「かしてみろ。読んでやる。…何何?春から始まる夢日記」
「…日記帳!?あの先生。オレにまさか旅での日記をかけってか!?小学生じゃあるまいし!?」
小学生における必須宿題のひとつが絵日記だ。
「…何々?本日、初めて成長なさった陛下とお会いした。
  陛下は私のとぼしい想像力で思い描いていたよりも数倍も数十倍もすばらしい御方に成長なさっていた」
「……何?」
ヴォルフラムはページをめくり、声を大きくして読み続ける。
「黄金色の麦の穂を背にして、馬から降り立たれたユリティウス様は、
  白く優雅な指先で、漆黒の髪をさらり、とはらい。
  お母上によくにた顔と、ご聡明な輝く瞳で私にむかっておっしゃった」
「わ〜!!ちょっとまて!?それは何だ!?
  ギュンターがオレに書かせようとしている新しい日記帳じゃないのか!?って輝く麦って何!?」
オレはじめ、コンラッドの馬の後ろにのってたけど?
ってそんな問題じゃないっ!
……果てしなくイヤな予感がする……
「忠実なる真友。フォンクライスト卿よ。私がもどれたのはお前のおかげだ」
「ってそんなことはいってない〜!!」
おもわず頭を抱えてのたうちまわってしまう。
どうしてオレが他人の日記…しかもほとんど妄想?というか作り物の日記で。
自分の日記を朗読されているのならうなづけるけど。
「ユーリ。用意は…ん?ずいぶん元気になったんだな。ヴォルフ。
  ギュンターの陛下ラブラブ日記をどこで手にいれた?」
居間から除いていたコンラッドが苦笑いを浮かべつつタイを結ぶ。
「って!?ラブラブ日記!?というか、オレにとってはサブサブ日記…というより事実とまったく違うぅ〜!」
オレの叫びに苦笑して。
「多分新品の日記と間違えて包んじゃったんでしょう。
  さ。いつまでも聞いていたいのでなければ早く服をきちゃってくださいよ」
扉のとこで笑いながらそんなことをいってるコンラッド。
「陛下は何よりも国の。そして民のことをお考えになる。ああ、そのようなご立派で美しく。
  ご聡明なユリティウス様だからこそ、このフォンクライスト・ギュンターはいつまでもおそばにいたいのです」
「連れ出して!オレをここから連れ出してくれぇ〜!!!」
もはや、何をいうともない。
とにかく、ダッシュで寝室からでる。
ほとんど涙目となり、そして鳥肌もたってるし……
「おや?その格好でいかれるんですか?」
「うう。またアレは聞きたくないぃ〜…」
オレの素直な感想に。
「しょうがないですね。ちょっとまっててください」
いって寝室にと引っ込んでいくコンラッド。
「ギュンターのやつ面白いことを書いてるな。」
「ヴォルフ。陛下をあまりからかっては…みてて楽しいけど」
……コンラッドぉ〜!!
そんな会話が寝室のほうから聞こえてくるし。
「ヴォルフ。いつ何があるかわからないから、寝巻きでいるのだけはやめておけ。それと剣も常に」
「言われなくても判ってる!今から着替えるところだ!」
いや…何かある…って何が??
オレがそんなことをおもっていると。
「はい。陛下。これを上から羽織ってくださいね。」
…何か戴冠式で着たような肩掛けを手渡されるし……
………はぅ……


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
骨。
ちょっとした豪華な館に借り出されたエキストラよろしく。
なれない正装でギクシャク歩くオレを一気に凍りつかせたのは。
色とりどりのきらびやかなドレスのご婦人方でも、ステージで生演奏の管弦楽団でもなった。
生の音楽なら、おふくろがスピカを身ごもっていたときに、胎教にいいから。
と無理やり一緒につれていかれてたしなんでいる。
床に散らばった無数の骨。
というか食べ物の残骸の数々。
それが船床にとひしめくように捨てられている。
これだけあればいい肥料になりそうだ。
箒とチリトリで掃いて綺麗にしないと。
そんなことをおもっていると。
そうこうしている間にもすぐ前のテーブルで立食中だった女性が、
フライドチキンの肉を食いちぎり、そのまま床にと投げ捨てる。
…男らしい。
といえばそれまでだけど。
…けど……
「そ…そ〜いうマナーなのかな?」
「そうとしか考えられませんね……」
オレと同じくコンラッドもしかめつら。
これって衛生的にどうなのよ!?
いや、それ以前にモノを投げ捨てるのはいけません!!
という公共的なマナーはどこに!?
いそうでいない清掃係の姿を探す。
…やっぱいないし。
テニスコート二面以上はゆうにあるダンスホール。
その床にはひしめく残骸の姿…
歩く場所を選ぼうにも小動物などの屍や、残飯の上を越えねばならず、足音で物悲しい音がする。
というか、これって日本と違ってビニール製のものとかまったくなく、全部残飯なんだから。
いい肥料になるだろうになぁ。
もったいない……
小さなころから家庭菜園を手伝わされているためにこんな感想をおもってしまう。
うちにはゴミ箱形式の肥料作成機なんてものもいるし。
普通、人間ばかりの場所に来たのだから、オレとしてはリラックスできる…とおもったのだけど。
どうもビクついて落ち着かない。
この床の残飯達がここは、日本とは違うんだ。
と物語っているかのごとくに。

