コンラッドと共に、ざわめく人ごみをぬけてゆく。
行き交う人々のほとんどが、コンラッドにと声をかけてるし。
コンラッドって町の人にも好かれてるんだ。
と、何だかオレまでうれしくなってきたりして。
「よっと。とりあえず。ユーリ。城に一度もどったら。僕ちょっと出るから」
「了解。……オレは眠い……」
そういえば、モルギフをもってかえって城にともどって一度たりとて寝てないし。
そんなオレの言葉に。
「少し仮眠をとられるのもいいかと。さ。いきますよ。陛下。猊下」
「は〜い」
「わかった」
コンラッドと一緒にしばらくあるいてゆくと、数名の兵士たちが何やら敬礼してくるし。
な…なれない……
オレにしてるんでない。
と思い込もう。
うん。
一言、二言コンラッドが兵たちに何かを伝え。
オレたちはオレたちで馬にと乗り、城にとむけて進み始めてゆく。

城門をくぐれば、別に顔を隠す必要もないのでサングラスをはずしフードを下げる。
とりあえずコンラッドと一緒に数名の兵士を従えて、オレたちは一度。
城の中にと入り、それぞれの自分の部屋にと入ることに。


「とりあえず。謁見の日取りが決まりました。今から十日後です。
  彼らにはこの城の中に滞在していただくようになります」
服を着替えるオレの横で説明してくるコンラッド。
「来るのヒスクライフさんとその父親の王様だっけ?何か緊張するなぁ。だって相手は王様だろ?」
そんなオレの言葉に。
「陛下ぁ。陛下も王ですよ?」
くすくす笑っていってくるコンラッドだし。
「……王様らしくぜんぜんないけどね。そういや、オレがもどったあと何もなかった?」
オレの素朴な疑問に。
「ギュンターとヴォルフは大騒ぎでしたよ。
  ま、陛下はあちらにもどられても。すぐにもどってこられるから。と俺はいってたんですけどね」
……何かそのときのギュンターの様子が目に浮かぶようだ。
「そういや。二人でヒスクライフさんたちを迎えにいったんだって?」
「ええ。とりあえず、顔を見知ったものもいたほうがいいだろう。ということで。ヴォルフが同行し。
  ギュンターは迎えの隊の指揮をとっています。
  俺は陛下がもどられたときのために待機していたんですよ」
「ふぅん。ところで。だから陛下って呼ぶなって」
「すいません。つい癖で」
そんな会話をしつつも、とりあえず着替え終わると。
「さ。陛下。ギュンターから預かっている署名が必要な書類がありますので」
「でぇぇ!????…と、とりあえず、トレーニングが先!!」
「了解しました」
……ギュンター……
お仕事わざわざ言付けていかないでよぉ〜……
あぅ……
いつものコースをジョギングし。
風呂にと入ってかるく仮眠をとる。
夜になり、書類にサイン開始。
王様って大変なんだなぁ〜…とつくづく実感する瞬間である。
アンリは少し前にともどってきて、グウェンダルと今回の対談についての話し合いを行っている。
アンリの豊富な知識は色々なところで役にたつらしい。
一度など、二人の会話を聞いていたものの、何をいっているのか、はっきりいってちんぷんかんぷん。
…だったしなぁ……
こんな王様でいいんだろうか?
って思わず自己嫌悪。
あとわずかな残りの日で、ひとまずせめて失礼がないように、と礼儀作法でも特訓するしかない…かな?
しかし…なかなか作法って難しい……
まったく。
日本というか地球の作法とは、それらとはまったくことなることがこちらの国では多々とあるし。
本当、この国って変わってる……



