外側から扉が開けられて、厳重な警戒の中をおろされる。
どうでもいいけど、何で兵士の皆さんの髪が……みんなモヒカン刈り?
単なる駆け落ちものの出迎えに、こんなに兵士が必要なんだろうか?
オレ…魔王だ。
ってバレてないよな?
……多分。
「ここどこ?」
「家裁だ」
「つまり裁判所ってこと?」
夫婦が婚姻関係を解消したり、子供の親権を争ったりする場所ってこと?
他にも用途はあるけども。
一般的に、身近な話題。
といえばそれだろう。
耳鳴りくらいのボリュームで、BGMが周囲には流れている。
「?何?この音?ってグウェンダル!?」
何かいきなりグウェンダルが建物に入った直後に苦しそうに胸を押さえる。
「大丈夫か?顔が悪いぞ…でなかった、じゃなくて顔色がわるいぞ?」
「何でもない」
「気持ちわるいんだったら吐いたほうが楽になるよ?えっとエチケット袋ない?」
オレの言葉に代わりに兵士からは槍がつきつけられる。
「あのねっ!」
文句をいいつつ、槍を払いのけると。
「やめろ。……ここには、法力が満ちている。我々魔族と相反する力が……」
などと苦しそうにグウェンダルがいってくる。
「え?何?どういうこと?何かこの耳鳴りみたいな音と関係があるの?
  何か壁の石がなってるようにも感じるけど?」
オレの言葉に。
「…私には何もきこえないが……」
ともかく、きっとこの音が原因だ。
周りの壁や柱に何やら青く光っている石のようなものが埋め込まれている。
それらが何か音を発しているようだ。
ふと、頭に、『共鳴』という言葉が浮かぶ。
「でぇぃ!うるさい!その共鳴するのをやめろってば!!」
ぴたっ。
あ、とまった。
キーン、と響くような音がオレの叫びの声とともに、ぴたりと止まる。
その代わりに胸の魔石が光っている。
「?お前?…今何を……」
あれほど苦しそうだったグウェンダルの表情が、なぜかその瞬間緩和されているようだけど。
「大丈夫?」
「ええい!何をわめいている!とっとと歩け!」
どうやら人間の兵士の皆さんにもあの音は聞こえなかったらしい。
……何だったんだろ??
とにかく、モノはためしでも言ってみるもんだ。
その後、ぴたり、とあの変な音はしてこないし。
そのまま、長い廊下を歩かされ、といっても血盟城ほどではないけども。
やがて。
「入れ」
促され、入った先の部屋には、何かよくある裁判所のような構造が。
正面には三人の男性の姿る
しかもかなり高い位置にいるし。
……えっと?
「ではこれより裁判を行う」
「っていきなり!?弁護士とかいないの!?」
オレの言葉に。
「ん?その声…もしかして、君は女のように見えているがもしかして男か?声が少し低いが?」
「ええ!?オレが男ってわかるんですか!?たすかったぁぁ!
  男同士なのに実はオレたち、駆け落ちものと間違われちゃってぇ」
そんなオレの言葉を聞いているのかいないのか。
「なるほど。二人とも男か。ではとっとと手早く済ませてしまおう。そっちの男は魔族だな。
  この館は法力の源で厳重に守られている。魔力のあるものにはつらかろう」
そうなの?
じゃ、何でオレ平気なの?
「お前たちの手配者を探しても探しても、該当者がいないのだよ」
「いや…だから、人違いされて……」
「そこで。だ」
はい?
人の話をきけぇ〜!!
と思わず言いたくなるのをぐっとこらえる。
とにかく、この手錠をはずしてもらわないことには。
オレの手は何ともないけどグウェンダルの手は焼けただれたようになってきてるし……
「その枷をはずしてもいいように。縁を切ることをこの場で決め手もらおう。
  なぁに。難しいことではない。すぐに終わる。君はこの国では魔族との関係は罪だ。
  ということを知っていたかね?人間と魔族はこの国では決して結ばれない。違反すれば重罪が科せられる」
「いや。オレ法律はまったく……」
「そうだろうね」
……人の話を聞こうとしないし。
「無知によって、君は間違いを犯すところだった。
  難しいことはない。だからここですっぱりと魔族と縁を切ることを誓うのだ。
  その魔族を心底憎んでいるその事実を示せばいい」
そういう、多分裁判長の言葉に、オレの前にとナイフがなぜか置かれてくる。
…?
「…?何これ?」
「それを手にとって、魔族を刺しなさい。君が今では心底その魔族を憎んでいる証に」
は!?
「えぇ!?何それ!?つうか!?何!?この裁判!?
  おかしすぎるよ!?それに人の話もまったく聞かずに一方通行だし!?」
叫ぶオレに。
「やれ」
小さくいってくるグウェンダル。
「何をいって……」
「何も殺せ。というわけではない。とにかくお前だけでもここを出るんだ」
そんなことをいってくるし。
「何だよ!?それ!?おかしいだろ!?大体、こんなことで人の気持ちを図るなんてどうよ!?
  人の話を聞かない裁判なんてやってもやらなくても同じだし!!それに何より!!」
いって言葉をきり。
「オレはこんなの認めない!!喧嘩するのも、好きになるのも個人の自由で。
  人に指図されたりすることはないだろ!?道徳的に問題ある喧嘩とかそういった類のものはともかく!!
  大体何だよ!?本当にこんなので人の気持ちがわかるっていうのかよ!?この国どうなってんだよ!?
  地方との連絡情報もきちんと行き届いてないし!!そもそも種族が違うからって重罪って何なんだよ!?
  ――いこうぜ。グウェンダル。どっかで鎖をきってもらおう」
くるり。
と向きをかえて、裁判官たちから背をむける。
そんなオレの言葉と行動に、虚をつかれたような顔をして、そして、ふっと笑みをもらし。
「いくぞ」
そういってグウェンダルもまた歩き出す。
「待ちなさい!その鎖は他でははずせんよ!」
「どうにかするって」
「まつんだ!警備兵!拘束しろ!!」
裁判官たちはそんなことをいってくるし。
その瞬間。
なぜか、その瞬間、部屋の中だというのに突風が吹き荒れる。
どこかの窓からでも風が入ってきたのかな?
兵士たちは突風に吹き付けられて身動きできなくなっている。
「落ち着け。ユーリ」
それと同時に、なぜかグウェンダルがオレの背を叩いていってくる。
落ち着け。
といわれても。
オレの中では理不尽さで怒りがすでに爆発しかけてるし。
そのまま、歩き始めるオレたちにとむかい。
「……お前たちの考えはよくわかった。そこまで思うのなら仕方がない。私の責任ではずしてやろう」
三人のうちの誰かがそういってくる。
「…本当に?」
「ああ」
どうやら話もわかる人もいるようだ。
その瞬間、なぜか風がピタリ、ととまる。
と。
「ユーリっ!!」
ドッン!!
なぜか、いきなりグウェンダルにと突き飛ばされ。
その直後にグウェンダルが槍の柄で思いっきり叩かれている。
「グウェン!!」
意識が遠のきかけるオレに。
――大丈夫…あなたは、あなたの役目をこれから……
頭の中に声が響き。
反射的にグウェンダルをかばおうと覆いかぶさったオレの意識は、そのままなぜか遠のいてゆく……



