コンラッドたちが用意してくれていた服に着替えて廊下にでる。 ……この際紐黒パンは我慢するとして…… 廊下にでると風がとてもきもちいい。 オレの制服を元にして作成されているそれは、どこをどうみても学ラン以外の何ものでもなく…… まあ、着慣れているのでこのほうが気分は楽だけど。 「…あれ?何か雰囲気が違う?ここって血盟城じゃないよね?」 どうやらオレが今回出てきた場所は城の中のお風呂だったらしい。 一種のリフレッシュルーム…といったところなのかもしれない。 そんなオレの言葉に。 「おっしゃるとおりでございます。陛下。こちらは王国の東に位置するヴォルテール城でございます」 その顔にべったりと口紅をつけてギュンターがやってきていってくる。 ……つけた相手があいてだけにギュンターも気の毒に…… 「ヴォルテール…って、じゃ。ここグウェンダルのお城!?」 どうりで血盟約城と雰囲気も空気も違うわけだ。 それに何か…… 「さすがは陛下です。皆までいわずともお分かりになるご聡明さ。このギュンター。感激いたしました」 などといってくるけど。 いや、誰でもわかるってば。
とりあえず、中庭に面している廊下を進み、一室にと通される。 この城の主たるグウェンダルの姿は見あたらない。 「さ。陛下。こちらにご署名願います。」 いって、どさりと、書類の山をオレの目の前にギュンターが置いてくる。 ちなみに、この国に来るのはアンリと一緒に、初めてのときを除いて五回目だ。 毎週日曜日に、アンリと一緒にこちらに来ていたんだけど。 「こんなに!?っていうか、オレここの文字わかんないし!?」 いまだにきちんと読み書きができないオレ。 つうか、難しいってば…ここの文字…… しかし…毎回、毎回何でこんなにたくさんの書類の山が…… 「とりあえず、請謁ながらすべて目を通してあります。こちらはすべて魔王陛下のご署名が必要なものです」 ……はぁ〜…… 「はいはい。わかりました。…っと。」 そういや、初日以外でこちらに来始めた四日はほとんど謁見とかで時間をとられてたからなぁ… あとは、書類にサインとかしてたらあっという間に夜になったりとかしてさ…… まあ、一回の滞在で数日こちらに滞在していたから、すこぉし勉強もしたりもしてるけど。 だから、たまに城を抜け出して子供たちに野球を教えていたし。 えっと… 渋谷有利、原宿不利…って。 あれ?いつもの癖でついつい原宿まで書いてるし!? いつもながら原宿まで書くことないじゃん!? 「いつもながら何ともすばらしい。これは異界の文字ですよね。 そういえば。これを陛下の正式な認証といたしましたご報告はまだでしたよね?」 とか何かオレの座っている前でギュンターがいってくるけど。 「…って聞いてないよ……」 何で間違えた署名が認証になるわけ? ついつい、ずっといわれ続けるもので、書く癖がついちゃってるんだなぁ…… …ま、長いほうがもっともらしくていいかな? どうせこっちの人には意味わかんないだろうし。 …コンラッドはともかくとして。 「でもさぁ?オレずっとこっちにいるわけでもないんだから。ギュンターたちが代わりにやっといてよ」 オレの言葉に。 「何をおっしゃいます。陛下。まだ陛下はこちらのことをお分かりになっていないので。 請謁ながら我々が手助けをしておりますが。 いずれは陛下のお考えにそってこの国を動かすべきなのです。」 「え〜。オレそんなに頭よくないしぃ〜……」 オレの素直な感想に。 「大丈夫。陛下ならきっと誰よりもこの国のことを考えてくれる方法ができるよ」 笑いながら壁にその背をもたれかけつつ、そういってくるコンラッド。 「う〜……」 そりゃまあ。 王にやるって宣言しちゃって即位しちゃったのは事実だけどさぁ…オレ…… とにかく、書類をやっつけることが先決だ。 がむしゃらに書類にとサインをしていく。 念のために、ざっと目を通すのものの、はっきりいって言葉は意味不明。 ごくたまぁぁぁぁに判る単語がいくつかある程度だ。 何か記号らしき羅列にしかみえないぞ…相変わらず… 英語を習い始めた直後の感想によく似ている。 とりあえず、一通り書類にサインをしていると。 「さて。陛下には重要なご決断をしていただかねばなりません」 サインが終わるころ、ギュンターが姿勢を正してオレにといってくる。 ……何かイヤな予感… この城を取り囲んでいる何かピリピリとしたような空気。 オレの直感が、ギュンターの言いたいことはそれと関係ある。と告げている。 「実は人間共に不穏な動きがあるのです。 近いうちに一戦交えることになるでしょう。どうか開戦のお覚悟を」 何ぃ!? 「かいせん…って、まさか戦争!?いっただろ!?オレは絶対に戦争なんかしないよ!? 覚悟も何もしないったらしないの!!この国の王様になったときに戦争はしないって決めただろ!?」 種族が違うから殺しあっていいないて間違っている。 だけど、それを正そうとする人がいないから、オレは王になる、と宣言して即位したんだから。 「ですが陛下。我々から攻め込みはしなくても、やつらが仕掛けてきたらどうなさいます? 戦わずして降伏するようなことは我が国としてもできるはずが……」 だから!! 何でそういう考えになるの!? 「それでも!!とにかく戦争はダメだ!!開戦の書類にサインなんかしないからな!? それらしき文字はなかったとは思うけどまさか今の書類に紛れ込ませてたんじゃないだろうな!? 