「そういえば、ユーリって黒髪だったの?びっくりしたけど」 ふとオレにと問いかけてくるニコラ。 「うん。ついでに瞳も。何かさぁ。この世界って黒瞳・黒髪って珍しいんだって? だから目立つからって染めて、目にはコンタクトをいれて色を隠してたんだ。」 そんなオレの言葉に。 「陛下のお育ちになった日本はそれが普通ですからねぇ。黒髪も黒瞳も」 「だからぁ。陛下ってよぶなってば。名付け親の癖に」 「陛下…って……」 ノリカさんが戸惑いぎみの声をだし、オレの顔を改めてまじまじとみてくるけど。 「?ノリカさん?」 思わずそんなノリカさんに問いかけるオレに。 「あら。本当。すごく深く澄んだ黒をしているのね。赤い髪や瞳が何かにあわない。 とは思ってたけど。まさか黒髪や黒瞳だったなんて。 ユーリ。あんた魔族だったんだね。でもありがとうね。あたしたちのために役人を懲らしめてくれて」 いってオレの手を握ってくる。 「あ〜!!!」 ヴォルフラムがそれをみて叫んでるけど。 「こんな綺麗な瞳見たことないよ。 あの人は王都で昔。一度だけずっと昔の賢者様の肖像画を見たっていってたんだよ。 その絵がどんなに気高く、美しかったか。何度もあたしに話してくれた。 ユーリみたいに知性をもった黒の瞳と同じく黒色の艶めく髪をしていたんだって」 「おか〜さん?」 「ジルタ。あなたのお父さんから聞いたのよ」 「おと〜さんから!?」 「ええ」 そんな会話をしているノリカさんとジルタの言葉に。 「??賢者様?って?」 首をかしげるオレに。 「猊下のことですよ。陛下。この世界で『賢者』と呼び称されるのは彼だけです」 「アンリのこと?」 「ええ」 コンラッドが説明をしてくれる。 アンリって本当に有名人なんだなぁ。 …前世のこととはいえさ…… 「?あのぉ?アンリって?もしかして双黒の大賢者様。アンリ・レジャン様のこと?ユーリ?」 ニコラが戸惑いながらも問いかけてくるけど。 「今の名前は村田健っていうんだけどね。オレはアンリってよんでるんだ。 アンリは生れ変わってても、それまでの人生などの記憶全部もってるらしくてさ。 …ああ!?そういえば!!早くあっちらもどらないとアンリ絶対に困るってるよ!?」 アンリの名前で思い出す。 『??』 オレの叫びに首をかしげるニコラたちに。 「……そういえば……。イルカショーの最中にそのプールに引っ張りこまれた。 とかおっしゃっておられましたね……」 ふと思い出したようにつぶやいているコンラッド。 「そう!早くもどんないと!…とりあえず、全員砂漠の大脱走。といくとしようよ!」 オレの言葉に。 「確かに。急いだほうがいいな。おい」 「はっ!閣下!準備はすでにできております!」 グウェンダルに言われて敬礼している兵士の姿。 どう考えてもグウェンダルのほうが王様だよなぁ。 外見的にも、雰囲気的にもさ。 ま…別にいいけどね。 「グウェンダル。大丈夫?」 「ふん。そんなにやわな体ではない」 いや、大丈夫そうでないから聞いてるんですけど? オーラの色から判断したらかなりの重傷みたいなんですが? 「それより。ユーリ。体は大丈夫なのか?あんな魔術を使っておいて。二時間とねてないぞ?」 「何か平気みたい。アンリがいってたけど母さんの封印がそろそろ溶け始めるから。 力が不安定になるとかいってたし。それでじゃないの?」 「――ソフィア様の?」 「らしいよ?」 ヴォルフラムとオレの会話に。 『ソフィア様…って……』 なぜか幾人かの女性たちから戸惑いの声。 とりあえず。 スヴェレラ軍が体制を整えて討伐隊を差し向けてくる前にこの場を離れるべく、 女の人や老人も加わって、オレたちは大所帯でちょっとした砂漠の大移動を決行することに。
