服の上からでもわかるような筋肉質で、引き締まった胴回り。
肘まではある絹の手袋らしきものをしているが。
「うっわ…すばらしい上腕二頭筋ですねぇ…あの?でも何で女装なんてしてるんですか?男でしょ?」
オーラの気の色はごまかせない。
「あら?何のことかしらん?よろしければ私と踊ってくださらない?」
「ヨザ。それは……」
何かコンラッドが話しかけてるし。
えっと…知り合い?
というか、このオーラ…どこかで見たことがある色なんだけどなぁ?
「いやあの。オーラの色が男だし……」
オレの言葉に。
「彼には小細工は通用しないよ。ヨザ」
苦笑して小声でいっているコンラッド。
「コンラッド?知り合い?」
「ええ。……」
「ちょっとまったぁぁ!!」
はい?
オレの質問にコンラッドが答えかけると、
何か集団お見合いパーティー番組よろしく、ちょっとまった!の声が。
見ればレースてんこもりの服の女性がこちらに一歩進み出ているし。
…はい?
「私が先に目をつけていたのよ!踊ってもらうなら私だわ!」
そんな声をかわきりに。
「抜け駆けはよくないですわ!最初に目があったのはわたくしですわ!
  だったらわたくしがお相手のはず!」
「わたしなんか、初めてみたときから決めてましたのよ!」
「夢にまでみたわらわの運命の人じゃ!」
「せっしゃは後でもいいので、ぜひとも一曲」
「いや。私と是非に」
……何だか女性陣だけでなく男性陣も混じってるんですけど……
「第一印象からきめてましたの。どうか一曲」
「私チョ〜気に入っちゃった!」
ここでも、『チョ〜』なんて言い方する人いるんだ。
いわゆるギャル用語。
彼女たちは一瞬、ばちっと火花を散らすような感じでにらみ合い。
次の瞬間。
わっ!?
「うわ!!??」
オレの方にと向かってきてすぐさまにもみくちゃにされ始める。
「って、うわぁ〜!?」
オレの叫びに。
「いやぁ。ユーリは大変に美形だから。女性たちがほうっておきませんよ。男性たちも」
「…まさか、このまま見殺しにするつもりじゃあ……」
オレの一抹な不安な言葉に。
「いやぁ。自分の主人がモテモテなのは見てて楽しいものですよ?」
内心、面白がってるしぃぃ!
そのわりにはにこやかな笑みを崩さないコンラッド。
「薄情ものぉぉ!産まれてこのかた女の人に言い寄られるの初めてなんだぞぉ!!」
オレの言葉に。
「そうなのか?」
「らしいよ?彼はいつも女性に間違われてたりはしたらしいけど」
何か話している、ヨザ、といわれた女装オレンジ髪さんとコンラッド。
…何かこういうの、前にもあったぞ…って。
「ああ!?あのとき!風呂の中にいたひと!!」
そういえば、あのときも、この人は面白がってみてただけだったっけ……
オレの言葉に。
「覚えててくれたのねん」
「…ヨザ。別に今は言葉を変えなくても…」
そんな会話をしている二人だし。
…というか、この二人…もしかして似たもの同士!?
オレをオレといってて助けてくれないなんてぇ〜!!
オレがあのときとは違う、今度は本物のおね〜さんがたにもみくちゃにされていると。
「決めかねておられるようですな」
オレたちの背後から、聞こえてくる低い声。
コンラッドは笑顔を止めて警戒してるけど。
ヨザ、といわれた人も同じく。
「ピッカリ君!?じゃなかった!ヒスクライフさん!」
見れば、声をかけてきたのはヒスクライフさんだし。
「これだけ魅力的な御方ならば胸を焦がすものもさぞや多いことでしょうなぁ。
  婚約者殿がご一緒でない。とするとまだ船酔いがひどいのですかな?」
「…はぁ。まぁ……」
も、訂正するのも疲れてきたぞ……
ピッカリ君の言葉に女たちの言葉がとまる。
た…助かったぁ。
「ユーリ殿はまだお若い。このような光栄にはなれておりますまい?」
「なれてないどころか初めてです……」
オレの素直なつぶやきに、にこやかにと笑い。
「いかがでしょう?こういう案は?アレとおどってやってはくださらぬか?」
オーバーに両手を広げ、壁際の椅子でグラスを傾けている彼の妻にと目で指し示し。
その横の少女をみていってくるヒスクライフさん。
そこには、母親の横にすわって退屈そうな夜更かし体験中の小さな淑女の姿が。
桜色のワンピースから覗く両足を交互にぶらぶらとふっている。
ほどいた髪に貝の飾りをつけてるし。
こういう場は教育上、よろしくないのでは?
「ベアトリスは今夜が始めての夜会なのですよ。あの子ももう六歳だ。
  私の故国では六の倍数の春に初めて夜会で踊るとそのものは情熱的な一生を送るという。
  かくいう私もその例で」
胸を張ってほこらしげに笑っているヒスクライフさん。
どうやらヒスクライフさんたちの住んでいるところは今は季節は春らしい。
そういや、この人、奥さんと結婚するために、家をでたとか……
というか、家と縁をきったようなもの?