中央に向かってゆくと、誰もが道をあけ、優雅に膝をおってお辞儀をしてくる。
というかさ。
裾の長いドレスのご婦人方…こんな上をうろうろしてたら、服がよごれるでしょうに…服が。
男性の中には握手をもとめてくるものもいたりする。
何かまるで一日警察署長状態?
もうどうにでもしてくれ。
というのが本音。
だけど、床の残飯は片付けてくれ……
モップないの!?モップは!?
衛生的にもいろんな意味でよくないっしょ!?コレは!!
ホールの前方にたどり着くころには有名人の苦労がよ〜く判ったり。
今度町でプロ野球選手を見つけても遠くでそっと見守ろう。
近くで聞くと、ピアノは木琴の音色で。
バイオリンは弦が張りすぎて超高音だし。
「ここまできたら、覚悟を決めておどっていただかなくては。」
「オレ!?オレが踊れるわけないじゃな!中三の途中まで野球部だったんだよ!?
  チアリーダーじゃなくてキャッチャーだったんだから!」
しかも補欠。
たま〜にチームメイトがチアガールやってくれ。
とかいってきたけど。
断固として断ったし。
そもそもオレは知っている。
オレがレギュラーになれなかったのは、
監督がオレが女顔というかどうみても女にしか見えないから、レギュラーなどにしたら相手になめられる。
そう話していたのを聞いたことがあるんだし。
そのときはさすがに、カチン、ときたけど我慢した。
…そのあとすぐに例のあの一件となったんだけど……
「そうはいっても。男性はともかくとして、ご婦人方が誘ってもらいたそうにこっちをみてるし」
うわ。本当だ。
オレをみてるし。
コンラッドに視線を向けているご婦人方も多々といるけど。
一応男としての正装をしているので男には見られている…はず。
いやまてよ?
女性って、宝塚とか好きだしなぁ……
中にはこちらをよだれをたらさんばかりに見ている人たちの姿も。
ううっ。
地味にしてるのにぃ…
コンラッドも結構もてるんだろうしなぁ。
こんなコトならば、ヴォルフラムをつれてきて目くらましてしていてもらったほうがよかったのか!?
でもヴォルフの美しさは魔族とバレねないしなぁ。
この世界。
基本的に『魔族=美形』らしいから。
オレは母さん似とはいえ、むちゃくちゃ美人ってほどじゃないし。
つうか、どうみても女に見える顔だしなぁ…オレの顔は…
「しかも。男女で組んずほぐれつするダンスなんて。小学校の運動会どまりだよ」
「くんずほぐれつとは大げさだけど。ダンスなんて中学の卒業パーティーでやったでしょ?」
「USA文化と一緒にすな!中学の卒業パーディーでは野球部の顧問にピザを投げつけてやっただけ」
結構すっきりしたし。
周りからも拍手が送られたからなぁ。
アレは。
「ちなみに小学校ではどんなステップを?ワルツ?ダンス?」
「オクラホマミキサーと秩父音頭」
両極端だ。
あと、ソーラン節というのもあったが。
あれは関係ないだろう。
「日本も日米混合だからなぇ。共通点ってカントリー…という点のみ?」
オレの言葉にわずかに首をかしげ。
そして少し悩んでから、飲み物をおき。
「じゃあ。オクラホマミキサーでいきましょう」
「いきましょう…って。ええ〜!?コンラッドと組むの!?」
オレの驚きの叫びに。
「いきなり女性と踊ってリードしきれずに恥じをかくより。まず俺とで練習しときましょうか。
  大丈夫。男同士っていうペアも結構いるし。テニスでいう男子ダブルスみたいなもんだよ」
「ちょっとまて!今、聞き捨てならない言葉があったぞ!?」
オレの言葉に。
「たとえですよ。たとえ」
にこやかに、そういって笑っているコンラッド。
「けどオレ。女の子の役をやるのは絶対に!イヤだからな!」
女子の人数がたりなくて、女性パートを踊らされた経験ありのオレとしては……
「いいですよ。前から女性のパートも覚えたいとおもっていたんです。
  さあ。ユーリ。いつもと逆だから、こっちから俺の腰に手をまわして……
「ぎょえ〜!?やっぱり踊るの!?こんな中で!?というか、足元の骨がぁぁ!!」
叫びながらも、コンラッドにささやかれるままにと脚を踏み出す。
左左、右右・左右。
…視力検査並み?
ターンストップで休み。つかんでははなれてエビそってぽん。
うごくたびに足元でくだける骨などの残飯。
においも少ししているし。
さながら地獄絵図のよう。
…よく他のひと、こんな中で踊れるなぁ〜……

「ダ…ダンスのパートって男女問題でなくて、身長問題系重視だったみたいだね」
「の。ようですね。相手がグウェンダルでなくてよかったでしょう?」
「かんがえたくもないっ!」
というか、彼のあの表情で踊ってたら、周りがひくぞ。
絶対に。
ホールの中央では、ピッカリ君ことヒスクライフ氏が、礼儀正しくカツラをとったままで。
奥さんの細い体をプロレス技みたいに回してるし。
汗と照明に輝く彼は『王様と私』を彷彿させる。
「おっと」
急に演奏がスローテンポにと代わり、周囲がみんなお互いに密着しはじめる。
「チークはこうやってゆれていれば。まあ何とかなります」
「ゆれてりゃ…ねぇ。あ。すいません」
肩がぶつかったお隣さんは、船長と操縦長のカップルらしい。
船員さんも参加するんだ…コレ……
せめて、参加するんだつたら、足元の…つまり床の骨たちをどうにかしてくれ。
と。
トントン。
頭をつつかれ、振り向くと。
見事なオレンジ色の髪の一見大柄な女性が微笑んできているし。
…あれ?でもこの人?



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