「あとの問題はカヴァルケードかぁ。やっぱりオレが出向くしかないかなぁ?」
食事をしつつ、つぶやくと。
「どうやらその心配はなさそうだ」
何やら目の下に隈を作っているグウェンダルが入ってくる。
「?心配ない。というのは?」
食事をしているオレの代わりにコンラッドが問いかけると。
「先日。カヴァルケード王からぜひ眞魔国王に自ら謁見、拝謁したい。と使者があった」
「――は?」
オレの間の抜けた問いかけに。
「おまえは船を襲ったという海賊を懲らしめたのだろう?
  その船には元王太子とその妻女。そしてそのご息女がのっていたらしい。
  かねてよりカヴァルケードの船団をおびやかしていた海賊の一部を旅の魔族がうちたおし。
  彼らを救ったとかで直接あって御礼がいいたいらしい。
  何でもその王太子がおまえのことを父親に報告したそうだ。ずいぶんと世話になったから。と」
そんなことをいってくるけど。
は?
「??海賊はひどい目にあわせたらしいけど。オレ覚えてないし。
  コンラッドかヴォルフラムなら知ってるだろうけど。でも…王太子って?そんな人いたっけ?」
コンラッドの機転によって用意されていた箸代わりの二本の木の棒をもって思わずつぶやく。
コンラッドも思い当たり人がいないらしく、オレがちらり、とみても首を横にとふっている。
「名前をヒスクライフというらしい。当人も直接お礼が言いたいから来たいそうだ。どうする?」
・・・・・・・・って!?
「でぇぇぇぇぇええ!?ヒ…ヒスクライフさんがぁ!?王太子ぃぃ!?」
オレの驚きは仕方ないとおもう。
「現カヴァルケードの長男。ヒスクライフはヒルヤードの商人の娘と恋におち。
  王室を出奔して野にくだっていたらしい。ところが。現王の次男が病でなくなり。
  子供をなしていなかったために跡継ぎがなく。
  カヴァルケード王室典範により、ヒスクライフの息女に継承権が生じた。とかで。
  近々彼らを呼び戻すとか。その跡継ぎを助けてくれたお礼もあるらしい」
そんなことをいってくるグウェンダルだけど。
「どぇぇ!?じゃぁ、ベアトリスって本物の皇女様だったの!?」
「と。いうことは。陛下は女王候補の夜会デビューのお相手。ということになりますね。
  どうします?一目ぼれされてカヴァルケード室から求婚されたら?」
目を見開いたのちに、笑っていってくるコンラッド。
「縁起でもないことを!コンラート!!
  わたくしたちの陛下の唇を人間ごときに奪われてたまるものですか!」
コンラッドの横にいたギュンターがそんなことをいってるけど。
唇程度ですむ問題だろうか?
とにかく。
「もちろん!オッケーにきまってるよ!というかこっちから本当は一人ででも。
  無理にでも出向いていって仲良くしましょう。って頭を下げようと本気でおもってたとこだし!
  すぐにオッケーして!すぐに!!」
オレの言葉に。
「しかし…陛下。陛下はいつ、あちらにお戻りになられてしまうかわかりませんが……」
不安顔のギュンター。
「そうなったら、アンリに頼んですぐにもどってくるし。ね!?すぐにオッケーして!!」
オレの言葉に。
「ま。猊下がいらっしゃれば問題ないだろう。大丈夫だろうな」
腕を組んでそんなことを言っているグウェンダル。
ま、オレよりアンリのほうが頼りになるしね……
「ではそのように手配いたします」
お辞儀をして、早いほうがいいだろう。
というので返事を返すためであろう。
ギュンターが部屋をでてゆく。
さすが、頼りになる王佐。
行動が早い。

「でも偶然ってすごいよなぁ。何かオレの周り偶然だらけ?」
前々から思ってたことだけど。
とりあえず、これでカヴァルケードとの戦争は避けられそうだし。
できたら和平条約結びたいなぁ。
こちらから提案してみるか?
…してみよ。
……って、何ごとも挑戦あるのみ。
「……陛下の場合は『偶然』と思い込んでいるだけのことが多いような気がしますが」
いって笑っているコンラッド。
「だってさ。雨がいきなり降ったりとか。そういうのって偶然じゃん?
  それに今度のは偶然同じ船に乗り合わせて、しかも隣同士で。
  さらには偶然に海賊に襲われて。ベアトリスたちを助けた結果。
  今になって、平和的解決できたわけだし」
しかも、オレが思っていたよりよい形で。
「全部が全部偶然ではないですよ。あの船に誰が乗っていてもあなたは同じことをしたはずだ。
  そこだけは必然であって偶然じゃない。
  もしこれが誰かの筋書きだとすれば成功の可能性は極めて高い」
そういうコンラッドの言葉に。
「…あらすじ?…ひょっとして…眞王?」
可能性はあるかもしんない……
「さあ?」
「アンリに今度聞いてみよっと。でもヒスクライフさんが元王太子とはねぇ」
かなりびっくりな事実だ。
「どうりで上流階級の挨拶をしているわけですね」
「あ〜……。あのピッカリピカピカは驚くよなぁ〜……」
そんな会話をしつつ。
とりあえず、ご飯を食べ終わり。
疲れているだうから、と先に風呂に入って今日のところはご飯を食べて早めに寝ることにときまり。
ご飯を食べ終わった後。
そのまま専用風呂にと向かってゆく。


「は〜……おちつく。」
お風呂ってどうしてこう、おちつくのか。
しかも、このお風呂、むちゃくちゃながらに広いし。
何しろ大浴場よりも大きい風呂が個人専用風呂だ…というのだから。
……いまだになれないけど。
それに、だけどもやっぱり貧乏性。
いつものようにと隅っこのほうにとゆったりお湯にと浸かる。
と。
がぼっ!!
「わっ!?」
「陛下!?」
風呂の出入り口で見張っていたコンラッドが声をかけてくるけど。
「うわっ!?これって…ひょっとしてぇ〜!?」
「へい…ユーリ!?」
コンラッドがお湯の中のオレにと手を差し伸べてくるけど。
オレはそのまま、風呂の中にと発生した渦の中にとひっぱられる。
これはもしや?
お帰りパターン…ってか!?


