 「アアアアアアアニシナ様のお客様でしたか。大変失礼いたしました。 それでアニシナ様へのご連絡は……」 「いきなりいったほうが、こういうのって彼女は喜ぶでしょう?」 『―――・・・・・・・・・・・・・』 兵士たちからはものすごい恐怖のオーラがほとばしっている。 「そ。そうですね。それでは我々は聞かなかったことにして。…失礼します。 何かあれば連絡するようにしてください」 そう店の人に言付けて、何やら逃げるようにと立ち去る兵士たち。 あ…アニシナさんって…… 名前をだしただけであの反応…… 実験体にされているのはグウェンダルだけではなかったのか…… 「あ…あの?お客さん?」 「う〜ん。口からでまかせで結構きくねぇ。さすがアニシナさん」 そんなアンリの言葉に。 「でまかせなんですか!?」 驚いている店の女性。 「イヤ。知り合いだから旅のお土産をもってきた。というのは本当。勘違いしたのは向こうだし」 いや、今のは絶対に勘違いせざるを得ない言い方だとおもうけど? 「なるほど。…でもお知り合いって……」 「ちょっとしたことでね。以前実験につき合わされそうになって……」 アンリが言いかけると。 「いいです。私は聞きませんから。お客さん…苦労なさってるんですね……」 アンリの言葉に娘さんから同情の視線が…… 「い…いったい、アニシナさんの国民のイメージって……」 以前、赤い悪魔。 と呼ばれているのは町の人から聞いたけど…… 「あ。でもアポイントをとらずにいきなり、でも大丈夫なんですか?」 「彼女がらみでそれがいるとおもう?」 「……思いませんね。なるほど」 何かしみじみとアンリの言葉に納得してるし。 ……アニシナさんにこんな活用方法があったとは、かなりびっくり。 そして、同情の視線をオレたちにとむけつつも。 「赤い悪魔の被害にあわないことを祈ってますわ」 「どうもありがとう」 「はは……」 そう切実に言ってくる娘さんに、にこやかに返事をしているアンリにただただ乾いた笑いをあげるオレ。 ……アニシナさんの実験体にされそうになったら、絶対に謹んで事態しよう……うん。 「そ、そういえば、さっきの兵士さんは何なの?何か巡回とかいってたけど?」 とりあえず話題を変えようと問いかけるオレに。 「?お客さん?巡回兵をしらないんですか?」 オレにとそういってくる女の人。 「簡単にいったら、パトロール隊。コンビニとかにも警察が立ち寄るでしょ? ここ、警察兼兵士がそれをかねているからね」 「なるほど」 首をかしげる女の人に代わってアンリが説明してくれる。 「じゃあ。派出所みたいなものもあるの?やっぱり?」 「要所要所にはあるけど。国境付近までは手がまわってないとおもうよ? あと小さな村とか町とかにも。交通手段とか、人員とかの関係で。 国境付近は住民が代表者を決めて取り締まっていたりするしね。 いわゆる自警団みたいなものかな?」 そんなオレたちの会話に。 「?あのぉ?お客さん?それどこの言葉ですか?聞いたことないですけど?」 首をかしげつつも問いかけてくる娘さん。 「え?どこのって……」 「僕達が住んでいたところの言葉ですよ」 アンリの言葉に。 「ああ。方言みたいなものですか。何か意味不明だとおもったら」 何かそれで納得してるし。 …えっと。 もしかして、今、オレ日本語でアンリと話していたのかな? いまだにオレ自身としては言葉を使い分けている、という実感はないけど。 「で?これからどうする?」 「もうすこし町をふらついてからいこうよ。こういう機会はないしさぁ」 「きっと心配してるよ?」 「わってるって。だから手紙をだしたんだし」 そんな会話をしつつも。 とりあえず、デザートを食べ終わり、オレたちは再び店の外に出て町の中にと出ることに。
