「無難なのはケーキかなぁ?」 「でも日持ちしないよ?すいませ〜ん。ビニールでないのに包まれている何か進物ありますか?」 少し寄り道をしてお菓子やさんへ。 「どういった用途で?」 「えっと。遠方から人が訪ねてくるので、そのお土産に。 でもビニールとかだと後の分別が大変ですし。その人の手間になりますし」 店員さんの言葉にアンリが答えているる なるほど。 そういう言い方もあるのか。 さすがアンリ。 そんなアンリの言葉に。 「そうですね。ではこれなどいかがでしょう? 包装素材はすべて燃えるゴミでいいですし。日持ちも結構しますし」 いって、店員さんが指し示したのはブッセの箱詰め。 「いいんじゃない?ユーリ?」 「そだね。任せるよ」 「じゃぁ、これをえっと…五個ください。」 「五個!?アンリそんなにいる!?ってお金ないしっ!?」 「二万もあれば足りるってば。」 「そりゃそうだけど……」 そんなオレたちの会話に。 「五個ですか?」 「ハイ」 「のし紙はどうしますか?」 「いりません」 「少々お待ちください」 いって、店員さんが奥にとはいってゆく。 包装が終わるのをまちつつ。 「でも何で五個?ヒスクライフさんたちに渡すのはわかるけど?」 そんなオレの問いかけに。 「ついでに眞王廟にももっていこうとおもってね。あとの残りは一つはユーリの身近な人間用でしょ? で、もう二つは数的に二つほしいけど二つわけて持ってくのは二つ。 でもまだまだ数的には足りないけどねぇ」 ?? 「眞王廟…って?そういや、オレまだいったことがないなぁ?」 話には聞いてるけど。 そんな会話をしている中。 「お待たせいたしました」 いって袋に入れられて進物が差し出されてくる。 とりあえず、お金を払い、そして、そのまま家にともどってゆく。
「あら?ゆ〜ちゃん?けんちゃん?今日はドームにいくんじゃなかったの?」 家に帰り、服を着替えているとおふくろがいってくる。 「今日はおあずけ。あっちでユーリが用事ができまして」 そんなおふくろの言葉に、にこやかに言っているアンリ。 「まあ。用って?」 「…あはは…ちょっと……」 まさか、他国の王様と会うんです。 なんていえば、このおふくろのこと。 写真だのサインだのをねだってくることは丸見えである。 「ジェニファーさん。いつものように風呂場の姿見。きりますね?」 「ゆ〜ちゃん。コンラッドさんによろしくね〜。知ってたら何か作ったのにぃ。 ゆ〜ちゃん。今度行くときには事前にママに教えなさい。いいわね?」 「…ど、努力します……」 とりあえず、服を着替え、ひとまずフードがついている上着も羽織る。 後はサングラスでオッケーだ。 オレの家の風呂場には、等身大の鏡があり、いつも大概そこからアンリが道をつないで移動している。 鏡でも道を作るのには問題ないらしい。 ただし、水気がないとダメ。 いちいち水にと飛び込んでいたら濡れるから、という理由で、これを道にしているのだけど。 おいていてもどうしようもないビーズ細工類も一緒にもっていくとして。 あとは時間つぶし用にと少し荷物を鞄にと入れる。 念のため、まだあけていないビーズ細工セットを二つ一緒に袋にいれ。 これで一応準備は完了。 アンリがしばしかがみに手を置き、何やらつぶやくと同時。 ぐにゃり。 と鏡に映っている景色がゆがむ。 「さ。いこ」 「は〜い」 もはや、この道も数回目。 かって知ったる何とやらだ。 問題は…毎回、どこに出るかわからない。 ということと、出る場所がまちまちだ。 ということだ。 だいたい国境付近のとある村に移動していたのだけども。 今回は城下町にと移動するらしい。 何かに引っ張られるかのごときの強い力に引かれつつ。 やがて、鏡の中にと入ってしばらくすると視界が開けてくる。 もういつものパターンなのでこれも慣れっこだ。 あっちから呼ばれるときも出来たら水の中からの移動はやめてほしい。 毎回、毎回、びしょぬれになるもんなぁ…… たとえば扉を開けたら、異世界。 というのが理想的。 そういうのは出来ないらしいけど。 現実って不親切だ。