チチチ……
「う〜ん。いい朝!」
「おはようございます。陛下」
「おはよう。コンラッド。やっぱ一人はのびのびできていいね!」

昨日。
ヒスクライフさんたちを伴って、ヴォルフラムやギュンターたちと共にもどってきた。
びっくりしたのは何とベアトリスのお母さんまで一緒だった。
ということ。
「ようこそ。わざわざのご足労。まことにありがとうございます。
  えっと…本日はお日柄もよく……って、あれ?」
「…ユ〜リィ…それは結婚式の挨拶…リラックス。リラックス」
彼らを出迎えるために正装して待っていたオレは、もはや完全に緊張しかちこち状態。
何しろ相手は一国の王様。
しかも、見た目もおもいっきり、王様、王様しているし。
オレなんか比べ物にならない本物の。
しがない一高校生がそんな一国の王様と出会い、しかも対談する。というのに。
緊張しないほうがおかしい。
で、結局。
彼らの姿がみえて、この数日教えられたとおりに挨拶しようと、がんばってみたものの……
…口から出たのは結婚式のありきたりのご挨拶。
……あれ?
しばしふかぶかとお辞儀をしたまま硬直し固まるオレに。
「本日は、我が眞魔国にはるばるカヴァルケードの遠方から…」
こそっと、コンラッドがオレの後ろで小声でささやいてくれる。
あ。そ〜だった。
「え。えっと。本日は遠路はるばるありがとうございます。
  カヴァルケードの遠方よりのご来園…でなかった。ご来国、恐悦至極に存じ上げます」
「…ダメだ。完全に緊張してる…ユーリのやつ……」
ヒスクライフさんたちを案内してきたヴォルフラムが小声で深いため息とともにいい。
「陛下。ファイトです!」
何やら小声で応援を送ってくれているギュンター。
横ではグウェンダルが何やら手で顔・・・というか、額を抱え、盛大なため息をついてるし。
かちこちになりながらも言葉を捜す。
えっと…次は何だっけ?
…とる
「ぷはははっ!なるほど。ヒスクライフのいうとおり、何やらものすごいかわいらしい少年のようですな」
何やらオレの前では笑い声が。
「…は?」
思わず顔を上げると、そこには何やらヒスクライフさんに多少面影が似ている初老の男性。
その豊かな白いおひげが何よりも威厳をかもし出している。
「…あ。あのあの。えっと。始めまして。オレユーリでなかった。渋谷有利原宿不利…でなくて」
「おちつけ!いいから!」
自分でも何をいっているのか判らなくなってきたぞ?
そんなオレの横でバン!と背中を叩いて活を入れてくるアンリ。
そして、深いため息とともに。
「……申し訳ありません。彼はこのような場を経験するのは初めてなもので。
  ようこそ。彼に代わってご挨拶を申し上げます。
  カヴァルケード国王。それにご子息のご家族の皆様方。
  本日ははるばる遠方より、ようこそ眞魔国においでいただき、まことに恐縮きわまります」
がちがちに固まり直立不動の状態になっているオレを見るに見かねてか、アンリが助け舟を出してくれる。
オレの背中をバン!と強く叩いて一歩前にでて、うやうやしくお辞儀をして挨拶しているアンリだし。
…よく緊張しないよなぁ?
そんなアンリの出迎えの言葉をききながら。
「…おに〜ちゃん?大丈夫?」
ちょこちょこと、ベアトリスが近づいてきてオレの手を握ろうとするが。
かちこちに固まっているオレは思わずそのまま少しの振動でも倒れそうになってるし……
情けないぞ!!?
がんばれ!オレ!
心はそう思うのに、体がいうことをきいてくれないし……
「…かなり緊張してますなぁ…彼は……」
ヒスクライフさんが、何やら笑いをこらえつつ言ってるけど。
「わっ!?陛下!?」
そんなオレをあわてて支えているコンラッド。
「まったく。あれで魔王だ。というんだからな。へなちょこめ」
「ヴォルフラム。仕方ないでしょう?陛下は要人とお会いになるのは初めてなんですから」
ため息まじりに言っているヴォルフラムに、何やら弁護してくれているギュンターの姿があったりするけど。
「…すいません。彼…本当に初めてなもので……」
それをただ、ひたすらに謝っているアンリ。
「それはそうと?貴殿は?貴殿も双黒の持ち主のようですけども?」
アンリをみて問いかけているおそらくカヴァルケード国王本人。
「あ。申し送れました。僕は村田健といいます。彼とは幼馴染で親友です。
  一応こちらでは、双黒の大賢者ってよばれてます」
いって、ぺこりと頭を下げるアンリの言葉に。
『……大賢者って……』
なぜか同時に異口同音でいっているヒスクライフさんたち一行全員。
そして。
「…大賢者…とは、もしやあの?」
などと問いかけているけど。
「でも、いくら何でも四千年前からずっと生きているわけではありませんよ?
  ただ、当時からの記憶をもったまま転生を繰り返してるだけですから」
さらりと、何やらとんでもないことをいっているアンリだし。
「大丈夫ですか?」
「な…何とか。」
自分自身に言い聞かせ、がくがくする足を奮い立たせる。
アンリたちがそんな会話をしている最中。
どうにか体制を整えて。
「どうも大変失礼いたしました。オレ…でなかった。わたくし、国王様などにお目にかかったことなど。
  産まれてこのかたなく…えと…その、ごめんなさい!!
  えっと…オレ…でなかった。
  わたくし一応この眞魔国の第二十七代国王を勤めさせていただいております。
  ユリティウスといいます。あ、でもユーリと呼んでくだされば大変にうれし…かごっ!?」
……舌かんだ……
それをみて、ヒスクライフさんや、国王様たちは、
『わはははは!!』
なぜかいきなり笑い出す。
…いや、そりゃ、オレ情けないけどさぁ……
そして、含み笑いをこらえつつ。
「失礼。そんなにかしこまらないでください。魔王殿。
  なるほど、息子から聞いていたとおりに、ものすごく素直で純粋でしかもかわいらしいお方ですな。
  噂では双黒の魔王はその力をもって人間達を滅ぼす。といわれてたのですが。
  これは真っ赤などうみても眉唾ものの噂でしたな」
などとそんなことをいってくる国王様。
「ええ!?人間を滅ぼす!?誰が!?オレが!?」
あまりのことに思わずびっくりして、思わず緊張がとけてしまう。



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