三つ続いている特別室の扉を過ぎて、一等船室の廊下を曲がり、屋根がなくなってみるとそこはデッキ。
海の男そのもの。
という船員が見習いらしき若手を殴っている。
この世界では仕事につく年なのかもしれないが。
どうみてもまだ十一・二歳。
まだ子供。
「何をやってるんだ!?」
オレの問いかけに。
「うるせぇ!」
「この船では朝っぱらから見習いを殴るのか!?」
注意はともかく、殴ることはないだろ?
かわいそうに……
少年の顔は殴られたらしき場所ははれてきているし。
「下のもんをどうしようとこっちの勝手…と。これはお客さん。お見苦しいところをおみせしました」
どうやらオレたちが特別室の客だと気づいて態度を改めてくる。
「あのねぇ〜!」
オレがさらに文句をいおうとすると、オレをそっと手で制し。
そして男のほうにとあるいてゆく。
「すいませんねぇ。こいつがつまんねえ間違いをやらかしまして」
近づくコンラッドに、そんなことをいっている船員。
「だからって殴ることはないだろう!?」
思わずどなる。
「耳障りだ。主人が気分を害している。」
「はぁ。ご主人というのはそちらのお方で?」
いってオレのほうを垣間見てくる。
コンラッドは船員に何かを握らせ…多分お金だろう。
男は肩越しに首を伸ばしてオレの方を伺い見て、にやけた笑いをうかべつつ。
「こりゃあ、さぞかしご苦労の多いことでしょうなぁ。
  申し訳ありません!お客様!不愉快な思いをさせちまって!」
「もういい。早く消えろ」
コンラッドが手で促すと男は立ち去る。
…あれ?
殴られた子のほうもペコリ、と頭を下げてかけてゆくが。
…あの子のオーラ…何か…負の気がまとわりついてるし。
純粋なる気にまとわりつくように。
でもそれは、何かに憑かれている…とかではなく。
少年地震が思い込んで発生しているようだけど。
ああいう場合はかなり危険。
洗濯によって悪に…というか悪いことに走る可能性あり。
ちなみに、あの子のオーラはかなりただいま悪いほうにと引っ張られている気ではある。
「やだなぁ。何か何事も金・金みたいだし」
そんなオレの言葉に。
「正義感や良心が痛みますか?けどこれで少なくともあの男は金銭で動くことがわかりました」
「その上。子供を殴るサイテー野郎。あんなに腫れ上がるほどなぐらなくても……」
オレが言葉を言いかけると。
「ほほほ。どうやらユーリ殿はまだお若いようですな。
  しかしまだお若いのにそう正義感が強くては何かと回りのものが大変でしょうなぁ」
みれば、オレの後ろからピッカリ君がやってきてるし。
「まあ。主人は思い立ったが即行動ですからねぇ〜……」
「…コンラッド。それ否定じゃなくて、肯定していない?」
「事実でしょう?」
「うっ!?」
言葉につまってしまう。
確かにその通りではあるんだけど……
「海の男は打たれて強くなってゆくのです。それにひとつのミスが人々の命を左右することもありますしな」
「…それは……」
いわれてみればその通り。
もしかしたら、そういうのを教えていてミスして、ついつい相手も力がはいってしまったのかもしれない。
だからって、顔が腫れ上がるほど殴ることは……
オレも小さいころ悪さとかしたら叩かれたけど。
腫れ上がるまで、はなかったぞ!?
「ユーリ殿のように正義感が強ければこの世の中は何かと大変でしょうな。
  この世は不条理な差別とかにみちてますし」
しみじみとそんなことを行ってくるピッカリ君。
「いがですかな?もやもやした気持ちはわからなくもないですが。
  ここはご飯でも食べて気持ちを切り替えては!」
いって、再びピッカリ君…というか、カツラとボーシをとってるし。
「それも一理ありますね。どうなさいます?」
「……とりあえず、朝食にする……」
あの男の子のオーラが気になって気分がもやもや。
とりあえず気分転換をかねてヒスクライスさんたちとひとまず朝食へと向かうことに……


