そのまま扉に手をかけて、思いっきり扉を左右にと開け放つグウェンダル。 どうやら、はやる気持ちを抑えきれなくなったらしい。 その瞬間。 開け放った扉の向こう。 つまり教会の中から一斉にオレ達二人に視線が注がれる。 教会の礼拝堂内部には百人近くはいるのではないか? と思われるほどの参列者が座っており、直線のコースの向こうでは白い衣装の男女と新婦さんが動きを止めている。 「え…えっと?グウェンダル?結婚式の最中みたいなんですけど……」 「そのようだな。出直すか」 「そうしよ」 うわぁ。 花嫁さん若いなぁ。 袖なしのウェディングドレス姿。 薄いベールも花のブーケ。 どうやらそれらは異世界とはいえ共通らしい。 ここって神前結婚とかもあるのかな? 「ちょうどよかった!」 は? 邪魔をしてはいけないので、ひとまず立ち去り出直そうとするオレたちにと何か声がかけられてくる。 「それでは人生の先輩である愛し合うつがいのお二人に祝福の言葉を頂戴しましょう!」 神父さんらしき人がオレたちにとむかっていってくる。 って!? 「愛し合うつがいぃ!?これは違うんです!というかコレをはずしてほしくてオレたちは!」 みれば、おもいっきり手の鎖が丸見えだ。 そういうオレの叫びに首をかしげ。 「おや?違うとは?ご夫婦ではないのですか?ではどのようなご関係で?」 そんな神父さんに。 「こいつは元々弟の婚約者だ」 ってだから違うって! いや、今のところ未だに悲しいことにそういうことにはなってるけど! そんなグウェンダルの言葉に。 「え!?それはまたいっそう情熱的だなぁ」 何やら式に参加している人たちからも尊敬の目が向けられてくる。 「だからぁ!誤解ですってば!!」 オレが次に自分は男だ。 といおうとすると、花嫁さんがこちらに視線をむけてくる。 う〜ん。 こうなったら、とにかく一生に一度……いや、人によっては幾度もする人がいるけど。 例ツェリ様とかさ。 ともかく人生の記念日を台無しにさせては申し訳がない。 「え〜。結婚生活で大切なのはぁ」 「おいっ!」 オレが改まって言い始めると、グウェンダルが短くいってこづいてくる。 「だって!結婚式を台無しにするわけにはいかないだろ!?」 オレの言葉に戸惑いの表情をしているグウェンダル。 ここまであからさまに表の表情だけでわかるというのも珍しい。 「そもそも結婚生活に必要なのは三つの袋。と申しまして。一つ目がおふくろ。 二つ目が忍耐袋。そして三つ目が手袋。とかいわれています」 あってたよな? たしか? とにかくこの場を乗り切らねば。 「特にこの三つ目の手袋は重要で、逆から読むと六回もぶたれてしまいます。 いわゆる許しがたい行為にもなりかねません。つまり家庭内暴力ですね。 でも手袋はいつでも二つで一組です。二つないと役にたちません。 他のものをつかってもしっくりいかないのでする つまり、ひとたび対になったお互いは決して別の相手とはしっくりいかないという……」 うろ覚えであるがゆえに、口からでまかせ度ほぼ77%以上。 だって既製品の手袋ってみんな同じだし。 これは昔手袋が手作りだったときの名残だろう。 だってここって工場とかなさそうだから、こういう話でもいいはずだ。 少なくともいい話であることには代わりがない。 とにかく、ちょっといい話で締めておこう。 「ですから。結婚後は夫婦は常にお互いを自らの手袋の片方とおもうことにより……」 「そうよね」 「そうなのよ。…は?」 つられて女言葉になってしまう。 今の相槌は誰ですか? 「そうですよね。ひとたび対となったお互いは決して他の相手とむすばれない。手袋ってそういうものですよね」 みれば、花嫁さんがいってるし。 「え?あ。ああまぁ」 徳用軍手とか大量生産手袋をのぞけば。 だけど。 花よめさんが言葉と同時に。 「あたしまちがってました」 いうなりブーケとベールを投げ捨てて、なぜかオレたちのほうにと走ってくる。 え…えっと? あれ? そういえば、この子って…何で気配が二つ!? っということはまさか!? 「あなたの言葉で気づきました」 「……何が?」 「別の相手と結婚するところでした」 あ゛? 「何をしたんだ!?お前は!!」 横でグウェンダルが小さくいってくる。 いや、オレは何も… そういうや否や。 「あたしと一緒ににげてっ!」 いっていきなりオレの手をとり逃走を図ろうとする花嫁さん。 マリッジブルーじゃなくて結婚式逃亡!? 「花嫁がにげたぞ〜!!」 「あいつら花嫁をさらう気だ!!」 いや、それは断じて誤解です!! 「あ、あの!?君!?」 いったい全体何がどうなっているのなら。 「あたしニコラ。あなたたちは?」 オレの手をひっぱり走りつつ聞いてくる花嫁さん。 「え?あ。オレユーリ。後ろのでかいヤツはグウェンダル」 ニコラ。 と名乗った女の子に右手をひっぱられ、なぜかオレたちまで走るハメに。 「その人魔族ね!あたしの知っている人にそっくり!」 「…え?」 走りつつ、そんなことをいってくるし。 だから何で? この子…結婚式から逃げてもいいわけ!? ねえ!!??
