われ先にと闘技場から逃げ出した人々や。 噂を聞いて逃げ惑う人々で街はちょっとしたパニック状態。 制服… つまり、ここの兵士たちの服の威力は抜群で、みんないやな顔をしつつもオレたちからよけてゆく。 「で?どこにいくの?」 オレの問いかけに。 「あそこです!」 いってコンラッドが指し示した先には、マリーナの中。 数々の豪華客船の中でもひときわ目立っている優雅できらびやかな船が。 純白のボディーに銀の星。 下ろされているセイルは深いアクアブルー。 その上のデッキで女性が手を振りながら。 「陛下〜!みんな〜!はやくいらしてぇ〜!!」 などとそなんなことをいってるし。 …腰まである金色の巻き毛。 ほとんど肌が出ている扇情的な服。 服、というよりははっきりいって布。 三男そっくりの白い肌を惜しげもなくさらしている脚線美。 うう。 純情な少年には目の毒です……ツェリ様…… 手を振られているたびに、胸がゆれてますぅ……
「きゃぁん!陛下!おひさしぶりぃぃ!!」 「は。はぁ…ツェリ様もお元気そうで……」 抱きつこうとするツェリ様を、思わず次男の後ろに隠れてやりすごす。 この人のスタイルは、はっきりいって健全な男子にとっては目の毒だ。 「母上。そんなことよりも今は」 冷静にコンラッドにいわれ。 「わかってるってぇ。もう。コンラートったら。そんなにいわなくても。 とにかく中におはいりになって。みなさま」 いってチュパッとナゲキッス。 …くらくらしてきた。 必死に百五十歳近いんだ。 と自分に言い聞かす。 船内にと案内され、オレたちはひとまず進められるままにとソファーにと。 何だか落ち着かない。 金やら銀やら何か宝石だらけだ。 「これはわたくしの船なの。『愛のとりこ号』っていうのよ」 …何とも気恥ずかしい名前をおつけになったものだ。 「母上。そんなことよりも。早く船をだしてください。けが人もいるし。 陛下もお疲れです。癒しの一族をつれてますか?」 コンラッドの言葉に。 「そんなことシュバリエにいってちょうだい。けが人がいるの?あら、まあかわいい」 リックをみて、唇に手を当てていっているツェリ様。 「矢に射られたのね。ちょうどよかったわ。いやし系美中年をのせててよ。 でもあたくしの美容専用だから怪我の治療はどうかしら?」 「…い…癒し系…美中年……」 思わずオレがつぶやくと。 何やら横でヨザックが、またか…というような表情をしているし。 「有名なヴァン・ダー・ヴィーア島での火祭りを見に行ったら。魔族が捕らえられた。 って噂が耳にはいったの。それでシュバリエに調べさせてたら、コンラートと接触できたのよ」 いって、シュバリエ、という人にリックを奥にと連れて行くように命じているツェリ様の姿。 どこかで見たことがあるとおもったら、彼は例の風呂場にいた積極的ニューハーフさんの一人だ。 「陛下ったら。相変わらずかわいらしくていらっしゃるのね。あたくしの息子と進展はあって?」 ゆっくりと、船がマリーナから少しはなれる。 多分追っ手対策だろう。 いくら何でもこんな船の中にオレたちがいる…とは誰も思わないだろうし。 「進展はないですっ!」 にじりよるツェリ様を避けようと、オレもじりじりと椅子を移動する。 だって心臓にわるいもん。 「あら。残念。せっかくいろいろと想像していたのに」 「何を!?ねえ!?何をですか!?それに!というかオレたち男同士!!」 オレの叫びは何のその。 「ってことは、あたくしにもまだチャンスはあるわけね。んふ。本当にかわいらしい。 こんなにふるえちゃって。この船は治外法権なんだし。 どの海をいくのも自由だから無粋なものたちが邪魔しにくることなんてなくてよ?」 「無粋って何ですか!?というか!ツェリ様!そんなにくっつかないでくださいぃ〜!!」 オレの叫びに。 「母上!!」 ヴォルフラムが立ち上がって文句をいっている。 「あら。ヴォルフ?早いもの勝ちなのよ?それに陛下が男の子である限り。 あたくしにもチャンスはあったよ?あなたに心惹かれたらソフィアお姉様のお子様なんですもの。 だから女の子になられてるはずですし」 「――は?」 ツェリ様の言葉に、思わず目が点。 「僕は男同士でもかまいません!というかユーリが女になればそれにこしたことはないですけど!」 「ってちょっとまて!?何それ!?というかオレ男だよ!? いくら女顔だからって女になれるって…それ何!?なれるわけないじゃん!?」 オレの叫びに。 「あら?だって陛下は生まれたときは、男の子でも女の子でもどちらでもなかったんですのよ? ということは、どちらにもなれる性質をソフィアお姉様から受け継いでいるってことじゃなくって?」 はいぃい!? 「何ですかぁ!?それは!?んなこと出来るわけ…って!?はっ!?男でも女でもないって?」 何か前おふくろもそんなことを言ってたような?? 唖然とするオレをみて。 「そういえば、陛下。そんなことより魔剣を手にいれられたんでしょう? ねえ。あたくしにも見せてくださせない?」 「……いや、そんなことって……」 かなり重要なことのようなオレ的には思うんですが? ツェリ様?? とりあえず、断る理由もないし。 これ以上、ツェリ様にすりよってこられて胸をこすりつけられても困るので、顔を覆っていた布をとり。 ひとまず、スラリと鞘からとモルギフを抜き放ちテーブルの上にとおいてみる。
