コツコツコツ。
足音が廊下のほうから近づいてくる。
多分、彼女たちから連絡がいったのであろう。
外から見えている灯りが増えている。
どうやら警備の兵士達が松明をもって見回りを強化しているようだ。
窓側には近づかないようにと注意され、ひとまずアンリの部屋にと身を潜めているオレ。
「でも…いったい誰が?」
「ま。予想はつくけどね」
「?」
どうやらアンリはわかっているようだ。
「とにかく。もし建物の中に進入してくるとしても。まずは深夜だろうから。ユーリは少しねてたら?」
只今の時刻は、腕にはめている時計によると、夜の十時過ぎだ。
外から聞こえていた足音が、隣の部屋の前でピタリ、ととまる。
そういえば、オレがこっちに移った…って、報告してないけど、いいのかなぁ?
「そうはいってもさ……」
そんなオレのつぶやきに。
「とりあえず。簡単な世間話でもしてたら眠くなるよ」
にっこり言ってくるアンリの姿。
「そ〜いえば、アンリ?昔ウルリーケと一緒にどうのって?」
そんなオレの問いかけに。
「まあね」
いって、簡単に昔のことを話してくれ始めるアンリ。
それと共に、眞王廟にて得た最新の情報、とかいうのも。
あのシュトッフェル。
という人は、国民からもかなり疎まれているらしい。
それは、何でも昔。
彼が戦争を強行してしまった…ということに起因しているらしい。
…そりゃ、国民のみなさんがたの感情も当然だ……
何でも、それが原因でオレの前世でもあったというジュリアさんが死んだ。
らしいけど。
その辺りの詳しいことまでは話してくれないものの。
大雑把に昔のことを、眞王廟で得た事実としてオレにと教えてくれるアンリ。

コンラッドやヨザック、といった人間と魔族との間に産まれたものがクーデターを起こそうとしている。
とか、情報を人間の国に売っている。
とか根拠もないことを当時ツェリ様の摂政をしていたシュトッフェルに進言した人がいた。
ということ。
そのために、そのようなことはありえないことを示すためにも。
自らの誇りを照明するために、彼らは出征をよぎなくされたこと。
ツェリ様は大反対していたのに、シュトッフェルという人が、無理やりに押し切り。
初めは小さな争いであったそれは、やがて国を巻き込む戦争にと発展していった。
ということ。
やがて、その戦争は、人・魔。
両国に多大な被害を十年以上に及んで及ぼしたこと。
そしてなお、そんな戦争を起こしてしまった当人は。
反省の色もまったくみえず、さらには自分のせいではない。
とおもっている節がある。
ということ。
ツェリ様は戦争に反対しても、
兄であるシュトッフェルという人に押し切られる格好になってしまったらしい…
当時、実権はすべてシュトッフェルが預かっていたも当然。
ということになっていたらしい。
……どこの世界にもそういう人がいるものだ。
でも、それで納得。
あのシュトッフェルとかいう人物にまとわり付いていた恨みの気。
あれに気づくこともない本人も絶対にどうかしている。

「何か女の子の噂では、彼は元々短絡的で、深く考えないところがあるらしいよ。
  俗にいうおぼっちゃん育ちだね。ツェリさんもたった一人の兄を心配して。
  自分の摂政にして、自分は政には向かないから…って任せたらしいんだけど…さ」
そんなアンリの言葉に。
「う〜ん。もしかして、あの恨みというか怨嗟の気にまじって、何か異質な気もあったから……
  もしかして、あれにひっぱられたのかなぁ〜……」
少しあっただけだけど、あれは近くによるだけで気分がわるくなるほどに。
強力な…何か異質なモノだった……
「ま。僕もまだきちんとそのシュトッフェル当人にあってないから。何ともいえないけどね」
「ふぅん……」
アンリは、たしか、ここに始めてきたときに。
ちらっとあっただけだったっけ?
だがしかし。
そんな事情があるんだったら。
国民だけでなくコンラッド達のあのシュトッフェルという人に対するおもいもわかる。
あのギュンターですら強い口調で非難してたし。
オレにできること、といえば。
二度と、そんな過去のようなことが起こらないようにすること。
「そういや、オレも挨拶されただけだしなぁ〜……」
でも、というか、あの状態のあの人物と話してたら絶対に気分がわるくなる。
あまりに恨みというか纏っている怨嗟の気が強い。
というのもあるけど。
それ以上に…何というか…こう、全ての負の感情を凝縮したような『何か』。
とにかく、何か異質なオーラというか『気』をあのシュトッフェルからは感じたし……
彼が発しているオーラとは別に……
もしかしたら、あの『気』にシュトッフェルもいいように操られているか。
もしくは、影響されている可能性は高いかもしれない……
そんなことをおもいつつ、思わずつぶやいていると。
「ま。とりあえず。仮眠とっとこ。今はそれは関係ないしね」
「…ま、そうかもしれないけど……。寝られるかなぁ?」
何か気分が高ぶっているので寝られる自信ないんだけど?
そんなオレのつぶやきに。
「なら、催眠術でもかけようか?」
「…遠慮しとく……」
アンリ用として与えられている部屋は、オレの部屋……
つまりは、魔王の私室とほぼ同じ大きさ。
こちらのほうが少し狭い。
といっても、畳でいうと、二〜三畳くらい狭い程度だ。
ベットも二人で寝ても有り余るほど大きいし。
二回り程度オレの部屋のベットより小さいくらいだ。
どうも天井屋根つきのあるベッド。
というのはなれるまで気分が落ち着かないが。
そんな会話をしつつも、とりあえず、横にひとまずなっていると。
それでもいつのまにかうとうとしはじめてくる。
そのまま、しばらくまどろみ、やがて疲れていたのか、そのまま睡魔にとひきづられ。
そのまま、オレの意識は途切れてゆく。


