何か乗り込む人々をみれば、中世の紳士や淑女、といった格好の人々ばっかりなんですけど?
「すげぇ。オレ何か船ってディズニー・ランドのマークトゥエイン号しか乗ったことないしさ〜」
そんな船をみつつのオレの言葉に。
「マーク・トゥエイン号ですか。それはまたえらく短い旅でしたねぇ」
「そ。あとは箱根の海賊船とか」
あれは動かなかったけど。
「後者は知りませんねぇ。オレは」
あちら、というか日本の…地球のことで話が合うのはこちらではコンラッドだけ。
アンリは今回一緒でないし。
そういや、あれから人が入ってたりしたらアンリ、うまくごまかせてるかなぁ?
あれから銭湯に人が入ってきていないことを祈っておこう……

コンラッドがかかりの人にチケットを渡すと。
「なるほど。どうぞ。お連れさんはすでにおまちですよ?」
何やらにこにことオレをみてそんなことを行ってくる男の人。
『??お連れさん??』
オレとコンラッドが異口同音にいい、顔を見合すと。
「いやぁ。情熱的だねぇ。うんうん」
などといってるし……
「あのぉ?オレたち二人で連れなんかは……」
オレが言いかけると。
「あんたを心配して婚約者がおいかけてきているよ?いやぁ。いい度胸だ。
  乗船券もなくて直接交渉ときたもんだ。
断われたら密航してでもついてく!といわれちゃぁねぇ……」
「……まさか…まさか……」
何やら今ラドがしかめっつらしてつぶやき。
……オレ的にも何かすっご〜くイヤな予感……
「ま。乗船券はないけど。お金は払ってもらったし。
  何より特別室のお客さんの連れ。というか婚約者だ。すでに部屋にいってもらってますよ?」
そんな男の言葉に、思わず顔を見合わせ。
『まさかヴォルフ(ラム)!?』
二人同時に叫ぶオレとコンラッド……
……それっきゃ考えられないでしょ……
とにかく、ダッシュでオレたちにと割り当てられている特別室の部屋にと向かう。
……どうか嘘でありますように。
……って婚約者って…だからオレたち男同士……
そういや、いまだにアレ…撤回できてないんだよなぁ〜……
オレ的には撤回してくれって何どもいってるけど。
オレから断るのはプライドが許さない、というか傷がつくからやめろ!
といわれ……
ならヴォルフラムから断ればいいじゃん。
といっても、そんなこと出来ない。
の一点張り。
……もしかしたら、伝統的なプロポーズ方法って……
……知らなかったとはいえしちゃったオレからしてみれば……
伝統的ゆえに断れない。
という、そういう問題とかがあるのかも……と、日々冷や汗ものである。
こんなこと人には聞けないし。
アンリは面白がって教えてくれないし……
誰か男同士なんだから、おかしい!といってくれぇ!!
と、日々心で叫びつつあるオレ。
だけど、目下のところ誰も聞いてくれてはいない……
コンラッドもアンリと同じく面白がっているようだしさ……


『・・・・・・・・・・・・・』
思わず絶句。
ポーターにキャビンを案内してもらい、部屋の扉をあける。
リビングの置くにと続いている寝室。
部屋そのものがとても広いし……
壁や床、窓枠にまで装飾がほどこされている。
それらがすべてすばらしい。
バス・トイレは当たり前。
猫脚のソファーやティーティーブル。
床に複雑な織りの絨毯。
だがしかし。
「遅いぞ!お前たち!!」
……予想というか、まさかとは思ったが……
「やられた!!」
コンラッドがその姿をみて小さく叫んでるし。
……そりゃ、まさか追いかけてくるとは思わないよなぁ〜……
オレも思ってなかったし。
「というか!何でお前がいるんだよ!」
オレの言葉に。
「婚約者の行動を把握してて何が悪い!?僕をおいていこうなんて百年はやい!」
……ダブルベッドに、で〜んとヴォルフラムが座って言ってくるし……
…あぅ……
「えっと…これは新婚さん向けの部屋のようですね。
  陛…ユーリ様たちはまだ婚前さん…信じていいんですよね?」
などとオレにと問いかけてくるコンラッド。
「……過ちの仕方がわかんないよ…というか、それ以前に男同士だし!!」

そんな会話をしていると。
やがて船は出発し。
すぐさまヴォルフラムが倒れこむ。

「…だからついてくるなっていったのに。ヴォルフは船に弱いんだから……」
などとあきれてつぶやくコンラッドをみつつ。
さすが兄弟。
弟の事をよくわかっている、とおもったり。
とりあえず…ヴォルフラムの船酔いの対応に追われるだけで、その日の午後は過ぎていき。

――そして。

「さあ。おきてください。陛下。それとも朝食をベットまで持ってきてほしいんですか?
  放っておくと給士がきてテーブルを広げてしまいますよ?」
窓から朝の光が差し込む中、コンラッドがいってくる。
彼はソファーの上で寝たらしい。
ベットは広いんだから別に二人でも三人でも大丈夫そうなのに。
見張りですから。
といってゆずらないし。
別にそこまで警戒しなくても、大丈夫のよ〜な気がするんですけど……
そんなコンラッドの声に。
「僕の前で食べ物の話をするな……」
毛布の下で今にも死にそうな声。
「だってさ。着替えて顔あらって食いにいくよ。オレは船酔いしてね〜から」
密航まがいのことまでして、押しかけてきたヴォルフラムは、
船がでてすぐにトイレにと駆け込むハメにとなった。
血の気のなくなった白い頬に乱れた金髪を張り付かせてベットに寝たきりで水ものめない。
オレと言い合うこともできず、薄く目を閉じたままの三男は。
さながら天使が地上におちてきて絶望しているかのようだ。
「でも何かちょっとでも食ったほうがいいとおもうよ?パンとかアイスとかプリンとか。
  のどごしよさそうなもんルームサービスしろよ。牛乳とかオレンジジュースとかヨーグルトとか」
「うぷっ!!」
オレの言葉にタライにまたまた吐いているヴォルフラム……
「ってヨーグルトは逆効果だったか……」
それを見て思わず哀れむ。
こんな姿をみてたら、文句をいう気もなくなってくるのは仕方ない。

