「……う〜……」
もどれなくなって、十日目。
「さ!陛下。次いきますよ!」
…オレの周りには山と積み上げられた本の数々が……
「…ギュンター…少し休ませて……」
オレの言葉に。
「何をおっしゃっているのです!いつまで続くかわからない貴重なご滞在なのです!
  この機会にしっかりと魔王陛下としてお勉強していただきます!そもそも、十代目国王は……」
がくっ。
この十日。
この調子で書類のサインは当たり前。
時間区切りで歴史の勉強。
作法の勉強に文字の読み書きの練習……
…ずっと城にこもりっきりで気分がめいってくる。
少しは休憩しないと頭にも入らない。
とか。
休憩は脳の細胞を活性化させるために必要だ。
とかいって、昼前に少しの自由時間はもらえたが。
だけども城の外にと出ることもできずに、する、といったらジョギング。
又は、コンラッドとキャッチボールをするしかない今日この頃。
そんなこんなで十日間。
まだまだエドさんがもどってくる気配はまったくない。
「…も…ダメ……」
パタッ。
思わず本の上にと倒れてしまう。
こう毎日勉強詰めだと気分もめいってくる。
ああ…思いっきり体を動かしたいよぉ〜……
それとか、どっかに遊びにいくとか。
「しかたありませんね。それでは本日の歴史の勉強はここまでにしましょう」
「本当!?」
オレの言葉に。
「昼からは礼儀作法のお勉強をしていただきます」
ずるっ……
そのまま、オレは椅子から滑り落ちてしまう。
せ…せめて、何か音楽とかが流れているならまだしも!!
こうずっと、缶詰状態は本当に体に悪すぎだぞ!?
でもここ電気とかないし。
今度戻れたら、電池式のCDかMDコンポでももってきておこう。

「お疲れさまです。陛下」
部屋からでると、さわやかな笑顔のコンラッドの姿。
「こう毎日じゃ体がもたないよ……」
そんなオレのぼやきに苦笑して。
「休憩のようですね。どうなさいますか?」
「とりあえず、体をおもいっきりうごかしたあと、キャッチボール。ボール触ってたらおちつくし」
「判りました」
にこにかにいって、オレと共に外にとでてゆくコンラッド。

