「アウトッ!!」 ずざざっ! 滑り込む音と、立ち上るけむり。 「おしかったなぁ。もう少し早くでてれば間に合ったのに」 そんなオレの言葉に。 「いやぁ。少し迷っちまったんだよな
」 いって立ち上がってくるチームメイト。 「うん。でもだいぶ動きはよくなってきているよ。断然に
」 手をかしつつも話しかける。 よっし。 そろそろお昼だし。 「よ〜し!今日の練習はここまで!!」 オレの言葉にみんなの動きがとまる。 「来週は初の公式試合だから、それまで各自自由に体をいたわるようにね
」 そんなオレの言葉に。 「初試合かぁ。がんばろうぜ 」 「だな
」 などと集まって片付けを始めているチームの姿。 うん。 だいぶというか、チーム内の雰囲気は初めのころよりよくなった。 チーム連携もうまくいってるし。 「よっし!公式戦初勝利といくかっ!」 小さくガッツボーズをしながら球拾い。 川べりのグランドを使って練習しているから、後片付けは何よりも重要事項。 他にも使う人はいるんだし。 ボールを拾い、ホームベースなどをのけて、土を均す。 倉庫があるので、そこにちょっとした道具はしまっておく。
「お疲れさまユーリ。来週初試合だね
」 いってアンリがタオルを差し出してくる。 「うん。この調子だと初勝利も夢じゃないよ
」 アンリからタオルをうけとり、かるくふきつつ答えると。 「うん。いい雰囲気だ。チームの感じもいいしね。ユーリだからみんなついてきているんだろうね。 大分人の上にたつものとして自覚とかでてきてるし。 それにもともとユーリはリーダータイプだったし
」 にこにこと、そんなことをいってくるアンリだけど。 「そんなことないよ。みんながオレみたいなやつについてきてくれてるんだよ。 オレの方がみんなに助けられてばかりでさ。 ……本当に上にたつものの気持ちってわかんないね……」 もっと何ごとにおいても、迷惑かけずにできるようになりたいのに。 自分で作ったチームにしろ、あちらの世界でも皆に迷惑かけてばかりだし。 「そのうちにわかるって
」 「そうかなぁ?」 後片付けをすまし、チーム全員であまり、かるく挨拶をして解散する。 解散して散ってゆくメンバーに。 「あ。来週の試合はユニフォーム。青いやつだから間違えないようにね〜!!」 大声で叫び注意を促す。 白は練習用。 青は試合用、と分けているオレの…というか、みんなのチーム『ダンディ・ライオンズ』。 「了解。キャプテン。キャプテンこそ間違えないでくださいよ?」 「気をつけるよ
」 こういった冗談を飛ばしあえるのって何かいいなぁ。 そういえば、あっちでコンラッド達が冗談とかいってるの聞いたことないし……
道具を片付け、とあえず周辺の見回りもオレの役目。 ボールがどこかに転がっている可能性も否めない。 しばらく確かめて見回っていると、フェンスの向こうの川べりにボールを発見。 「あ。あんなところにボールがある
」 「ユーリ。気をつけろよ?この辺にハミがでたって聞いたぞ?」 「大丈夫だって
」 よっと。 腰の辺りまである高さのフェンスを越えてフェンスの外にとでる。 グランドの横には大きな川が流れており、もう少し数キロも下ればそこはもう海の入り口近く。 この川によって少し前から、オレは信じられない経験をするキッカケをもらったようなものだけど。 その川の道のりをいったしばらくしたところにオレたちの通っている高校がある。 そのまま、フェンスを乗り越えボールをつかむ。 「っと!」 思わずそこにある石につまづき、バランスを崩してしまいかける。 あわててアンリにボールを投げて渡すと同時。 バッシャ〜ン!! 派手な音とともに、思いっきり川の中にと思いっきりしりもちをついてしまう。 一つのボールでもムダにはできないしね。 「ユーリ?大丈夫?」 フェンスを乗り越えてこちらにと来ようとするアンリに。 「大丈夫。大丈夫。ここまだ足がつくし。浅いから」 川の中に尻餅をついた状態で答えるオレ。 「どじはなおんないねぇ」 「ほっとけ!!」 さすが幼馴染。 容赦ない突っ込みをしてくるな……
