しばし目を点にしていたニコラだが。 やがて、質問にと答え始めてくれる。 「…えっと。内戦で両親を亡くしてからあたしはゾラシア近くの施設で育ったの。 十六になったら教会が決めた家にとついで平凡な人生を送るはずだった。 村には法石が取れる遺跡があって、娘たちはそこで働いていた。あれは女の人の手でしか掘れないから」 「え?何で?」 何で女の人でしか掘れないの? というか、そもそも教会が決めた人との結婚…って、本人たちの意思は? ねえ? オレの言葉に。 「なぜかはわからない。けどそうなの。それで一年くらい前のひどい砂嵐の日にヒューブが村にとやってきたの。 皆は魔族を恐がったけど、あたしは平気だった。 だって以前に父の形見の襟章を届けたくれたのも魔族の巡回士だったから。 あたしたちはすぐに心を許しあった。ヒューブはいったわ。 あたしに会って人を愛するということに種族は関係ない。と初めて判ったって。 以前取り返しのつかない過ちを犯してしまったって。 あたしはそのことについては深くきかなかった。とてもつらそうな目をしてたから」 「あいつが過去に何をしたか知ってたらそんなことは言えないだろうな」 思いっきりの軽蔑の声。 「ヒューブが過去に何をしたのか、あたしは知らない。いつか彼が話してくれるのをまとうって。 ヒューブのヒューブのおかげであたしは魔族は本当は親切だって教えてもらえた。 好きになるのは種族は関係ないってわからせてもらえた。 だから…あたしはあんな好きでもない男と結婚までしようと……ヒューブを開放してくれるっていうから。 ……もう必死で……」 いって。 ぽたり。 と涙するニコラ。 そんなニコラの言葉に。 「あいつがそういったのか!?あいつが!?あいつは誰よりも!!殺してやる!ゲーゲンヒューバー!!」 何やらものすごく怒りのオーラをだして怒鳴っているグウェンダル。 彼がここまで怒りを表にだすのってオレはじめてみたぞ。 何はともあれ。 「おちつけって!グウェンダル!過去に何があったか知らないけど。 下手なこといったらニコラのおなかの赤ちゃんにさわる!ストレスって胎教によくないんだよ!?」 オレの言葉にも、いまだに顔は怒りで震えている。 横では、すごく不安そうなニコラと、そしてジルタの姿。 「大丈夫。大丈夫だって。オレが君の彼氏を殺させたりはしないから。 そうは絶対に見えないとおもうけど。オレのほうがちょっぴり雀の涙くらいはえらいらしいし。 この人こんなこといってるけど、実は小さくてかわいい動物が大好きだったりするんだから」 「本当に?」 「そうらしいよ?」 「余計なことをいうな!」 あ、何か珍しく動揺してる。 「本当?あたしの赤ちゃんをとりあげたりもしない?」 「…その赤ちゃんってやっぱりその?ゲーゲンヒューバーって人の?」 「ええ。」 いってニコリとするニコラ。 「あのやろうっ!」 だんっ! と更に強く壁を叩いているグウェンダル。 彼がここまで感情をあらわにするのも珍しい。 いったい、過去に何があったというのだろう? 「ともかく。彼がある日いったの。自分は貴重な宝物を探すたびの途中で。 もすすでに一部分は発見して絶対に見つからない場所に隠したんだって。 残りの半分がこの村のどこかにあるらしいんだって。 正統な持ち主が演奏すれば雨を降らせるすばらしい笛だそうよ。 あたしたちのために使う。ともいってくれた」 「ヤツが人間のために使う、といったのか!?」 「いったわ」 「……やはり、ころしてやる……」 「おちつけって。グウェンダル。そだ。ハイ。これでもさわって」 ポーチの中からもってきていたウサギさん柄ハンキチをポケットから取り出してグウェンダルにと手渡す。 ちなみに、タオル製なのでけっこうもこもこ。 ウサギの部分だけはさらにモコモコ状態になってるやつ。 ちなみに値段は二百円。 「これは……」 「ハンカチ。…それで?もしかしてそれって魔笛のこと?」 どまどうグウェンダルに一言いい、ニコラにと向き直り聞き返すオレに。 「笛…ではあるらしいの。でもどうみても焦げちゃの筒にしかみえなかったけど。 あたしそれを聞いて教会からこっそり鍵を持ち出して二人で遺跡にとはいったのよ。 そして伝説の秘法だというソレをみつけたの」 「筒?」 「でも恐らく。そのせいだとはおもうんだけど。それっきり遺跡からは法石がでなくなってしまったの。 ぜんぜんよ。本当にまったく掘ってもでなくなってしまったの。 あたしたちが増えを取り出したせいだ。とはまだ村人たちには知られてなかったけど。 もう逃げるしかないって。このまま村にいたらきっと……だから……」 「それで二人で住み慣れた村をはなれたの?」 まるでこの子、ヒスクライフさん並みに情熱かだ。 「この国では異種族との婚姻や、決められた相手以外との恋は罪だから。 あたしたちは駆け落ち物として国中に手配書までまわされて…… ヒューブは自分たちの土地にいけば、女王陛下は魔族と人間の恋愛や。 恋にも寛容だから、はれていっしょになれるっていってくれた」 そりゃ、ツェリ様はそうでしょう。 