男同士でシーワールド。
あちらとこちら…つまり地球と異世界を行き来しはじめて、
早いものでこちらではもう二ヶ月が経過する。
じめじめした梅雨も終わり、野球チームも起動に乗っている。
今のところ、公式戦はすべて連勝中。
「でもさぁ。普通先に券買う?」
「ほっといてよ」
前々から中のよかった女の子に告白しようとして、
ご丁寧にシーワールドの前売りチケットまで買って備えてたらしいアンリ。
だがしかし。
「…彼がいるって気づかなかったんだから」
ほとんど落ち込み状態。
オレもその子には数回ほどあったことがあるけど。
「しかも!ユーリにも責任があるんだぞ!」
「責任転化するなっ!」
……どうやら、オレは男の格好をしている女の子。
と思われていたらしく。
……にこやかに、『ダブルデートしない?』といわれて落ち込みも倍増らしい。
……つ〜か、オレのほうが落ち込みたいよ……
払い戻すのもやっかい。
というか面倒。
しかも、期日指定券というのは融通が利かないことこの上なし。
七月末近くの土曜日では、まず誰もが予定が入っている。
かくいうオレも西部ドームのナイターを見に行く予定ではあった。
夏休みに宿題が山とでたものの、
アンリとあちらにと出向いていって、こちらの日付では一日で全て終わらせている。
実際は一ヶ月と少しあちらに滞在しつつ、宿題をこなしたんだけど。
その方法をいってきたのはもちろんアンリ。
いつ、あっちに呼び出されるかわからないから、とっとと宿題は終わらせよう。
と提案されてそれを実行したに他ならない。
その結果。
無事に宿題は終わり、とっとと学校にもっていって机の中にと入れている。
もともと、昔からアンリもオレも宿題は先に済ませて、学校にもっていっておく。
というタイプだったけど。
あちらの国をそういう時間短縮の場にするとは、今回目からうろこ状態だ。
……ま、一ヶ月と少しかかったのはあちらの仕事もこなしつつ…だったから仕方ないけど。
まあ、それはそれとして。
「…しかも手には何か押されるし……」
フリーパスの一日有効スタンプをみつつ、思わずため息。
特殊インクで恐れたそれは、スキャナーをくぐるときに青く光り反応する。
「そりゃ、水族館は落ち着くけどさぁ〜……せめてオレも彼女と来たいよ……」
いまだに彼女いない暦十五年。
ちなみに、明日で十六年目。
…でもあっちでは、十六になったことは明日以降もしばらく言わないほうがよさそうではあるが。
「じゃぁさ。手でもつなぐ?」
「あのなぁ〜!!それこそ誤解されるだろうが!
  そもそもオレ明日で彼女いない人生暦十六年目に突入だよ!?」
「あっちではもててるじゃない。フォンビーレフェルト卿とかさ♪」
「男同士だってのっ!!」
アクアチューブを抜けつつも、そんな会話をしているオレとアンリ。
「ユーリは外見で女の子。と思われちゃうからねぇ。
  それはそうとして、明日誕生日かぁ。ユーリ。気をつけてよ?」
「何が?」
「ソフィアさんの封印が明日から解け始めるから。
  君の力不安定になってるハズなんだよね。力というか、コントロールとかもさ」
「そもそもオレ、自分にそんな力があるとは思ってないし。
  …って最近すこぉ〜し理解でき始めたけど……」
でも覚えていない。
というのに変わりはない。
状況証拠や周りの証言で、信じざるを得ない…というか……
「でも十六かぁ。あっちでは成人だねぇ。
  目録とか考えないと。徽章はユーリのお父さんのがあるから問題ないだろうし」
「…アンリ?何かたのしんでないか?」
「そりゃあ。アレってかなりつらいからねぇ♪」
「……やりたくないです」
何でも十六になったら、これからのこととか、将来どうする。
とか決める儀式があちらの国ではあるらしい。
…しかも、かなりの人たちに囲まれて。
ついでにいえば、オレは十六になる前に王として即位している。
というのもあり、関係者の皆様方が全員ご出席になるのでは?
とアンリいわくいってるし。
戴冠式並みになる可能性が大の中で、抱負を述べないといけないとか……
かんべんしてよぉ〜……
といったのが本音。
人生の抱負って…何?
国の事の将来を見据えた発言?
それとも個人の?
しがない高校一年生には重責だ。
……よくあっちの魔族の人たちは、見た目五歳児でそんなことできるよなぁ。
と改めて感心中。
「そういえば。ジェニファーさん。はりきってるって?」
「まね。…今年はまた女装…させられなければいいけどなぁ……」
「あ。それ無理」
「…やっぱし?」
毎年、誕生日になると、アニキとオレは女装をさせられてカメラにと収められている。
しかも着せ替え人形よろしく。
これも全ておふくろの趣味のせいだ。
そんな会話をしつも、そのまま人ごみと一緒にまぎれて道をすすんでゆく。
さすがに夏休みに入った初日の土日、ということもあり、家族連れでにぎわっている。


