もくもく。 「うん。おいしい。けどさぁ。この笛って…何?雨をふらすって?でも何だかこれって部品がたりなくない?」 何か違和感あるし。 ジルタの買ってきてくれた果物などを食べながらのんびりと問いかけるオレの言葉に。 「もしかするとゲーゲンヒューバーのやつがどこかに隠した。という部品のことかもしれんな。 だが、なぜそうおもう?」 「何となく」 穴の開き具合からして、これって何か縦笛に似てるし。 よく上の口をつける部分を振り回しててすっぽぬかせ怒られたことも数回。 中には学校にもっていったら…スピカにイタズラされたのか、上部分がなくなっていて四苦八苦したことも。 「もしこれがオレの知ってるやつと同じだとしたら。これこの上に口をつけて吹く部分があるはずなんだけど。 でも、ま。こっちとあっちの品物が似てる、とは限らないしね」 そんなオレの言葉に。 「いや。そうとも限らん。眞王陛下が選んだ世界だ。同じようなものがあっても不思議ではない」 「……さいですか」 エドさんって一体…… 「ま。とりあえず。幾度かスピカにもイタズラされたこともあるから。コツはつかんでるし。いっちょ……」 いって、片手で上の部分辺りをつかみ、ついでにもう片方で穴をふさぎ思いっきり吹いてみる。 ポーピー… って!? 「やっぱりソプラノリコーダー!?」 思わず驚くオレに、なぜか驚いてオレをみているニコラの姿。 「音が…でてる……」 何か呆然とつぶやいてるし。 「よっし!んじゃいっちょ!何かものはためしにいってみよう!」 でも両手を使えないので簡単なものしかできないけど。 片手演奏は結構つかれるし。 と。 「でてこい!!」 いきなり外から声がする。 「うごくな」 いって、外を伺い見るグウェンダル。 見ればオレたちのいる小屋を取り囲んでいる兵士たちの姿が。 「子供が不似合いな大金をもって買い物にきた。という証言があった。 そこにいるのはわかっている!大人しく花嫁をかえせ!!」 などといってくるし。 「ちっ。かこまれたか」 グウェンダルがいって、なぜかちらり、とオレとニコラをみてるけど。 ?? 「こっちこっち」 ジルタが言って建物の隅にいき、そこにあるブロックをはずすとそこには小さな空洞が。 「ここからでられるよ」 などといって、その穴の中にとはいっているけど。 「さすが魔族の子!」 「何とか一人づつなら通れそうだな」 「一人づつって……」 確かにジルタとニコラは通れるだろうけど。 「その娘をつれていけ。身重の体だ。無理は禁物だろう」 「そ〜だよ。その間オレたちが時間をかせぐから。…だよな?グウェンダル?」 「ああ。――いけっ!」 オレとグウェンダルの言葉に。 「きっと無事で!」 いって穴にと入るニコラに。 「ねえ。ヒューブっていい人だよ。僕をおじいちゃんのところにつれていってくれたのヒューブって人なんだ。 おじさん助けたの、その人によく似てたからなんだ!」 いって、にっこりと笑いつつ、ニコラと共に穴にとはいってゆくジルタ。 それって…? などと思う間もなく、見つからないようにとブロックを上から再びかぶせる。 どうやらこの穴は別の建物の地下。 つまりは他の埋もれている建物にと通じているらしい。 「いくぞ」 「わかってるって!」 とにかく、兵士たちの目をオレたちにとひきつけないと。
思いっきり扉をけやぶり外にとでると。 ざっとみつもっても三十人以上の兵士たちの姿。 強行突破あるのみ! グウェンダルが足蹴りで兵士たちを倒していくけど。 「うわっ!?」 鎖でつながれてるのを忘れてた!! 思わずよろけてこけてしまうオレをみて。 「ユーリ!」 何か名前を呼んでオレの上にとかぶさっているグウェンダル。 その直後、兵士たちからの棒が振り下ろされてくる。 「って!?グウェン!?」 驚くオレに。 「大丈夫だ」 大丈夫なわけないじゃん!? オレのかわりに兵士たちに棒で叩かれているグウェンダル。 オレをかばって、一人で打たれているらしいけど。 オレなら大丈夫だから。 