もくもくもく。
「……?何してるの?」
オレの手元をみて問いかけてくるベアトリス。
うちの妹より少し下、といった所か。
「何してるの?」
なぜか様々なパンフらしき紙が数枚、テーブルの上においてあったので。
食事がくるまでに気分を落ち着かせる意味をもかねて、ちょっぴり折り紙をしているオレだけど。
「え?オリ紙だけど…しらないの?」
「しらない。わ〜!!すごい!鳥さんになった!」
オレの手元では基本中の基本の鶴が完成。
それをみて。
「ほう。実に興味深いですな。一枚の紙からそんなモノが出来るのですか?」
興味津々で聞いてくるヒスクライフさん。
「え?もしかしてオリ紙って普及してないの?」
オレの問いかけに。
「聞いたことはありませんね。…オレは知ってますけど」
…と、いうことは、地球で知った。
ということか。
そんなオレとコンラッドの会話に。
「ね〜ね〜。おに〜ちゃん?私にも出来る?それ?」
目をきらきらと輝かして聞いてくるベアトリス。
「誰でもできるよ。そだ。教えるからやってみる?」
「うん!!」
即座に返事をしてくるベアトリス。
「へ…ユーリ!?」
オレの言葉にコンラッドが驚くが。
「いいじゃん。別に。問題ないとおもうよ?え〜とね?まずこの紙を……」
「こう?」
ベアトリスが椅子を横にもってきて、興味心身で聞いてくる。
「…ユーリ……」
そんなおれを心配そうに見ているコンラッド。
別にオリ紙を教えたところで問題ないとおもうけど。
「で。そこを…ああ。違うよ。逆。そう。そこを折って……」
オレの手本を見せつつ、教え方にベアトリスは結構必死。
子供って興味あることは必死になるしね。
「いやぁ。ユーリ殿はお若いのに子供に教えるのが上手ですなぁ。
  しかしあのような誰でもできる紙細工など、聞いたこともありませんが。いったいどちらの?」
コンラッドにと問いかけているヒスクライフさんの姿。
「彼が育った地方での遊びのひとつですよ」
無難な返事をしているし。
まあ、嘘ではないよなぁ〜〜。
「出来たぁ!見てみて!お父様!私がとりさんつくったのよ!」
初めて作ったのがよほどうれしいらしく、
会話をしている二人の間に椅子から下りて駆け出して折った鳥をもっていっているベアトリス。
「そろそろ食事が運ばれてきますよ。お二人とも」
そんなオレたちにといってくるコンラッド。
見れば確かに何か多きな台車をもってやってきているし……
「ねえねえ!食事の後でおしえて!他には!他には!?」
目をきらきらさせていってくるベアトリスに。
「これ。ベアトリス。あまり無理をいっては……」
「別にかまいませんよ?」
「ユーリィ〜……」
オレの言葉に長いため息をついているコンラッド。
「だって別に減るもんじゃないし。それに思い出すなぁ。スピカもこんな風にいろいろせがんできて。
  アニキと一緒に下手したら一日中いろいろと作らされてたからなぁ。」
当時のことを思い出し、しみじみいいつつ出された水を飲むオレに。
「ユーリ殿?その??スピカとは?」
「ああ。オレの妹です。といっても血のつながりはないんですけど。
  オレを育ててくれている養父母の長女で今九つで、もう少しというか今年で十歳になるんですよ。
  ベアトリスよりちょっと上ですね」
オレの言葉に。
「養父母?」
「この御方は早くに両親をなくされまして」
「それは…大変失礼なことをお聞きしましたな。お気を悪くしないでくだされ」
「あ。別にいいですよ。というかオレの実の両親覚えてないですし。
  それに今の家族…それにコンラッドたちもいますから」
あちらがオレの家ならば、こちらもオレの家。
こっちの方は…国民すべてともいえる人々が家族である。
何かオレのことはあまり聞いては気の毒だ。
とおもったのかもっぱり自分のこととか、旅でのことを話し始めてくるヒスクライフさん。
この人もかなり人あたりがいいらしい。
何でも昔、身分違いだと今の奥さんとの故意を反対されて、家を飛び出して結婚したとか……
…何かすごい情熱家?

そんな会話をしつつ食事もおわり、ベアトリスにせがまれ席についているままでオリ紙講習。
鶴が上手に自分で折れるようになったって、次に別なのを教えたり。
だまし船には一瞬びっくりして、すぐさまに気に入ったようだけど。

「……ほ〜。これはすごい。」
…え?
……気づけば何だか人だかりできている。
中にはオレがベアトリスに教えているのをみて、自分でも挑戦している人も。
ま、オリ紙は大人から子供まで遊べるからねぇ。
亀や金魚など凝ったものを折ってみせたときは、何かものすごい尊敬のまなざしが。
ま、これらはコツつかまないと失敗するモトだしねぇ。
とりあえず、普通に使える紙でのコップの作り方や、帽子というかカブトの降り方。
あとは別の鶴の折り方を中心的に教え。
しばらくしたら、ベアトリスはそれらを一人で折れるようになってたりする。
子供って興味あることに関しては飲み込み早いからねぇ。

あまりヴォルフラムを待たせるわけにもいかないので、あとヒスクライフさんも奥さんが気になるらしく。
ベアトリスを説得してその場は約一時間くらいしてからお開きに。

その後では何か今、オレがベアトリスに教えていたのをまねして、
自分達で各自のテーブルで折り紙を折っている人の姿もちらほらとみえかくれしてるけど。
そんなに珍しいかなぁ?
ただ紙を折って何かを作るってだけなのに……



「……う〜…。遅かったな」
いまだにベットの上でうつぶせになっているヴォルフラムが部屋にともどると聞いてくる。
「というか大丈夫?」
いまだに具合が悪そうだし。
酔い止め薬…ここにはないのかなぁ?
「陛下は隣の部屋の方とご一緒に食事をされてたんですよ。…まったく。
  陛下。ご身分がばれたらどうするんです?それにアレ。
  アレはこの世界では知られていないものですから、余計に目立っちゃいましたよ。絶対に」
いいつつため息をついてくるコンラッド。
「ええ!?たかが折り紙程度で!?というかさぁ。この世界って面白い挨拶の習慣があるんだね」
とりあえず、コンタクトをはずして洗浄し、少しからだを休めようとベットに腰掛ける。
そして問いかけるオレに。
「いろいろありますけどね。……ですがあのヒスクライフは気がかりです」
いって腕を組んでいるコンラッド。



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