「……これは……」 大気が淡い光と共に浄化されてゆくのを感じる。 ずっと長く重苦しく感じていた空気が、風が吹きぬけたようにさわやかに。 ここ何十年かはずっと重苦しく感じていた空気が……まるで嘘のように、すがすがしく。 どれだけ鈍いものですらはっきりとわかるほどに、その違いは一目瞭然。 人々にいたっては何か起こったのかは理解などできはしない。 できないが……誰もが口にしないだけで思うことは皆同じ。 『新魔王陛下が何らかの力をつかったのだろう』 ということ。 噂とはどこの世界にも言えるのか、広まるのは早いもので。 シュトッフェルが魔王を幽閉しようとして、失敗した。 という噂はすでにシュピッツヴェーグ城下町の人々には広まっている。 話し合いをしにきた魔王陛下一行を脅して監禁・幽閉しようとした。 ということすらも。 その罪のあまりの重さに耐えかねた幾人かの兵士達が家で家族に漏らしたが為に、 一日もたたずしてあっという間に噂は町全体にと広まっていたりする。 ―――また、シュトッフェルのせいで戦が起こるのか? などと危惧していた人々にとっては、まさに急転直下。 ともいえるこの現象。 彼が兵士を連れて隊を束ね、国王軍にと戦いを挑みに赴いた…と知っているものも少なくない。 だけども…… 「…魔王陛下が…何か?」 思わず事情を知る、また噂を知る人々は空を見上げ同じつぶやきを漏らす。 彼らは――『ユーリ』が。 つまりは、新たに即位した『魔王』が、誰の御子であるか知っているがゆえに。 双黒の持ち主は、 伝説では眞魔国全ての民の魔力を併せ持ってしても、その魔力には到底及ばない。 という言い伝えすらもある。 ましてや……今度の新しい魔王の母親は…… あの伝説上としか思われていなかった。 といっても過言でないかの種族の子供であるる ―――何が起きても、また、どのような『奇跡』を起こそうとも…不思議では…ない…… そんなことを人々は思いつつ空を見上げているのだが。 そんな中。 やがて、戸惑う人々とは裏腹に。 光はしばらくして何事もなかったかのようにと収まり、 後に残るは…… 誰の目や感覚にすら判るほどの…澄み切った空気と大気のみ―――
ゆらゆらと何やら揺れて気持ちがいい。 「…あれ?」 「気がつきましたか?」 ぼんやりと目をあけると、コンラッドの顔が…… えっと?? 「あ。危ないですよ?」 起き上がろうとして自分が馬の上でコンラッドにと支えられていたことにようやく気づく。 「わっわっ!?」 あわてて、落っこちそうになってしまう体制を整える。 ? 「?オレ?…一体?」 確か…そだ。 「そうだ!?戦いはどうなったの!?まさか……」 双方にけが人とか出たんじゃないだろうな…… そんな不安が頭をよぎる。 それかもしくは争いの中、無理やりに戦乱の中から連れ出されたか。 戦いを止めようとして…そこから先の記憶が綺麗さっぱりと消え去っている。 そんなオレの不安と言葉に苦笑してか。 「ご心配には及びませんよ。双方、戦いにまではいたりませんでしたから。 今はギュンターたちがシュトッフェルを連行してシュピッツヴェーグ城にと向かってます」 オレを馬を操りつつ、その前で抱きかかえている格好のコンラッドが笑って説明してくるけど。 そんなコンラッドの言葉に続いて。 「とりあえず。僕達は一足先に血盟城に戻ろうと移動しているところだよ。 万全を期してユーリが目覚めるまでは空間をつなげなかったんだけどね」 ? 「あれ?アンリ?」 後ろのほうからアンリが馬を操り、コンラッドとオレの乗っている馬にと並ぶようにと移動してきて そんなことをいってくる。 ? いつも何か言ってつっかかってくるヴォルフラムが何もいってこないけど。 ふと後ろを振り向けば、何やら顔色もわるく馬を操っているヴォルフラムの姿と。 前後に数名の兵士達の姿が。 どうして全員心なしか顔色が悪いのか。 しかもオーラがかなり乱れているし。 ?? どうしたんだろう? 「さて?陛下?どうなさいますか?このままオレの馬に乗って戻りますか? それとも、陛下の馬に乗り換えますか?」 見れば兵士の一人がオレの馬を引いて帆走している。 いや、あの…つうか…… 「つうか……何がどうなったわけ?」 オレとしては訳がわからない。 そんなオレの言葉に笑いながら。 「例のいつものやつで、互いの兵士達を突風で吹き飛ばして戦力を削いだんですよ。陛下は。 おかげで戦いになるどころか、その前に戦いはストップして。 戦力がそがれたために、互いに一人の犠牲者すらも出ていません」 「…は?吹き飛ばした……って……オレが!?」 んな馬鹿な。 そんな竜巻というか突風並みの風なんか起こせるわけがない。 それか偶然に、もしかしたらきっと竜巻でも発生したか?? 「そんなことより。このまま血盟城の前門の後ろ付近に道をつなげるよ? 僕もお風呂くらい入りたいし」 アンりの言葉に。 そ〜いえば…… 時計をみれば、いつの間にか血盟城をでてからかるく一日半が過ぎている。 それに気づくと同時。 ぐ〜〜…… 『・・・・・・・・・・・・・・・・・』 思いっきりオレのお腹がなってしまい、思わず赤面。 そ〜いや…何も食べてないようなきがするぞ…… そんなオレのお腹の音を聞いて、一瞬目を点にした後。 「戻ったら何か作ってもらいましょう」 「…悪い……」 「ま、とくかく。空間を繋ぐよ〜??」 笑ってオレにいってくるコンラッドに赤面したまま謝ると同時、アンリが何か言ってくる。 それと同時。 ゆら… 何かオレたちが歩いている道の先の空間が、というか道の先が一瞬蜃気楼のようにと揺らぎ。 そして、その揺らぎの先に蜃気楼のように見えているのは血盟城にと続く一本道。 ……えっと? もしかして…もしかしなくても? ……アンリのやつ、こ〜いう技も持っていたわけか… オレがそんなことを思っていると。 「ここをくぐったらもう王都だから。さ、みんな行って。行って♪」 アンリがオレ達と、他に五・六名ほどいる兵士達をにこやかに促して先を示しているけど。 「さすが…というか何というか……」 これ、日本でも出来ないのかなぁ? だったら遅刻しそうなときに便利かもしんないのに…… あと早く帰りたいときとか。 …ま、日本でそんなことをやったら万が一見つかったら大事になるのはわかっているから、 思うだけで『やってみて。』とはいわないが。
何はともあれ。 一度オレ達はアンリが繋げた道を通って血盟城にと戻ってゆく―――
だけど、一体全体。 本当に何があったんだろ? …オレ、また何も覚えてないんだよなぁ????
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