お願いだから無理しないでくれ。 「花嫁はいませんっ!」 「何ぃ!?お前たち、花嫁をどうした!?」 オレがグウェンダルにそういおうとした直後。 兵士たちがそんな会話をしてオレたちにと問いかけてくる。 「そんなものは知らない。俺達は見ての通りの駆け落ちものだ」 いって鎖のついた手を兵士たちにと向けてかざしているグウェンダル。 そだ。 右手に少し薄くなっているスタンプをわざと彼らにみせてみる。 すると。 グウェンダルとオレとを交互にみて。 「ちっ。つまらん。……とにかく。駆け落ちものは捕らえるのがきまりだ。つれていけ!」 いって、やりなどを突きつけられてたたされる。 「…大丈夫?」 かなりいたそうだけど。 「別にどうってことはない。……コレを落としたのでな」 いってイルカキーホルダーを見せてくる。 落とすわけがないじゃん。 あんたがそれを。 言葉のあやってすぐにわかる嘘を…… 彼は今、オレの身代わりになったのだ。 申し訳なくて恐縮してしまう。 「…ごめん。オレのせいで……」 「もう遠くまでいっただろう」 そういって、空を見上げていっているグウェンダル。 「…そうだね」 ニコラたちは無事に逃げ切れただろう。 きっと。 次はオレたちが逃げる道を見つけないと…ね。 とにかく、小声で下手に抵抗するな。 とグウェンダルがいってくるので。 そのまま、成り行きに任せることに。
ぐぅ〜…… うつら。 うつら。 何だかとっても眠いし。 そういえばこの街にきてゆっくり休んでいないせいかもしれない。 護送中の場所の中。 という場所だというのに、オレは睡魔に襲われていたりする。 不思議とでも、なぜか命の危険とかは感じないのはなぜだろう? きっと。 誤解がとけてすぐに開放されるだろう。 という思いがあるからかもしれない。 男同士って判ればすぐに誤解は解けるだろうし……多分。 ガタガタ揺れる馬車の心地よさも、何だか睡魔にと拍車をかける。 「大物だなぁ」 「どうも。ナイスないやみを」 「いっとくが。今のは私ではないぞ?」 同じ馬車内に同乗している小太りの兵士の言葉らしい。 ふと気づくと、グウェンダルの肩にもたれかかっていたので、あわてて背筋をまっすぐにする。 兵士に気づかれないようにと、時間を確かめようとちらり、と腕の時計をみると。 どうやら、二・三分程度爆睡してしまっていたらしい。 「眠れるうちにねておけ」 グウェンダルが横でそういってくるけど。 「そうはいってもさ。オレだけ楽するわけにはいかないし。 あんただって相当つかれてるんだろうし。 隣でぐ〜すか寝られたら腹がたつだろ?一人だけ寝るなんて何か不公平だしね」 そんなオレの言葉に。 「本当にお前は妙なやつだな。父親に輪をかけている」 とかいってくる。 ……オレの父親ってそんなに変わり者だったのだろうか? ………何だか聞くのも恐いけど…… 「何だよ。それ。あ。まてまて。うかつにしゃべると全部聞かれるぞ?」 「そうだな。では王宮魔族語ではなせ。そうすれば方言同様。理解されづらい」 「?何それ?」 そんなのがあるの? 「……ギュンターはそんなこともまだ教えてないのか?」 何やらつぶやくようにといってるし。 「日本語とかできないの?」 「お前の育った国の言葉を話せるのはコンラートだけだ」 「あぅ。…あれ?」 見れば、俺の睡魔に誘われたのか、見張りがうつらうちらとし始めて。 そしてそのまま深い眠りにとついてるし。 …のんきな見張りだ…… でもこれで普通の会話も可能となったわけだ。 「なぜそんなに厄介ごとに首をつっこみたがるのだ?お前は王だ。 国のことは臣下に任せ、城で興楽にふけることもできるのだぞ?」 「きょうらく。のふけりかたがわかんないだけど…… でも、普通臣下にまかせっきりって。おかしくない?何でも自分の目で確かめないと。 自分と、人と、そして第三者と。いろんな視点から見た意見とかのほうがよりよい案とかもでるじゃん?」 そんなオレの言葉に。 「それはそうかもしれないが……。