国境では検疫らしきことを行っていた。
警備兵たちは家畜の入国には検疫が必要。
最低でも二十日はかかる。
といってくる。
「え!?そんなにかかるの!?というかここってどうやって検疫するの!?
  やっぱ血液検査とか、病原菌の有無とか調べるの?!どうやって!?
  だってこっちじゃまだ、コンピュータないから、やっぱ全部手作業?
  いったいどうやって手作業で調べるの!?」
そういわれ馬から降りて、そんな彼らに問いかけるオレの質問に。
なぜか警備兵たちは戸惑い顔。
「お前の聞いていることは意味がわからないが。
  単なる言いがかりだ。魔族の国の馬などを入れたくないだけだ。
  人間達の馬などに対してはそんなことをやっている、とは聞いたこともない」
兵士たちにと問いかけているオレにと、あきれて何やら言ってくるヴォルフラム。
「ええ!?何で!?普通国外にいくときって健康診断とかきちんとして。
  何か持ち込みとかする場合にもきちんと検査をパスして。というのが常識だろ!?
  ペットの犬やネコを海外とかにつれてったり、つれて帰ったりするのも。
  それなりの機関できちんと大丈夫か検査をうけて。
  それから飼い主の元へ。ってことになってるしっ!」
オレの至極当然な叫びに。
「それはここではありませんよ。地球では当たり前ですけどね」
オレの言葉に笑いながら言ってくるコンラッド。
「ないの!?」
そっちのほうがびっくりだ。
それってもし誰かが病原菌とか、危険な病気とか持ってたらどうするんだろ?
それがたとえば空気感染するような代物だったりしたらさ……
「では馬は引きかえさそう」
「ですね」
ひとまず、数名の一緒に行動してきていた魔族の兵士たちに馬をことづけ。
オレたちはオレたちで、近くの現地の街で馬を買い求め、出発することに。
後からくる別働隊は馬車を調達してくるらしい。
レンタカーとかあれば楽なのに。
オレは運転できないけど。
コンラッドは地球に一時住んでいたことがあるので出来るだろう。
そういや免許もってるのかな?
持ってた場合は更新とかどうなってるんだろうか……
やっぱり更新不備で取り消し…かなぁ??
出来れば、車があれば、自然にやさしい水蒸気車かソーサラーカーが希望。
オレにとっては果てしなく続く砂漠にしか目の前の光景は見えないが。
この世界の常識では、この程度のモノは砂漠。
といえる規模のものではないらしい。
ということは、それだけ森林破壊とかがこの世界でもあった。
ということだろうか。
それとかむやみやたらの野焼きとか。