ざわざわざわ。 人の声が聞こえてくる。 よくよくみれば、狭い通路の中にと立っているオレとアンリ。 「住宅街に出たみたいだね。さ。ユーリ。顔を隠してからいくよ?」 ごそごそと、フードを頭にかぶりつつ、アンリがいってくるけど。 「?お迎えまたなくてもいいの?」 いつもどうやって知っているのか、移動してきたときにはお迎えがあるし。 「ここで、たとえばフォンクライスト卿とかきたらどうするの?」 「……先にいきましょう。」 ギュンターが来たとすれば…人前にもかかわらず、大声でオレのことを『陛下。』 と呼ぶのは請け合いだ。 「ま。向かっていればイヤでも合流するって。ほら。見えてるし」 いって、アンリがちらり、と視線を向けた先には血盟城の姿が。 いまだに信じられないけど、主はオレだったりするんだよな…あの城…… どうやら時刻は夕方近いらしい。 買い物をする人々で通りはにぎわっているようだ。 とりあえず、フードを深くかぶり、路地から通りにと出てゆくオレとアンリ。
「さ〜やすいよ!やすいよ!魔王パンだよ〜!!」 …は? 「魔王アメはいかがですかぁ?」 …何? 「新発売!これで今日から君もマ王だ!いかがですか?お子さんに?今なら魔剣モルギフをセットで!」 「…モルギフもセットって……」 思わず、そんな店を覗いてみる。 「…あ、あのぉ?」 「へい。らっしゃい!」 声をかけると、元気のいい店の主人らしきことが声をかけてくる。 「これ…モルギフなんですか?」 いったいどこからその姿が漏れたんだろう? おもいっきりよ〜く似ているモルギフのダミー剣がおいてあるし。 ちなみに、鞘つき。 水晶の部分は再現されてないものの。 顔はおもいっきりよく似ている。 そんなオレの問いかけに。 「?お客さん?めがねなんてかけてますけど、どうかなさったんですか? ここだけの話ですけどね。血盟城にと勤めているとある人から聞きだしたお方がいまして。 まあ、信頼できる筋ではありますしねぇ。赤い悪魔に使えてる人だから嘘はいわないはずですし」 「…あ、赤い悪魔って……」 何か嫌ぁな予感。 モルギフをもってもどってきたとき、アニシナさんが結構はしゃいでいたからなぁ…… いや、それ以前に。 いったいいつの間にこんなものが作られて街で売られてるの? 「何よりもスピードが勝負ですからねぇ。魔王陛下が約十日ばかり前に剣を持ち帰られ。 しかも数日後にはこの国にカヴァルケード王家の方がこられるってんで。 今が一番のかきいれどきなんですよ」 「十日!?」 そんなにこっちの時間は経過してるの!? ……少しゆっくりしすぎたか? オレのそんな驚きの声に逆に首をかしげ。 「?どこかにいかれてたんですか?お客さん?それを知らないなんて?」 首をかしげてといかけてくる店の主人。 「それより赤い悪魔って?」 横からアンリが剣をみて、へぇ。などといいつつ、問いかけてるけど。 「口に出すのも恐ろしいですからねぇ。
下手に名前を出したりしたらその本人が実験台にされる、というもっぱらの噂ですし……」 何やらそんなことをいってくるけど。 じ…実験台って…… 「じ…実験台…って、アニシナさんじゃあるまいし……」 オレの思わずの本音のつぶやきに。 「お客さん!?あの赤い悪魔とお知り合いなんですか!? まさかお客さんも怪しい薬の実験台にされて目を悪くされた。とかですか!?」 『あ…怪しい薬って……』 そんな店主の言葉に思わずオレとアンリが異口同音。 「いやぁ。なるほど。気の毒にねぇ。…よし。これは差し上げましょう。 下手したら一生元にもどらないことがありますからねぇ。でもかよったですね。 