太陽がかげる前にと、一時間ばかり馬を走らし、岩陰で火をおこし、しゃがみこむ。 野営の準備はたったのそれだけ。 テントもなければ寝袋もない。 水と干し肉とあぶったサボテンの夕食をもくもくと食べつつ空を見上げる。 「コンラッドやヴォルフラム…それに他の兵士のみんな…大丈夫かなぁ?」 オレのつぶやきに対し、焚き火に薪をくべつつ。 「コンラートほどの武人が砂熊相手に命を落としたらそれこそ末代までの語り草だ」 そういってくるグウェンダル。 めずらしく言葉が少し多めだ。 「そっか。でもすごいなぁ。オレなんかパンダと相撲をとったら負けちゃうよ」 「だから引き上げた。――ん?」 いいつつも何やらオレの腰の辺りに目をとめる。 「ん?……これ?」 視線の先をたどれば、いまだにしぶとくくっついているイルカのキーホルダーが。 「…ほしいの?」 「いや。高価そうなものだとおもってな」 いいつつ、そっぽをむくものの、何かほしいようなオーラがでてるし。 「やるよ」 いって。 カチャリ。 とキーホルダーを取り外し、グウェンダルの前にとかかげてみる。 「…いいのか?」 オレの言葉にそっと、まるで高価な宝石でも受け取るように、 グウェンダルはそっとイルカのアクリルを握ってるけど。 「いいよ。オレイルカって苦手だし」 というか、いまだに恐いし。 なかなか小さいころのトラウマは克服できないものだ。 丸っこい目と半開きの口。 短い胴体にハートの尾ひれ。 「名前は?」 「多分。バンドウ君かエイジ君のどっちか」 「バンドウ・エイジか。かわいいな」 「作り物ならね。…なあ?グウェンダル?聞こうとおもってたんだけどさ? 何でさっきオレにだけパンダがみえたわけ?他の人には見えてないようだったし。 それに法石って?これ魔術ではずせたりしないの?それとか石でがんがん叩くとか」 針でもあれば、自然といえに入るために身についた簡単な錠前の開け方でどうにかなるかもしれないし。 小さいころ、オレが家にもどったら、おふくろが鍵をかけたままできけていた。 というのがちょくちょくあったし。 そのために幼いながらも家に入ろうと何とか努力した結果だ。 オレのそんな質問に。 「すべてに答えろ。というのか?」 顔をしかめて聞いてくる。 イルカキーホルダーで機嫌をとったつもりだったけど。 ダメだったかな? 「……できたら」 無駄とはおもいつつ、謙虚にでる。 オレの言葉に深く息をはき。 「いいだろう。まず砂熊に関しては我々の気の緩みもあったことは否めない。 だがあれは本来小規模な砂丘に生息する種ではない」 …あれ、というかこれが小規模ですか。 オレにとっては完全に砂漠とかわりがない。 雨がいきなり降ったりする。 というのも砂漠の特徴の一つらしいし。 「と。いうことは。だ。スヴェレラの人間どもが国境の行き来ができないようにと、 人為的にはなったものと考えられる。内戦の名残か、密売人の妨げか。 その辺りのことははっきりとはわからんがな。 実は数年前にスヴェレラでは法石が発見されたのだ。 各国の法術対は喉から手がでるほどほしがっている。 不法にもうけようという商人がそれを見逃すはずがない。 貴重な法石を国外に持ち出されないように。と国境にわなを仕掛けたのだろう」 「……地球では、パンダは絶滅危惧種だというのに……」 「しかも、この地域は戦乱の歴史が長い。つまりはそれだけ法術が発達している。ということだ」 ?? 「?よくきくけど。その法術って…何?何か魔術とかとは違うの?」 「…まだそれも習ってないのか?」 「とりあえず。今は文字が最優先で。あとは歴史とか……それとか作法……」 「……まあいい。本来ギュンターの役目なのだがな。魔術は我々魔族だけがもつ能力だ。 魔力はもってうまれた魂の資質。つまり魔族の魂を持つものにしか操れない。 逆に法術は人間どもが神に誓いをたてて、願い請うことで与えられる技術だ。 産まれ付きの才能や、祈祷のほかに、修行や鍛錬でも身につけられる。 法石は法術の技量をいくら補って才のないものにも力を与える。 これまでに発掘された地域は少ないからか、かなりの高値ではけるだろう」 「う〜ん……。神様に願うっていうか、一種の気のコントロールみたいなものかな? 修行や鍛錬って……。ともかくその貴重な資源の流出を防ぐために国境にトラップをしかけたのか」 神様がいちいち人の願いを聞いてたら、今ごろこの世界は平和に満ちているか。 または下手したら国土どころか星自体も残っていないはずだ。 「だろうな。お前にだけ砂熊がみえた。というのは惑わすように覆っていた力の効果がなかったせいだろう。 生来の鈍い体質なのか。もしくはお前の母親、ソフィア様の血ゆえか。 伝説によれば天空人にはどんなまやかしも通用しないらしいからな」 「そうなんだ」 そういえば、子供のころから催眠術とか自己暗示とかにかかったことはない。 修学旅行の集合写真で皆が騒いでいた霊の顔もみえなかった。 何か子供はうつってたけど。 多分後ろを通ってしまった子が写ったんだろうし。 普通の幽霊とかならば昔以前幾度かみたことあるけども。 ・・・・おもいだすまい。 あれはあまりにインパクトが強力すぎた…… 「それにこの手鎖にも法石の粉末が練りこまれている。 