相乗りは別の意味でも暑いし。
国の半分がほぼ砂地の国。
砂漠を渡ったことがない、というオレは一人での馬は危険だ。
というのでなぜか人の後ろに乗って移動することに。
「普通砂漠の移動ってさ。
  涼しい夜のうちにと移動して昼間は穴をほって休むもんじゃないの?あついよ〜……」
昔見た、サバイバル本には確かそう書いてあったと思うけど。
「そんなことをしてみろ。こっちの身が危険だ。」
「陛下。ここにはいろいろな動物がいるんですよ。しかもカモフラージュして活動するものも多くいる。
  夜動くのは大変に危険な行為なんです」
「そうなの!?……砂漠っていったら、普通定番はヘビとかサソリとかじゃなくて!?」
あと恐いのは流砂とか。
コンラッドの言葉に思わずびっくり。
ヴォルフラムはこの状況を楽しんでいるようだ。
オレと相乗りしていても、楽しいどころか暑いだろうに。
総勢十人程度のオレたちは月の砂漠ならぬ昼の砂漠を渡っている。
うちの十数名は馬を連れて一度眞魔国内部にともどったし。
他の別働隊は馬車を調達して後から合流するらしい。
横に並ぶコンラッドとはなしつつ。
「どうしてあんたたちあつくねぇの?」
「訓練かな?」
とかいってくるし。
そういえば、オレ以外の誰も汗も何もかいてない。
進み始めてオレの時計が示す時間はすでに一時間にさしかかろうとしている。
さすがのオレも暑さに対して我慢の限界に入りかけてるような気がする。
と。
「あれぇ?何かかわいいのがバンザイしてるぞ?」
何でこんなところにあんなものが?
「何をいっている。僕には何もみえないぞ?」
オレの言葉に淡々といってくるヴォルフラム。
「やっべ〜。幻覚みえてきたかな?でもやっぱりパンダはかわいい。うん」
砂漠のドマンナカでバンザイをしているのは、どうみてもジャイアントパンダ以外の何者でもない。
そんなオレの言葉に。
「バンダ!?…っ!とまれっ!!」
コンラッドが何かいきなり叫ぶと同時。
ずぼっ!!
「うわっ!?」
オレたちの前にいた兵の辺りがいきなり姿を消す。
そして、少ししてオレ達が乗っている馬もなぜか砂の中にとのみこまれる。
「流砂!?って…でなくて!?何でパンダ!?」
オレたちが飲みまれた砂。
何だか蟻地獄のようになっているその底に、どうみてもパンダの姿が。
なぜか蟻地獄らしきその底に、どうみてもパンダ、としか思えない動物がいるし。
「どうなってんの!?」
オレの叫びに。
「ヴォルフ!!?」
「うわぁ〜!?」
手を伸ばすがヴォルフラムはそのまま、すり鉢状にとなった砂の底にとおちてゆく。
馬もそのまま、底にと飲み込まれていっている。
オレも落ちそうになるものの、何かにさえぎられてスピードがとまる。
みれば、コンラッドがいつの間にか下にきていてオレを支えてくれている。
ついでに背中をなんでかグウェンダルがつかんでる。
「何これ!?そうだ!ヴォルフラムがっ!オレより先におちたんだよ!
  それにほかの兵士たちも!みんなどうなっちゃうの!?まさか死ぬなんてことはないよなっ!?」
オレの叫びに。
「運がわるければな」
「そんなっ!」
上でグウェンダルがいってくるし。
「大丈夫。あいつを何とかして抜け道を見つけさえすれば。
  それまで息が持ちさえすれば何とかなります。さ。陛下ははやく登って!」
「でも!助けにいかないと!
  あんな大きなジャイアントパンダ相手にヴォルフラム勝てるかどうかわかんないしっ!」
それにほかに落ちていった兵士たちのことも心配だ。
そんなオレの言葉に。
「お前がいって何になる」
頭上からグウェンダルが容赦なく突っ込みをいれてくる。
「そうだけど!ほっとけないじゃん!兵士たちもだけど、ヴォルフラムも!
  それに、兄弟だろ!?助けにいってやれよ!オレなんかよりも弟の腕をつかんでやれよ!」
上下、交互にみつつ、コンラッドとグウェンダルにと話しかける。
「おっしゃる通りかもしれませんが。今は陛下を安全な場所にお連れするのが先です」
オレをじりじりと押し上げるのと同時。
タイミングを見計らい、グウェンダルがオレを引き上げる。
「よくないっ!」
オレの言葉に、ちらり。
とオレをみるものの、すぐに下にと視線を移し。
「陛下が第一。だ。それは全員同じこと。ヴォルフラムだって一人前の武人なんだから。
  それくらいの覚悟はできているはずだ」
「けど!…オレはあんたたちに弟を見殺しにするような人でいてほしくないんだよ!」
今、ヴォルフラムや兵士たちを助けにいけるもの…それは。
「…いったよな。コンラッド。オレの命令でうごくって」
「…それは」
「いっただろ?オレのサインでうごくんだって。だったらヴォルフラムを助けにいってやれよ!」
オレの言葉に。
しばし、オレをみつめつつ。
「…命令。ですか?」
「そうだ」
オレの言葉に。
「グウェンダル。陛下を」
「ああ」
その言葉と同時にオレは最後まで引っ張り上げられる。
横をみればほっとしたオーラがグウェンダルから見て取れる。
表情的にはほとんど代わりがないけども。
「ヤツの抜け道の見つけ方はわかるか!?」
「あいつに出くわすのは三度目だ!ではスヴェレラの首都で!」
いって、コンラッドは持っていたロープを話してすり鉢の奥深くにとおりてゆく。
すでに、もうパンダの姿はどこにも見当たらない。
「…コンラッド…ごめん」
謝るしかできないけれど。
だけど、オレは彼にも誰にも誰かを見殺しにする。
なんてことはしてほしくない。
それがましてやオレのためなんかに。
「怪我はないようだな。…いくぞ」
「あ。はい」
オレをざっと見て一言いい。
オレを自分の馬に乗せて言ってくるグウェンダル。
ほかの兵士たちもどうやら砂にとのまれたようだ。
…無事だといいけど。
気づけばいるのはオレとグウェンダルの二人だけに。
…どうか皆無事でありますように。
と切実に願ってしまう。


「ラッキー。雨降ってない。っていってたけど」
グウェンダルと相乗りしはじめて少しして、かるく雨が降り始める。
砂漠の道は大分楽。
「お前は平気…なのか?」
「何が?」
何かオレの前でグウェンダルが深くため息をついてるし。
何かあきれたようなオーラが感じ取られるんですけど。
そりゃ、オレだってコンラッドたちのことは心配だってば。
だけど。
今は信じるしかないじゃん。
日がかげる少し前に小雨もやみ。
服が乾いたころに、やがて視界の先にと何かがみえてくる。
とりあえず、今の雨で水は確保できたわけだ。
以前面白半分に簡易浄化装置の蓋もどきをもってきていたのが役に立つとは。
コンラッドがオレの水筒にと、それをつけていてくれたおかげで雨水も飲み水となる。
視界の先にある建物らしきものは。
どうやらコンクリートに近い茶色い物質でつくられているらしい。
砂丘の砂を水とまぜてブロックにしたものだろう。
中央の大きな建物だけは巨大な石造りだ。
よく暑いところでみる町並みにとよく似ている。
といっても、テレビとか雑誌とかでしかオレは見たことないけど。
「…どういう街だろ?」
女性が何か歩き回り、子供は地べで遊んでいる。
ぐるり、と土地を取り囲んでいる警備兵は異様に多いが。
男の住人の姿はない。
オレたちが馬のまま、街にと乗り入れようとすれと、警備の兵らしき人がよってくる。
…しかも、何でかモヒカンガリ?
なぜか全員が全員とも、昔、日本で流行ったモヒカンカット……
えっとぉ…
東部の一部だけを残して剃り、その髪を染めている。
……
「い…いくらの軍艦巻き……」
思わず感想がもれてしまう。
「馬ははいれねぇ」
その言葉に、グウェンダルは黙って蔵からおり。
オレに手を貸す降りをしながら、小さく顔を隠すようにといってくる。
「馬を休ませたい。それと水。食料も調達したい。金ならある」
いって何やら重そうな皮袋を取り出し、じゃらり。と鳴らす。
それをみて、集まってきていた男たちはにやつき。
「きな」
いって、街の中にと案内してくれる。
しっかし、彼らのオーラ…何か気持ちわるいんですけど??
街は選挙でもあるのか、いたるところにポスターが張ってある。
男女二人の立候補者の顔は幼稚園児の傑作レベル……
これじゃあ、当人たちを見ても、わかんないってば…・・・ 



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