この世界に召喚されるようになって。 又、アンリの手助けで自由に行き来するようになって。 現代日本の高校生では一生体験しないような様々なことを経験してきた。 襲撃もうけたし、決闘もした。 売り飛ばされそうな事態にもなった。 けど、いつでもオレは一人ではなかったし。 殺されかけたり、誘拐されそうになったときも、どうにかなった。 必ず誰かが助けてくれた。 コンラッドの姿を無意識に探すが、彼はまだ片道に時間の遠出の途中のはずだ。 ヨザックが何かをたくらんでいるようにと感じたのは、おそらくこのこと。 オレはきっと試されている。 王として、どのように行動するのか…を。 人をあっさり殺すような王であれば、国民も国土も守れない。 それ以前に人と魔との共存なんても、そんなんだったら死んでもできっこない。 兵士が鉄の格子戸を閉め、オレがもどれないようにと鍵をかける。
「おまえはついてるぜ。昨日追加した罪人連中は海賊だが、大物はほとんど本国送りだ。 残ったのは下っ端の小物ばかり。剣の腕もたかがしれてる。」 そうは別の男性が何やら後ろのほうでいってくるけど。 オレの剣の腕なんて、からっきしだ。 「海賊って…先日豪華客船を狙ったあれ!?」 思わずびっくりする。 だってオレもその場にと居合わせてたし。 そんなオレの言葉に。 「そヴた。驚いたことにその船には客に成りすました魔族がのってたらしいが」 オレを案内していた兵士がそんなことをいってくるけど。 なりすました…って…… れっきとした客ですってば。 きちんと支払いしてたようだし。 ヴォルフラムのお金もコンラッドが追加で払ってたぞ!? ヴォルフラム自身も払ったらしいし。 「ところが。そいつら船が港に入るや否や。風船人形にと姿をかえちまったらしい。 この祭りに加えるつもりだったが、生きているか死んでいるかわからないようじゃ……」 ということは、オレたちを手助けしてくれたヒスクライフさんのことはバレてない。 ということか。 その対戦が実現すれば、オレ対救命君人形のドリームマッチだったのに。 しかもオレ圧勝。 風船人形秒殺。 トランペットらしき楽器がファンファーレを鳴らすと同時、客がどよめきを増す。 向かい合ったゲートから、罪人がひかれ双方出走間近となる。 遠めではっきりとは見えないが、十二・三歳くらいの少年らしい。 「って!?まだ子供だよ!?」 オレの叫びに。 「子供でも立派な悪党だ。護衛船や客船の見張りに一服もって賊をやすやすとひきこみやがった。 まあがんばんな」 いってオレを押し出す兵士。 って子供が殺したり、殺されたりするなんてダメだろ!? って大人でもダメだけど!! ちなみに、オレは犬に石を投げることもかわいそうでできない。 というか、昔から動物とかには初対面でもなぜかすんなりと好かれるし。 促され、仕方なく中央にと進み出ると客がわっと歓声をあげる。 中にはオレをみて、男か女か。 賭け事らしきことをしている声も聞こえるし。 ……オレは男です。 女顔でも…… ふと、無意識に腰に挿している剣にと触れると、指に振動が伝わってくる。 何やらうめいてオレを呼んでいるようだし。 「…モルギフ。いっとくけど相手は傷つけないぞ?絶対に」 何か武者震いらしきものをこいつはしているようだし。 魔剣モルギフ。 魔王の忠実なる僕。 とりあえず、そのまま、鞘にと収めているままで剣を手にとる。 相手は大ぶりの両手剣を握っている。 布を巻いたままだと、持ちにくいので顔の部分の布をはずし。 「何だ?あの情けない顔の彫刻は?」 「こら、剣をぬけ〜!!」 「何あれ。だっさ〜い。キモ〜イ」 そんなブーイングの声がオレにと浴びせかけられてくる。 キモイ…って…… この世界にもそういう言葉があったんだ。 妙に感心してしまう。 中央にオレがたどり着く前に、相手が奇声を発して走り出す。 