「市内の人っていってたけど近場かなぁ?市内ってことは。」 オレの言葉に。 「陛下。ミッシナイは地名です。ヒルヤードの北のはずれです。 それに気がかりなのはそのようなことではなく…… あの挨拶は確かに、カヴァルケードの上流階級のものです。一度みたら絶対に忘れられませんからね」 たしかに。 「あれは忘れらんないよなぁ。若くして髪の多い男性とか女の子、どうすんだろ? …って?あれ?もしかしてカヴァルケードって…例の?」 ふと気づき問いかけると。 深刻な顔をして。 「そう。例のです。しかもあの男…かなりの使い手ですよ? マイホームパパぶって娘と手をつないでいたりしてましたけど。指にしっかりと剣だこが」 「剣だこ!?できるんだぁ。タコが。 まあ、そりゃあペンとかバットでもできるんだし、出来ても不思議はないけど。 でもコンラッドほどの剣豪じゃないんじゃない?」 そんなオレの言葉に。 「いやですねぇ。剣豪。だなんて。オレの場合は八十年くらいずって剣ばっかりでしたからね。 ずっと続けていれば上達もしますよ」 そんなオレとコンラッドの会話に。 「…ウェラー卿は眞魔国一の剣の使い手だからな…うぷっ!」 「そうなんだ。って無理するなって」 真っ白な顔でそんなことをいい、また吐きそうになっているヴォルフラム。 あまりに気の毒なので背中をさすってやる。 「ほら。ヴォルフ。水」 コンラッドがコップに水をつぎ、ヴォルフにと手渡してるけど。 珍しく素直に受け取ってのんでるし。 「酔いどめ薬があればいいんだけどね」 「この世界というか、ここでは薬は貴重品ですからねぇ」 「そうなんだ」 そんなオレとコンラッドの会話に。 「よいどめ・・?くすり?竜胆でもあれば……」 うぷっ。 そんなことをいいつつ、またまた吐きそうになってるヴォルフだし。 「ヴォルフ。あれは貴重で作り手もほとんどといっていいほどにいないからな」 …ん? 「それ何?竜…たん?そういうのアンリなら作れるけど?」 よく昔からアンリの作ったという薬で病気などをひいたときには、家族全員がその薬でよくなってたし。 アンリ曰く、たしか竜胆とかいってたし。 「猊下が…ですか?いや、彼ならば可能でしょうけど。そういえば今回はご一緒ではないんですよね?」 「うん。というかアンリと二人で昼間の格安タイムで銭湯。 …つまり公衆浴場に入ってたときにこっちに呼ばれちゃったからね。オレ。 風呂の中にはオレとアンリだけしかいなかったけど。 二人とも消えたら怪しまれるからってアンリは残ってるし」 「な!?風呂だとぉ!?お前!つつしみ…」 「叫んだらダメだって」 「ヴォルフ。あまり無理をするな。」 そんな会話をしていると。 コンコン。 扉をノックする音が。 「は〜い?」 いって、扉のほうにといこうとするが。 「って!陛下!コンタクト、コンタクト!」 「あっ!」 コンタクトをはずしてたのを忘れてた。 「ちょっとまってください」 扉の向こうの人にと声をかけておいて、コンラッドにコンタクトを再び装着してもらう。 そして、コンタクトをはめ終え。 カチャリ。 と扉をあけると、そこにはなぜかピッカリ君の家族の姿が。 「どうかなさったんですか?」 コンラッドの問いかけに。 「実は家内が是非にユーリ殿にお礼を。と申しましてな」 「おに〜ちゃん!この鳥さん私上手に折れるようになったよ!」 みれば、何やらどさり。 と両手から零れ落ちるほどにと作ってある折鶴の姿…… 奥さん、という人はベアトリスによく似ていて、とってもおだやかそうな人だ。 「…というか、そんなに作ってどうするの?そうだ。それらを針に紐を通してつなげたらいいよ。 千羽束ねたら願いがかなうっておまじないもあるし」 あれ? 願いを託すんだっけ? 千羽鶴は平和の象徴…といっても、意味わかんないだろうし。 どうやら母親にベアトリスは、とにかく鶴を折ってみせまくっていたらしい。 …スピカもよくやってたよなぁ…… で、困ることに広告や折り紙がなくなったら、小説本とか、漫画本を破かれたことも…… まあ、それも今では楽しい思い出のひとつだけど。 ちなみに、お気に入りの本をやられたときにはなきました。 本気で。 あと教科書やられたときには逆に喜んだり。 コンラッドが。 「これはわざわざご丁寧に。痛み入ります」 いってペコリ、と頭をさげてるけど。 「このような高度な遊びを教えていただきありがとうございます。娘も大変によろこびまして……」 顔色も悪いままでいってくるベアトリスのお母さん。 どうやら船酔いはまだ直ってないらしい。 「いや、高度でも何でもないですし……」 そんなオレたちの会話に。 「ユーリ!?お前は何をやったんだ!?このへなちょこ!!」 ぼすっ!! なぜかヴォルフラムが枕をなげてくる。 「へなちょこいうな!ただ鶴とかの折り方を教えただけだよ。あ、すいません。あいつが失礼しまして」 オレの言葉に。 「なるほど。あの方が婚約者のあなたを追いかけてきたという情熱的なお人ですな」 一人納得しているピツカリ君。 いや、だからそ〜でなくて……というか、オレたちそもそも男同士だってば!! 「つるって何だ!?」 「…いや、鶴は鶴だってば」 そういえば。 「もしかして、ここって鶴いないの?!