「いや!それは断じて違うとおもいます!どっちかっていうと、結構過保護気味かも?
  何かオレのこと危険から遠ざけようとしたりするし。
  多分オレが赤ん坊のときに何か面倒みてたらしいから。そのせいかなぁ?とかも思ったり」
そんなオレの言葉に。
「赤ん坊?…って。もしかして、あんたの相手って…魔族?」
「はぁ」
というか、オレも一応魔族みたいですが。
半分だけですが。
「そりゃつかまるわ。災難だったねぇ」
「魔族との駆け落ちモノは問答無用で重罪。だからねぇ。魔族と結ばれるのは罪だからって」
口々にそういってくる女の人。
「ええ!?それっておかしくない!?というかおかしいじゃん!?
  普通人が人を好きになるのに種族とか関係ないじゃん!?人の心は束縛できるもんじゃないし!
  そもそも、この国はおかしいよ!絶対に!
  何で出会ったこともない人との結婚が決められてたりするわけ!?
  それ以外の人と恋愛したりしたら罪って!?」
そんなオレの叫びともいえる言葉に。
「あんたこの国の人じゃないの?この国では男が優先されるんだよ。何ごとにおいてもね。
  男と女。どちらが悪い、といわれれば女が悪い。ということになるの。たぶらかした女が悪いんだってさ。
  男は自分はだまされた。こんな女と別れる。ってさえ言えば無罪放免」
「何それ!!?そんなのおかしいじゃん!?それに気持ちは強制されて消えるもんでもないしっ!!
  何なの!?何!?この国の上層部の人の考えって!?」
いくら男が優先されている…という仕組みとはいえひどすぎる。
……今度抗議文でも送ってみるか?
それとも謁見願って直談判してみるか。
オレの叫びに。
「あんたいい子だね」
「本当」
「あんた、名前は?」
口々にそういって、オレにと聞いてくる女の人たち。
「あ。オレユーリです」
「あたしはノリカだよ」
「よろしく」
はじめに話しかけてきた女の人の名前はノリカ、というらしい。
雰囲気があのジルタって子によく似てる。
もしかしたら親戚か何かなのかもしれない。
だって何か親子のオーラにものすっごくよく似てるし。
近くに二人そろっていたら、もっと詳しく判るんだけど。
何やら口々にそんなことをいってくる女の人たちとは別にオレにと手を差し伸べてくれるノリカさん。
「さ。とにかく早く休んで。明日も早いからね。
  起床。って言葉と同時に立ち上がってないと朝食がもらえないからね」
えっと?
「それって何時ごろですか?」
「??時?何時…って?」
「あ〜……。たとえば、一番目覚まし鳥とか、とにかく、刻を告げる何かの合図のある時間」
「目覚まし鳥?…あんた、もしかして?」
「…時間わかんないんですか?…とりあえず、目覚ましセットどうしよう?」
アナログGショックとはいえ、これ目覚まし機能もついてるやつだし。
そんなオレの言葉に軽くほほえみ。
「その直前に起こしてあげるよ」
そういってくれるノリカさんの姿。
「え?いいんですか?じゃあ、えっとお願いします」
「さ。早く休んで」
「あ。はい。…グウェンダル…大丈夫かなぁ?それにコンラッドたち…オレたち見つけられるかなぁ?」
そんなことを思いつつ。
用意された場所に横たわると同時。
疲れていたのか、オレの意識はそのまま深い眠りの中にといざなわれてゆく。


