「ポーチ?」 オレの言葉に首をかしげまくっているギュンター。 「ああ。ウェストポーチですね。しかもビニール製…これ、見たところ安物っぽいですが?」 「うん。そりゃだって五百円だし」 「…それは…かなりの安物ですね……」 「だってオレ学生だし」 コンラッドとそんな会話をしていると。 「ギュンター!!ユーリを迎えにいくのが兄上だけ!というのはどういうことだ!? 婚約者のこの僕に何の知らせもないとはバカにするにもほどが……」 などといって、部屋に駆け込んでくるヴォルフラムの姿が。 そして。 ふと、オレにと目をとめて。 「…ユーリ?」 「よ!ひさしぶり〜!!…りにゃ!?」 いきなり顔をつかまれ口を引っ張られる。 「ヴォルフラム!何をするんですか。陛下の綺麗なお顔に跡でも残ったら承知しませんよ!」 そんなヴォルフラムの行動をみて、顔色を変えていってくるギュンター。 ヴォルフラムはしばらくオレの口を左右に伸ばし、ひっぱりつつ。 「…本物のようだな」 ? 何かオレから手を離してそんなことをいってくるし。 本物って…何が? 「本物だよ」 「ということは兄上が迎えにいったというのは誰だ?」 ヴォルフラムが兄上、と呼ぶのは一つ上のコンラッドではなく長男のほうだ。 この三兄弟。 長男にグウェンダル。 次男にコンラッド。 三男にヴォルフラム。 外見からはまったく似てないし、思考もまったく異なるこの三人が実の兄弟だ。 というのだから驚きだ。 まあ共通点といえば、まず頑固なところと。 そしてまた、笑った顔が似ている…ということか。 父親がそれぞれ違うから外見がまったく異なっているらしい。 三男のヴォルフラムは母親譲りの顔立ちだけど。 でもオレと違ってきちんと男の子に見えるからなぁ。 こいつの場合は…… 「一体何なの?本物とか偽者とか?確かにオレは王様として胡散臭いけど」 アゴをなでつつ問いかける。 王様らしいことはまだ何もしてないし。 しいていえば、カヴァルケードと友好条約を結べたくらいか。 しかも偶然で。 オレの言葉にオレの教育係兼補佐官はいいにくそうに咳払いをして、しばらく言いよどんでから。 「実は…陛下の御名を語る不届きものが現れまして……」 何だって? 「え!?渋谷有利原宿不利とか、ユーリとかユリティウスとか!?」 そんなオレの言葉に。 「いえ。そこまで詳しくはございません。わが国の南に位置するコナンシア。 スヴェレラで捕らえられた咎人が魔王陛下だというふざけた噂が流れてまいりまして。 我々としましてはそんなはずはない。と取り合わずにおりましたが。 処刑の日取りが五日後に決まったことでいささか不安に……」 いって口ごもるギュンターにと代わり。 「つまり。もしも陛下が俺達の知らないうちにこちらの世界。 それも眞魔国以外の土地に疲れていた可能性も否めない。と。 何しろ陛下のそばには猊下がいらっしゃいますからね。 その可能性もなくはないのでは?…ということで。改めておよびしたわけです」 にこやかにギュンターに代わり説明してくるコンラッド。 「…罪……って…しかも処刑って…その人何やったの?」 「無銭飲食。らしいですよ?」 がくっ。 「もう少しかっこいい罪だといいのに…オレの偽者さん……」 たとえば悪者をやっつけて、逆に捕らえられた。 とかさ。 コンラッドの苦笑まじりの言葉におもわずがっくり。 せっかく『産まれて初めてのそっくりさん』だというのに無銭飲食…何て情けない…… 「ま。とりあえず。とにかくオレはアンリと一緒にシーワールドにいってて。 で、大勢の見ている前でイルカショーの最中にショーのプールに引っ張られてまっさかさま」 「……大勢の前で…ですか?」 「そ。しかも夏休みに入ったばかりだから、客席満員の中でね。 アンリがどこまでごまかせるか…って、絶対に無理だとおもうし。 とりあえずとっとと用事を済ませてもどったとしても五分とでもかかったらヤバイし。 …出来たら一回あっちにもどってから出直したいなぁ…とか」 騒ぎになるのはゴメンだし。 「しかし。ここから眞王廟にいくのには最低十日はかかりますよ?」 「十日!?だったらその前にオレのそっくりさんが処刑されちゃうじゃん!?先に助けにいかないと!!」 オレの言葉に。 「そういうとおもってました。馬はすでに用意させてます。 時間についてはウルリーケに眞王に直談判してもらいましょう。」 「それしかないね。…でも何でオレの偽者。なんて噂が流れたんだろ? オレってそんなに有名人なのかなぁ?しかもグウェンダルがお迎えにいったって?」 そんなオレの疑問に。 「何でもその咎人は魔王にしか使いこなせない品を所持していたという情報が入ったのです。 魔族の至宝。ともいうべき貴重なもので二百年ばかり前に持ち出されて。 以後行方がわからなくなっていたのですが。 その情報が事実ならばぜひとも我々の手に取り戻さねばなりません。 二十年前に探索のものを放ったのですが。そのモノがグウェンダルの係累なもので」 「係累?」 「従兄弟です」 「なるほど。つまり従兄弟を心配してグウェンダルが出向いたのか……」 オレの言葉に三人とも浮かない顔。 何か他にも原因がありそうだ。 「ともかく。じゃあ今度のお宝はオレじゃなくても持ち歩けるんだ。 手がしびれたり、噛み付かれたり。ゲロをリバースしたりしないやつ。」 モルギフの情けない顔が昨日のことのようによみがえる。 アレに比べれば、かわいく無害な宝物らしい。 今ではモルギフも何やら『あいきょうのある面白い顔のある剣』と成り果ててるけど。 「そうですね……。持ち歩くことは可能でしょうね。 お吹きになられるのはこの世で陛下お一人だけですが」 お辞儀をしつつギュンターがいってくる。 「吹く?」 「ええ。スヴェレラで目撃されたのは、魔族の至宝、『魔笛』ですから」 「なるほど。魔笛か。父上からお聞きした話によれば、それはもうすばらしい音色だということだ。 天はとどろき地は震え、波はうねって嵐を呼ぶそうだ。 一度は聞きたいとおもってたんだ。楽しみだな。ユーリの笛の腕前も」 腕を組みつつ言ってくるヴォルフラム。 嵐を呼ぶ…って…大津波とかじゃあるまいし。 又は台風とか?ハリケーン? 「えぇ〜!?オレが吹くの!?無理だって。 普通のリコーダーでしか笛なんて吹いたことないよ!?あとハーモニカとかしかさ!」 一応、授業の一環で笛のテストを受けているので否が応にも吹けるけど。 ……テストがあった曲のみは。 あとは簡単な曲とかさ。 「ま、ともかく!早くオレの偽者を助けないと!」 オレに間違われ、処刑されるなんて許せない。 しかもその罪は無銭飲食。 ときたもんだ。 普通無銭飲食なんて、そういう犯罪は皿洗いで免除でしょ!?