だが、好きなものはないのか?富や美食。それに女」 「もてない人生、もうすぐ十六年。のオレにそ〜いわれても…… でも好きっていったらやっぱり今のとこは野球が一番だな」 「国境付近の村の子供たちに教えている。というアレか。コンラートともよくやってる。 だが、アレはまったく金がかからないと……」 「基本的には情熱さえあれば誰でもできるしね。 お金がいる。といったら、バットとグローブと後は球を買うお金くらいかな? それがあったら誰でもできるし。それにそららは手作りでもできるしね」 材料があれば。 の話だけど。 バットは木の切れ端で代用できるし。 問題はグローブだ。 別にグローブがなくてもやろうとおもえば出来るけど。 そんなオレの言葉に。 「ではもっと金のかかる遊びを」 「何で?」 オレの即答に珍しく困惑しているグウェンダルの表情。 「だって。オレが使うのって国民の皆さんからの税金でしょ? 血と汗の結晶の産物でしょ?そんなもの使って贅沢三昧するのが王様の仕事じゃないじゃん? まさか、それが正しい王様像。だなんて思ってるわけないよね?」 問いかけるオレに。 「それは……。だが、これまで平民から選ばれたものは、いずれも…… お前も異世界で平民暮らしをしていたのだろう?」 「だってさぁ。オレ、そんなこと知らなかったし。いきなりこっちに流されてきて。 今日から魔王です。なんていわれてさぁ。予備知識も、事前研修も。何も一切なし。 王としての自覚も心構えもできてなかったし。 だって、オレ、自分の実の親は死んだ。としか聞かされてなかったしね」 いいつつ、胸の肖像画入りのペンダントを握る。 「とりあえずの手本はツェリ様なんだろうけどさ。 あの人は大人の女性でオレは単なるどこにでもころがっている野球小僧だし。 同じように出来るはずもないし。だったらオレなりに精一杯、自分らしくやるしかないじゃん。 その結果がとうなるのか。史上最低君主。と称されようとも、これまでの人生で判断していくしかないんだし。 贅沢三昧の暮らしなんてオレには似合わないし。というか、受け付けないってば。 いまだにさぁ。侍女とかいるのってなれないし。 ベットが大きすぎるのもびくびくものだし。ましてや専用風呂。なんてものまであるしさ……」 事実。 いまだにオレ、なれないしなぁ…… 「頭下げられるのも何か悪いようで心苦しいしさ」 「…なれてないのか?」 「うん」 「・・・・・・・・・・・・・・・・」 オレの即答になぜか戸惑っているグウェンダル。 「とにかく。オレは俺らしくやっていくってきめたんだし。……それに」 「?何だ?」 「オレがどうしようもなく間違った判断しちゃったりしたときは。そのときは。…止めてくれるんだろ?」 オレなんかの為に教育係がいて。 保護者兼ボディーガードがいて。 成り行きでそうなってしまった婚約者がいる。 その上、国のことを誰よりも愛していて献身を惜しまない新の魔族が、 過ちを犯さないようにと見張っててくれる。 「オレは王らしくないし。ヴォルフラムのいうとおりにへなちょこだし。 だけど…オレはオレの周りの人たちを信じてるし。 オレが間違えそうになったり、道を踏み外しそうになったら、気づかせてくれたり、正してくれるって。 だから、オレとしては精一杯がんばるしかないじゃん。国のためというより。何より人々のためになるように」 王様なんて、名前だけのもの。 国の真の主役は国民だ。 オレの言葉にふっと目を細め頬を緩めるグウェンダル。 この三兄弟、笑った感じがよく似ている。 と、オレはコレまでの経験上知っている。 でも滅多にグウェンダルのこの笑みは見れないけど。 水鏡の中で見たことある笑みだ。 そんな会話をしていると。 やがて、馬車がとまり、そしてその衝撃で見張りもやっと目を覚ます。 …ナイスタイミング。 ここまでぴったり。 という偶然もめずらしい。
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