何の気になしにデッキをあるくつもりで外にとでる。
ふとみれば、ヨザックが一人島を眺めている。
オレが階段を上りきる前に、コンラッドが友人の胸ぐらをつかんでいた。
「どういうつもりだ!?」
「何がだ?」
ヨザックが壁にと叩きつけられる音。
「ヴォルフラムが祭りについて知らないのは本当だ。あいつは人間に興味がないからな。
  だがおまえは十二を過ぎるまでシマロン本国で育ったんだ!文字が読めないはずはない!
  よからぬ行事に関しても聞いてないわけがないだろう!?」
コンラッドの口調から本気で怒っているのが感じ取られる。
こんなコンラッドの声は初めてだ。
出てゆくに出てゆけず、そのまま階段にと座り込む。
「うまくいきそうだったじゃないか。
  いざって時に陛下が怖気づきさえしなきゃ。あのガキの命をすってモルギフも満足だ。
  まっ、結果的に爺さんの命で我慢したみてぇだがな。
  魔剣を使える状態にして国に持って帰れるはずだった。
  使えねえもん持ってたところで敵国は恐がっちゃくれないかんな。
  最も。まさか本気で剣を使って交渉しようとしているなんて思わなかったがな」
「……おまえたちのやり方は間違っている」
声をおしたコンラッドの声。
「どこが?だってあんなお子様に任せといたらこの国はどうなるかわかんねえぞ?
  背後からうま〜く舵をとればいいんだよ。陛下だってそのほうが楽なはずだ」
「王をないがしろにして国を操るのは謀反と同じだ!!
  おまえは…いや、おまえたちはあれだけ軽蔑していたシュトッフェルと!!
  同じことをしようとしているんだぞ!?
  判っているのか!?それは前王ツェツィーリエ陛下と同じ過ちを新王陛下に犯させようとしている。
  そんなことは絶対にさせないっ!!」
強い口調のコンラッドの声。
「ないがしろになんてしてないだろうが。オレ的にはあの陛下は最強の武器を手にいれて。
  どこの国よりも国力を強くして戦争を裂けようとしているって思ってたけどな。
  まさか国宝をつかって話し合い。しかも相手に渡そうとしているなんて誰がおもう?
  ほんっと、誰かさんそっくりだぜ。あの坊ちゃん」
いってふっと笑っているらしいヨザック。
「あんな危険な目にあわせることはないだろう!?
  おまえたちは陛下に人殺しをさせようとしたんだぞ!?」
コンラッドの声が震えている。
「結局。おまえはさぁ。あの坊ちゃんが大切なわけだろ?…その理由はやっとわかったけどな。
  何で隊長が時期国王の名付け親となったのか。ずっと気になってたからな。そういう噂をきいて」
「それとこれとは話が別だ!…まさかおまえユーリの……」
コンラッドの声に戸惑いの声がまじる。
「人間と魔族の共存。ねぇ。あの方はいつもそういってたよな。
  あんたの弟と婚約したいきさつもあの人とそっくりだ。
  気づかなかった俺もうかつだぜ。けどな?そうでないにしてもオレたちも忠誠はあるんだぜ?
  何しろあの坊ちゃんはソフィア様の忘れ形見だ。彼の存在だけでも我が国の意義はあがる」
「ユーリはそんなに弱くない!!というか、ただの偶像にはさせないっ!
  だが…これだけはいっておく。ヨザック。
  再びこのようなことがあり、もし万が一…陛下の身に危険が及んだそのときには……」
妙に長く思い沈黙。
そして。
「……その命。ないものと思え……」
押し殺した聞いたこともない声。
いつものコンラッドからは想像もつかないが。
こちらに近づいてきそうなので、あわててすぐにきびすを返して階段をおりる。
「グウェンダルには俺が直接話すおまえたちのやり方は陛下を傷つけるだけだ!」
「ご自由に。けどああみえてあの坊ちゃん。なかなかやるぜ?
  しかも自由に力をコントロールできないときた。上にたつものの自覚はあるようだがな。
  経験がない、ときている。」
「そんなこと。本人以外みんな承知しているよ」
オレは力のコントロールとかいわれても、まったく覚えてないけどね。
それに、上に立つものの自覚…はないとおもうけど?
経験は…あるほうが恐いとおもうけどなぁ?
何しろオレ、そこいらにころがってる普通の野球小僧で高校一年生だよ??
近くの扉に隠れてコンラッドをやりすごす。
いったい昔。
何があったんだろう?
それに『あの方』って??
何が何だか判らないけども。
とりあえず、気分を落ち着けようとヨザックとは逆のデッキにと移動する。