??
何か城の中の兵士たちがバタバタしてるけど…どうかしたのかな?
中庭にでてグローブをつける。
やっぱり野球道具を身につけると精神的にも落ち着いてくる。
長年継続しているがゆえの効果であろう。
よく昔、おやじやアニキ、そして友達とやっていたように普通のキャッチボール。
「今日の勉強は終わったんですか?」
「まだ。昼からは礼儀作法の勉強だって」
オレのうんざりした言葉に。
「それは大変ですね」
いって笑っているコンラッド。
どこか面白がってるし……
「まったく。ギュンターったら。ここぞとばかりに教育してくれちゃってさ。つめこみ教育はよくないっての」
「彼のほうは楽しそうですけどね」
彼は本来、オレが生まれたときから、教育係と決まっていたらしく、
オレがあっち…つまり、地球で過ごすことが決定されたとき、かなり落ち込んだらしい。
最も、オレの命と身の安全が最優先……というので。
まだ赤ん坊のオレと母さん、そしてコンラッドを見送ったらしい。
……オレは覚えてないけどね。
ゆえに、こうしてオレに教えることが出来るのが何よりもうれしいらしい。
…らしいのだけど、こう毎日、毎日缶詰状態で詰め込み勉強だと、
オレ的にも精神的に参ってくるし、何よりもういい加減に限界だ。
…せ、せめて日に何時間、とかギュンターをどうにか説得し。
そこまでに持ち込まないとこちらの身がもたない。
いや、まじで。
そんなオレたちの会話に。
「何が楽しいものか!!」
何やら不機嫌になっているヴォルフラムがいってくる。
「どうした?ヴォルフラム?あ。おまえもやっと野球やる気になった?」
いまだにこいつは野球なんてやらない。
といって、一緒にやらないしなぁ。
「僕はそんなものはやらない!球遊びなど!ともかく!せっかく城にいる。というのに!
  いつもギュンターと二人っきりで!おまえは僕とギュンターとどっちが大事なんだ!?」
そんなことをいってくるし。
「……どっち…といわれても……」
というか、好きで勉強しているわけじゃないってば。
そんなオレとヴォルフラムの会話に。
「ヴォルフラム。陛下はお疲れなのだ。そう困らせるな」
「ふんっ!」
何やらコンラッドの言葉にそっぽを向いてるし。
ふと。
「見つけたか!?」
「いやっ!」
何やら兵士たちが走り回っている姿が目に入る。
「……?何かあったの?さっきも思ったけど。何か朝から騒がしくない?」
「魔石が盗まれたんっすよ」
オレのそんな素朴な一言に何やら聞き覚えのある声。
『ヨザック!?』
声のしたほうをみれば、なぜかそこにはヨザックの姿が。
かなり久しぶりだし。
…確かモルギフ探索以来じゃないっけ?
「おひさしぶりっす。へ・い・か。フォンクライスト卿にしごかれているって聞いてましたけど。
   ずいぶんと元気そうじゃないっすか。」
にかっと笑ってオレにといってくる。
「う〜…忘れてたのに」
イヤなことを思い出したくはないぞ。
せっかくの貴重な休み時間なんだから。
「それで?おまえはどうしたんだ?」
そんなヨザックに問いかけているコンラッドに。
「そえいえば、魔石が盗まれた…っていってたけど?」
コンラッドとオレの問いかけに、少し首をかしげるヨザック。
「昨夜。血盟城に向かっていた兵士が襲撃をうけ。兵士たちが運送していた魔石が盗まれたんですよ」
オレにと説明してくれるコンラッドに続き。
「何だ?知らなかったのか?魔王のくせにのんきなやつだ。兄上が今捜索隊を出している」
「うっ!?だってずっとギュンターにつかまってたし……それで?その魔石って?何?高価なものなの?」
最近は、勉強づくめであまりに疲れて夜はすぐに爆睡してたし。
やっぱしオレは頭脳労働よりも肉体的労働のほうが向いている。
なれない勉強でもはや完全に疲れきっているオレの体。
「高価。というよりは貴重なものですね。壊れた魔道道具を回復させたり。
  魔力を回復させたり出来る石です。滅多に取れないので大変に貴重なんですよ」
詳しく説明しつつ。
「陛下の達の所でいうなれば、ゲームの中の賢者の石とか」
「……アンリから聞いたな?なるほど、つまり回復アイテムってわけか」
オレの言葉に。
「ま。そんなものです。で?ヨザック?おまえはどうしてここに?」
「フォンヴォルテール卿の命令でね。今から町に魔石の探索にいくころです」
にこやかにいってくるヨザックだけど。
「ええ!?町に!?」
「ええ。」
「オレもいきたい!!」
オレのそんな言葉に。
「陛下。そういうわけには……」
だってだってだって!
もうずっと城の中ばかりだしっ!
「遊びにいくわけじゃないってば!ね!そう!探索!魔石の探索だよ!
  それだって立派な魔王の仕事でしょ!?頼むよ!オレもう本当に限界なんだよっ!ね!」
頼み倒すオレの言葉に、なぜかコンラッドとヴォルフラムは深いため息。
「相変わらずですよねぇ。陛下は」
そんなオレをみて、いってにやにやと笑っているヨザック。
「ヨザック。止める。ということをしないのか?」
そんなヨザックに、言ため息まじりにいっているコンラッドだけど。
「この陛下が止めるとはおもいませんしねぇ。この辺りは彼女とまったく性格は彼女と同じようですしねぇ」
笑いつつ、はっきりきっぱりと言い切っているヨザックだし。
…見抜かれてる?
というか、オレの前世のジュリアさんも似たような性格だったわけ?
ねえ???
「それは……」
言いかけるコンラッドに。
「たしかに。いえてるな。ユーリは言い出したらきかないからな。
  下手したら間違いなく一人ででも城下町にいきかねない。
  こいつは自分でコントロールできないまでも自力での空間移動が可能だからな」
などと腕を組みつつヴォルフラムがいっているけど。
いや、そういわれても……
自分の意思で出来るわけじゃないオレとしては、本当にエスパーよろしく瞬間移動なんてものをしたのか?
と常々疑問に思っているが。
「仕方ありませんね……」
「やったぁぁ〜〜!!!」
これで少しは気分転換ができる!!
何しろずっと城の中から出てないんだもんなぁ……
ギュンターには悪いけど、やっぱり気分転換も大切だしね。



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