「いやぁ。昨日になって急に十代の子供が送られてきてさぁ。こっちとしても困ってたんだけども。 やっぱ若者には若者相手でないとね。客も満足してくれないしねぇ」 客? ああ、依頼人…ということかな? 面接会場にはオレのほかにもかなりの人が来てるけど。 いずれも負けず、劣らずの青少年ばかり。 といっても魔族特有の整いすがた顔立ち…というのはないけども。 何かオレって絶対に場違いだし。 「容姿だったら君が一番だね。女の子のようにも見えるし。だけど男の子だ。というのがポイントだね」 「…はぁ…すいません。母親似なもので……」 ほら。 やっぱりいわれたし。 オレってまぶたは二重。 しかもまつげが長く、眉毛は細い。 そんな感じだから、黙っていれば女子にと間違われる。 ……も、なれたけどさ。 面接をしていたのは、どうやらヴァン・ダー・ヴィーア島お祭り実行委員長代理らしい。 本人がそう名乗ったし。 「君、職業は何だね?」 「えっと…自由業です」 思わず学生。 といいそうになるけど。 そういうのってここではわかんないだろうし。 「何の自由業?」 「えっと冒険家です」 「名前は?」 「マクガイバーです」 冒険家っていえばマクガイバーだろう。 いや、教授でもよかったか? 「それじゃあ、君にやってもらおうかね」 「オレが!?」 何と、並み居る容姿端麗さんたちを蹴散らして、オレのような野球小僧が当選とは。 「うんそう。名誉職だから全力でがんばってね」 いって何かハンコを書類らしきものにと押されてしまう。 一応これで、モルギフに人間の命とやらをすわせてやれるだろうけども。 とはいえ、その他めには同年代の少年の臨終の瞬間にと立ち会うことになる。 後ろめたいし気がおもい。 おそらく少年は重病患者だ。 残り少ない時間をこうなれば、誠意をもって話し相手にでもなるとしよう。 とりあえず、合格したことをヴォルフラムとヨザックに伝えようと、控え室のほうにいこうとすると。 「どこいくの?つきそいの人はもう会場にいってもらってるから。君も早く馬車の中で着替えて」 オレを引き止めてそんなことをいってくる。 「え?!そんなに急ぐの?」 「お客さん待たせたら失礼でしょ?」 などといって、あれよ、あれよという間に馬車の中にと押し込まれてしまう。
「そのままでも君はいいかもね。」 「はぁ…どうも……」 白い上着を取り出すが、今の服でも問題ない。 と判断されたらしい。 ちなみに、今は学生服もどきの上に紺の上着を羽織っている状態だ。 「昨日になって、急に対象者が十人も増えたんだけどね。今年の祭りは大盛況だ。 例年は多くても五人だから十二人も見られれば、お客さんも大満足だろう。 あ、防具は控え室にあるから好きなのを選んでね」 ……? 防具?? ああ、防護服というか防菌服とか白衣とかのことか。 何かよく意味がわからないことをいっているけど。 間をつめてきて、オレの太股をなでくりまわすのはやめてくれ。 気色悪いし。 どうやらセクハラされているらしい。 そのまま、素知らぬ顔でモルギフの鞘の先をくっつけてやる。 といっても近くに持っていくだけだけど。 「うぎゃっ!?」 おそらく電気が走ったのか、悲鳴を上げてとび退く男性。 「すいませ〜ん。オレって何か静電気体質でぇ」 いくらこの世界でも静電気、くらいはあるだろう。 それを静電気、と呼ぶかどうかは別として。
送り届けられた会場は、港の近くで。 何かちょっとしたドームのようなものが、レンガを積み上げられて作られている。 外壁には蔦がからまり、何となく憧れの甲子園球場に似ていたりもして。 甲子園にまったく縁のないオレに何かのドームみたいな場所で一体何をする、というのだろう? ……トークバトル? 瀕死の少年と? …んなバカな。 あ。 それかパレード見ている間の話し相手なのかもしれない。 そんなことを思いつつ、係員に連れられて、長い廊下を進んでゆく。 何か何箇所かで外の音も聞こえ、さながら地下鉄のホームにいるかのようだ。 案内された部屋にはすでに先客が。 「その中で好きなものを使って。君はこれだね。」 いってなぜかよろい…… …ちなみに、胸と腹のところだけを手渡され、身に着けるようにといわれてしまう。 「……何これ?」 思わず素直な感想。 ……? どうも妙だ。 広い室内は、穢れた浅草色で何本かのベンチが並べられており。 十人近くの男たちがそれぞれはなれて座っている。 しかも、みるからに、何か危ない人たちらしき姿も。 え…えっとぉ? ふと。 「どうしてあんたみたいな若い子が……悪いことはいわない。今すぐにここを出て家にお帰り」 横から声をかけられる。 みれば、二十代後半であろうにかなり髪に白髪の混じった女性が話しかけてくるけど。 「はい?」 「あんたまだ若いんだし。あんたみたいな若い子がこんなことをしちゃいけない。 みたところ、私の子供と同じか少し上くらいだろ?子供は今年で十三なの。 ねえ?お金に困っててもこんなことをひきうけちゃいけないよ。 名誉職、とかいわれてだまされたんだろう? そりゃ、客としてみているぶんにしては勇ましくてかっこいいかもしれないけど。 