自分自身が人間と結婚して子供までもうけてるし。 「あたしたちはどうにかして、魔族の土地までいくつもりだった。 ヒューブの産まれた国だからきっと、楽園のような場所なんだって夢見てた」 「うっ!?」 そういわれると、本当に眞魔国は楽園なんかじゃないんだよ? …といいたくなってしまう。 オレがもってしっかりして本当の意味での楽園にしなくちゃいけないのに。 「…楽園…いつかそんな国にしたいけど……」 でも、楽園。 といっても人の価値はそれぞれ。 オレのつぶやきに、ふ〜と息を吐いているグウェンダル。 今、ここにコンラッドがいれば、大丈夫。オレなら出来る。 といってくれるだろうけど。 「でも首都を迂回しようとして、通った街で…そこでも井戸がかれていて。 子供たちまでが喉のかわきに耐えている姿をみたら……あたしもう、たまらなくなっちゃって。 宿でヒューブがいない間にあの雨を降らせる筒を取り出して使おうとしたの。 雨さえ降れば子供も走り回ってあそべるんだって。 磨いたり、覗いたり。叩いたりしてみて最後には口をつけて吹いてみたりもした。 でもダメだった。雨はふらなかったわ。 それどころか街の長老に見咎められてしまって……あれは魔王の使う魔笛だって。 それをもっていたあたしは魔王に違いない。なんて、とんでもない言いがかりをつけられて…… それで宿から逃げ出したの。」 「ええ!?それじゃ君がそっくりさん!?…オレが君と間違われ、君がオレにと間違われ…相互干渉?」 はげしく違うぞ。 と内心自分自身でつっこみ。 「今ので無銭飲食が成立したな」 落ち着きを取り戻しつつあるグウェンダルの低い声。 どうやらハンカチのモコモコした感触がヒットだったらしい。 「ニコラのことだったんだ。魔王の名をかたる無銭飲食者って。 正確にいえば、名前もいってなければ身分もいってない。 さらに正確にいうならば宿の主人の勘違い。オレたちはニコラたちの手配書で人間違いされたけど。 でも人違いで処刑…はないよねぇ。でもよかったぁ。オレのそっくりさんの身柄の確保ができて。 だって人違いで殺されでもしたら、オレは絶対にイヤだったしなぁ」 「それでお前は無理やりについてきたくらいだからな。少しは自分の立場。というのもを考えろ」 そんなオレとグウェンダルの言葉に。 「?あの?あたしはあなたと間違われたってこと?それにそのいいかただと……」 「そ。そしてオレたちはニコラとゲーゲンヒューバーに間違われたわけ。 でもさぁ。首都から国境までの連絡が行き届いて滞りなくつたわってあれば、間違われることもなかったのに。 そういや、ニコラは何で?その?別の人…と?」 「処刑されそうにはなったけど。でもあたし首都の名士の息子に妙に気に入られて。 彼と結婚すれば捕らえたヒューブを開放してやるっていわれて。それで……」 それで好きでもない相手と結婚を決めたわけか。 好きな人のために。 「う〜ん。愛だねぇ。…で?そのゲーゲンヒューバーって人は?」 「……わからないの。でも少なくとも処刑はされていない。って聞いたわ」 いって顔を少しふせ。 「でもユーリ?あなたって……」 そういいかけるニコラの声をさえぎり。 「それで?その筒とかいうのはどうしたんだ?まさかとられたのか?!」 いつもの口調にもどってニコラにと聞いているグウェンダル。 よくここまで冷静さを短い時間で取り戻せるものだ。 と一人感心してしまう。 オレなら絶対に無理だしなぁ。 「ここにあるわ」 グウェンダルの言葉に、ごそごそと何やら後ろのほうから取り出しているニコラ。 そして。 「?これが?」 ニコラが取り出したそれは、何かどこかで見たことがあるようなフォルムだし。 でも何かが欠けている。 「ヒューブもあたしも、この国に雨を降らせようとしたけど。筒は何の奇跡も起こしてくれなかった。 きっと魔族の秘法だから魔族の人にしか恵みを与えないんだわ」 そういうニコラの声は沈んでいる。 「魔族の秘法は本来、魔王にしかあつかえぬ。他のモノではいくら同じ魔族でも何の力も発揮しない。 ゲーゲンヒューバーはそういわなかったのか?」 グウェンダルの低い声に。 『そうなの!?』 思わずオレとニコラの声が重なるし。 「いい例がモルギフだろうが。お前にしか使えないし、お前の命令しかきかない」 「……そうなのかもしれないけど……」 「?あの?ユーリ?あなたって?だって、それ。今のこの人の言い方では魔王にしか扱えないって……」 と。 「誰だ!?」 グウェンダルがいきなり身構える。 と。 「買ってきたよ」 いって何やら食べ物をもってもどってきたジルタの姿が。 「あ。おかえり。ジルタ。ありがと。とりあえず腹ごしらえしようぜ!腹がへっては何ごともできぬっ…ってね!」 オレの言葉に、なぜかまたまたため息を深くついているグウェンダル。 オレ、何かおかしいこといったっけ? おなかがすいてたら、いざというときに力がでないじゃん。
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