西病棟に助けてくれ、の声があれば走っていって脈をとり。
東治療棟に死なないで。
の声があれば全速力で駆けつけて呼吸を確かめる。
オレたちは精彩を欠いたモルギフを担いでヴァン・ダー・ヴィーア島総合病院を駆けずり回っていたりする。
魔剣の力の源は人間の命。
ならば、命の始まりと終わり、といえば病院。
ということで。
誰かもしかしたら一人くらいはお亡くなりになるかもしれない。
という不謹慎な期待をしての右往左往。
…もっとも、あまりに患者がつらそうだった場合。
オレは無意識に回復の術をかけてるらしく、
なぜかヨザックやヴォルフラムにため息をつかれていたりする。
まあ、それ以前に。
「さすがに温泉治療も取り入れている病院。みなさん回復率がいいなぁ。
  患者さんのご家族にとってはいいことだけど」
「みんなユーリやヴォルフラムの顔をみて元気になってましたからねぇ」
くすくす笑いつつ、ティーカップを口にともっていっていきながら言ってくるコンラッド。
悪いことは出来ないもので、朝から誰一人としてご臨終しない。
いや、それはいいことなんだけど。
「アンリも来てたらなぁ〜……。何かいい案が聞けたのに」
オレのそんなつぶやきに。
「でも猊下は今、ユーリがいなくなったのをごまかしてくれているのでこれないのでしょう?」
「ま。そうなんだけどさ。」
何しろ銭湯の中で呼ばれたしなぁ…今回オレ……
ここは三ツ星クラスの病院らしい。
先ほども意識のなくなった老人が心音を確かめようとしたヴォルフラムの手をつかみ。
かっと両目を見開いて女神様!と叫んだり。
それをみて、娘と孫は大喜び。
四年ぶりにおじいちゃんがしゃべった!と泣くわ泣くわ。
ぶんぶんとヴォルフラムの手をつかんでお礼をいってたし。
ヴォルフラムはダメージが大きかったらしく、
額につめたい汗を浮かべて手首を振って何やらぶつぶつとつぶやいていた。
何でも魔よけの言葉らしい。
でもさ。
魔族が魔よけって何か妙な気もするけど。
モルギフは宿に持って帰ってしばらくすると、弱弱しく。
う〜……
と呻いたきり、うんとんすんともいわなくなってしまった。
それゆえに、エネルギーを充電するために、病院めぐりをすることになったのだけど。
「ギュンターが日記に書いていた通り、人間の命を吸収させないと。
  魔剣として使い物にならないんじゃないのか?」
「命ったって…そう簡単にいうけど。
  どうやって命をすわせるんだよ?コンビニで売ってるもんじゃないんだぜ?」
日本では、血は命の源。
とも呼ばれているので、オレが自分を傷つけて試そうとしたら、なぜか即却下された。
他の人を傷つけるわけにもいかないので考えた末の病院めぐり。
「手っ取り早く早くて数を稼げるのは村の焼き討ちだな。
  それか、ちょっと頭数が減るけど一家惨殺もありじゃねえ?」
「ヨザック。陛下がそんな恐ろしいことをなさるわけがないだろう?」
「あのなぁ〜!!そんなの人として出来るわけがないだろ!?
  人の命は何よりも重いってことば知らないの!?
  そんなこと人として根本的にダメだよ。たとえどんな理由があろうとも」
罪の重さの具合から、死刑宣告などをうけ、罪人が死刑などを受けることはあるにしろ。
「何か作戦としてダメだったのかなぁ?ここは、やっぱりオレの血をメルギブにすわせてみるとか……」
「いけません!陛…いや、ユーリ!自らを傷つけるようなことはおやめください」
「お前なぁ〜…だから、お前はへなちょこだ。というんだ。そんなことをしても意味がないだろうが?」
「それはそうとモルギフですってば」
コンラッドとヴォルフラムに即座に注意され、ヨザックに冷静にと突っ込まれる。
病院の食堂で昼食をとりながら、ぐったりとテーブルに頬を押し付ける。
周囲に人は少ない。
そりゃそうだ。
今日は祭りの最終日。
夕方にはグランドフィナーレが控えている。
多分、オリンピックの閉会式みたいなものだろう。
花火なんかもそういえばあるんだろうか?
周囲にいるのは、患者とそして病院関係者たちくらいなもの。
モルギフの顔は目立つので、その部分にのみ布を巻きつけている。
今ではこいつの顔も何か見ていると愛嬌があって笑えてくるから不思議なものだ。
「慰問団を装って尋ねたんですけど……
  ……この病院にはもう重体の患者はいないそです。俺達が治しちゃいましたしね。
  となると島の東の療養所と。西の老人施設のどちらかに向かうしかないな」
いってコップを置くコンラッド。
「やだなぁ〜……。いくらモルギフの為とはいえ、こんな誰かがなくなるのを待っている生活……」
「生活ったって。まだ半日しか過ぎてないじゃんよ。陛…いや、お坊ちゃん」
あきれた顔をしてオレをみてくるヨザック。
コンラッドはオレの更を確かめて自分のデザートをこちらにとおしてくる。
「本来の食欲とはほど遠いですね。どうしました?