「ほら。ユーリ。コンタクト入れるからじっとして」
コンラッドの手によってオレの瞳は黒から茶に。
これで赤毛でヘーゼルアイの平凡な人間の出来上がり。
というわけだ。
最も、この髪染め…水とかに濡れたら落ちるのでヤバイが。
「ヴォルフラムが船に弱いとはねぇ。ちょっとかわいそうな気がするよ」
「だから来るな。といったのに。あんな弱った顔されちゃ説教する気も失せますよ」
いってコンラッドはため息ひとつ。
「いえてる」
オレとコンラッドがドアから出ると、ちょうど同じく隣の扉からも廊下に出てくる人影が。
五・六歳くらいの小さな女の子の手を引いた立派な身なりの中年の紳士でがっちりとした体つき。
多分オーラの色からして親子だろう。
彼はふとこちらに気づき。
ベージュ色の口ひげの下に、にこやかな笑みを浮かべ。
同じ色の豊かな髪と防止に右手をかけながらゆっくりとこちらにと歩いてくる。
そして。
「おはようございます」
「わあっ!?」
カツラー!?
いきなり帽子と髪をとって、頭を下げてきてオレはもうビックリ。
朝日にキラリ、とツルピカスキンヘッドが輝く。
一体何!?
指差しつつ、パクパクさせるオレの肩をつかんで、
「失礼。主人はまだカヴァルケードのほうの挨拶になれていないので」
オレの肩を抱いてにこやかにコンラッドが頭を下げる。
「って!?挨拶だったんですか!?」
もうびっくり。
あっちでも、ピカッ。
こっちでもピカッてか?
若い男性とか女性はどうするんだろ?
「おや?これから朝食ですか?なるほど。婚約者が密航の危険を冒してまで追いかけてきた。
  と聞いておりましたが…さぞやご苦労がおありでしょうなぁ」
って。
何かもう噂が広がってる!?
ヴォルフ…オレたちとんでもないことになってるぞ?
思わず脱力するオレに。
「私も妻が船酔いでして。部屋でゆっくりくつろげないのです。どうです?ご一緒しませんか?」
「え?いいんですか?」
「ユーリ…坊ちゃん!?」
オレの言葉に何かコンラッドがいってくるけど。
「…せっかくだし。お言葉に甘えようよ。
  こんな豪華客船の中。二人っきりで食事してたら何か居心地わるいし……
  それにヴォルフラムにも悪いしね。それに隣の部屋同士ってのも何かの縁、だろ?」
そんなオレの言葉に。
「ですが相手にご迷惑になるのでは?」
といってくるコンラッド。
何かコンラッドは警戒しているようだけど。
この人悪い人には見えないし。
オレって物心ついたころから悪いこととか考えてる人ってわかるからなぁ。
…なぜか。
というか、人それぞれに纏っている気の色…というかオーラが見えるし。
「いえ。ご迷惑などと。こちらからお願いしたいものです。
  なにぶん娘はこの旅行をひどく楽しみにしていましたのに。妻が船酔いで……
  ご迷惑でなければぜひとも朝食をご一緒しませんか?
  あ、申し送れました。私はミッシナイのヒスクライフ。これは娘のベアトリスです」
そういって、女の子を指し示すピッカリ君ことヒスクライフさん。
かわいいっていうのは、こういう子のことをいうのかもしれない。
うちの妹のスピカもかわいいけど。
薄紅色のワンピースの女の子は白茶の髪を左右でゆってじっとこちらをながめている。
「あ。オレはユーリといいます。ある商家の次男でして。で、こっちがお供のコンラッドです」
いってコンラッドをちらりと見ると、ペコリ、とお辞儀をするコンラッド。
「ほう。商家ですか。どちらの?いや、私も家は商家をたしなんでいまして……」
まずい。
「あ、あの。といってもオレ養子なので、それに小さな商家ですし。
  住んでいるところも名前も知られていないような辺境な島国でしたし」
まるっきり嘘はいっていない。
「辺境の…とは?」
「日本です」
「ユーリっ!」
「日本…ですか?それはどこに?」
「地球の中の上ほどにある小さな島国です」
「地球?」
「銀河系の中に位置している太陽系の第三惑星の位置にあります」
「と…とにかく。遠いどころからおいでのようだ」
どうやら混乱しているし。
だってこっちの人にあっちの常識いっても意味不明。
しかるにして混乱するのは明白だし。
…オレがこっちに来てそうだったように。
「とにかく、隣り合ったのも何かの縁ですな」
「ですね」
オレがそういいかけると同時。
「そんなことも満足にできねえのか!?」
近くで悪意に満ちた怒鳴り声と何かをおもいっきり叩く音。
それをきき、反射的に走り出す。
小市民的な正義感ゆえに。
「へい…いや、坊ちゃん!!」
ペコリ、と頭を下げてオレを追いかけてくるコンラッド。
そして……
「なるほど。あれではあの子の婚約者が追いかけても不思議じゃないか。人当たりのいい子だな」
父親の言葉に、こくり、とうなづいているベアトリス。
そんな会話をしている二人の姿。



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