いや、ありえるかも…」 思わずうなってしまうけど。 「お前、この僕というものがありながら!そう節操がなくてどうする!この尻軽!」 「だからぁ!何だよ?その尻軽って。フットワークが軽いって事?」 そんな言い合いをヴォルフラムとすることしばし。 「いやぁ。仲がよろしいですなぁ。いかがです?次はそちらの婚約者度も。 船酔いが直りましたらぜひご一緒にお昼のお茶会にでも参加いたしませんか?」 「お茶って…うげっ!」 「まてまてまてぃ!布団の上ではくな〜!!!」 多分、お茶と一緒に出てくるであろうお菓子を連想したのかヴォルフラムがおもいっきり口を押さえてるし… ……ダメだこりゃ。 「どうやらまだ、お具合がよろしくないようですな。お邪魔してこれ以上体調が悪くなられても何ですし。 とりあえず私たちはそろそろ失礼いたします」 いって、ペコリ、と頭を下げて、またまたピッカリ。 「うわっ!?」 あ。 ヴォルフラムまでそれをみて驚いてる。 普通驚くよねぇ。 普通…… 「ハハハハハハハハゲ!!??」 口をパクパクさせていってはならない単語をいってるし。 「せっかくきていただいたのに何のおもてなしもできませんで」 「いやいや。くつろいでいる最中に無理やり来たのは我々ですから。それではこれで」 いまだに不満そうなベアトリスをつれて部屋からでてゆくピッカリ君たち家族三人。
彼らが部屋からでたのを見計らい。 「今のはカヴァルケード特有の上流挨拶だよ。とりあえず、ヴォルフ? 風呂にでも入って気分を落ち着けたらどうだ?」 いまだに目をまんまるにして口をぱくぱくさせているヴォルフラムに苦笑しつつ説明していっているコンラッド。 「お…お前にいわれなくてもそれくらいわかってる!!」 いや、絶対に知らなかった。 という顔だぞ? お前のそれは…ヴォルフラム… 「う〜…気持ち悪い。風呂はいってくる…」 よろよろと、風呂場のほうにとむかってゆくヴォルフの姿を見送りつつ。 「いや。あせった〜。コンタクト。むやみにはずせないかな?」 「十分に気をつけてください。ここはすでに人間の領域です。魔族だとバレたら面倒ですし」 「はいはい。了解」 魔族…かぁ。 オレ的にはずっと普通の人間っておもってたからなぁ。 何かいまいち実感が…… ……でもオレ一応魔王…なんだよなぁ〜……
「…しかしさぁ。こんなことなら三等とか四等の部屋をとってたほうがいいんじゃぁ……」 夜になるとほとんどもうグロッキー状態。 何しろ特別室の客はゆっくりする間がない。 というのが正しい。 気分が悪いから、とでも断れば、船についている専属の医者…しかも数名。 彼らが部屋までおしかけ、ベットに押し込む。 …ギュンター…これじゃあ逆に目立ってるよ…… 「えくしっ!」 「お大事に」 見た目どおりのかわいいヴォルフラムのくしゃみにと返事を返す。 こいつって黙っていれば超美形。 だもんなぁ。 オレの場合は黙ってたら女の子に間違われることはしょっちゅうだけど。 「こんなことなら、本当。 二等とか三等室をとって終点までずっと閉じこもっていたほうが目立たずに島までいけたよなぁ。 おれ別に二段ベットでも相部屋でも。寝台車とかなんてこんなもの。と思えば我慢できるし」 「僕はそんなことには耐えられない」 「計画じゃあお前はついてこないハズだったろ〜!?」 「その計画自体がまちがってたんだ」 さすがに三日目。 ともなると慣れてきたのか…まあ、まだ顔色は悪いけど。 あと、ヒスクライフさんがくれた、という薬の効果も多少はあるようで話せる気力くらいは回復しているらしい。 だからといってこいつを人前に出すわけには。 それでなくても、オレとコンラッドだけでも結構目立っている、というのに。 ヴォルフラムまで加わるとどうなることやら…… 「あのなぁ〜……」 思わずあきれた声しか出せないが。 「そういえば。さっきから何を探してる?」 「ん?肩のここんとこを止める金具」 昨日は連れの具合が心配なので。 とかいって、夜間のパーティーは断ったが。 それが逆に噂に火をつけたらしく、 仕方ないのでこれ以上変な誤解をされないためにも、今夜の舞踏会には出ることに。 ヴォルフラムの言いたいことも判る。 オレなんかより、彼のほうがよっぽど適任だ。 「その箱には何がはいってるんだ?」 オレが取り出したハコをみて、多少顔色のよくなった顔をむけてくる。 「ん?ああ。これは旅には絶対必要で必ず役に立ちますからって…本だな」 ハコの仲には何やら油紙に包まれているものが。 その仲には何かいかにも高級そうな緑と青の表紙の本が二冊ほど。 ハードカバーにそれぞれ金の箔押しでモジタイトルがあるが。 いまだにオレは魔族の文字はよめないし。 刻まれていたりしている文字だと、なぜか手でなぞると頭に文字が浮かんで、しかも理解できるのだけど。 アンリがいうには。 オレがアーダルベルトにしてやられた『蓄積言語』とかいうやつの引き出しと関係しているらしい。 本来は文字なども書けたりするのだろうが、いかんせんオレの前世は目の見えなかった人。 ゆえに、特殊な能力が発達していたらしい。 この能力はオレの前世であるという、その『女性』の能力らしいが。 だからって役に立つことなんてないけどさ……
戻る →BACK・・・ →NEXT・・・
|