ゆっくりと立ち上がり、きっと兵士たちを見据える。 「何だ!?何だ!?」 「おい!!あいつの!!」 さすがの兵士たちも、竜巻の中心が誰なのか、見れば一目瞭然。 その中心にいる人物は……いや、彼らにとっては『人』とはいえない。 雨に濡れているはずなのに、まったく濡れた様子すらもない。 どうみてもそれは…黒髪の…魔族… ゆっくりと瞳を見開くその瞳の色も…黒。 ユーリを知っているものがあれば、『魔王モードのユーリ』が出てきた。 というのは一目瞭然。 だがしかし、この場の誰もがそんなことを知る由もない。 悲鳴と怒号。 逃げ惑う人々に吹き飛ばされている兵士たち。 ちなみに、女性たちは全員まったくの無傷。 だがしかし、彼女たちは豹変したユーリの姿に身動きすらもとれなくなっている。 兵士たちはユーリに近づこうものならば、近づく前に突風にと叩きつけられて吹き飛ばされる。 「……無償の愛に命をささげ…けなげにも男を信じた女に対し。冷酷非道な国家の仕打ち…… 共に二元、と誓ったものも、わが身かわいさに女をうる。 そもそも男女のわりない仲は女子一人ではなしえぬもの。かよわき身ばかりに罪をおわせ。 よせば送りにするとはなにごとだ!!」 高々と言い放つ。
「…こんな場所で……」 「ここは法石が取れる場所。法力の力が満ちている」 「…だが…ユーリは……」 「今度の魔王は……」 「ああ」 グウェンダルを助け出したコンラッドとヴォルフラムが三人でユーリがいる採掘場にとたどり着いてみたものは。 魔王モードにと代わってしまっているユーリの姿。 「…ユーリには何の束縛も関係ない…か。」 かつてのアンリのつぶやきを思い出してつぶやくコンラッド。 頭の中ではかつて、彼がジュリアから聞いたあることが浮かんでくる。 「…常識では計れない…か」 「とにかく急ごう」 いって、ユーリの近くの丘にととにかく足を進める三人の姿。
「その行状!すでに人にあらず!ものを壊し、命を奪うことは本位ではないが、やむをえぬ。おぬしらをきる!」 ぼごっ!! 何やらユーリの声とともに、いたるところから小さな音がして、全員の視線が自分たちの足元にと向けられる。 みれば、兵士たちの足元という足元。 つまり場所をとわず…地面から腕らしきものが突き出ていたりする。 そして。 それらは兵士たちの足をつかみ、ひきずりまわした後。 ユーリのほうにむかってざざっとものすごいスピードで移動し、 それらはやがて一つの塊となり巨大な腕となりはてる。
「陛下。ついに特撮ヒーローモノの合体技まで学ばれたんですね。」 「関心してる場合か!コンラート!!」 それを見てのんきなことをいっているコンラッドに。 とまどい、何やら叫んでいるヴォルフラム。 コンラッドにとっては、この程度の魔術はかわいいものだ。 ……過去にむごいものを見ているが為に。
「成敗!!」 ユーリの声とともに、逃げ惑う兵士たちにとその巨大な腕というか手が振り下ろされる。 その手形の後には、正義の二文字が…… 場違い。 というにもほどがあるのだが。 それに続き、ユーリの背後から、溶けかけたようなドロ人形が出現する。
「…そういや…陛下…こっちにくる前の日の晩…ナウシカみたっていってたっけ……」 あの巨人によく似ているなぁ。 などとコンラッドは思うが。 まったくもってその通り。 ユーリの操る魔術は心に印象に残っているモノをまずは真っ先にと具現化する。 という特性をもっている。 とはいえ同時にいくつもの術を同時にユーリは操れるのでそれは一概には言えないのだが。
