ライアンの作戦は砂の中にパンダに穴を掘らせ。
そこから脱出道をつくって国境までいく。
というもの。
好き好んで砂熊の穴に入ってくるものはまずいないらしい。
それ以前に。
砂なので時間がたてばあけた穴も埋まるとか。
地中を移動するオレたちの姿は地上の人からは見えないらしい。
ライアンの意見を取り入れて、オレたちは砂の中を進んでゆく。

やがて、砂地がひらけ、そこには例のむちゃくちゃに広い乾いた川が。
その川を全員が渡りきったのを確認し、コンラッドに頼んで馬から下ろしてもらう。
「陛下?」
「ユーリ?何をする気だ?」
「川は元にもどしておかないと。ね」
いって。
すちゃり。
と笛を取り出す。
今度は川を…いや、大地に潤いを取り戻すために。
乾ききった大地は水に飢えている。
スヴェレらの人々の心がすさんでいたのも乾きが原因の一環かもしれない。
どこまで出来るかは判らないけども。
でも、オレは……
しばらく笛を構えたままで、そんなことを思っていると。
ふいに。
なぜか頭にと一つの曲がうかんでくる。
何の曲かはわからない。
……けど、判る。
この曲が、乾ききった大地に恵みを取り戻す曲なのだ…と。
頭に浮かぶ曲のまま。
オレは笛を構え、その旋律を演奏してゆく―――


「…こ…これは……」
「ソフィア様が以前歌っていらした?」
ユーリが知っているはずはない。
誰から教えてもらえるはずもない。
天空人のみに伝わっている。
という、その『命の恵み』と呼ばれているその曲を。
曲を吹くユーリは目を瞑ったまま。
その体がほのかにひかり、その光は徐々にと空に、大地にとひろがっていき。
そして、その光はやがて、大地に信じられないことに恵みをあたえ。
乾ききっていたはずの大地に草花が顔をだす。
雨も降れども、ユーリには雨が触れる様子もなく、むしろ雨はユーリを取り巻くようにと。
空高くに舞い上がり、それらは干上がった川をも満たしてゆく。
そして…それは。
スヴェレラ全国土にと広がり。
国境でもあるその場にも広がりを見せてゆく。
誰の目にもはっきりと判るほどに……


「…あれ?」
何でオレ、馬車の中で横になっているんだろう?
気づけば馬車の中だし。
というか、オレいつ眠ったの?
「気がついたか」
なぜか横でヴォルフラムがあきれたような、ほっとしたような顔でいってくるる
「陛下。気がつかれましたか。お体のほうの調子はどうですか?」
外からコンラッドが顔を覗かせていってくる。
えっと?
「??オレどうしたの?確か川を元通りにしようとして笛をとって……」
そこから先の記憶が…ない。
あれ?
ぼんやりと覚えているのは、とてもやさしい歌声を聴いていたであろう幼き……
そう、本当に幼い日の自分。
「覚えてないのか!?あれを!?」
「?何が?…オレまた何かしたの?」
「まあまあ。ヴォルフ。陛下はお疲れだ。何か果物でももってきますね」
いって馬車から離れてゆくコンラッドだけど。
ええっと?
「そういえば他の人たちは?」
オレとヴォルフラム以外、誰も乗ってないんですけど?
「これは眞魔国に入って買った新しい馬車だ。女たちはもう一つの馬車にそのまま乗っている」
言われて、横の布を押し上げて外を見てみれば、
何かいつのまにか馬車が二台になり、しかも馬の数も増えてるようだ。
といっても兵士の数が少し減ってるけど。
「数人は先に帰国を知らせるべく王都に向かった。それより!本当に覚えてないのか!?」
「だから何!?」
いってヴォルフラムが何かつっかかってくるけど。
「陛下は『命の恵み』とか呼ばれている曲を演奏したんですよ。この曲は我々、そして人間にも扱えません。
  唯一できるのは、天空人と創世神。あとは猊下くらいですかね?
  でも陛下?いったいどこで学ばれたんです?猊下にでも習いましたか?」
「??何それ?」
まったくもって意味がわからない。
とりあえず、もどってきたコンラッドが持ってきた果物を食べつつ、簡単にと話をきく。
オレが曲を吹き終わった後に、例のごとくに気絶し、深い眠りについてしまったこと。
何をしたかは教えてくれないけど、かなりのことをやらかしたらしく、力を使いすぎたせいであろう。
ということ。
オレが目覚めるまで休憩することもできたけど、それよりは早く王城にともどってオレを休ませたほうがいい。
という意見になったらしいこと。
国内。
といえども油断は禁物。
ということで。
あれから二日以上は経過しているらしい。
ということ。
……え、えっと?
オレ、本当に何をやったの!?
ねえ!?
でも…『命の恵み』って…『僕地球』のキサナドじゃあるまいし。
あれは木蓮さんが歌うと植物が大増殖!だったけど。
なぜかふとそれを思い出してしまう。
……何でだろ?
オレが目覚めたことをうけ、何やら兵士たちもがさすが陛下です!とかいってくるし。
頼むから、誰かオレが何をしたのか教えて……
この歓迎振り…というか、むしろ尊敬されている様子からしてあの川を元通りにしただけ。
とは考えにくい。
さすが母さんの子だといっている人もいるのも気になるし。
気になったまま、そのまま一行は、そのまま体を休めつつも王都に直接むかってゆく―――