「ユーリ。ほら。番号カードをとって」
「は?あ。ああ。すいません」
気がつくと、笑顔の係員が緑色の紙切れを差し出してきている。
何の気なしに歩いていたら人ごみに流されて、海のお友達コーナーまで来ていたらしい。
屋根がなくなると急に暑さが襲ってくる。
水色のベンチをまたぎながら、席を求めて階段を下りる。
正面には真っ白いステージと、内部の見られるプールが広がっている。
その先に見えているのは広い海原。
真夏の日差しは結構くる。
思わず手で視界を額のところでさえぎるように日陰をつくる。
「う〜……汗が流れるぅ。膝の後ろを汗がつたってるぅ……気持ちわるいぃぃ……」
「そうかな?ユニフォームや制服や制服もどきのときより数段涼しそうだけど」
潮風も含んだ風も生ぬるい。
「それとこれとはまったく違うよ。う〜ん。夏なのにぃ。
  夏といったらやっぱりビーチで水着のおね〜さんたちとビーチバレーなのに……」
そんなオレのつぶやきに。
「両方いるじゃん。ほら。ステージ上に」
「あれは調教師とショーの動物じゃん」
今いるのはアザラシや、アシカ、そしてイルカなど。
とりあえず少しでも暑さを紛らわせるために、来週の練習試合のオーダー表などを頭の中で考える。
それとか他の国とどうやって友好条約を結んでいけばいいか。
とか。
う〜ん。
少しはオレも王らしいことを普段から考えるようになってきているのかも…?しんない。
あとは。
あっちの世界には花火大会とかないのかなぁ?
とか。
そんなことを思いつつ、
のんびりとショーの進行具合を眺めつつも首の後ろの力を抜いてショーの進行を眺めているオレ。
アシカがサッカーボールをヘディングしてバスケットのゴールにシュート。
続いてウェットスーツ姿の進行係りの女性が、ピンクの箱らしきものを思いっきりころがして、
何がでるかな?状態に。
何かサイコロみたいだけど。
ちなみに、アシカもそれを転がして。
周りの観客からは、
『かわいいぃ〜!!』
といったコールがあがっている。
「は〜い。二十七番のお客様ぁ!どうぞステージ上にいらしてください!」
隣のシートでは子供が父親の肘にすがりついて泣き始めてる。
何か恐い思い出でもあるんだろうか?
…海の生き物に関して。
「すごいじゃないか!ユーリ!こんな満員の中で当選するなんて!」
推定でも百人かそこら、軽く見積もっても五十人以上は超えている。
席はすべて人で埋め尽くされている。
「…何が?」
「カードのナンバー二十七番のお客様ぁ!いらっしゃいましたらどうぞステージ上におあがりください!」
何か進行係りの女の人がいってるけど。
…二十七番って……
……何かいやな予感……
おそるおそる、先ほどもらった紙をひらく。
何しろ、その数字があまりの偶然でさっきまで、すごい偶然だなぁ。
とおもっていた数字であるがゆえに、間違えようがない。
「早くいかないといない。とおもわれちゃうよ?隣の子なんか外れてくやしがってないてるし。
  は〜い!今いきま〜すっ!!」
言ってアンリはオレの手を握って高々とオレの手を掲げてる。
ってちょっとまてぃ!
オレはいけにえ…もどきにはなりたくないっ!!
「本当。ユーリってクジ運とかいいよねぇ」
「ちょっ…ちょっ!?アンリ!?」
何か果てしなくイヤな予感……ま、まさかアレではありませんように……
オレの手をつかんでぐいぐいと引っ張りつつも、あんりは自分のことのようにと階段をおりてゆく。

アンリと一緒にオレもステージ上に。
何でもつれは一緒にステージに上がってもいいらしい。
ウェットスーツで営業スマイルの調教師の女の人は、自分の青い帽子をオレにとかぶせて。
手馴れた様子で小さいモノを取り出し指先でならす。
「おめでとうございます!はい。こちらが景品のイルカちゃんキャップとストラップ。
  それにドルフィンキーホルダーです。
  じゃ。ストラップとキーホルダーはなくさないようにズボンのベルトにつけておきますね」
いいつつ、キーホルダーを引っ張ると、ヤツの泣き声が……
「うわっ!?」
思わず逃げ出したくなってしまう。
思わず浮かぶイヤな汗のまじった乾いた笑い。

…イルカだけはどうしても苦手なわけがある。
オレが二歳のころ兄貴とおふくろと親父の四人で海にいったとき。
オレは何を考えたのか一人浮き輪をもったまま、ちょっとおふくろたちが目を離した隙に沖合いにでたらしい。
そのとき、こころぼそさに泣いていると、オレの周りに何やら巨大な群れが。
しかも、口をあけてこちらに向かってくるし。
あまりの恐怖に泣き出したところ、雷を伴ったいきなりの強い雨までもが降り出して。
その巨大な群れ…それはイルカの群れだったのだが。
イルカたちはオレを岸近くまで運んでくれたものの。
まだ小さいオレにとって、それは恐怖以外の何ものでもなかった。
助けてくれた。
というのは理解はできても、恐怖とはまた別。
目の前であの口をあけられたとき、オレはここで死ぬんだ。
と本当におもったし。
…そんな経験があって、いまだにイルカだけは苦手なオレ。
彼らはオレを助けてくれた。
というのは判る。
判るが…足をくわえてひっぱることはないだろ!?
まじで恐かったんだから……
小さな、まだ思考すらおぼつかなかったオレにとって、足を加えられて左右には巨大な物体。
さらには後ろからもつつかれ、押されてる。
こんな経験をして恐くない。
というのが嘘だとおもう。
義母さんや義父さんたちは、イルカが助けてくれた。
と大喜びだったらしいけど。
それがいまだにオレのトラウマとなっているのも…また事実。



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