「マネージャー」 「ん?何?」 フェンスの向こうでアンリがチームの一人にと話しかけられる。 「実はユニフォームのことで。青いやつ実はクリーニングに出しちゃったんですよねぇ」 「予備のがもう一組なかった?」 「予備のはどうもユキがもってったらしくて……」 「あらぁ。クリーニング間に合わないの?」 「遅いって有名なところに母が出したらしくて……」 「ああ。あそこ。遅いけど丁寧でしかも安いって評判のところだね」 「ええ。それでどうしようかと」 などと、何やら話し込んでいる。 青いやつは今のとこ、各自一枚のみで予備はないからなぁ。 それより、練習用のが多くあったほうがいい。 というチームメンバーとの話し合いの結果練習用の服を増やしたんだし。
アンリが後ろを振り向き、話し始めたそのほぼ直後。
「…え?」 何かオレの周りに渦が発生する。 ……何?これ? その渦はだんだんと大きくなり、オレの体をひっぱりこむ。 うわっ!? ここって足首までしか水ないのに!? ひょっとして、これってぇ〜!? まさか!? またあっちからのお呼ばれ!? 下手に騒いで今アンリと話している子に気づかれたら大変だ。 あちらから呼ばれるのはこれで三度目。 まずは叫ばないように、また水を飲み込まないようにと口を押さえる。 膝下どころか足首までしかない川の中で人が消える。 …そんなところ見られでもしたら、いったい全体どうなることやら。 騒がれるのは請け合いだ。 アンリが話している姿を視界の端に捕らえつつ。 そのまま、オレは川の底に……というかあちらの世界への移動旅行としゃれ込むことに。
ゆっくと目をあける。 澄んだ青空が目にはいる。 しかし…… 「どうしてこういつも水の中……せめてアンリみたいに濡れない方法をとってほしいんだけど……」 一番いいのは馬車とかで迎えにきてもらえたら、それにこしたことはなし。 それとか馬とかで。 出来ない。 というのはわかってるけどさ。 物語の中とかではそういうことはよくあるのに。 非現実的なような現実を経験している割には融通がきかないし。 それが現実ってものかもしれないけど。 「よっと 」 とりあえず起き上がり、自分が今どこにいるかを把握するのが何よりも先決だ。 一度目は国境外の人間の村。 二度目はグウェンダルのお城の中でもあるヴォルテール城の中のお風呂場。 ちなみに、ニューハーフさんと思しき人が入浴中で、 もう少しでいけない世界につれてかれそうになった経験あり。 ……さて、三度目は? 「……何かどっかの池の中みたい……」 何やら周囲をみてみれば水草のようなものが浮かんでいる。 そしてよくよく見れば、四方は壁。 って、ここ、どこかの中庭??! ふとみると、何やら少し離れたところに女の子が立ってるし。 ちなみに、硬直中。 ……ヤバイ。 もしかして、ここ人間の国の建物の中!? とにかく、無害だ、ということは伝えないと。 「あ…あはは……こんにちわ。お兄ちゃんは怪しいものじゃないよ?」 そうはいっても、いきなり他人の家。 しかも池の中にいる人物を怪しくない……とは誰も思わないよなぁ〜…… そんなオレの考えを肯定するがごとくに。 「きゃ〜!!だれかぁ〜!!!」 やっぱり叫んでるし。 ……でもあの女の子の気というかオーラの色…魔族? よかったぁ。 ってことは、ここは人間の家、というか人間の国の中に流れたわけではない。というわけかも。 女の子の叫びと同時。 四方からなぜか女の人ばかりが窓から身を乗り出し、バタバタとでてくる女の人たち。 って全員女性???
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