「アンリも来たの?」
オレの問いかけに。
「エドにも困ったものだよねぇ。引っ張られる気配を背後に感じたから。
  ごまかす、というか後ろに目を向けさせないようにするの大変だったよ。まったく……
  なので文句の一つでも言おうと思ってきたんだけどさ」
ざばざばと池の中からでてきつつ、そんなことを言っているアンリ。
いや、文句って……
「ここ。奥の中庭だね。何かなつかしぃなぁ。そういえば僕、ここにはまだ来てなかったなぁ」
などと周りをみてそんなことを言っているアンリだし。
そんなアンリに、にこやかに。
「昔よくここでいろいろとお話していましたものね」
「だよねぇ〜」
何か二人して意気投合しているウルリーケとアンリの姿。
「?ウルリーケ?アンリ?」
オレの疑問視する声に。
「あ。申し訳ありません。陛下。猊下とは昔、わたくしお友達だったもので」
「友達なのは、今もだけどね。五百年前僕は女の子だったし。名前はリアナ。
  エドに挨拶に行こうとして、神殿の奥の神の間に入り込んだところ。
  当時三歳だった僕はウリちゃん……でなかったウルリーケにみつかっちゃってねぇ。
  両親というか母親とおまいりにきてたんだけどね」
あっけらかん、と何やら途方もないことを言っているアンリ。
「あのときはびっくりしましたわ。何しろ賜詞巫女しか入れないはずの神の間の扉を、
  小さな女の子が空けてはいているんですもの。」
「賜詞巫女は基本的に百年に一つ歳をとるか、とらないか、という種族だからねぇ。
  やっぱ三歳児の注意力って散漫だよね。あはははは」
「でも、一歳くらいまでは普通の人間と同じ成長ですし。本当。あのときはびっくりしましたわ。
  子供をみつけてわたくしも中にと入ったら、何と眞王陛下の魂…
  しかも、姿を現されている眞王陛下と女の子が話しているんですもの」
「で。ばれちゃったんだよねぇ。リアナが…つまり、僕が双黒の大賢者だって」
何だかとほうもない会話をしてないか……?
この二人って……
「リアナ?というと五百年前。若くしてなくなったという。金のリアナのとこですか?もしかして?」
そんな会話にギュンターが驚いたようにと問いかけているし。
「何かそう呼ばれてたね。もっとも、彼女達がぼくのことだまっててくれたから。
  周りはその事実をまったくしらなかったけど」
「だって。眞王陛下と猊下に頼まれれば、当然のことですわ。
  それに当時わたくしも幼子一人でさみしかったですし。
  年齢的には三百に近かったですけど、見た目の年齢は四・五歳でしたしね」
百年に一歳の割合って……じゃ、少なくとも千歳近いの!?この子!?
……こ、この世界の常識っていったい……
何か驚かされっぱなしだよなぁ…オレ……
「でもそんなに若くもないよ?死んだの確か百歳くらいだったっけ?」
いや、だから、さらっというなってば…アンリ……
「正確には百二十五歳ですわ。いきなり死ぬことになったから。といわれて驚きましたもの」
「だって当時の魔王に何か感ずかれかけてたんだよねぇ。元々僕の力は特殊だから。
  普通の魔王の力なら最大限にまで高めるブースター機能発揮するし。
  ユーリの場合は逆にリミッターに近いけど。ユーリは特別だからね。
  だからオンちゃんとも相談してね」
・・・?
オンちゃん?
…誰?それ?
「それはリアナが死人をよみがえらせたりするから。
  オンディーヌ様もあのときは、ごまかすのに大変でしたのよ?」
「いや…つい……」
『ついって……』
ウルリーケとアンリの会話に、
思わず同時に突っ込みをしているコンラッド・ヴォルフラム・ギュンター・そしてオレの四人。
「ま、あのときから自分の力にさらにセーブつけたしね」
「それは遅すぎなのでは?」
「まあまあ。別にいいじゃん。ところで?何で今回ユーリをここに呼び出したの?」
「さらり。と話題を変えましたわね」
アンリの言葉にくすっと笑い。
「とにかく。陛下。お風邪を召されたら大変です。
  リア…でなかった、猊下も。お二人ともお着替えになってください。
  それから託宣の間にと案内いたしますわ。話はそこで」
頭をふかぶかと下げていってくるウルリーケだけど。
「了解」
いや、アンリ。
一人で了解されても……
二人で何やら勝手に話を決めてるし……
「とりあえず、服を着替えさせてもらおうよ。ユーリ。
  そういえば挨拶が遅れたね。久しぶり。ウェラー卿・フォンクライスト卿。
  それにフォンビーレフェルト卿」
にこやかにいって、かるく頭を下げるアンリに。
「猊下?今のは本当のことなのですか?猊下が金のリアナだったって?」
「そうだけど?」
ギュンターの言葉に、即答しているアンリ。
「さらっと肯定しましたね。ま、オレは前地球の魔王に聞いていたので知ってましたけど」
にこやかな笑みを浮かべていっているコンラッド。
あ。
ギュンターとヴォルフが何やら絶句してる。
「え!?ボブおじさんから!?オレは何も聞いてないよ!?」
「ユーリには話せないって。下手に話でもしたら……
  自らの本質思い出され出もしたらそれこそ今のユーリにはその力に耐えられないし」
「??オレの…何だって?」
「ああ。気にしない。気にしない。言葉のあやだよ。ともかく、いこっ」
いや、何か気になる言い回しだったぞ?
今のは…アンリィ〜……
「ご案内いたしますわ。みなそれぞれの職場にともどってくださいね。
  あなた方は彼らの護衛をお願いいたします」
『はっ!!』
ウルリーケの言葉に従い、女の人たちはそれぞれ、建物の中にとひっこんでゆく。