「ぶはっ!」
ざばっ!
お湯から顔を出す。
と。
「うわっ!?モルギフ!?」
目の前に、あのモルギフの情けない顔が。
「あ。ユーリ。お帰り〜。今回は五・六分くらいかかってたよ?」
何かものすっごく聞きなれた声が。
見れば、そこは元オレたちが入っていた銭湯の大浴場。
どうやら無事に戻ってきたようだ。
「アンリ?…って!?ああ!!?アンリ!あとでいいから、すぐにあっちに移動できる!?」
アンリの顔をみてほっとするものの、まだ肝心なことがすんでいない。
そんなオレの言葉に。
「?別にいいけど、というか、何であのモルギフの名前がでてきたの?」
首をかしげてオレにと聞いてくるアンリの姿。
「…あれ?これって?」
みれば、お湯を吐き出しているそれは、彫刻らしい。
オレのつぶやきに。
「何かこの銭湯の経営者の趣味らしいよ?ちなみに女湯は別なヤツだってさ」
「……なんつ〜趣味……って、これモルギフの顔……」
そんなオレのつぶやきに。
「ええ!?モルギフはもっとハンサムだろ?どこが似てるの!?
  って。あっそっか。今回はモルギフとりにいってたんだ」
一人、何やらいって納得しているアンリだし。
「ええ!?ハンサム!?あれのどこが!?ほぼこれと同じ顔だったよ!?ムンクの叫び!!」
オレの台詞に。
「?もしかして年月で顔が変わったのかなぁ??」
「……変わるものなのか?」
思わず脱力。
…ま、まあ、生きているんだから変わってもおかしくはない…とおもうけど。
しかも絶食していた状態だし。
「そういえば。また何であっちに?今回のエドの用事はすんだんだろ?」
首をかしげつつ問いかけてくるアンリだけど。
「一応。カヴァルケードとの戦争は回避できそうなんだけどさ。
  カヴァルケード王との謁見の約束をしたんだよ。向こうが眞魔国にくるらしくて」
そんなオレの言葉に。
「戦争??…でもユーリのことだから。
  もって帰ったとしたら、どうせモルギフの額の石をどこかにやったんじゃないの?」
「ヨザックに預けたよ。石は。って何でわかんの?」
お湯から出てとりあえず今一度しっかりと髪を洗う。
ついでに体も。
「ユーリのことだからね」
答えになってないってば。
「とりあえず、モルギフがあるっていう島に行く途中。海賊に襲われちゃってさ。
  オレが何かまたやったらしく。その船にカヴァルケード王家の人がのってて。
  助けてくれたお礼にくるんだって。ギュンターに日取りを決めてもらうようには頼んだんだけどさ。
  まさか血盟城にもどって、風呂に入ったらその日のうちにもどってくるなんて思わなかったし」
そんなオレの説明に。
「なるほど。今回エドがひっぱったのはそれかぁ。オッケー。それじゃ、ユーリ。
  家にもどってからすぐにあっちにいこう。
  まさか、外交より野球観戦のほうが大事。とは、いわないよね?」
にっこりと微笑まれ。
「……野球観戦はあきらめます……」
うなだれるしかない。
何しろ他国と友好条約を始めて結べるかもしれない、というチャンスだ。
千里の道も一歩から。
ということわざもあるし。
「そうこなくちゃ」
そんな会話をしていると、オレたち以外の客が風呂の中にとはいってくる。
一瞬、オレをみてから、混浴…じゃあないよな?
とかつぶやいてるけど。
だかぁらぁ。
オレは男ですってば。
「なあ?アンリ?何か手土産もっていったほうがいいかなぁ?」
「でも日持ちするものでないと。それにあっちにはビニールなんてものはないし。
  燃やしたら有害物質でて、大気を汚染するよ?紙にと入ってる何かがいいんじゃないかな?
  それかゴミは城の中で食べてもらって持ち帰る」
「う〜ん……。何しろ始めてだからなぁ。対談なんてさ。しかも王様との」
そんなオレのつぶやきに。
「ユーリ。単なる高校生が普通国王と対談なんてやってるはずないよ」
「だよなぁ。」
体を洗い、湯船にとつかりつつ、話しているオレとアンリに。
「君達学生さんかい?」
横から声をかけてくる初老の男性。
「はい。そうです」
アンリが答え。
「すごいねぇ。学生なのに外国語ペラペラなんだ。今のどこの国の言葉?」
「……え?」
オレ的には普通に話していたつもりなんだけど?
もしかして、あっちの言葉で話してたのか?
「ある外国の言葉です。」
アンリが適当にごまかしている。
まあ、嘘はいってないよな……嘘は。
「さて。それじゃ、そろそろ出ようか?ユーリ?買い物してからもどって。それからまたでるよ?」
いって、ざばり、とお湯から出ているアンリにつづき。
「はいはい。……お金足りるかなぁ?」
そんな会話をしつつ。
一緒にと入ってきていた男性に、お先に失礼します。
と声をかけ。
とりあえず、オレとアンリは銭湯を後にする。



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