その辺りはよくわからないけど。
つまりは、ある種の駆け落ち夫婦……
「密航まがいのことをしでかそうとしてまで、婚約者殿はあなたをおいかけてきた。
  これは燃えるような恋の結果でしょう」
一人、言葉を続けるヒスクライフさんだし。
断じて違います。
それに関しては。
「…というか、違うんですけど…。
  そもそも、普通こういう場合。父親って娘から男を遠ざけようとするんじゃあ……」
外国人の考えること……というか、異世界人の考えることってわからないし難しい。
オレの素朴な疑問に。
「ユーリ殿ならば信頼できる人。と私も妻もとらえてますからな。
  何しろ初対面でもあるベアトリスにあのように親切に、しかも丁寧に。
  あの細工物の作り方を教えてくださったことですし。
  あんな芸術はみたこともありませんでしたからな。それだけ高価、というか価値があるものでしょうに」
そんなことをいってくるし。
価値はありません。
はっきりいって。
あの折り紙というものは、日本といわず、地球では多分最もポビュラーな遊びのひとつです。
ハイ。
そんなヒスクライフさんの会話をききつつも、オレがうなづいて同意の意を伝えると。
「いいですか?ユーリ様?彼女の前にいって一曲踊っていただけませんか?
  とかお嬢様、お手をどうぞ。とかダンディーにかっこよく誘うんですよ?」
コンラッドがアドバイスをしてくれる。
でもダンディーって…どんな?
とりあえず、よく映画とかでみるようにすれば問題ないか?
どうにか女性の群れから抜け出して、ベアトリスの席にと足を向けると。
女性達は気を悪くしたり、あきらめたりして散ってゆく。
中には、聞こえよがしにしたうちして。
「幼女趣味かよ」
と捨て台詞を残すものも。
断じてそんなことはいです。
まあ、よくアンリにはシスコン、とは言われるが。
そういえば、こっちに飛ばされた日、妹のスピカは友達の誕生会にお呼ばれだったけど……
一人で大丈夫かな?
スピカかわいいしなぁ。
最近、平和な日本とはいえ、何かと物騒だしな……
そんなことをおもいつつ、ベアトリスの前にてひざまづいて、可能な限りの男前な声をつくる。
「お嬢さん。お手を拝借」
…あれ?
しまった!
これじゃあ三本締めだ!
頭の中にコッヒー達が三本締めで手を叩いている光景が浮かぶ。
オレがどう訂正しようか、考えていると。
ベアトリスは、ピョン。と椅子を飛び降りて、自分からフロアの中央へ。
積極的、というよりちょっとおませ?
きっと父親の情熱的な血を受け継いでいるのだろう。
「踊るんでしょ?」
と、オレにといってくるし。
「あ。はい。」
何だかリードが逆なような気が……
ま、いっか。

曲は踊りやすいスローテンポのワルツではあるけど。
ベアトリスにあわせて少し前かがみになるため、ただゆらゆらと左右に揺れるステップのみ。
「おに〜ちゃん。おもってたんだけど。髪をそめてるの?」
大きな目は懐かしのラムネのビーダマ色で悪意の欠片も存在しない。
そんな澄んだ瞳で見上げられたら、誰だって嘘はつけない。
「そうだよ。どうしてわかったの?」
「似合わないもん」
「…あはは……」
ずばっと指摘してくれる。
子供って正直だよなぁ。
「瞳の色も変だし。」
「ガラスで色を変えてるからね」
「どうして?」
「元の色がちょっと目立つから」
…まさか黒だから、とはいえないし。
とりあえず、話題をかえよう。
「ベアトリスのお父さんのことを聞かせて。ベアトリス。君のお父さんってどんな人?」
「恋のためなら何もかも捨てられる人。」
「なるほど。そりゃぁかっこいいな」
「うん。お父様もお母様も素敵なの」
いってにっこりと微笑むベアトリス。
いつも両親に言い聞かされているんだろうなぁ。
この親子、お受験面接には向いていない。
うちもだけど。
ベアトリスがはにかむと、ビー玉の真ん中に輝きが増してスターサファイアの色になる。
「おに〜ちゃんもちょっとかっこいいよ。髪と瞳の色が似合わないけど。染めたりしなければいいのに」
「ま、ちょっとね。ベアトリスの瞳はビー玉色だね」
オレのそんな言葉に。
「?ビー玉?」
「……もしかして、ビー玉しらない?ん〜と。正しくはガラス玉かな?色つきの?」
瓶入りラムネがある…とは思えないしなぁ。
ここに。
オレの言葉に。
「色つきガラス?」
「う〜ん。普及してないのかなぁ?というか、この世界にはないのかなぁ?
  ガラス玉、というかビーダマとかビーズとか……」
いくら何でもガラス玉くらいはあるだろう。
ガラス細工ものがあるくらいだしさ。
……食器とかの。
オレのつぶやきに。
「何?何それ?それ何?」
興味津々で聞いてくるベアトリス。
う〜ん……
「説明するのも難しいなぁ…そだ」
ごそごそ。
首にかけている魔石のペンダントを取り出し、その横に妹が、ひとつじゃ石さんがかわいそうだから!
とかいって、くれた左右にあるビーズ細工のそれを取り外す。
基本はストラップみたいに釣り糸で作ったのを結び付けていただけだし。
「これがビーズ細工だよ。ガラス細工を作るときに出来る残りかすで作るもの。
  小さな彼らの中に穴をあけて、そこに細い糸を通していろんな形にするの」
いってひとつ取り外し、ベアトリスの前にと掲げてみる。
色とりどりのビーズは、きらきらと周りの灯りを反射してさながら宝石のよう。
……もっとも、これはガラス…というより、プラスチックも混じってるけど。



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