「ここだ」
男の言葉に。
「ここにいろ。うかつなことはするな」
オレに一言いい、中にと入ってゆくグウェンダル。
とりあえず、ちょっと木陰に入ろうと。
建物の間にと身を潜める。
先ほどの雨で少し髪の染め方がまずくなっているみたいだし。
筒の中にと入れてある液体を髪にとかけ、とりあえずわしゃわしゃと髪を洗うがごとくにやっておく。
と。
ぐいっ!
それが終わり、手を水で洗った直後。
何ものかに服をつかまれて建物の中にと引っ張り込まれる。
時計をみるとただいま五時過ぎ。
夏場の太陽はまだまだ健在だ。
「…え?」
何が何だかわからずに、何だかひんやりとした感覚のところにと引っ張り込まれてしまう。
ふと見れば、オレの目の前には数名の男たちが。
…えっと?
何かこいつら…オレに対してよくないことを考えてるオーラ出してるんですけど……
「大人しくしてりゃ殺しゃしねぇ」
何やらにやにやといってくるし。
…まさか、もしかして、また女と間違われているとか!?
……ありえそ〜……
と。
バンッ!!
「出ろっ!!」
扉を蹴破る音に振り向けば、何やら珍しく怒っている、というかあわてている様子のグウェンダルの姿が。
「え?あ。うん」
オレが立ち上がり、そちらに行こうとすると。
後ろから大柄な男に首をホールドされてしまう。
…これってヤバイ?
でも何で?
じたばたもがいているとフードを取り除かれてしまう。
さっき髪を染め直しておいてよかったよ。
「やっぱりな」
「…?やっぱりって?」
今のオレの外見は、平凡な人間のはず。
髪を染めたせいで、女の子に近くなってるけど。
最近筋肉ついてきてるし、多分あまり間違われることはないだろう。
……というのは、あのヨザックの女装が、そのまま怪しまれずに認められている。
というこの世界では通用しないのかもしれないが。
一応、今のオレは茶色い瞳に赤い髪。
黒い瞳とか黒い髪とかは欠片もわからないはずだけど。
…もしかして、簡単に染め直したから後ろのほうに地毛が残ってたか!?
「いくらいい魔族の武人でも教会内じゃ魔術はつかえねぇだろう。神様の御力に満ちてるからな」
……神様って…もしかして、周りにあるわら人形のことですか?
見れば、なぜか釘を打たれたわら人形がたくさんあるし。
えっとぉ。
丑の刻参り?
「何が望みだ?金か?」
眉間のしわが深くなり、口元がえらくひきつっている。
へぇ。
グウェンダルでも感情を表にだすことがあるんだ。
とのんきにそんなことを思っていたりするオレだったりするけど。
何かかぁなり怒ってるよなぁ。
でもグウェンダル?
とりあえず髪を染め直すのに人目のあるところはまずいっしょ?
砂漠の。
しかもグウェンダルの馬の後ろに乗ってる状態で染め直すわけにはいかないし。
「もちろん金は手にいれるが。そっちの懐からじゃねぇ。もっと大金を稼ぐのさ。
  首都の役人に突き出せば賞金がごっそりとはいってくるからよ。……お前ら。これだろ?」
いって、何か選挙ポスターを出してくる。
「ええ!?オレ立候補なんてしてないよ!?」
オレの言葉に、なぜか一瞬妙な間が。
「しらばっくれるな!そっくりじゃないか!」
「何!?」
「はぁ!?」
今度の驚きの声はグウェンダルも一緒。
どこがどうこのポスターに似ている。
というのか。
これ見ても、立候補者本人かどうかはわかんないとおもうぞ?
いや、まじで。
「手配。背は高く髪が灰色の魔族の男と少年を装った人間の女。
  この二人駆け落ちものにつき捕らえたものには金五万ペソ」
「ペソ!?つうか何!?駆け落ち!?何それ!?つうか!オレこんな顔でも男だって!!
  女顔なのは母さんゆずりで仕方ないだろっ〜!!!」
まさか、女顔だ。
というので学校の先生から注意をうけたり、からかわれたりしたことはあるものの。
駆け落ちもの。
といわれたのは始めてだ。
「駆け落ちだと!?私とそれがか!?」
「それっていうな!それって!というか!オレは男だってば!」
オレの叫びに、いきなり何の断りもなくオレの胸にと手を突っ込んでくるホールドしている男。
「ぎゃっ!?」
「……ずいぶんと乳のない女だな。これから成長するんだとしても。
  …ん?何だ?こいつ?首飾りなんてしてやがる」
「さわるなっ!」
思わずその手を叩いてはらいのける。
「オレの両親の唯一の形見にさわるなっ!」
ロケットペンダントに触れていう男に思わずどなる。
そして。
「ん?もうひとつあるぞ?これは…お守り…だな。ずいぶんと高価そうな石だが…っ!」
石に気づき手を近づけようとして。
なぜかいきなり手をひっこめる。
「なるほど。身を守る魔石ってことか。
  しかし。こんな男の胸としか思えないような女がそんなにいいかねぇ。高価な石をあげてまで」
「まあ顔がかわいけりゃ。そんな胸のやつでもいいってやつもいるんだろう」
「だ・か・らぁぁ!オレは男だっつうの!!胸だけで下も確かめてみろよっ!!