やるとしたら話は別だ。こんなのは正義でも神の使途でも何でもない。 ただの汚い人殺しだよ!!」 何かそんなことをいってくるし。 「って!?人殺し!?何それ!?」 オレの叫びに。 「悪いことはいわないよ。今すぐここを出てお帰り。あたしだって下の息子が病気でなけりゃ…… こんな恐ろしいことに手を染めたりしない。 どうしてもお金が入用だ。っていうんじゃないんだったら。 若いうちからこんなことを覚えちゃいけない」 オレの手を握っていってくる。 「何!?何!?えっと!?ちょっとまってください!!ちょっとまって!? こんなことって何!?人殺しって!? だって人にチラシを読んでもらったら、命の最後に立ち会う仕事。 死を目前にした少年を励ませ。 って……人殺しってどういうこと!?客としてみている分にはかっこいいって!?」 何か嫌な予感がしてきた。 …まさか? そんなオレの言葉に。 「あんた。自分で字が読めなかったんだね!?そういう子はいくらでもいる。 そういう子がだまされるんだよ。これは相手を励ます仕事なんかじゃないよ。 これはね。処刑なんだよ。祭りの最後に客を喜ばせる残酷な見世物の殺し合いなんだよ!」 ぎゅっ! とオレの手を強く握って訴えてくる奥さん。 「は!?処刑!?何それ!?闘技場でグランドフィナーレがある。っては聞いてたけど。 花火とかパレードとかじゃないの!?」 祭りの最後の締めくくり。 といったら、やっぱり花火かパレードだし。 いい例がディズニー・ランドだ。 あ、あれは祭りじゃないか。 そんなオレの叫びに。 「いるんだよな〜。こういうやつが、毎年一人は」 何やら声をかけてくる二人組み。 何かイヤな感じをうけ、思わず気分がわるくなってしまう。 あきらかに、発しているオーラが欲望と悪意、殺意にと満ちている。 よくテレビとかの殺人犯のニュースが流れたとき。 ほとんどの犯人たちがもっている、それと同じく。 「なぁに。気にすることはねぇ。オレたちがあいてにするのは全員罪人た。 罪人を殺して何がわるい。それにじっくりいたぶればそれだけ観客もよろこんでくれる。 来年もこの割りのいい仕事にありつけるってわけさ」 にやけた、下卑た笑いでいってくる。 「そんなっ!?」 オレが言いかけると。 「出ろ!一番はおまえだ!」 いって、オレが名指しされてくる。 …どうしよう? とまどうオレに。 「いいかい?こうなったら時間をかせぐんだ。 あんたみたいな澄んだ目をした子が人殺しなんかしちゃいけない。 時間を稼いで観客をじらせば、少なくともあんたの手でとどめをささないですむ」 親切に教えてくれるまだ若い奥さんの姿。 「そっか。ありがとう。つまり、時間までやりすごせば。相手も助かるんだね。 あ、そだ。奥さん。これ、少ないかもしれないけど、息子さんの病気を治すのにつかって。 教えてくれたお礼もあるし」 いってコンラッドから持たされていたサイフごと渡す。 それをみて、なぜか目を丸くして。 「あんた…これ……」 「おばさん。お金がいるからこれにいやいや参加したんでしょ? ならこれもって棄権したら、おばさんも人を殺さなくてすむし。 おばさんのようないい人が手を血で汚したらいけないよ。子供さんのためにもね」 そんなオレの言葉に。 「でもこんな大金……」 大金なのかどうかは、オレには判断できないけど。 「早くしろ!!」 「ともかく、ありがとう!おばさん!おれ何とか時間までがんばって相手も助けるよ!」 せかされ、戸惑う奥さんにとサイフごと手渡し。 そのまま、手をふって、兵士の後にとついていく。 こうなったら、今聞いたとおり、とにかく時間を稼ぐしかない。 兵士たちを振り切って走ろうとも考えたが。 闘技場の中央に出てしまうだけ。 事態は何もかわらない。
話によれば、相手はオレを殺せば死刑を免れる。 と聞いているらしい。 ……まるで中世の決闘場。 というか闘技場よりもたちがわるいし…… ふいに、天井がなくなって歓声が耳にととびこんでくる。 一体何が楽しくて人殺しなんか見に来るのやら。 きっとみんな心が病んでいるんだろう。 円形の場内には大量の松明がかかげられており、夕方だ。 というのに辺りを昼間と同じくらいに照らし出している。 ざらつく石畳と潮風が何とも居心地わるい。 ここで行われるのは試合でなくて人と人との殺し合い。 ローマのほうにある遺跡でも昔、同じようなことをしていたらしいけど。 人間ってどこの世界でも同じようなことをする輩がいるものである。 …あらゆる意味で…… 「コロシアム…か」 そんなの歴史でちょろっと習った程度である。 単なる一高校生としては衝撃的すぎる。 皆が高揚してくる中、オレはドームの真ん中に、ぽつりとつったっている。 シマロンの国旗なのだろうか? 旗と、恐らくこの島ヴァン・ダー・ヴィーア島の旗であろうものがポールにと掲げられる。 管弦楽の高らかな旋律と、人々も同じく胸を手にあて歌いだす。 ……だから、人殺しをみて、何が楽しいんだってば………
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