ガランッ!
ガランガランッ!
チリンチリンチリンッ!


「何ごとだ!?」
「なっ!?」
「来たね」
思わず、大きな音に飛び起きる。
隣の部屋から聞こえてくるなるこの音と鈴の音。
そして。
バンッ!
隣の部屋の扉が開け放たれる音。
「ユーリ」
「…本当にきたし……」
時計をみると、只今の時刻は夜中の一時だ。
思わずとびおき、アンリと顔を見合わせる。

「何ものだっ!?…ヴォルフ?ユーリはどうした!?」
「猊下のところっ!」

どうやらヴォルフラムもその音に飛び起きているらしい。
グウェンダルのあせったような声に即座に声をかけているヴォルフラムの声。
ガタガタと、何やらガタガタと窓を開けようとしている気配が隣の部屋から感じられる。
「窓は音がなったら閉じるように術をかけてたからね。いくよ。ユーリ」
「あ。うん」
アンリにつられ、そのまま壁の中を隣…つまりはオレの部屋にと移動する。
てっきりアンリが何かしたのかと思いきや。
緊急時の脱出口の一つらしい。
つまりは、ある言葉を唱えて壁の一部を押すことにより、壁の裏表が反転する。
いわゆる、回転扉のように。
そんなの今まで知らなかったぞ……オレ……



「ちっ!」
部屋にいたのは黒尽くめの男たちが三人ほど。
窓が開かない、とみるやそのまま扉をめがけて走り出している。
さながら何かテレビドラマとかの捕り物帳のようだ。
「にがすかっ!」
いって、グウェンダルが追いかけ。
「猊下はユーリをお願いしますっ!」
いって、ヴォルフラムも又走り出す。
『わ〜わ〜!賊が入ったぞ!』
などといった声とともに、にわかに外が騒がしくなり。
そして。
「ユーリッ!」
何か顔色を変えたコンラッドが部屋にと駆け入ってくる。
「ウェラー卿。ユーリは大丈夫だよ。」
そんな息せききって入ってきたコンラッドにと話しかけているアンリの姿。
「…よかった……」
オレの姿をみてほっと息をついているコンラッド。
どうやら本気で心配してくれてたらしい。
かなり珍しくも息を乱している。
おそらく、城下町に事件の調査にいってたらしいから、あわてて戻ってきてくれたのだろう。
「オレは大丈夫だよ。それより……」
「ええ。どうも昼間の例の男たちですね」
どうみても、彼らは昼間の忍者もどきさんたちだ。
「とにかく。ご無事でよかった」
「でもまだ油断は出来ないよ?」
「そう。オレが狙われたんだったら。
  とにかく捕まえてでもみて話を聞いてみないと。オレも捜査に……」
「だめですっ!!」
言いかけるオレの言葉をさえぎり即答してくるコンラッド。
「何で!?」
「危険ですっ!」
「でもじっとなんてしていられないよっ!
  それにオレのせいで皆だけ忙しく働いている中。寝られるはずもないしっ!」
「……ユーリは言い出したら聞かないからねぇ……。
  でも、少しだけ参加したら、後は兵士にまかせる。い〜い?」
ため息まじりに、いってくるアンリの言葉に。
「わかった」
オレの言葉に、コンラッドも説得は無理、と納得したのか。
「絶対にオレからはなれないでくださいね?」
コンラッドも根負けしたらしく了解してくれる。
よっしっ!
がんばって侵入者を見つけるぞっ!!



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