「スピカっ!」
「あ。ユ〜リお兄ちゃん!」
案の定。
友達とラジオ体操が終わってもスピカはどうやら話し込んでいたようだ。
他の子たちもまだ半分近くのこっている。
「おふくろがご飯の仕度が出来たっていってたから。かえるよ?」
「は〜い。それじ、またね」
「うん。またね。す〜ちゃん」
話していた女の子たちと別れ、オレのほうにと走ってくる。
八歳、そして十歳。
と子供の成長は早い。
ついこの以前まで、『に〜たん。』と呼ばれていたような感じなのに。
この秋というか冬でスピカももう、十歳だ。
ついこの前まで本当に小さかったのに。
そのうちに六年生になって、中学、高校と大きくなっていくんだろう。
そのときオレはどうしてるんだろうか?
あちらでそのころも人類平等計画を掲げ魔王としてがんばっているんだろうか?
それとも、協定を結び終えて次はその持続のためにいろいろと何か動き回っているのだろうか。
…どちらにしろ、オレが王と即位した後。
ボブ叔父さんもいってたが、オレは元々この地球の産まれではないので。
ずっとはこちらにいられないらしい。
とはいえ、八十年から九十年くらいの余裕はあるというか平気らしいが。
だがしかし、問題が一つ。
ソフィア母さんの封印が完全に溶けた後。
オレの成長スピードは地球人のそれと異なるらしい。
ちなみに、魔族…つまり、眞魔国の魔族とも。
肉体的には何でも天空人に近いらしく……近いところでいえばウルリーケの年齢のとり方に近くなるとか。
大体百数十年に一度、歳をとり、ゆっくりと成長することになるらしい。
術で見た目は幻術などで歳をとったように見せかけることも可能らしいが。
今のオレにはそんなことをいわれてもピンとこない。
というのが現状だ。
オレ的にはそもそも、オレがその天空人だ、という母さんの子供だ。
というのですらいまだに信じがたい事実なんだし。
そもそも、オレの母さんって本当にそんな種族の人だったの?
と思ってしまうし。
周りがいうから、そうなんだろうけど。
いまいちピン、と実感できないのもまた事実。
それに。
オレとしてはこちらの世界でもやり残しているものだらけ。
ま、今考えても仕方がない。
なるようにしかならないさ。
うん。

スピカをつれて、家にと帰り先にシャワーを浴びてから朝食に。
「そういえば。ゆ〜ちゃん。今日も健ちゃんとお出かけするんだって?」
食事を出しつつもお袋がきいてくる。
自称、浜のジェニファーこと、渋谷美子。
自分でジェニファーだといっているあたり、ある意味すごい度胸である。
何でも昔、占いでこの名前が幸運を呼ぶ…とでたとかで……
それ以後ジェニファーで通していたりするこの育ての母……
「え?おに〜ちゃん。今日お誕生日なのに?
  私、おに〜ちゃんのプレゼント用意してるんだよ?夜のパーティーは?」
不安そうにオレを見ていってくるスピカ。
おふくろゆずりの栗色の薄毛の髪に薄茶の瞳。
「夜までにはもどるよ」
……あっちでどれくらいの時間が経過するのか、というのは別として。
下手したら一年どころではないかもしれないし。
その辺りの時間と空間の関係はオレにはよくわからないけど。
ま、何かいろいろとあるんだろう。
きっと。
聞いたところによると、あの星も同じ銀河系の中…というか。
ほぼ反対側にある…というか中心地帯にある星らしいし。
…よくわかんないけど。
とにかく、同じ銀河系の中…というのは、アンリから聞いて判明している。
ボブ叔父さんも肯定してたし。
「そう?でもあっちにいくんでしょ?」
ぎくっ。
「ななななんで?!」
何でわかったんだろ?
「だってゆ〜ちゃん。そんな顔してるし。用意してあるもってくものの中にコンラッドさんの名前がかかれてたもの」
しまった!
見つかったのか!?
かくしてたのにぃ……
「え…えっと…何かまだあっちで用があるらしくて……」
オレの言葉に。
「い〜な〜!!おに〜ちゃん!私もお兄ちゃんが王様になった国にいってみたい!」
「ええ!?ムリだって!!」
オレやアンリはあちらの世界に魂が属しているから出来る技だ。
と以前聞きかじったし。
別に魂はどこに生まれかわるのも自由になんたろうけども。
何やらそれぞれに魂を管理する立場の存在はいるらしい。
ここではボブ叔父さんがその役目を担っているそうだけど。
あちらでは眞王が。
何だかめんどくさそうである。
「い〜わねぇ。ママもいってみたいわ」
「ね〜。まま。私たちもいきたいよねぇ」
「ね〜」
…まずい。
話題を変えないと。
このままだと、向こうに二人していきたい。
という、ムリなおねだり攻撃が始まってしまう。
「あ。そういえば。昨日買ったシーワールドのお土産。今日の宅配便で届くよ。
  スピカが以前にほしいっていってた特大ペンギンさんだぞ〜?」
「本当!?ユーリお兄ちゃん!!」
「ええぇ〜!?す〜ちゃんいいなぁ」
何かこの母子。
似たもの同士だし。
オレの言葉に目を輝かせるスピカに、うらやましがっているオフクロの姿。
どうにか話題がそれたようだ。
あと、何か夏休みイベント福引で大量生産ヌイグルミをおしつけられ…もとい。
クジを引かない代わりにもらったとかの話もしておく。
お袋には特大ゴマアザラシの子供ヌイグルミがあるから、別に他はいいだろう。
そんな会話をしつつ、食事も終わり後片付け。
片付けをすませ、とりあえず一度体を休めようと横になる。
だって今度は何をさせられることになるのやら、皆目不明だし。
そんなことを思っていると……
いつのまにかオレは睡魔に襲われ、珍しく二度寝にと突入してゆく……