とにかくしばらく走った後、家の立ち並ぶ路地裏にと入り込む。 「この辺で少しやすみましょう」 いいつつもものすごく息をきらしてるし。 え〜と、いい加減に説明してほしいけど、今は彼女を気遣うのが先決だ。 「大丈夫?……何かつらそうだけど?」 そんなオレの言葉に。 「ええ。ちょっと赤ちゃんが……」 「でぇ!?やっぱり妊娠してたの!?人の気配が一つでなかったし!オーラも!」 思わずびっくり。 「やっぱり…って。まだそんなにおなか目立たないとおもうんだけど……」 そんなことをいって戸惑っているニコラ。 いや、だってオーラの色が二つあるし。 それよりも何よりも。 「というか。妊娠してるのに結婚式から逃げ出しちゃったの?」 そんなオレの素朴な質問に。 「違うの。別の人の子なの」 「ああそう。別の…ってええ!?」 おもわずびっくり。 そういえばこの子のオーラの色は人間のハズなのに。 おなかの中の子供から感じているオーラは魔族のオーラをもってるし。 ということは…相手は魔族? でも何で他の人と結婚しようとしてたんだろ?? 思わず驚くオレに小さく。 「バカが」 とかいっているグウェンダル。 はいはい。 オレはバカですよ。 って。 「ああ。ごめん。えっと何か事情があったんだよね?」 二股かけるような子ではなさそうだし。 オレの言葉と同じくして、懐から何やらとりだし。 「コレに見覚えはないか?」 とかいっているグウェンダル。 「ああ!?それって例の!?」 グウェンダルが持っているのはオレたちが間違われた例の駆け落ちカップルの手配書らしきもの。 というか、絶対にこの絵…当人はわかんないとおもうぞ? 当人じゃなくても誰がみても…… 「もってきちゃったの!?」 思わず驚くオレの言葉に。 「それ、あたしだわ」 は!? 「それ一月前のヒューブとあたしです」 それをみてニコラがいってるし。 「って!?ええ!?これが君!?君がこれ!?じゃ、魔族と駆け落ちした女の子って……」 思わずびっくり。 …似てるかなぁ? 似てないよな? オレとニコラ…… そんなオレの言葉をさえぎるようにして。 「…ヒューブというのはグリーセラ卿ゲーゲンヒューバーのことか!?」 何かグウェンダルの体から怒りのオーラが吹き出てるし。 「?どうしてその名前を?」 …どうやらビンゴらしい。 ニコラのきょとんとしたその声に。 「その男は…私の従兄弟だ!!」 何か怒ってる? 「何?どうしたの?グウェンダル?あ。もしかしてあの探してるっていう?」 ……世の中って狭い…… 「ええ!?従兄弟なの!?あなたヒューブの従兄弟なの!? あのあの。始めまして!あたし、ニコラっていいます。どうしよう。ご親戚の方だなんて」 いってはじらうニコラ。 いや、そういう場合じゃないと思うけどなぁ? 「しれものめ!!」 ダッン! 明らかに、そのゲーゲンヒューバー、という人に対しての憎悪を発しつつ、 後ろの壁を叩きつけているグウェンダル。 「?グウェンダル?何があったのか知らないけど。 そんなにあからさまな害のある気を発するのはやめようよ。ね?」 そういいかけ、ふと。 「やばっ!人がこっちに向かってきてるよ!」 あからさまな怒りのオーラを発して追いかけてくる人の気配を感じ取る。 確実に近づいてきてるし。 どうやらオレたちを探しているようだ。 「とにかくこっちに!」 オレの言葉に、何でこの人わかるの? という表情をしつつ、オレたち…というか、オレをひっぱって再び走り出すニコラ。 そのまま。 何やら市場のような場所をニコラに引っ張られた状態で走り抜ける。
「こっちはダメだわ」 「こっちもだ」 いつの間にか路地の前後にいた追っ手の姿が。 それでも何かピンチ。 という気がしないのはなぜだろう? 「どうしよう。囲まれたわ」 「う〜ん。アンリみたいに移動できたら楽なんだけどなぁ」 オレのそんな素直なつぶやきに。 「やめておけ。出来たとしても今のお前では変なところに移動するのがおちだ。たとえば海のど真ん中とかな」 「うっ!わるかったな!!」 オレのつぶやきに淡々と突っ込みをいれてくるグウェンダル。 否定できない。 というのが何ともくやしいけど。 そうなる可能性が高い、というのも事実だろうしなぁ…… 未だに自分の意思で移動したことなんてないし。 「?あの?」 ニコラがそんなオレたちの会話に何か問いかけようとしてくるが。 と。 つんつん。 何やら足元のほうで服を引っ張る感触が。 ん? 思わず下をみると、六・七歳くらいの子がオレの服をつかんで引っ張ってるし。 「えっと?君は?」 この子のオーラは人と魔とのオーラが入っている。 つまりはコンラッドと同じくハーフらしいけど。 「こっちこっち!はやく!」 いって何か崩れかかっている建物にと走っていき手招きしてくる。 「よし。いくぞ」 「え?あ。うん」 グウェンダルにしては珍しい。 素直に相手を信じるなんて。 オレはよく、誰でも信用するな!とヴォルフラムやアンリに言われてるけど。 だって産まれながらに悪い人はいない。 ってオレ信じてるし。 子供に促され、何やら建物の中をかけぬけてゆく。 どうやら砂で埋まってしまった昔の建物の中らしい。 何かドラクエ七の砂漠の村を連想してしまう。 ああ、年月の大自然の猛威よ…ってね。
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