長い年月、理不尽な労働に従属させられた女性たちにとって第二の人生を開拓すべきの旅である。 別働隊が持ってきていた馬車にと彼女たちをのせ、そのほかは徒歩。 もしくは騎乗の人と成り果てる。 オレはといえばコンラッドの後ろにと乗せてもらい出発することに。 ヴォルフラムが文句をいってきたけど。 ヴォルフラムだって何か気分が悪そうだし。 コンラッド曰く。 法石が取れる場所では魔力を持つものにとってはつらい場所だとか。 いわば魔力と法力は相対関係にあるらしい。 けどオレは何の症状もでてないけどなぁ? 「どうでした?陛下?大分グウェンと打ち解けたようですけど。」 「というか、彼がオレのことを嫌ってないのは知ってたし。 でもさ。今回。あのグウェンダルでも感情を表に出すことがあるんだなぁ。 って何か妙に関心しちゃったよ。でもさ。オレのせいで怪我までさせちゃって…… 何て謝ったらいいのかさ……」 「グウェンは気にしてませんよ」 いって。 「そういえば、俺はグウェンに怒られてしましましたよ」 そういってくるコンラッド。 「え?何で?」 「グウェンダルにあの手は何だ。ってね」 オレの左手はすっかり自由で軽い。 なぜか擦り傷らしきものがあったけどいつのまにか治ってるし。 グウェンダルのほうもかなりひどいことになってたようだけど。 高い魔力をもったまま、法術のかかった手錠でつながれていたがために。 軽度、とはいえ広範囲の火傷と、 オレと分かれたあとにうけたらしい拷問で、何箇所が肋骨が折れているらしい…… よく動けるよなぁ。 と感心してしまう。 オレならば、痛い、痛いと泣いている。 「手が何?」 「利き腕の手の平に触ったところ、たこがあるのに気づいたらしく。 毎日の素振りの成果だと感心したのもつかの間。剣だことは微妙に位置が違うし」 「そりゃ、オレが毎日振ってるのは剣でなくてバットだもん」 毎晩確実に、小学校のころから百スィングはしているし。 「それで俺にお前は何を教えているんだ。と剣の正しい握り方なんて初歩中の初歩。 基本中の基本だろう。というお叱りが」 「責任転嫁だぁ〜。というか。現代日本で剣なんてもたないってば」 もってたら銃刀法違反で即逮捕だ。 「そういってやってください」 「グウェンダルに説明するの…無理なような気がする……」 何しろジャンケンの定義ですら、理解してもらえるまでに幾日かかったことか。 ……ここでの紙って破れやすいものがおおいらしい。 石を紙で包めば敗れる。 とかいって理解されなかったもんなぁ…… 「……まずいっ!」 「え?」 「何?」 兵士の一人の言葉に思わず振り向けば、何やら砂漠の向こうから砂煙りがあがっている。 「スヴェレラ兵だ!」 「ジルタ!!」 馬車の中からジルタが顔を出し、ノリカさんがあわてて抱きかかえる。 後方より、かなりの数の声がしてくる。 砂埃をたてつつ、こちらにと向かってきているその数。 軽く見積もっても数十以上はあるだろう。 「追っ手ですよ。……早いな。あれだけ恐怖を植えつけたのに」 それをみて、何やら感心した声を出しているコンラッド。 「?すげぇ。どうやって恐怖体験なんかさせたの?あの理不尽極まりない男たちに」 オレの言葉にかるく微笑むコンラッド。 横ではヴォルフラムがオレをじと目でみてるけど。 ?? 「ちっ!ここは私に任せて先にいけ!」 グウェンダルが後ろに下がり、そんなことを言ってくる。 「ダメだ!みんな一緒にもどるんだ!」 オレの言葉に。 「しかしっ!」 ヴォルフラムが何か言いかけるよりも先に、前方で盛大に砂が上空にむけて吹き上がる。 …あれ? ……あの人…… そちらから感じるオーラは確か…… 「ちっ!?こんなときに砂熊か!?」 何やら歯を食いしばり、そう叫んでいるグウェンダルだけど。 そだっ! 「ここはオレに任せて!」 ふと、ソプラノリコーダーにと手があたり、これを使おう!と思い立つ。 確か雨を降らせるとか。 魔王にしかふけない。 とかいう笛。 「魔笛!?」 「確かに。今はそれに頼るしかないな」 「皆!すぐにでも駆け出せる準備をしておけ!」 ヴォルフラムのつぶやきに、コンラッドが兵士たちにと指示をとばす。 隊の一番後ろにと移動して、ゆっくりと魔笛…もとい、ソプラノリコーダーを身構える。 多分、念じつつ吹けばいいんだろう。 皆を助けるためにと、力を貸してくれ。 追っ手を足止めする力を。 そう念じつつ笛を構える。 とりあえず、はじめに、『茶色の小瓶』を吹いてみる。 誰もがまずは確実にふける曲の定番だ。 オレの演奏が終わると、馬車の中や兵士たちからお世辞で拍手がおくられてくる。 中には本気で拍手してくれている人もいるようだけど。 「確かに上手だが。何もおこらないぞ?」 突っ込みを入れてくるヴぉるふらむ。 とりあえず、一曲だけではダメなのかもしれない。 次は夕焼けこやけでいってみよう。 オレが次の曲を吹き始めるのと同時。 ごろごろ…… にわかに後方の一角のみの上空に暗雲が立ち込め。 それはやがてものすごい豪雨となりはてる。 遠くからでもその雨音と雷の音がよくわかる。 「あはっ!やっぱりこれ。本物だったんだ!」 追っ手の兵士たちのほうは、何やら雨で立ち往生。 …というだけの混乱振りではなさそうだけど。 何やら騒ぎまくっている声が遠く離れていてもかろうじて雨音に混じって聞こえてくる。 ? 何かあったのかな? それらすべてほとんどが雨音にとかき消されてるけど。 「今のうちに。前方の砂熊を何とかするぞ!」 グウェンダルが叫ぶと同時。 「お〜い!!隊長〜!!陛下ぁ〜!!お久しぶりですぅ〜!!」 何やらちょこん。 と座っている砂熊…というより、パンダの横に一人の男性の姿が。 「…ライアン?」 その姿をみて、コンラッドが驚き、確認のためにと馬を走らせる。 ちなみに、オレも後ろにすでに乗った状態で。
近くまでいってくれば、何やらパンダと仲よさそうな、 パンダの巣に真っ先に落ちてしまった兵士のライアンの姿が。 えっと? 「おひさしぶりです。隊長。陛下」 そういってくる彼だけど。 「お前のことだ。心配はしていなかったが……」 どうなら、パンダをてなつげてしまったらしい。 このライアン、という人は…… そんな彼をみて苦笑しながらいっているコンラッド。 「あ。紹介します。こいつが俺の運命の相手のケイジです」 「……運命の人…ね…確かにお似合いで……」 そう答えるしかないけど。 オレとしては。 「……まさか砂熊を手名づけたのか?」 驚いているヴォルフラム。 オレもその意見には賛成。 普通はおどろくよ。 普通は。 「とにかく。早くしないと追っ手が……」 後ろを気にしつつも、こちらにとやってきて言ってくるグウェンダル。 でも何か追っ手の皆様…後退しているように見えるんですけど? オレとしては?? 気のせいかもしんないけど。 「そういうことなら。俺とケイジにお任せください!!」 そんなオレたちの様子をみつつ、会話をきいてから、ドン、と胸を叩いていってくるライアン。 ?? 思わずそんな彼の言葉に顔を見合わせるオレたちだけど。 一体???
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