銀の刃を上段からオレに向かって振り下ろしてくる。 「おっと」 『う〜……』 すんでのところで両手で剣をもち、鞘に収めたままの剣でうけとめる。 剣がぶつかり合う瞬間にモルギフが不満足そうにとうめく。 「まだ開始の合図ないだろ?…って、あ!?リック!?」 思わずびっくり。 オレの目の前にいたのは、あの例の見習い船員だ。 船の上でみた悪意あるオーラは今はない。 あるのは…… オレが名前を呼んだのに気づき、オレをみてぎょっとしてとびすがり。 剣先を下にと向けるリック。 「何で君がこんなとこに!?何かの間違いだろ!? あ、わかった。脅されたんだな。君はちゃんとした船員だもんな。 見習いとはいえ罪人扱いされる筋合いはないよ」 オレの言葉に、とまどいつつ。 「あんたことどうしてこんなところに……」 「いやぁ。瀕死の人を励ます仕事って聞いたから……って。オレのことはいいんだよ! 冗談じゃない。こんなの誤解だし。オレから役人にいってやるよ。 ちょっとぉ。この人海賊なんかじゃないよ?」 オレが後ろにむかっていいかけると、何やら客が叫んでくる。 それと同時にモルギフに強く引っ張られ、思わずバランスを崩し前のめりにとなってしまう。 「…え?」 みれば、リックが斬りかかってきてたらしい。 モルギフはその攻撃をかわすために、オレを引っ張ったらしいけど。 …本当、魔王に忠実なのね。 「サンキュ〜。モルギフ」 オレの言葉に、叫びの顔をしていたソレがにこやかにと笑う。 …何かこいつ愛嬌あるなぁ〜…… 「っ!?」 みれば、剣の鞘か何かがあたったのか、リックは驚いたような信じられないような表情をし。 剣を構えたままオレを見ているし。 血走った目とゆがんだ口元。 頬か紅に染まっているために、ソバカスは今は外見上ではみえなくなっている。 「忘れてたよ。お客さんが魔族だったって。なるほどかわった剣をもっててもおかしくない。 でも相変わらずお人よしだね。お客さん。鞘から剣を抜かないなんてさ」 オレをみて、にがにがしく笑って言ってくるリックだし。 「…もしかして?オレを倒そうとしているの?」 何で? どうして? 「あんたを殺せば無罪になる決まりだからね」 そういって、再び剣を身構えてくる。 「なあ?だまされてるんだろ?なあ?リック。君はだまされているんだよ。 殴られたり、脅されたり、恐い思いをして海賊ですっていわされたんだろ? それか海賊に何か脅されて何かやっちゃったとしても、そんなのは無効だよ。 ちゃんと弁護士に助けてもらおうよ。オレも力になるからさ」 そんなオレの声に乾いた声で長く笑うリック。 狂気に支配される寸前の、自分では止められない嘲笑だ。 「だまされているのはそっちだろ!? 見習い船員として船に乗り込んで見張りを眠らせるのがオレの仕事だ。 それから仲間が乗り移りやすいようにはしごを下ろすのもオレの役目。 ああ、あんたたち特別室の客が部屋にいるはずだって甲板で報告したのもこのオレだよ? 決行直前にあんたと出くわしたときは正直いって肝を冷やしたね。 なのにあんたときたら、どこまでも間抜けでオレを励ましていっちまいやがった! 何か知っているのかも。とぎくり、としたけどなっ!」 ……あのとき、このリックが纏っていたオーラはそういうことだったのか。 だけど。 「そんな!?だって船乗りになるのが夢なんだろ? そういってたじゃないか!?大きな船を動かすのが夢だって!!」 心から彼は悪人ではない。 それは見れば判る。 少なくとも、オレには。 「そうだよ。お客さん。大きな船の船長になるはずだった。あんたがあのとき邪魔さえしなかったらね」 「そんな…まさか、船長って…海賊船の!?」 斬りかかってくるリックをよけては、モルギフの鞘でうけとめつつ。 どうにかしのぎつつも駆け回るオレ。 