「戦争なんかしないですむようにあんたの意見がききたい!」
グウェンダルの執務室。
そこで執務を取っている彼にと直談判。
後ろではヴォルフラムとギュンターがはらはらとして見守っているけど。
「…それは、魔王として…か?」
筆をとめて聞いてくるグウェンダル。
「ああ。そうだ。眞魔国を守りたいっていう思いはあんたも同じだろ?
  意見をききたい。誰も傷つけずにすむ方法の!」
このグウェンダルは戦争好き…というわけではないはずだ。
いろいろと案をだし、それでも相手の出方次第で動こうとしている。
国を守るために。
だけど、オレは誰かが傷ついたり、また無意味な戦いなどはしたくない。
というか、誰にもそんなことをしてほしくない。
そんなオレの言葉に、しばし無言になり、そして手をとめ。
「……手がないことはない」
「本当!?」
やっぱりグウェンダルは考えてたし。
「用は人間どもにこちらに手出しする気を失わせればいいわけだ。……ギュンター」
いって、後ろのギュンターをみるグウェンダル。
そんな彼の言葉に、ながくため息をつき。
「…我々魔族には魔王陛下にしか手にすることができない武器があるのです。
  ひとたび発動すれば空は裂け、海は割れ、牛が宙を舞った、といわれています」
あまり気乗りしない様子でギュンターが説明してくる。
「牛が!?」
竜巻に飲み込まれていくイメージ映像が頭をよぎる。
「そしてこの世の果てまでも焼き尽くす。という…実際には小都市を吹き飛ばす程度ですが。
  そういう伝説の武器があるのです。史上最強の最終兵器。名前をモルギフといいます」
「え?メルギフ?」
「モルギフです。陛下。最後に発動させたのは、八代前のフォンシュフォール・バシリオ陛下で。
  その後は用として行方がわからなくなっていたのですが、このたび……」
ということは、つまり。
「みつけたんだね!?」
思わずうれしい声がでてしまう。
やっぱこういうRPGぽい世界なんだから、聖剣とかあっても不思議じゃない。
男の子なら誰でも夢見る『聖剣もった勇者様。』
…女の子でも憧れるかもしれないが。
オレの言葉につづいて。
「なるほど。最終兵器が魔王の元にもどったと広まれば周辺の国も手出しをうかつにしてこれなくなるな。
  千年近く手にしたものはいないから魔王としての格もあがる」
しみじみといっているヴォルフラム。
…そんなにすごいのかな?
でも、国の宝っていわれるんだったら……
オレの頭の中で一瞬、どうしたら本当の意味での平和になるのか考えてみる。
魔王にしか使えない。
確かにそういっていた。
ならば……
だけど、今その考えは今はいうべきではない。
「じゃあ。その兵器を手にすればよくわかんないけど、この国はどこの国よりも強くなるんだな?
  そうしたら皆が恐れをなして戦争をしかけてくることはない。・・・と。
  強い国といい国は同意語じゃないけど、とにかく今は戦争を回避するのが何より必要だし。
  それ、どこにあるの?今すぐにとりにいくけど!!」
力は力を呼ぶ。
というのが判っているからこそ、思いついた外交作戦。
…って、でもグウェンダルたちには、その剣とやらを手にしてから説明しよう。
……でないと絶対にとりになんていかせてもらえない………
いくら何でも強い力を手にいれた国の国王が和平を求めにいって。
その証として宝である剣を預ける。
とまでいったら相手は手出ししてこないでしょ。
嘘は正義ではないけども、魔王にしか使えない。
というらしいから好都合。
要は『天空の剣』みたいなものでしょ?
相手に大切なものを預けて和平を結ぶ。
これ昔からのやり方だし。
かといって、オレは人質まがいなことはしたくないし。
ならば、剣とか物ならば?
多少抵抗はあるものの、でもそれで人々が争うことがなくなるんだったらそれにこしたことはない。
かりそめの平和でも長く続けばそれが真実となる。
こういう外交手段がベスト、だとは絶対いえないけれど、
今のオレに出来ることといったらそれくらいしか思い当たらない。
それかオレ一人で相手の国の国王と対談するか……
でもそれだとオレ、絶対に相手にされないと思うしなぁ。
自分でも王らしくないってわかってるし。
オレの言葉に。
「眞魔国の末端であるここ。ヴォルテール地方からかなりの長旅になります。
  剣があると思われるのはシマロン領内にあるヴァン・ダー・ヴィーア島という未開の地にて。
  そこにある物がモルギフであろう、という報告が寄せられています。
  いますが!陛下。わたくとしては賛成いたしかねます。
  モルギフは魔王本人しかもつことも、扱うことすらもできません。
  人間たちの領域に陛下がお行きになるなんて!危険です!
  陛下の御身に万が一のことでもありましたら!
  それに、今。かの島は年に一度の祭りの時期を迎えるのです。島民のみならず、各国から敵が!!」
何やらそんなことをいっているギュンターだけど。
「それってただの観光客でしょ?好都合じゃん。ならオレも観光客といていけばまったも不自然じゃないし」
そんなオレの言葉に。
「陛下。それだけじゃありません。かの島は人間たちの領域。
  ゆえに我ら魔族に従う要素が少ないのです。魔術が使えないのです」
「っていわれてもさぁ。別にオレ魔法なんてつかえないし」
「使ってますよ。陛下」
「アレで使えないというか!?お前は!?」
なぜかオレの言葉に猛抗議が。
だって使ってるのかどうかすら覚えてない。
ということは、使ってない、というか使えないのとおんなじじゃん。
「で?陛下?行かれるのですか?」
コンラッドがオレにと聞いてくる。
「当然!メルギフとりにいく!」
いって。
「やっぱり、こういうのが異世界にはなくっちゃねぇ。RPGみたいにそれがないとラスボスと戦えない。とか。
  超難解なダンジョンの奥にあるとか。メルギフってそういう聖剣なんでしょ?」
そんなオレの言葉に。
「せいけん〜!?」
??
何かオレおかしいこといった?
「また、そのようなお戯れを……」
何やらヴォルフラムもギュンターも不服そうだし。
グウェンダルまでもが何だかうつむいていたりする。
??
「陛下。魔王がもつ剣なんですから」
と、にこやかにいってくるコンラッド。
……え?
まさか……
「魔剣に決まっているだろうが。」
ため息まじりにグウェンダルがつぶやいてくる。
って!?
「でぇぇ!?魔剣だってぇぇ〜!!??」
オレの驚愕の叫びが部屋といわず辺りにとひびき。
なぜか額に手を当ててため息をついているグウェンダルとヴォルフラムの姿が――