  ヤローに触られるのはイヤだけど!」
オレの言葉になぜか当惑顔の男たち。
「ふざけるなっ!その人相書きのどこが我々に似ている、というんだ!?」
「どうみてもにてないじゃん!というかこんなもので当人かどうかなんてわかるわけないじゃん!?」
まさか、こんな赤子とか幼稚園児、二歳児のお絵かきのほうがまだまし。
という絵で人間違いされて駆け落ちもの。
と思われるなんて。
何てこの世界はかわってる…どころじゃなくて理解不能。
男たちはオレそっちのけでオレの右腕をつかみ、その手の甲をみて。
「みろ!こいつの手に駆け落ちもののしるしがあるぞ!
  隣国じゃあ婚姻に関する咎人は手の甲に焼印を押されるからな。これで言い逃れできないぞ」
「って!それはシーワールドのフリーパス入場スタンプだってば!
  ほら!そうかいてあるだろうが!ワンデリィーフリーパスってかいてあるしっ!」
「ほう。それはそう書いてあったのか」
グウェンダルがなぜかいっしゅん、感心した声をだしてるけど。
「…コンラッドしか知らないか。地球の…しかも英語だなんて。
  つうか!ともかく!オレは男だぁぁ!焼印とスタンプの違いもわかんないの!?
  あんたたち目がわるいんじゃない!?」
オレの叫びは何のその。
「とにかく。こいつの首をへし折られたくなけりゃ。これを互いの腕にハメな。妙なまねはするな」
いって、じゃらり。
となぜか金属らしき、どうみても手錠のようなものをほうってくる。
そのまま、グウェンダルは無言でオレを捕まえている男を見据えながらそれを拾って近づいてくる。
「右手はやめろ!右手だけは!オレ右投げ右打ちだから!」
ホールドされていて息が少し苦しい。
そのまま、オレの左手と自分の右手にと手錠らしきものをかけるグウェンダル。
と。
ふとこちらに来る朝のことを思い出す。
たしか……
「ふごっ!」
「えいっ!」
カキッン!
思いっきり飛び上がり、頭突きと同ずに急所に攻撃。
男ならばこの攻撃には耐えられない。
何やらくぐもった声とどうじにオレをホールドしていた男がその場にとうずくまる。
「みたか!これぞ浜のジェニファーから身をもって知った護身術!」
ついでに足払いもかけておく。
何でも近所の集会で護身術を習ったとかで。
おふくろに実験台にされたし。
こっちにくる前の朝に。
ホールドされていた手がゆるみ、どうにか腕からのがれると。
グウェンダルがあっけにとられたような顔をして、次の瞬間。
グウェンダルが長身である特徴を生かした超長い脚で他の一人を蹴飛ばし。
入り口付近の男には体当たり。
ハイキックにまわしゲリ。
長い真空とびげりに。
何か格闘ゲームの実写版みたい。
「走れ!」
言われるまでもない。
教会の冷たい空気をふりきって、埃っぽくもまだ明るい通りをかけぬける。
手錠でつながれているので走りにくい。
足音と怒声がせまってくる。
耳のすぐ横を何かが掠めて数歩先の地面にとつきささる。
うわっ!?
何でいきなりヤリなんかなげてくるの?!
「やめてくれ〜!そんなナゲヤリな!」
冗談をいってる場合じゃないとおもうぞ。
オレ。
自分でいって自分で内心つっこみをしてしまうが。
とにかく走っていき、入り口にとまたせていた馬にグウェンダルはとびのり。
オレを鎖ごとひきあげる。
そのまま、強く馬の腹をけり走り出すと。
「「まてぇ〜!!賞金首!!」」
とか叫んでいる男たちの声が。
だから!
人違いだってすぐにわかるでしょうに!!!
…オレが黒瞳黒髪ってバレている。
というのならともかくとして。
…何しろかなりの金額らしいからなぁ。
双黒のものにかけられている賞金って……ふぅ……
そのまま、とにかく、馬をはしらせ。
その場を後にすることに。


「だぁぁぁ!腹たつぅ!!」
どざぁぁ!
なぜかいきなりオレの叫びと共に雨が降り出しどしゃ降りに。
でも何でオレたちの上空にだけに雲がひろがっているんだろう?
と疑問に思う暇すらなく、オレの頭の中は理不尽さで一杯だ。
「何でよりによってあんな絵で人間違い!?」
オレの叫びに。
「――おちつけ。濡れたままでの夜は危険だ」
手が鎖でつながれている状態なので仕方なくオレはグウェンダルの前にと座っている状態だ。
そうでもしないと、グウェンダルが手綱をつかむことすらできないから。
「これが落ち着いていられるかっての!ああもう!この鎖きれないの!?」
「無駄だ。これには法石が練りこまれている」
「??法…石?」
そういえば、以前にも何かそんな言葉を聞いたことがあるぞ?
「とにかくおちつけ。凍死したいのか?」
「…それはイヤです。というか何でオレが落ち着いたからってこの突発的な雨が止むわけじゃ……」
カラッ。
…?
「あれ?止んだ?やっぱこっちにもいきなりの豪雨ってあるんだなぁ。
  何か二年間くらい雨がこの地方に降ってない。っていってたけど」
「……自覚なし。か。とにかく、この先に岩場があるからそこで休むぞ」
「了解。」
この辺りにはサボテンも生えているので飲み水には困らない。
刃でサボテンに傷をつけて飲み水を確保する。
といった行動はどうも異世界といえども地球と共通らしい。
ついでに食べることができる。
というのも一緒らしいが。



戻る  →BACK・・・  →NEXT・・・