石で叩ききろうとしたところで余計な体力をつかうだけだ。 我々に従う要素が濃く存在する魔族の土地ならばいざしらず。 こんな乾いた人間の土地で法術をやぶるのは困難だ」 何やら小さく、オレでは無理だろう。 というようにつぶやいているけど。 グウェンダルに無理ならば、オレなんか魔力は使えないから絶対にむりだ。 …多分。 周りは使ってる…っていうけど。 自覚ないし。 「嘘!?はずせないの!?これ!?まさかこれから国にもどるまでずっと!?」 連れションしたり、着替えたりするのが困難そう。 そういや、とある漫画の主人公も鎖でつながれてたっけ? でもこれは漫画でないし…… 漫画のような小説みたいな現実ではあるけど。 「心配するな。先ほどの街でコンラートたちが追いつくのを待つつもりだったが。 こうなった以上は首都に向かう。 まず教会で法術の使えそうな僧侶をつかまえてこの忌まわしい鎖をたちきってもらう。 魔笛の件はその後だ」 どうやら彼も連れションはいやらしい。 「ポーチもってきとけばよかったかなぁ。…針でつついたら外れるとか」 「コレは鍵式ではない」 いともアッサリとオレの意見は却下される。 「む〜……」 とりあえず、膝を抱えてまるくなる。 焚き火のぬくもりがここちよい。 しばらくぼ〜としていると、疲労と寒さからか睡魔がすぐにと襲ってくる。 本当に、二分後くらいのあの後にもどれるのかなぁ?とか。 アンリあわててるだろうなぁ。 とか、そんなことを思ってしまうよりも前に、やはり心配なのはコンラッドやヴォルフラムたちのこと。 砂に飲み込まれてしまった兵士や馬のことも気にかかる。 う〜ん。 そういえば、助かったのオレとグウェンダルの二人だけど、後はみ〜んな砂に飲まれてたからなぁ。 とにかく全員無事でありますように。 「おい」 「ん?」 「保温効果を上げるためにもう少し近づけ」 「…そんなに小難しくいわなくても……」 グウェンダルにといわれて肩を寄せ合いピタリとくっつく。 間で鎖が重い音をたてる。 「お前…動物は好きか?ネコとかウサギとか?」 「…オレンジ色のウサギはちょっと……。ネコは…そうだな。ネコよりライオンがいいな。 白いやつ。白い…獅子……」 く〜…… そのまま、かなり疲れているらしく、すぐさま眠りにおちてゆく。 でも何でこんなに眠いんだろう? 疲労とか疲れがかなりたまってるのかな? 謎だ……
次の日。 日が昇り始める前にと出発するオレとグウェンダル。
砂漠だ、というのにしばらく文句をいっていると雲が出てきて日がかげる。 それゆえに、道中も比較的にそんなに暑くもなく、やがてしばらく進むこと数時間以上。 やがて町並みが見えてくる。 時計をみればちょうど昼前くらいだ。 時間的には四・五時間くらい馬に乗っていた計算だ。 う〜…何だかお尻が痛いのは気のせいではないらしい。 それにしても偶然って本当に恐ろしい。 【水がそろそろほしいな】とか【水浴びしたい】とか思ったら。 ドザ〜! と一時雨が降ってくるし。 これで本当に記録的な干ばつ? と問いかけたくなるほどに。 それゆえに水にも困らずにここまでたどりついたのだけど。 なぜかグウェンダルは雨が降るたびに。 「大丈夫なのか?」 とため息まじりに何かいってきてたけど。 だってこの世界の雨って現代日本みたいに酸性雨とかではないから大丈夫にきまってる。 汚染もされてないはずだしね。 何しろ汚染物質そのものがなくて、大気を汚してないんだし。 とりあえず街にと入る前にと髪を染め直す。 雨ですっかり髪染めは落ちてるし。
ゲートをくぐり、馬を下りると鎖の重さが感じられる。 移動中に気にならなかったのは、反対側でできるだけグウェンダルがもってくれていたかららしい。 とりあえず鎖を見られたらヤバイだろう。 ということで鎖を布でつつんで風呂敷包みを二人でもっているようにと見せかける。 そんなオレたちをみて、通りかかった若い女の人たちが聞こえよがしに。 「みてみて〜荷物を二人でもってるわ。あつあつよ。でもきっと今のうちだけよねぇ」 とかいってるし。 うちの育ての親たちは結婚して二十年以上たってても、まだまだ新婚並みにラブラブですが? ってオレたちはそういうんじゃないってば!! 「何かさぁ。オレたちって食器洗いの某CMみたい」 「食器など洗ったことはない」 うそ!? 「ないの!?あ。そっか。オレん家では自分のことは自分で。とか当番制にしてたからなぁ」 でも大概お袋が洗ってくれてるけど。 グウェンダルはそういえば、王子様という立場でもあったし。 また、貴族の跡継ぎ…として使用人たちに囲まれている状況で。 あるはずもない…か? 国境の町とは規模が違う。 南には応急らしき建物がそびえたっている。 例をあげるとアラブの宮殿のようなやつ。 あと人の行き来もはげしかったりする。 ただし、兵士の比率が非常に高く、店を守っているのは女子供や老人で、男の姿といえば兵士の姿のみ。 「あれだ。いくぞ」 グウェンダルにといわれて視線をむけると、そこにはとがった屋根をもっている建物が。 十字架でも屋根にあったらわかりやすいのに。
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