骨だけになったりとか、肉が溶けたりする、とかいう薬でなくて」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「え…ええっと…アニシナさんって…ひょっとして魔道装置…って言っているアレ以外にも…… …もしかして、薬とかも作ってるんですか?」 思わず冷や汗がでる。 ……グウェンダルがあれほどアニシナさんに対して恐怖するわけがまた一つ判明。 思いっきりうなづく店主に思わず乾いた笑い。 「しかし。カーベルニコフ卿アニシナ様を名前で呼ばれるとは。 お客さん?もしかしてかなり実験台にされてるとか?」 「…いや、あったのはほんの数回なので……」 そんな会話をしていると。 「ユーリ!!」 何やら聞きなれた声が。 みれば、何やらこちらにむけて、走ってくる見覚えのある姿が。 「あ。コンラッドだ」 「これはウェラー閣下。…って、お客さん?閣下とお知り合いで?」 そちらをみて、同時にいうオレと店の主人。 「ユーリ!よかった。怪我とかはないか?」 そういいつつ、オレを抱きしめてくるコンラッドだし。 「ウェラー卿?人目があるよ〜?って久しぶり〜。」 そんなコンラッドに、にこやかに言っているアンリ。 「これはお久しぶりです。猊…いや、えっと……」 人目があるがゆえに、何とアンリを呼ぶべきか戸惑っているコンラッド。 「健でもアンリでも。何でもいいよ。別に」 察して横からそんなことをいっているアンリだし。 「コンラッド。別にオレは何ともないって。それよりまだ大丈夫?オレ間に合ってる?」 とりあえず、気がかりなのはそのことだ。 そんなオレの問いかけに。 「ええ。今ギュンターとヴォルフがヒスクライフ氏たちを出迎えにいってますので。 今回は俺だけが迎えにきたんですけど」 いってオレの顔をみて。 「なるほど。今回はフードとサングラス持参ですか。…ん?その荷物は?」 手にもった袋と鞄を見て効いてくる。 「お土産。ヒスクライフさんたちや、皆に上げようかと」 「僕も眞王廟にもっていこうかとおもってね。数断然足りないけど」 そんなオレたちの会話に。 「…あのぉ?お客さん?閣下?」 戸惑い気味の店の主人の声。 「あ。そうそう。コンラッド。これ見てよ。どこからか情報もれたみたいで。 というかアニシナさん関係で、みたいだけどさ」 いって、店にと置いてある子供ようのおもちゃのモルギフもどきを指差すオレに。 「なるほど。これはよく出来てますねぇ」 それをみて、一人感心しているコンラッド。 「へぇ。あのモルギフが本当にこんな顔にねぇ。年月って残酷だねぇ。いや、本当」 それを聞いてしみじみと何やらいっているアンリ。 「とにかく。ここは人目が多いです。もどりましょう」 そういってくるコンラッド。 一方で。 「?あのぉ?閣下?」 首をかしげている店の主人。 「ああ。彼は俺の知り合いの子供なんですよ」 ま、嘘ではないよな。 コンラッドのこの説明は…… 「そうなんですか?このお客さんが閣下の?とりあえず記念に差し上げますよ。 これ以上赤い悪魔の被害にあわないことをいのってますね」 いって、袋に入れて頼んでもいないのにモルギフセットを手渡してくれる店の主人。 …多分コンラッドの知り合いだから、被害にあった…とでも思っているのかもしれない。 「この先にお二人の馬もまたせてあります。 兵士たちもそちらで数名待機してますので。さ、急ぎましょう」 そういって、促してくるコンラッド。 「あ、あの。えっと。おじさん。どうもありがとうございました」 ぺこり。 とりあえず、頭を下げてお礼をいい、フードがとれそうになってあわててアンリが押さえてくれる。 ま、こんな人ごみで黒髪をさらしたらまずいしね…… その場を離れるオレたちの後ろから。 「…?馬?兵士?待機??」 一人、首をかしげている店の主人の声が聞こえてくる。 ……ごめなんさい。 本当のことはいえないんですぅ〜……
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