  朝もあまり食べてなかったようですし。病人食で口にあわないんですか?」
などと聞いてくるけど。
「そうじゃないよ。そうじゃなくて……何か気持ちがね……
  人がなくなるのを待つのに悠長に食事なんかしてて悪いようで……」
オレのため息まじりの言葉に。
「ユーリは人の死になれてないですからねぇ」
「一応、育ての両親の親とも健在なもので。実の親なんて死んだ、といわれても。覚えてないし。
  しいていえば、小さいころ飼ってた小鳥が死んだときくらいかな?あれは泣いたけど……」
そういえば、うちはネコも犬も飼っていない。
一応持ち家なのに。
幾度かつれてもどったことはあったけど、両親がとっとと飼い主さんを見つけてきたし。
結局…そういえば、動物を飼う。
というのはしてないよな?
しいていえば、めだかとか金魚程度だし。
…?何でだろ??
金魚が死んだときも、しばらくは泣いたけどさ……
「でも何か食べないと。先にあなたの体がまいってしまいますよ?
  何か食べられそうなものがあったらいってください。
  この島は観光で成り立っているんです。客が所望するものは用意できるようになってます」
いいつつ、オレの額にと手をやり。
「……少し熱いようですね。おそらく昨日の疲れがのこっているんでしょう」
心配そうにといってくるコンラッド。
「僕はネグロノマヤキシーが食べたい」
「?何それ?」
思わずヴォルフラムの台詞に問いかけるけど。
「食べれるかどうかは別として。刺身とかオスシが食べたい…というのはあるけどね」
あと熱い日本茶があればそれにこしたことはなし。
「……それは日本だけの郷土料理では……」
オレの言葉に笑っていっているコンラッド。
「日本人っていったらやっぱ。刺身とかすしだしねぇ」
そんなオレの言葉に。
「それはさすがに、この世界のどこを探してもないですねぇ」
苦笑しつつ、しみじみといっているコンラッドにと対し。
「こら!お前たちだけで判る会話をするな!」
ヴォルフラムがつっかかってくる。
「今度料理長に聞いてみますよ。サシミなら勝馬殿に仕込まれてできますし。
  おすしもジェニファーさんからある程度はすし飯くらいは習って仕込まれてますしねぇ」
「…親父やおふくろ……何やってるんだよ……」
そんなオレとコンラッドの会話に。
「…スシ?サシミ?…よく判りませんけど?とりあえず、どうすんだよ?隊長?」
コップをおきつつ、ヨザックがコンラッドにと問いかける。
「…そうだな。よし。こうしましょう。午後は俺とヨザックだけでそれぞれ西と東の施設にいってみます。
  あなたは街にヴォルフと残ってください。
  民家の二階を借りましたから。宿屋よりは一目に触れずに過ごせるはずです」
「ちょっとまってよ?!メルギブはオレにしかもてないんだぞ!?
  オレがいかないと意味ないじゃん!?」
そんなオレのこと場に。
「無駄足になる可能性も高い。それに俺だけなら馬を借りて片道に時間程度ってとこですが。
  ユーリが一緒だと倍かかります。様子をみて事が起こりそうだったらすぐもどりますよ」
それも何だかなぁ〜……
というかさ。
ひょっとして人の気のオーラの量で人の死期が近いとわかるって…いったほうがいい?
……けど、この能力…オレ嫌だしなぁ……
アンリは訓練となれで視ようと思わなければ視えることはなくなる。
とはいってたけど。
……この十五年間…なくならないし……
あ。
でもこっちに着てからは少しは視えなくなっているような気がするけど。
「こいつがなぁ……」
「仕方ないだろう。それはユーリにしかもてないんだから」
「触ろうとしただけで、雷に打たれたような衝撃をうけますしねぇ」
オレのつぶやきに腕くみをしていってくるヴォルフラムに。
しみじみと同じく腕くみをしていってくるヨザック。
「そういうことです。二人は部屋でまっていてください。ヴォルフ。ユーリを頼んだぞ」
「言われなくてもわかってる!」
「……何かオレって役たたずだし……はぁ〜……」
ため息をつくオレに。
「決まり。てすね。さ。とにかく何か食べてください。飲み物ならどうですか?」
「……少しは食べるよ」

そんな会話をかわし。
オレとヴォルフラムはコンラッドが借りた民家の二階にといき。
コンラッドとヨザックはそれぞれに、東と西にむかってかけてゆく。
何かオレって本当に足手まといになってるよな……
と猛烈に自己嫌悪に陥りながら……



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