しばらく潮風にと辺り、与えられた部屋にと入り、風呂にと入りしばしの休息。
剣を火山に封印するにしても、祭りの終わった夜遅くがいいだろう。
というのでとりあえず島の反対側にと停泊する。
この船。
部屋は余りあるほどあり、一人一部屋きちんとある。
豪華クルーザー……
昔、ボブおじさんに少しだけ移動しないまでも乗せてもらったことがあるけど。
広さはそれに匹敵する。
夜が更け始めたころにと外にとでる。
先ほどまでの騒ぎが嘘のように北側はひっそりと静まり返っている。
祭りのマの字も感じられずね同じ島内とは信じられないくらいに音も灯りも賑わいもない。
体をいつものペースに戻したい。
でないと頭もはたらかない。
ロードワークをするためにと浜にとでる。
モルギフはオレが封印する、といったら泣いていた。
気の毒だ。
とは思うけど、だけども力はさらなる力を呼ぶのは明白だし。
足を動かせば血液が循環し、脳みそにも酸素がいきわたる。
船の灯りだけが頼みの砂浜で波打ち際をはだしで走る。
ここでははだしだから、といってガラス片などのゴミで怪我することもないようだ。
暖かく濡れた砂がかかとを包み、衝撃を吸収してベタベタとなる。
オレの後ろからはコンラッドが走ってついてきている。
「まだヴォルフはうなってましたよ?」
苦笑しながらもオレにといってくるコンラッド。
「オレ、そんなに変なこといったかなぁ?」
「ま。国宝を外交の道具に。というのはまず聞きませんね。
  しかもそれが無理ならば、悪用されないようにと火山に封印するなんて」
でもそういっているコンラッドの声はとても楽しそうだ。
「ま。あんな力をだされちゃねぇ。…とりあえず、モルギフは使えないから。
  後はオレ一人ででもカヴゥルケードにいって、どうにかして話し合ってみるよ」
「ですから!お一人でなんていかせられませんってば!」
「え〜?でもさ。大勢でいったら逆に警戒されるじゃん?」
「…ユーリ。人間の世界に一人でいかれて、何かあったらどうするんですか!?」
ため息をつきつつ、最後には強い口調。
「でもさ。ともかくどうにかしないと。絶対に!戦争なんかにさせてたまるものか!!」
人間の世界ってそもそも地球ではそれが当たり前なのでいまだにピンとこないのも事実。
そんなオレの言葉に。
「それはそうなんでしょうけど……」
何か言い合ってても不毛のようだ。
とりあえず。
「とりあえず、柔軟でもしてみて。いい考えを考えてみるよ」
部活をやめていても、毎朝ジョギングしていたがために、
ここ一週間ばかりこちらにきて走ってないので、体の調子が本調子ではない。
「お手伝いします」
オレの言葉に微笑むコンラッド。
「だけど、自分でジョギングするのと部活のロードワークとではやっぱり違うなぁ。
  そういやもうすぐ初試合なんだよな」
そんなことをいいつつも、柔軟体操を開始する。
「そういえばコンラッドは反対しないの?剣をおいていく。というのに」
オレの質問に。
「ユーリの言いたいことはわかりますからねぇ。あの資料館を一度でもみてたら。
  戦争経験のない人でも、そういった気持ちになる、というのは誰でもわかりますよ」
そういえば、コンラッドは例の資料館をみたことがあるらしい。
あれをみて、戦争をするのが正しいことだ。
といえるものなどまず絶対にいないはずだ。
また強すぎる力の警戒も同時に持つのも当たり前。
「オレは眞魔国をどこよりも強い国にしたいわけじゃない。強い国といい国とは同意語じゃないんだ」
オレのつぶやきに。
「オレは陛下を信じてますから」
「だから。陛下ってよぶなって。名づけおや」
「すいません。つい癖で」
コンラッドに背中を押してもらいつつ、そんな会話をしているオレたち。
もう少ししたら、モルギフを火口にと封印しにいく。
誰も触れられないように。
オレがのんびりと柔軟体操をしていると。
「おまえたち!そこで何をしている〜!!」
目覚めたらしいヴォルフラムが息せききって走ってくる。
そして。
「かえってこない。とおもったら砂浜でくっついて何をしているんだ!?」
月明かりでもわかるほどに息をあらげて顔を真っ赤にしていってくる。
「何って。見てのとおり、柔軟体操」
それ以外の何がある、というのだろう。
「おまえこそどうした?息せき切って、わざわざ陛下を監視するためにきたのか?」
コンラッドが末の弟であるヴォルフラムにと問いかけると。
「ああ!?そうだった。それどころじゃななかった!大変だ!ユーリ!魔剣が!?」
などといってくる。

「モルギフが?」
「……壊れた。」
『……は?』
思わずオレとコンラッドで異口同音。
どうして。
というより、どうやって???



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