とりあえず、先発隊がいる。 という場所にと馬にのり、移動していくことに―――
「…なぜそいつがここにいる?」 なぜかため息まじりに言ってくるグウェンダル。 黒髪と黒瞳は目立つのでコンタクトを入れ、髪を染めての出発。 ついでに砂漠を移動するらしいので必要とおもわれるものをもってゆく。 「スヴェレラの囚われ人は偽者だ。と直接説明されるらしい」 蔵に足をひっかけてしまい、馬の腹で四苦八苦しているオレに手を貸しながら。 コンラッドがさわやかに、グウェンダルにと説明してくれる。 「説明だと!?お前がか!?」 「そう。だってオレに間違われている人って無銭飲食しただけだろ!? オレに間違われて諸兄されるなんてオレは許せないし。 だったらオレが出向いていって誤解をとけばいいじゃん! 魔王に間違われて処刑されそうになってるんだしさ! 絶対にオレのそっくりさんを処刑になんかさせない! 湖南省だかカブレラだかという国まで行って。 ついでに魔笛をゲットできたらそれにこしたことはないしっ!」 そんなオレの言葉に。 「コンラート」 「何か?」 右の眉だけをかすかにあげて、コンラッドにと視線をむけるグウェンダル。 あ、何か不機嫌オーラがでてるし。 「こいつらを連れて帰れ」 「こいつらって僕もですか!?」 ヴォルフラムが同じ扱いをされて憤慨してるけど。 「申し訳ないけど、俺は陛下の命令で動くので」 さらり。 とグウェンダルに即答しているコンラッド。 何かそういうように言われたら、自分が偉い、と錯覚してしまいそうだ。 何も王らしいことは出来ていないというのに。 それに、しがない野球小僧としても、まだまだ偉大な男でも何でもないし。 「……勝手にしろ」 何かそっぽをむきつつ、オーラがあきらめの色にとなっている。 彼なりにオレを思ってくれているのは判るけど。 だけどグウェンダル? オレはじっとしているなんて柄じゃないんだよ。 そのまま、グウェンダルたちと友に馬をすすめてゆく。 隊のものはオレたちに気を使ってちょっと離れてしたがっている。 真夏の太陽を馬を操りつつみあげてみる。 どうやらこちらも今は夏真っ盛りであるらしい。 全員アラビアのロレンスみたいな格好で白っぽい布で日差しから身を守っている。 距離は短いらしいが砂漠、というか砂丘も通過するので暑さ対策もかなり重要。 とのこと。 ギュンターは止めてきたけど、近所づきあいが最も大事といい含め。 ギュンターにと日本の一般常識をとく。 ギュンターを納得させるのは。 『ご立派です。陛下!』 といわせればいい。 と幾度かの攻防で理解できてきたし……
「…川…だよね?」 川らしきものが完全にと干上がっている。 眞魔国とコナンシアとかいう場所を分けている川は完全にとひび割れた地面までもが露出している。 幅は軽く…どうみつもっても数百メートル…いや、一キロは軽くこれは絶対に多分超えている。 ……川にいた生物たちはどうしたんだろう? 誰か雨を操る人とかいてもおかしくない国柄、というか異世界だ、というのに。 「水があったらすごい光景なんだろうなぁ」 ちょっとみてみたいぞ。 「ああ。内戦中は人間達の死体がどんどん流れ着いたらしい。 奴等は我々の土地に入りたがらないからな。引き取りにこなくて困ったそうだ。 流れが強いものも考えものだな」 そんなことを言ってくるヴォルフラム。 「い、いや。そういう意味のすごいでなくて……」 魔笛は雨を降らす。 とか何か、先ほどコンラッドが教えてくれたので、手に入れたら帰り際に吹いてみよう。 川を渡りきると丸太で作った簡単な柵があり。 こちらの数倍の兵士が川岸にと滞在している。 国境が物々しいのは当然といえ。 魔族がスヴェレラに侵攻した、という歴史はないのだからもう少し友好的でもよさそうなのに。 兵士たちの構えた槍の矛先は、オレたちにと向かって遠くから構えられているし……
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