観客席からは、反撃しろ〜!! だの、何か声がとびかってるが。 「それ以外にどんな道があるっていうんだよ!? 物心ついたころから賊の中にいた!オレみたいなガキにどんな道が!!」 まるで悪魔にでも取り付かれたような茶色い瞳は瞳孔を収縮させてオレを付けねらう。 『はう〜!』 モルギフが自分を使え、とばかりにうなってくる。 「あのなぁ!人を殺めるなんていけないの!傷つけることなんてもってのほか! そもそもオレはおまえの力を人殺しとかそういうには絶対につかわないからな!! おまえの力は皆を助けるためのものだ!!」 とりあえず、モルギフの顔にむかって叫んでおく。 『ばぶ〜……』 「はぶてるな!!」 何か口をとんがらしてるし。 …さて、どうするか。 ふと、持ち直す剣の柄部分に指先が触れる。 それと共に脳の中にと文字が閃く。 ――できることをしよう。 「…え?」 思わず立ち止まるが。 …今の…モルギフ? 「あんたを殺せば自由になれるんだ!オレは殺せるよ!そっちは恐いみたいだけどね! あんた魔族だしね!魔族を倒せば箔がつく!それが双黒の持ち主となればなおさらに! こんなオレでも生きていく道が悪党以外に開けるかもしれない!!」 ……双黒ってばれてるし。 客たちにはオレたちの会話は非難や歓声、といった声で聞こえてないみたいだけど。 「…できることを…か」 そのまま、剣を両手で握りなおす。 そして。 「絶対に鞘ははずすなよ!!モルギフ!!」 『え〜…』 不満そうな声を出しつつも、それはおそらく了解の意。 振り下ろされてくる刃をしたからはじき、切っ先をそらしてよろめかせる。 再び振りかぶってくるのをさけて、思いっきり足をふみこみ、リックの剣をボールにみたて。 モルギフをバットに見立てて振り切る。 と。 キィィ〜ン!! ドスッ! ジャストフィット! リックの手にしていた剣はオレの攻撃によって、彼の手から弾き飛ばされる。 鞘と剣の重なりあう音が周囲にと響き渡る。 リックがそれと同時に、モルギフの鞘が少し体に触れたがためにとその場にと倒れこむ。 そして何やら手を押さえているけど。 「ごめん。こいつって何かオレ以外の人は触れないらしくてさ。 ちょっぴり手が火傷したりしびれちゃったりしたかもしんないけど」 いいつつ、バランスを崩して横たわり、うずくまっているリックにと声をかける。 そんなリックの横にとかがみこむオレに。 「…ころせ……」 などといってくるけど。 「殺さないよ。時間稼ぎすれば殺さなくてすむって。観客をじらせば何とかなるよ。 まだ時間はあるんだ。君を絶対に殺させたりはしない」 そんなオレの言葉に。 「…相変わらず甘いね。お客さん。助かるのはあんただけさ。 勝たなかったらどちらにしろオレは殺される」 あまりに手がいたいのか、はたまた体がしびれているのか、うめきつついってくるし。 「え?でも時間一杯やりすごせば助かる…って……」 「助かるのはあんただけさ。オレたち罪人はどっちにしろ殺される!」 いって横を見てるし。 みれば、兵士が何やら弓を構えている。 って!? 「そんな!?でも大丈夫。まだ時間はあるんだ。きっと君も助かる方法があるよ。 というかオレが助けてみせる!!君はきちんと裁かれるべきだ。 もちろん、幼いころから海賊の世界しか知らなかったこととか。 正しい教育をうけていないから善悪の判断ができないこととか。そういう事情を考慮してね。 それからやり直したって遅くはない。まだ人生は長いんだ。きっと船乗りにもなれるよ」 オレたち二人の動きがなくなったからか、会場からは更なるブーイングの嵐。 観衆は総立ちでキルティーコールだ。 男も女も耳を覆いたくなるような、言葉を吐いて勝負の決着をつけたがる。
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