「着替えもってきてたんだ。毎回ながらサンキュ〜」
部屋にと通され、用意されていた服にと着替える。
「そういえば。アンリの服は?」
オレの質問に。
「僕のは大丈夫だよ。いくつか予備を置かしてもらってたし」
……いや、いくつか…って……
「猊下はこちらにこられるたびに。土いじりとか、その他の指導とかをされてたんですよ」
笑って説明してくるコンラッド。
どうやらウルリーケから話を聞かされているらしい。
…そういえば、アンリの趣味の一つに園芸もあったんだった……
オレは何か学生服のようなつくりの服。
アンリは紺色の上下の服。
結構着やすそうだ。
ここは、主、というか、女性のみのいわゆる聖殿らしく。
参拝者の男性とかも手続きがいるらしい。
といっても、一般の人々が入れるのはある区間まで。
年に一度例外もあるらしい。
何でもその年に生まれた子供を眞王にと報告する儀式とか。
そ〜いうのは、どんな世界といえども、異世界、といえども共通らしい。
日本にもお宮参りとかあるし。
着替え終わり、ウルリーケを先頭に、オレたちはさらに奥に、奥にと進んでゆく。
しばらく奥に進むと広い中庭があり、その中央にある一つの建物。
その建物の中にと入ってゆく。


「わ〜……」
思わず感嘆の声がもれる。
落ち着いた雰囲気の何やら薄明るい部屋。
それだけではなく、中はひんやりと、しかも中央の道以外には水が流れ落ちている。
まるで水族館のドームの中にでもいるような静けさとここちよさ。
水音が気分を落ち着けてくれる。
「ここが託宣の間。わたくしたち巫女が眞王陛下のお言葉をうけるところです」
ウルリーケの言葉に。
「この奥に神の間、って言われているところがあるんだよ。
  ほら、あの紋みえる?あの紋の下が入り口になってるんだけど。
  入ることができるのは僕とウルリーケくらいかな?今のところは」
アンリが追加説明をしてくれる。
つうか……
「でも何か大変だよなぁ。死んでまで働かされてるなんて」
オレのそんな素朴な疑問に。
「エドはそのためにもこの地上に降りてきたんでしねぇ」
??
アンリが何か意味ありげにいっているけど。
「初代魔王である眞王陛下の御霊は我々魔族の行く末を見守っていてくれているんです。
  ときには指示をだされつつ」
アンリとオレの会話に割って入り、ギュンターが説明を入れてくれる。
部屋にと入り、しばらく歩くと、ながれ落ちる滝のようになている壁付近にとたどりつく。
下には澄み切った水がたまり、
左右に設置されている炎の明かりが水面に照らされて、何とも幻想的だ。
上を見上げれば、何やら紋のようなものが。
奥までいくと、ウルリーケは壁に向かって頭を下げて、腕を組んで祈りをささげ。
そして、改めてオレたちにと向き直る。

「こうして陛下に直接お会いできる日を楽しみにしておりました」
祈るような形でいってくるウルリーケ。
そういえば……
「そういえば。戴冠式では見かけなかったね」
「ええ。わたくしはここを離れられませんから。
  巫女として入って以来。ほとんどここから出たことはありませんから」
などといってくるけど。
「…ええぇ!?ってことは八百年も!?」
オレの驚きも当然だとおもう。
そんなオレの横では。
「昔は僕が無理やりつれだしたりしてたんだけどねぇ」
何やらしみじみといっているアンリ。
そんなアンリに。
「……猊下…そんなことをされてたんですか?」
がっくりと何やらうなだれているギュンターの姿が。
「だってさぁ。ここってすることほとんどないし」
「リアが亡くなってからは、わたくしここから外にでたことなどありませんわ」
そんなことを言っているウルリーケだし。
「ダメだよ。たまには外の空気にもふれなきゃ。
  うちのおふくろもさぁ。最近ウェストが気になる。とかいって、スピカとジョギング始めたし。
  あ、スピカっていうのは妹なんだけどね」
「抜け出す方法は昔教えたのに。
  それとか精神離脱…俗に言う幽体離脱して外にいく方法とかさぁ」
「……猊下……」
アンリの言葉に、今度はコンラッドがため息まじりに何やらいっている。
そんなオレたちの言葉をうけ。
「本当に。陛下も猊下もおやさしい」
いって、顔を輝かせてオレにと手を伸ばしてくるウルリーケ。



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