「ゆ〜ちゃん!健ちゃんが来たわよ〜!!」
へ??
思わずその声に目を覚ますと。
時刻はいつの間にか十一時近く。
「オレ…いつの間に寝てたの?」
思わず自分でつぶやきつつも、あわてて飛び起きて一階にとおりてゆく。
すると、なぜかリビングにでかでかとヌイグルミがおいてあったり。
どうやら寝ている間に宅配が届いたようだ。
「やっぱり寝てたみたいだね」
いや…やっぱりって?
何か知ってたようにアンリがいってくる。
「何で?」
「だって今日はユーリの誕生日だしね」
「???」
何でそれが関係あるんだろうか?
「健ちゃん?こんなものでいいかしら?」
「あ、どうもです」
見れば、他の昨日の荷物も届いたらしく、それをビニール袋で包んでいるみたいだけど。
「水に濡れたらアウトだからねぇ」
そんなことを言っているアンリだし。
そ〜いえば?
「あれ?スピカは?」
いつもならいるはずのスピカの姿がないし?
朝は確かにいたよな?
「友達にヌイグルミをみせにいったわよ?」
「…あらま……」
あんな大きなヌイグルミを抱きかかえていったのか……
おふくろの言葉に思わず目を丸くする。
スピカらしい…というか、何というか……
「ともかく。ユーリ。そろそろいくよ?着替えてね。きちんと。
  そのTシャツ姿はあっちでは普及してないよぉ〜?」
「着替えてきます…」
あちらの世界から持って帰っている服もいくつかあるし。
逆にこちらから持っていっている服もあるけど。
ひとまず、眞魔国に出かけるためにと服を着替え。
それから、風呂場にと入って靴をビニール袋に入れてもつ。
何しろ靴まで濡れたら気持ち悪いし。
だがしかし、今回は何でも眞王廟の託宣の間に直接でるから濡れる心配はない。
というので靴を出してそのまま風呂場の中で履いておく。
あれ?
「そういえば、ヌイグルミ入りとかのダンボールは?」
「先におくったよ?」
「…あ。そうなの……」
そんなこともできるんだ……
着替えて降りれば、あの例の海のお友達のヌイグルミが入っているダンボールの姿がそこにはなく。
確かにさっきまではあったのに。
疑問に思い、問いかけるオレにあっけらかん、と答えてくるアンリ。
品物だけ先に送る…ということもできるのね……
何か始めてしったぞ?
そういうのは?
「ウルリーケとエドを通して連絡をとっておいたから。あれは託宣の間におくったよ。さ、僕たちもいこ」
「忘れ物は…なしっと」
お土産の入った袋ももったし。
アンリが何か紙袋を別に手にしてもってるけど。
「?それは?」
「ジェニファーさんから借りたカツラ♪今回は僕達がいってから血盟城に連絡いれてもらおうかとおもって。
  それまでいい機会だし。外というか町をぶらぶらとしてみるのもよくない?」
「え!?本当!?」
イタズラを思いついたように軽くウィンクをしてくるアンリの言葉に、思わずうれしい声が出てしまう。
だって、外なんて滅多と自由に歩き回れないしなぁ。
あっちでは……
「あ。でも大丈夫?」
「荷物に手紙つけてるから。そう書いておいたよv」
「そうなんだ」
とにかく自由に町を歩ける…というのはかなり魅力である。
袋の中をみれば、おふくろの持っているウィッグが二つ。
それと向こうは寒いのでコートも中にと入っている。
ちなみに一応フード付き。
「じゃ、いってきま〜す。」
「いいなぁ。二人とも。ママが触っても何の反応もないのよね」
すでに水鏡のように波打っている鏡をお袋が触っても、そこにはただの鏡があるのみ。
オレとアンリが触ったらその中にすっぽりと入り込むように吸い込まれるけども。
元気欲、言ってきますの挨拶をし。
そのまま、通いなれた鏡のブラックホールもどきを抜けてゆく―――



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