「……何これ?」
どうも外見でやっぱり女の子に間違われたままらしいオレは次の日。
ノリカさんたちとともに、とある場所にと連れてこられる。
眠っている間につれてこられていたので外の様子はまったくわからなかったけど。
どこまでも続く乾いた大地に、目に入るもの、といえば岩山と数本の枯れた木のみ。
小屋は他にもいろいろとあり、その場にいる住人の数はざっと百人以上。
その岩山には何やら青く光る石が含まれているらしく、青白く光りを帯びている。
「……更生施設…でなくて、強制労働!?」
思わず叫んでしまう。
武器を手にした兵士たちの姿がかなり目立つ。
その中で、無理やりに働かされている人々、しかも女性たちの姿が。
カンカンと、岩を削る音がする。
ここで採掘されるのは、法術士が使うとかいう法石で上質なものとなると女子供の手でしか触れないらしい。
ちなみに、子供というのは十歳以下の子供とか。
どっかのセクハラ課長とか、一昔前の某宗教じゃあるまいし……
とにかく、何かの宗教の決まりごとみたいだ。
「とっととあるけ!」
「うわっ!?」
思わず立ちすくんでいると後ろから兵士にこづかれる。
よろめき、思わず横にある岩にと手をかける。
……と。
「…え?…え?……ええぇぇぇ〜!?」
ぱあっ!!
なぜか、手が触れた部分のしたにある法石、と呼ばれている石がいきなり輝きだすし!?
しかも、その光はまるで共鳴するかのごとくに、オレの周りから円形状にとひろがってゆく。
「何これ!?」
思わず叫ぶオレに。
「これは!?」
見張りの兵士たちまでもが驚いているし。
女の人たちもびっくりして周囲を見渡している。
岩岩から青白い光が飛び出し、
それはまるで蛍のように女の人たちやオレの周りをふよふよとただよい始め。
兵士たちにはその光はよりつきすらもしていない。
「……ホタル?」
思わずつぶやくオレに。
「一体何がおこったんだ!?」
何やら騒いでいる兵士たち。
―――シル様……―――
「――え?」
誰かに、何かオレのことを呼ばれたような気がするが。
周りにあるのは光のみ。
それと同時に、思わず空を振り仰ぐと、いつの間に雲が出ていたのか、青空がかきくもり。
ポタ…ポタポタポタ。
どざぁぁぁぁぁぁぁ!
…何か雨まで降ってきてるし……
『雨よ!!雨だわ!!??』
女の人たちのうれしそうな声。
「っ!?今日のところは、撤収!撤収っ!!」
兵士たちまでもがどよめき。
まだ作業が始まって間もない。
というのに何やら意味がわからぬままに、再び部屋にとオレたちはもどされる。
…一体全体、何がどうなっているのやら……


「…?何だったんだろ?さっきの?」
部屋にもどり、ひとまず一息つき、つぶやくオレに。
「あんな現象は始めてだね。私は十年くらいここにいるけど。」
「十年!?」
ノリカさんの言葉に思わずびっくり。
雨はオレたちがそれぞれ建物にと入るとしばらくして止んだらしい。
聞けば二年半ぶりくらいに感じた雨だとか。
「ノリカさん。十年もここにいるの!?」
オレの驚きの声に。
「ええ」
いって悲しそうに微笑むノリカさん。
「ま、ゆっくり出来る機会なんてそうないし。今日は皆、体を休めることにしましょうよ。ね?」
他の女の人たちにノリカさんがそう話しかけてるけど。
どうやら、ノリカさんはこの女性の人たちのリーダー的存在らしい。
「あの光……何かとても温かかった」
「あんなの初めて」
などといっている女の人たち。
……オレが触れた岩の舌から光り始めたのはいわないでおこっと……
とにかく、ゆっくりと体を休めることにしよう。

