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「やられたっ!!」
「ヴォルフ!おきろっ!」
部屋にもどったアンリとコンラッドが見たのはもぬけの空のベット。
「…無意識で水晶に映し出しちゃったか……」
部屋に置かれている水晶をみて瞬時に悟る。
と、外から馬のいななきと、蹄がかける音。
あわてて外をみれば、ユーリが一人馬を操り駆け出していっている。
行き先はおそらく――
「ウェラー卿!フォンビーレフェルト卿!とにかく僕らもユーリを追いかけるよっ!」
アンリの強い口調に。
「…?何が?」
爆睡していたヴォルフラムがようやく目を覚ます。
今のユーリはまだ、熱に浮かされた状態の名残が続いている。
ああいう時のユーリの力は……肉体の限界をも超えて発揮しかねない。
今はまだ人のそれとかわりない肉体には…その力の大きさは耐えられない。
以前、ユリアナとしてユーリが生きていたときに、それはよくわかっている。
だからこそ――
「急いで!」
何をしでかすかわからない。
もし万が一、あの地に影響を及ぼしているアレに気づかれでもしたら…それこそ一大事だ。
アンリの言葉をうけ、ようやく目を覚ましたヴォルフラムと共に。
コンラッドとヴォルフラムを連れて、彼らはあわてて宿を後にし、ユーリを追いかけてゆく。



あそこだ!
人里はなれた大地。
丘の上から見えるのは、東西に分かれて向かい合っている兵士達の姿。
それぞれに掲げている旗が異なっている。
一つは眞魔国の旗。
もう一つは見たことがない旗。
たぶんシュピッツヴェーグ家の家紋か何かだろう。
なぜか馬を走らせていると、ふと気が付いたらまったく景色がかわっており。
何かいつのまにか別な場所にいるような気もしなくもないけど。
とにかく、戦いが起こるのだけは止めないと。
と。
「「ユーリッ!」」
「陛下っ!」
……あれ?
ふと後ろから声がして振り向けば、なぜかそこにいきなりアンリ・ヴォルフ・コンラッド達の姿が。
気のせいか、一瞬周囲の景色が揺らいで彼らの姿が出てきたようにもみえたけど。
「何を考えてるんだ!?おまえは!?今から戦いが起ころうか。という場所に一人でいくなっ!!」
何か馬の上からオレをつかんでそんなことをいってくるヴォルフラムに。
「よかった。ご無事でしたか」
ほっとした表情でいってくるコンラッド。
そして。
「ユーリィ。勝手に一人で移動するのはやめろってば。後生だから」
何かため息と共にいってくるアンリの姿。
「……?」
一瞬、意味がわからずに首をかしげるものの。
「だけど!戦いはとめないとっ!」
戦いは無意味以外の何物でもない。
何も争いからは生まれない。
そんなオレの言葉にため息一つつき。
「どうやらいっても、説得は無理。下手したら一人ででも行きかねない…か。」
「――…仕方ありません。わかりました。しかし陛下は俺に守らせてください」
交互にそんなことをいってくるアンリとコンラッド。
「ま、確かに。説得は無理のようだしな」
などとこちらもまた、なぜかため息をつきつつもいっているヴォルフラムの姿が。
だから、どうしてここでため息?
何はともあれ。
「それじゃ!」
オレが目を輝かすと。
「その前に。ユーリ。着替えようね。それ…寝巻きだよ?」
……あ゛。
そ〜いえば、何かオレ未だに寝巻きのままだったんだった……
たぶん、アンリかコンラッドが町で購入したやつなんだろう。
きっと。


『シュトッフェル!我々としても無意味な争いは避けたい!
  大人しく返すものを還せばまだ見逃すこともできよう!』
服を着替えて、アンリが出してくれた水で軽く顔を洗い。
ついでに髪の染めをも落としておく。
着慣れた制服に近い上下の黒い服を着て、馬にまたがり戦場になりかけているその場にむけて、
そのまま馬をアンリたちと共に走らせる。
風にのって、何やらグウェンダルの声が聞こえてくる。
『何のことか。こちらはふりかかる火の粉を払いにきたまで。かえすものては何のことか』
まったく悪びれた様子さえも見せないシュトッフェルの口調までもまた届いてくる。
『しれたこと!陛下の御身と、盗んだ竜王の石のことですっ!』
それと共にギュンターの声もが聞こえてくる。
『罪なきものにあらぬ罪を着せる。それがおまえたちのやりかたか。
  それに陛下はご自分の意思で我が城に滞在していてくださる』
とかいってるシュトッフェルだし……
あれはどう考えても、脅して拉致監禁…としか受け取れないぞ?
シュトッフェル……
『どうやら。話し合ってもわかっていただけぬようですね…』
ギュンターの言葉と共に、何やらシュトッフェルの陣営より数騎ほど。
馬にまたがった兵士達がシュトッフェルの合図とともに駆け出していき、
剣や槍を構えて突進している兵士達の姿が遠くからでも垣間見えてくる。
「まかせろっ!」
それとともにグウェンダルが馬を操り、前に出て。
そんな彼らに剣を一閃させるとともに、馬上の兵士達を軒並み気絶させている。
…お見事。
「これが貴様の答えか!シュトッフェル!もはや話し合いは無用!」
何かそんなことを叫んでいっているグウェンダルだし。
「それはこちらの台詞。今こそおまえたちの手から陛下を自由にするときっ!」
……うぉいっ!

「ちょ〜とまったぁぁ!!」
今にも両陣営から兵士達が、掛け声とともに動こうとしているそんな直後。
どうにか間に合い、彼らの中央付近にと躍り出る。
「何!?馬鹿な!?…レイヴン!?」
オレの姿をみて何か叫んでいるシュトッフェル。
「無駄だってば。僕らは空間移動で直接ここに来てるんだから。
  フォンシュピッツヴェーグ卿シュトッフェル」
そんなシュトッフェルにと何やらいっているアンリ。
「というかっ!何あんたたち軍隊なんか動かして戦いなんかしようとしてるんだよ!?
  戦いなんか絶対っ!にダメだからなっ!」
ぐるり、と周囲を見渡して叫ぶオレに兵士達はなぜか困惑顔。
「申し訳ありません。陛下。今ここでこの男をゆるせば。この男はよけいにつけあがりますっ!」
そういって、兵士達にすっと手を上げて合図しているギュンターに。
「こうなってはもはやとるべき手段は一つ!陛下を奴らの手から取り戻せ!」
などといって、兵士達に向かって叫んでいるシュトッフェル。
「こうなっては。この男にわからせるためにも。眞魔国のためにも見過ごすわけにはいかぬっ!」
グウェンダルまでがそんなことをいってるし。
「陛下っ!こちらへ!」
そんな彼らの言葉をうけてか、コンラッドがオレの横にきて何かいってくるけど。
……ぶちっ。
ダメだ。
こんなの。
ダメに決まっている。
というか……
「ヤ・メ・ロォォ〜〜!!!」

どうして戦いなどで解決しようとするのか。
傷つくのは、何の罪もない人々も含まれる、というのに。
何かがはっきりと自分の中で切れる感覚を感じ取り。

――叫びとともに、オレの頭は真っ白にと成り果ててゆく――



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