「ってぇ!?」
投げ出される感触で思わず目が覚める。
何か投げ飛ばされたような衝撃だ。
「ててて……」
思わず腰を押さえてしまう。
頭上からは間延びした口調の会話が聞こえてくる。
「けどもったいねぇなぁ。こいつこんなにかわいいのに。本当に男なのか?」
「でもさわったらあったぞ?」
「だよなぁ〜…」
……げっ。
…変なことされてないだろうな?
「でもさ。いくら女みたいでも男だと法石は掘れないだろ?ここに入れて何の役にたつっていうんだ?」
「気にすんな。いいんだよ。オレたちゃ言われたとおりにしてりゃあよ。
  それに。だ。でかいほうの奴を監獄送りにしたんだから、
  こっちのちっこい方は女のよせばにおくとくしかねえだろ?」
う〜ん……
話が通じる相手ではなくて強硬手段。
ときたか。
ふと見れば、手に少し傷が出来ている。
血が少し出たのかかさぶたになってるし。
まずいぞ。
グウェンダル…監獄にって……どうやって助けよう?
それ以前に、オレは今、どこに投げ入れられた、というのだろうか?
と遠ざかる足音とともに。
「それに首都じゃあそういうのもありなんだとよ。家まもるために」
「げ〜。世も末だな」
「養子もらうらしいぜ?」
そういうのって何よ!?
そういうのって!?
そんな会話が遠ざかりつつも聞こえてくるけど。


「大丈夫かい?あんた?」
そんなオレにと声をかけてくる女の人。
ふとみれば、何だか周りにはたくさんの女の人たちが。

「あのぉ?すいません。ここって女の人ばかりなんですけど?」
何やら頑丈そうな鉄柵のかかった扉にと問いかける。
そんなオレの言葉に。
「囚人たちの寝床はここしかないよ。」
先ほど声をかけてきた女の人がそういってくる。
「?あのぉ?夜分に申し訳ございませんが、ここはどういった施設なのでしょうか?」
多分、空気の具合からして夜だろう。
ひんやりとした空気は夜独特のものだし。
それに周りが暗い、というのも一つの目安だ。
何よりも、状況を把握することがとりあえず大切だし。
「ここは神や国にそむいた女たちが放り込まれる場所だよ。
  あたしたちみたいな咎人でも法術士様のお使いになる法石を掘る役にはたつんだってさ」
いって。
「でも何だってあんたみたいな若い子がこんなところに?それに声を聞いたら何か男の子みたいだし?
  法石は女にしか掘れないんだけど…女の子?」
「いや。男です。女顔ですけど。何か死んだ母さん似らしくて」
母さん似。というより瓜二つ…といっても過言でないけど。
そんなオレの言葉に。
「あらまぁ。じゃ、何で」
「何か駆け落ちカップルの手配書の人物と間違われちゃって。人違いされちゃいまして」
「あら。それで女に間違われたんだ。だまってたら確かにあなた、女の子にしか見えないからねぇ」
にこやかに笑っていってくる、薄い茶色い髪にコバルトブルーの瞳の女性。
何かオーラがあのジルタって子によく似ている。
「いいねぇ。駆け落ちかぁ」
「愛されてるね」
などと口々にいってくるほかの女の人たち。
「だから。人違いなんですってば。いくら男だっ!ていっても聞き入れてもらえなくて……」
「ま。それだけ美人じゃあねぇ」
笑いながらいってくるけど。
「……産まれ付きの顔はどうにもなんないと思います……」
思わずがっくりと肩をおとす。
「そういえば、あんたの相手は?」
などと聞いてくるけど。
「何か監獄にいられられたとか聞こえましたけど……」
オレのそんな説明に。
「じゃあ最後まであんたと縁を切る。とはいわなかったんだね。うらやましいね。
  人違い。っていってるけど、愛されてるのには代わりがないんだねぇ」
などといってくるし……
それは断じてちがいますってば。
切実に。



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