「陛下!よかった!ご無事だったんですね!!」
王城の門をくぐるなり、ギュンターが抱きついてくる。
あらかじめ先にともどった兵士たちの報告により、
スヴェレラからつれて帰った人たちの家とかはすでに手配されていた。
近隣の村々と連絡を取り、彼女たちを受け入れてもいい。
という村々となるべく近くの村々で彼女たちがそれぞれ行き来できるようにと手配してくれたらしい。
「ただ今。ギュンター。あ、それよりグウェンダルが怪我してるんだ」
「心配されなくても一人でいく」
オレの言葉にいってくるグウェンダル。
「無理はダメだってば」
「大丈夫だ」
「あ!グウェンダル!」
ふらふらしつつ、歩いていっているけど。
う〜ん……
「…とりあえず、グウェンの部屋につれてって大人しく寝るように、誰かついていってくれる?それと医者を」
オレの言葉に
「判りました。とりあえず後ろのかたがたはしばらく王城にと滞在していただき。
  それから彼女たちの住処に案内いたします」
いって兵士に指示を出しているギュンター。
こういう動きの早さは非の打ち所がないのに。
女の人たちは王都についてからずっととまどっているけど。
ひとまず、彼女たちの相手の名前とその相手…つまり、夫の身元がわかる範囲内では。
それらの家々に連絡をいれてみると、大概の家では夫がいないままでも嫁入りする。
ということで話はまとまっているらしい。
家族の皆さんも快く彼女たちを迎え入れてくれて、オレとしては人々が、人間だの魔族だの。
といったような差別なく受け入れてくれたことがとてもうれしい。
オレたちが王都にもどったその日。
ギュンターは彼女たちの夫の家族の代表者を呼び出しており、
ノリカ姉さんなどは、ノリカさんの彼氏の両親などは、子供が十年前に死んであきらめていたのに。
孫と、そしてお嫁さんがくる。
というのでかなり大喜び。
どうも彼女の夫は家族にも彼女のことを常々話していたらしい。
いずれ、彼女をつれてもどってくる…と。
でも、十年前。
息子は死亡し…そして、十年後。
何とお嫁さんと息子の子供…つまり、彼らにとっては孫がもどってきたのだ。
涙ながらにノリカさんやジルタを抱きしめて喜んでいたけども。
ノリカさんのお父さんも、お嫁さんのお父さんだから。
と歓迎してくれた。
あと、なぜかオレに対してひざまづきお礼を言ってくる家族の姿もみうけられたり。
一家族づつ、きちんとオレ自身で話して、彼女たちのことをよろしく。
と頼み。
それ以外にもちょっとした雑用。
というか必要な仕事を行いつつ。

…気づけば、いつのまにか夜にとなっていたり……
時間がたつのって…早い……


「――疲れたぁ〜……やっと帰ってきた……」
思わずベットに横たわる。
でもオレの家はここでもあるけど。
だけども、ここも家でもあるけど、もどるべき家はもう一つある。
それに……
とりあえず、今回のオレの役目は終わったはずだ。
だったら。
たんすに入っている元々きていた服を引っ張り出して、下着もきちんとはきなおす。
ちゃんと元の服は洗濯されてタンスにと入ってるし。
「ユーリ。入るぞ?…ん?何やってるんだ?」
服を着替え、部屋から出ようとする俺にヴォルフラムが部屋に入りかけて言ってくる。
「ん?今回のオレの役目は終わったはずだし。だったら……」
首をかしげるヴォルフラムを引き連れて、魔王専用風呂…すなわち。
オレの専用風呂にとむかってゆく。
あとは、時間的に二・三分後にあちらにでれば問題なし。
…どうか騒ぎになっていませんように……


「……あれ?」
服のまま、風呂にと入るものの、いつもの非常識な水の流れはうまれない。
「何をやってるんだ?このへなちょこ。何を服をきたままで風呂に入っている?」
あきれてオレの後ろからそういってくるヴォルフラムの声。
そんなヴォルフラムに対し。
「ヴォルフ。ちょっと背中を押してくれる?」
「何だ?」
「いいから」
オレの言葉に、そのまま服を着たままで風呂に入ることはできない。
というのでオレが近くまでよっていき、背中を押してもらうものの。
やっぱり何も怒らない。
「……もどれない?」
「何がだ?」
「もどれないんだよ!いつもなら用事が変わったら、あっちにもどれるのに!!」
そんなオレの言葉に。
「何をいっている。お前はこの国の王だろ?どこにいく必要がある?
  そもそもお前はこちらの世界に属するものだ。もどる必要はないだろ?」
「けどっ!!」
はっ!
そううだ!
「そうだ!ウルリーケ!!エドさんだよ!!」
「あ…おいっ!!」
次の瞬間。
なぜか一瞬、視界がぐらりとし……
そして……



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