次の日の朝。
何か夢をみたけど覚えてないし。
再び、オレたちは昨日の場所とは違う場所にと連れて行かれる。
丘の上からは十字の何かがかすむようにと見えている。
「よいしょ…っと」
とりあえず、岩を落とす役目を与えられ、がんばるものの、なかなかうまくいかない。
と。
ごろん。
何やらふっと軽くなったとおもったら、ノリカさんが手伝いにきてくれている。
「あ、ノリカさん」
「私はなれてるからね」
いって、次の岩にと二人がかりで取り掛かる。
てこの応用で岩を落としていく作業だけど、これが結構重労働だ。
こんなのを女の人たちにやらせるなんて。
やっぱり、この国どうかしてる。
普通、体力仕事っていったら、男性のほうが力が強いんだから、そっちがするのが当たり前じゃん?
男女の体力の差、というのはどうしてもあるんだしさ。
「でもさ。みんな罪を犯した。とは思えないよ。ここの女の人たち」
オレの常々思っていた素朴な疑問に。
「ここにはみんな不適切な関係が見つかった人たちばかりがいるからね。…私は魔族を愛したから」
そういって空を見上げるノリカさん。
「それって、絶対におおかしいよ。だって、男女平等が普通でしょ?ここには人権保護はどこにあるの!?
  だってみんないい人ばかりだもん。おかしいのはこの国の法律だよ。それに裁判もおかしいし」
オレの至極最もな意見に。
「本当。あんたはいい子だね。…私の息子もあんたみたいに……」
いって遠くを見つめるノリカさん。
「え?息子さんがいるの?」
ふと、ジルタの姿が脳裏にうかぶけど。
…まさかね。
「生きていれば……」
いって、視線を何やら十字の集団が固まっている場所にとむけている。
もしかしてあれって……
オレが思う間もなく。
何やらそこに向かって歩いている数名の男たちの姿が。
その手には何か布らしきものを抱えている。
遠くてすぐには判断できかねないけど。
そして。
「かえして!!その子はまだいきてるの!!」
取りすがっている女の人の姿が。
「うるさい!この赤ん坊はもう死んでいる!」
赤ん坊!?
「かえして!!」
くっ!!
何も考える間もなく、とにかくそっちに駆け出すオレ。
だってほっとけない。
「かえして!かえしてください!!かえして!!」
「やめろ〜!!!」
一気に坂を下り折、今にも女性に槍を振り下ろそうとした兵士たちにと向かって叫ぶ。
叫びつつもそちらにと向かう。
「あんたたち!何考えてるんだよ!?女の人にそういうことしていいのか!?
  それにその赤ん坊だってちゃんと医者にみせたのか!?」
そんなオレの叫びにふっと鼻で笑い。
「医者がもうムダだ。といったのだ。ならば生きていても死んでいても同じことだろう?囚人の子だぞ?」
……ぷちっ。
「何だよ!?それ!?生きているのと死んでるのは同じじゃないぞ!?
  死んでいたとしてもきちんと供養してから葬る。ってのが筋だろうが!!
  穴に埋めて終わり、なんて赤ん坊の人権はどうよ!?」
「よさんか。きさま。学倉送りだぞ!」
一人の兵士がいってくるけど。
「いいや!よさないね!いわせてもらうね!そもそも、アンタ。不適切な関係に陥ったからって。
  だからって女性だけが一方的に悪いってどういうことよ!?普通はお咎めも男女で半々だろ!?
  なのにこんな過酷な収容所だかに重罪犯した囚人みたいに女の人だけ閉じ込めてるってどうよ!?
  男も女も関係なく、男女平等!ってことば知らないのかよ!?
  それにこれって思いっきり人権無視してるだろ!!」
「入れろ」
「まっ!!」
オレの叫びを無視して、地面に掘っている穴にと赤ん坊が包まれている布をいれようとしている兵士たち。
どくんっ!
どっん!
心臓が高鳴り、次の瞬間、とにかく体当たりをして子供を兵士から取り上げる。
何やら空から雷のような音がしてるけど。
兵士たちから奪い返した布の中で、赤ん坊の手がうごく。
……こいつら……
まだ生きてるのに生き埋めにしようとしたのか!?
「ぼうや!!」
子供の母親が、オレの手から赤ん坊を抱きとり涙を流す。
「…女や子供ばかり……こんな目にあわせやがって……
オレのつぶやきと同時。
天をとどろく雷鳴と、ほぼ同時。
上空に暗雲が一気に広がり、周囲に雨がいきなり豪雨のように叩きつけられる。
…も、はっきりいって我慢の限界。
そのまま、頭の中が真っ白になり……後はもう、いつものごとくに何もわからなくなってゆく。

それと同時。

―――どっん!!!

すざましいまでの竜巻が…一点を中心にとまきおこる。



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