だって、普通こういう場合って聖剣じゃん!?
…って魔王が聖剣もってたらおかしいか??
呪われたりしないだろうなぁ〜……
うっかり、そういうのを装備して、呪いにかかった。
なんてオレよくゲームの中ではやってたし。


とりあえず。
大人数でいっても逆に目立つし。
それならば少人数で観光客を装ったほうがいい。
ということに話はまとまり。
…ギュンターなどは艦隊を出す、といって聞かなかったけど。
そんなことをしたら、こちらから戦争をしかけてきた。
とも捉えられない、と説得し。
ならば自分もお供に!
とかいってきたけど。
というか、ギュンターのような超絶美形をつれてったらそれこそ注目の的である。
とにかく、国に優秀な補佐がいないと成り立たないでしょ?
とかこれは自分の役目だとか。
ともかくギュンターを説得するのにかぁ〜なり手間取り。
結果。
金持ちの坊ちゃんと護衛、という触れ込みでオレとコンラッドの二人で出かけることに。
そして。
ギュンターが手配してくれた。
という船にとオレたちは今たどり着いているのであるが……

「…何で豪華客船?…タイタニック?」
豪華客船。
といえばなぜかタイタニックがすぐに頭に浮かぶ。
思わず絶句以外の何者でもないる
カヴァルケード・ヒルヤード・ソンダーヤード。
この三つが主たる眞魔国から近い人間の国らしく。
ちなみに、交流があるのはヒルヤードだけらしい。
何でも建国当時に魔族にお世話になったから、という理由で表向きは交流をしているらしい。
他の国々からかなり非難をうけようと、実際はシカトするより交易で設けたほうが得策。
という考え方らしい。
そりゃそうだ。
なかなかに、ヒルヤードとは計算高い国ではあるらしい。
ヴォルテールの港から、三日かけて商船でヒルヤードにと向かい。
そこからさらに船をのりかえる。
そして向かうはシルクラウト。
それはヒルヤードの南端に位置しており、空港でいったらパブ空港のようなもの。
つまりは、国際都市のようなもの。
世界各国から人々が集まり交流や貿易が盛んで活気にあふれている都市のようだ。
そして、そこで必要なものを買って、ギュンターが各地にと潜伏させている情報屋…そんな人たちがいるらしい。
とにかく、そんな彼らとつなぎをとり、手配してくれたのは…
……どうみてもでっかい豪華客船。それ以外の何ものでもない。
ちょっとした小型版タイタニック。
というところではないだろうか?
オレの髪と眼の色は目立つので、髪は赤く染めて、そして眼には茶色いコンタクト。
眞魔国が魔力を上げて開発したらしいそれを装着する。
何かすごいごろごろするし……
付け心地は、日本のカラーコンタクトよりも、こっちのがかなり居心地わるい。
…こんどあっちからもってこようかな……コンタクト…
おふくろ、こっちでオレが魔王に就任しちゃったの知ってるし。
家にはあるからなぁ〜…おふくろの趣味で…色さまざまな…コンタクト……
「これはまた……。ギュンターもこんな客船を予約しなくてもいいのに…しかも特別室……」
コンラッドが手にした乗船券をもってそんなことをいってるし。
「……何か余計に目立つような気がする……
  というかさ〜。別に二等でも三等部屋でもよかったんじゃ……特別室って……
  余計に目立つ気がするんですけど……」
オレのうなりに。
「ギュンターとしてはそういう船旅をユーリにさせるのは許せなかったんでしょうけどねぇ〜…」
券を手にしつつ、しみじみといっているコンラッド。
いや、そういう問題じゃないとおもうぞ?
オレは。
偽名を使おうか、という声もあったけど。
逆にその偽名を忘れかねない、というので。
やるんだったらやっぱりオレとしては『徳田新之助』がいい。とオレはいったんだけど。
却下されたし。
ちなみに、コンラッドのお勧めは『水戸黄門』……いや、あの名前は不自然でしょ?
というわけで、そのまんまの名前で登録を。
でもコンラッドはウェラー・コンラートではなくてコンラッド。
オレも渋谷有利でもユリティウスでもなくユーリで。
ほら、どこにでもありそうな名前だし。
これならば目立たないなぁ…って思ってたのに。
ちなみに、瞳を茶色―…ヘーゼルアイにしたことで何だかますます女の子っぽくなってしまったのは……
……オレの気のせいだろうか?
「とりあえず。陛下…でなかった。ユーリ様。いきますよ?」
「様はいらないよ」
「それじゃあ。坊ちゃんで」
そんな会話をしつつ、意を決して船の乗船口にとむかってゆく。



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