コンラッドたちと一緒のときとは違った町の顔が見えてくる。 「とりあえず。ロゼたちの様子が気になるし。見に行くだけでもダメかなぁ?」 そんなオレの言葉に。 「みるだけ。ならね」 苦笑しつつ、そういってくるアンリ。 ロゼたち親子が気になるので、そちらにむけて足をすすめてゆく。 やがて、見覚えのある近くにとたどり着くと、どうやら結構繁盛しているようで人だかりができている。 一日たって噂をききつけてやってきている人もいるらしい。 「いらっしゃい。お兄さんたちうちのお客さん?ちょっとまってもらうようになるけどい〜い?」 「うわっ!?」 少し家から離れてみてたのに、いきなり後ろから声をかけられ思わずびっくり。 「って。リゾットかぁ。おどかさないでよ……」 振り向けば、そこには手に何か荷物を持っているリゾットが立ってるし。 「?どうして僕の名前?…って。ああ!?女の人かとおもったら一昨日のお兄ちゃん!?」 「……ユーリのどじ……」 リゾットの横で大きくアンリがため息をついてるけど。 「でも髪の毛の色が違うのは何で?」 「カツラだよ。カツラ」 「?よくわかないけど。せっかくだし。家まできてよ。ね!」 ぐいぐいと、手をひっぱってくるリゾット。 「いや、あの!?リゾット!?迷惑かかるし!」 あせり、戸惑うオレをぐいぐい引っ張ってくるリゾットに思わずつられて歩いてしまう。 いや、だからぁ…… 振りほどく…というのも何かリゾットに悪いし… そんなことを思っていると。 「おと〜さぁん!おね〜ちゃぁん!ただいまぁ!一昨日のフーリお兄ちゃんがきたよぉ〜!!」 何やら家の中に向かって叫んでるし。 「いやあの…リゾットぉ!?」 確か、ロゼやその父親には、オレが王だってバレたんじゃなかったっけ!? リゾットは知らないようだけど。 「ユーリってどこか相変わらず抜けてるよねぇ」 「ほっとけ!!」 オレの後ろでアンリがそういってくるけど。
「リゾット?フーリさんって…え゛!?」 「あはは…どうも……」 リゾットの声を聞いて外に出てきたお父さんが、 リゾットに手を引かれたオレとアンリをみて一瞬固まってるし。 「フーリさん…それに…ええ!?もしかして!?」 「わ〜!!しぃ!!ちょっと様子を見によっただけなんですってば!!」 叫びそうになる彼の言葉をどうにかジェスチャーで押しとどめる。 「彼が君たちの家族のことが気になるっていうから。もどるついでによってみたんですよ」 オレに続いてアンリが父親にと説明をいれている。 「その声…やはり、お二人ともご本人様がた!?」 「だ・か・ら!しぃ〜!!」 何か他の客からこちらは注目されてるし… うわっ。 目立ってるよ…絶対にぃ…… 「ユーリ。リアクション大きすぎ。ま、せっかくだし。何かのんでいこうか? ここで突っ立って話していたら余計に目立つよ?」 「うっ……た、たしかに…。あ、あの?えっと…いいですか?」 とりあえず、アンリの言うとおり、お客さんたちや通行人の視線が痛いし…… 恐る恐る問いかけるオレに。 「いいも何も。というかそんな恐れ多い……」 「あのぉ。そんなに硬くならないでほしいんですけど…話し方も普通にしていただけたほうが… オレとしてはものすっごく大変にうれしいんですけど…かしこまれるのって慣れてないもので……」 恐縮しまくっているらしい、ロゼたちのお父さんにと話しかける。 「ですが……」 「何か堅苦しいの苦手で。普通に接してくれたらありがたいなぁ。って。 ただのお客として扱ってくれれば大変にありがたいんですけど」 「それに他のお客さんたちの迷惑にもなるしね」 「――…お願いできます?」 そんなオレの言葉に。 しばし戸惑いつつも。 「は…はぁ。そうおっしゃられるのでしたら……。と、とにかく中にとどうぞ?」 「?変なお父さん。おね〜ちゃぁん!この前のフーリお兄ちゃんとケンお兄ちゃんがきたよぉ!!」 どうやら、アンリは、リゾットに、自分の名前を健だと名乗ったらしい。 まあ、今のアンリの名前ではあるけどさ。 村田健。 というのがアンリの今の本名だし。 オレの場合は渋谷有利、という名前が知られていたらまずいので偽名つかって自己紹介したけどさ。 「リゾットったら。あのお方たちが来られるはずないでしょう?あのお二方は……」 いって、扉のほうにと視線をむけてきて。 その視線がオレとアンリをみてピタリ、ととまるロゼの姿。 そして。 「うそっ!?まさか!?」 何か驚いてるし。 髪の色も髪型も。 カツラや色つき眼鏡をかけている、というのにわかるものなのかなぁ??
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