降りしきる雨と連動し、岩々からは、青白い光がたちのぼり、それらは雨の中にと消えてゆく。 すでに人々はパニック状態。 だがドロ人形は女性たちにはまったく見向きもしていない。 懲らしめているのは兵士たちのみ。 だがしかし。 「…さて。どうやってとめよう?」 腕をくみ、つぶやくコンラッドの言葉に。 「僕にきくな!僕に!あんな…とんでもない暴走……」 目の前では、巨人がうなりをあげて、兵士たちにとむかっていっている。 腕は相変わらず逃げる兵士たちにむかって振り下ろされている。 「だが。このままでは無用な犠牲すらでかねない」 そんな会話をしているコンラッドとヴォルフラムの言葉に。 ふっと鼻で笑うグウェンダルの姿。 先日のユーリの言葉がよみがえる。 ――止めてくれるんだろ? と。 今、自分に出来ることは…… そのまま。 「やめろ!やめるんだ!!」 痛む傷をおして、走り丘を滑り降りる。 そして。 逃げ惑う非土肥との間を縫いつつも、ユーリの元にとむかっていき叫びつつ。 そして。 ユーリの前までたどりつき。 「お前はいったい何をしてるんだ!?よく考えろ!!」 ユーリと別れて尋問された傷がうずく。 「どうした?何人か殺さないと気がすまないのか?」 グウェンダルのその言葉に、はっとするユーリ。 自分は人を殺すことが目的ではない。 だが…… 「この辺りでやめておけ。いいな?ユーリ!そのばかげた人形を戻せ!」 いいつつ、その場にとうづくまるグウェンダル。 無理に動いたために、激痛が体を襲う。 足元にある法石や、それ以外の場所の岩から出ている青い石…つまりは法石は。 なぜか雨に濡れると次々と掻き消えていっている。 そんなうづくまるグウェンダルを静かに見据え。 そして。 「身を挺してまで余をいさめようとは。天晴れな覚悟。 いたしかたない。この場はそなたの忠誠心に免じて場を納めよう」 ユーリの言葉と同時。 ユーリの背後で雄たけびとともに、泥人形がくずれてゆく。 その土煙りの中。 ユーリの体がふらりとよろけ、そのままその場にと倒れこみそうになるが。 「陛下!!」 「兄上!!」 グウェンダルをヴォルフラムにまかせ、倒れこむユーリをコンラッドが引き受ける。 腕の中で完全に気絶しているユーリをみつつ、周りをちらり、と見渡すと。 ユーリが気絶するのと同時に、巨大な腕もまた土にと還っている。 あれほど降っていた雨すらも、からり、とあがっている。 「…ギュンターにも見せてやりたかったなぁ。グウェンダル。大丈夫か?」 ユーリを抱えつつ、問いかけるコンラッドの言葉に。 「私は平気だ。それより……」 グウェンダルにとっては自分のことより、まず気にかかるのはユーリのこと。 魔王の身に万が一のことでもあれば、それこそ死んでも死にきれない。 母のときならば、これほど心配はしないだろうにな。 などと思ってしまう自分自身にも多少内心苦笑してしまう。 「大丈夫。怪我もないよ」 「そうか……」 「兄上!?」 コンラッドの言葉に気がゆるむ。 自分がついていて、怪我でもされては、申し訳がたたない。 彼に対しても…そして、彼の母親に対しても。 そして…国に対しても。 彼は希望だ。 国の…そして、この世界そのものの。 そのまま、その場にとうずくまってしまうグウェンダル。 そんな彼を心配してヴォルフラムが声をあげているが。 グウェンダルが崩れるのと同時。 「――来たな」 みれば、後からくるはずであった魔族の兵達が、逃げ切った人間達の兵の代わりにと。 この施設の中にと踏み入ってくる。
後には、あれほど降っていた雨が嘘のようにと晴れ渡る、澄み切った青空が……
――あなたなら、大丈夫……力を正しきことに使って…だから…お願い…… あれ?ひょっとして君…いや、あなたは…… ――私たちは元々一つの魂。その中の私は人格の一つ…… …じゃあ、オレも? ――ええ。でも今はあなたはあなた。さ。あなたの世界にお帰りなさい。力は私が抑える手伝いをするから……
まどろむ意識の中、オレの中でもう一人の女の人と会話をしているオレがいる。 彼女はきっと……
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