「きゃぁ!すごいわ!こんな不細工な剣ははじめて!ねえ陛下!あたくしのお部屋に飾ってはだめ?」 「というか、これこの島の火山口にと封印していきますから」 『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』 オレのさらりといったその言葉に、なぜか一瞬その場が静まり返り。 そして。 『う〜〜!!!!?』 何かモルギフまでもが抗議の声。 「ちょっとまて!ユーリ!せっかく手にいれたのに封印だと!?」 オレの襟首をつかんでがくがくとゆすってくるヴォルフラムだけど。 「だってさぁ。モルギフって人の命を食べたらオレでも制御できない力をだしてたし。 そんなの相手の国にこちらに戦う意思がない証として渡しでもしたら。 あっちでもし発動でもしたらそれこそ国際問題じゃん?」 さらり。 というオレの言葉に。 「それこそまて!ちょっとまて!何だ!?それは!?モルギフを…相手の国に渡すだとぉ!?」 あ、何かヴォルフ、ものすごい顔が真っ赤になってるし。 「……あれって本気だったんですか?」 なぜかため息まじりにつぶやいているヨザック。 きっと泉でのオレとコンラッドの会話を聞いていたんだろう。 「おちつけ。ヴォルフ。陛下が息ができない」 オレの襟首を締め上げようとしているヴォルフラムにとあいの手をいれてくれるコンラッド。 「これがおちつけるか!!モルギフは最強の剣!その力をもてば我が国はどこよりも強くなる! だから取りにきたんじゃないのか!?」 「だって…ごほっ。苦しい。始めにそれいったらそれこそ取りになんてこさせてもらえないじゃん!? 魔剣で外交しようとしてるっていったら……げほっ」 「当たり前だ!というかおまえは我が国の宝を人間に渡すつもりだっただとぉ!?」 「宝より何より人命が第一じゃん!?それにオレが一人で相手の国にのりこんでって。 戦争はやめて仲良くしまょう。っていっても聞いてもらえないだろ? オレ自身も王らしくおもってないしさ。 だけど、何か伝説になってる武器を手にいれた、っていったら相手も対談に応じるじゃん? 出方を見ようとしてさ。 で、計画では戦う意思がない証としてモルギフをあいての国に渡そうとおもってたんだよ。 オレにしか使えないんだったら悪用されることもないじゃん! …だけど、さっきのみて、その計画じゃ、逆にあちらで人間の命をすって発動でもしたら。 それこそ国際問題だし!?かといって、このままモルギフをもってかえったら。 魔族の国が強い力を手にいれた。なら自分たちはそれより上の力を! とかいって絶対に堂々巡りだし!? 本当は…一番いいのは、この剣が伝説にあるように力を持ってなんかなくて。 ただうめくだけとか、顔があるだけの剣だとか、そういうのなら問題ないんだけど。 そういう噂を広めればいいんだし。そんな事実をさ。 だったら力に対抗しよう、というような動きの悪循環は避けられるし」 「あのなぁ〜!!!」 ……カタン。 ヴォルフラムがオレに突っかかってきている間にヨザックが部屋からでていっている。 多分あきれたんだろう。 でもオレ的にはゆずる気はない。 強い力は何よりも強い力をよびさます。 それが判っているから。 何しろ、オレ、この力…コントロールできなかったし。 コントロールできない。 というのならばなおさらだ。 「おま…おまえというやつはぁ!このへなちょこぉぉ!」 ばたんっ!! あ…倒れた。 あまりの興奮からか、その場にヴォルフラムは倒れている。 あらま。 「陛下はそのようにお考えでしたのね。 でも陛下?それまでせめてわたくしのお部屋においておいてもいいでしょう?」 こちらはあまり驚いてない様子のツェリ様。 「は…はぁ。まあ、それだけなら……」 『う〜!!う〜!!』 何かモルギフが抗議してるけど。 でももう決めたことだし。 とりあえず。 ヴォルフの目が覚めたらまた文句を言われるのは目に見えているので、オレはとりあえず外にとでる。 オレの少し前にコンラッドもまた、ヴォルフラムをソファーにと横にしてから部屋からでていってたし。 何だかなぁ。 でもさ。 ヴォルフ? 強い力は、逆に大変な力を呼び覚ますことがあるんだぜ? ってヴォルフラムにいってもわかんないかなぁ??? オレの場合、日本というか世界の歴史を知ってるからそう断言できる。 というのもあるんだし……
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