第一不穏な動きって何だよ!?疑わしきは罰せず。ってことば知らないの!? それに!具体的にいってどうしたらそんなに相手が戦争を仕掛けてくる、なんて断言できるんだよ!!」 オレの叫びに。 「金に任せてやたらと法術士を集めている。 人間どもが我ら魔族と渡り合うのは法術使いが不可欠だからな」 ……? 法術? それってRPGナムコのテイルズのあれ? そういいつつ、扉をあけて入ってくる人物の姿。 その人物…いうまでもなく、この城の主、グウェンダルはちらり、とオレのほうをみて。 「……一応。城の中に入る許可はだしてないんだがな……」 とかいってくるけど。 「そりゃどうも。オレもどこにでるかわかんないからね。文句ならエドさんというか眞王って人にいってよ。 でも、いくらその人たちを集めているからって決め付けはないだろ!?決め付けは!?」 オレの言葉とほぼ同時。 「ユーリ!お前というやつは!!いきなりきえて!!」 その後ろからわめいてくるのは、いうまでもなくヴォルフラムだし…… …あた〜…… 何でかこいつって即位の後、オレによくちょっかい…というかそばに聞いたりするんだよなぁ。 だいぶ扱い方わかってきたけど。 どうもコンラッドの話によれば、彼には友達がそんなにいなく。 また、どうしても身分うんぬんが絡んできてて、気軽に話せる友達があまり…というかほとんどいないらしい。 その辺りもあってオレは気にいられちゃったらしいんだけど…… でも、そう毎回つっかかかってくるのはやめてくれ。 ヴォルフラム。 お前はもうオレの友達の一人なんだから。 ずかずかと部屋の中にはいってきてオレにつかみかかっていってくるヴォルフラム。 ふと。 「ユーリ!?僕がやったブローチはどうした!?コンラートの魔石はつけてるのに!?」 オレの服をみてそういってくる。 ちなみに石の横についていたオプションは、 濡れてしまったのでただいまはポケットの中で布に包んで乾かし中。 「しょうがないだろ?今回オレ全裸だぜ?何しろ風呂に入ってたら。 というか、公衆浴場に入ってたらこっちにいきなり召還だぜ!? ブローチはあっちの世界の脱衣所に服と一緒においてあるよ」 そういえば、アンリ、ごまかしてくれてるかなぁ? もし、別に人が入ってきて、二人入っているはずなのに、一人しかいない。 と騒ぎにでもなっていたら大事だ。 そんなオレたちの会話をまったく意に介することもなく。 バサッ。 と地図らしきものを広げ。 この世界にもあるらしい……世界地図というものは。 「カヴァルケードだ。」 「まさか。そんな。」 「いや。ソンダーガードとみせかめてカヴァルケードが金をだしていた。」 「でも、あそこは今海賊の襲撃やら何やらでそれどころでは!」 「調べた情報によると、その海賊に奪われたはずの金銀のほとんどが国にもどっているそうだ」 って、狂言!? 狂言海賊!? 二人して何やら話し始めているグウェンダルにギュンターだし。 「この国の王になる。といっておきながら、いつもいつも僕の前から姿を消すとはどういうことだ!? まだ決着はついてないんだぞ!?」 ってまだいってたの!? 「だからぁ。アレは引き分けでいいって… あ。お前が気にくわないんだったらオレの負けでもいいっていったじゃん。 ふつう、タイマンがおわったらダチ!みたいなもんだろ?というか、もう友達だしさぁ」 いまだに、何かこいつはまだ言ってるし。 この国の礼儀を知らなかったがゆえに、 初めてこの世界にきたときに、相手が失礼なことをいったので思わずビンタ。 ……まさか、ビンタが求婚だなんて一体誰が想像できるものか。 ちなみに、食事中というか、わざと相手が落としたナイフなどを拾えばそれは決闘の合図らしい。 …というかさぁ。 そもそも、求婚うんぬん、というか、オレたち男同士なんですけど…… って、今はヴォルフと言い合っているときじゃないってのに。 そんな会話をしていると。 オレの考えが伝わったのかどうか、ちらり、とコンラッドをみると。 彼は二人で話しこんでいるギュンターとグウェンダルにと向かい。 「二人とも?そういうことはまず陛下に報告するのが筋じゃないか?」 などといってくれている。 コンラッドの言葉に一瞬、ギュンターとグウェンダルの動きがとまり。 「ああ。申し訳ありません」 ギュンターがいうのと。 「子供は子供同士。話があるようではないか?」 ムカッ。 グウェンダルの言葉に思わずムカッとくる。 というか、一応オレ…王様だよ? 「ってそんな問題じゃないだろ!?っていうか!!戦争なんて絶対にダメだかんな!! オレのこの目の黒いうちは誰も戦争なんかで死なせたりしないかんな!!」 そんなオレの言葉に。 「ではどうしろと?まもなく攻めてくる人間どもに応戦もせずに国をくれてやれとでも?」 オレをみて冷たく言ってくるグウェンダル。 彼はいつも何だか不機嫌そうだけど。 それは地らしいし。 「誰もそんなことはいってないだろ!? せめてくる相手がわかってるんだったら対策だって立てやすいじゃないか!! 話し合いの場を持てばいいんだよ!そっちはうちの国の何がほしいとか。どうしてほしいとかいきて。 だったらこっちはそっちの何がほしいだの、こうしてほしいだの情報交換してさ!! 協定とか条約を結べばいいんだよ!!」 オレの言葉にあきれてか、グウェンダルは右手をふって、部屋の外に控えている衛兵をよび。 「陛下はお疲れのご様子だ。部屋までご案内しろ」 とかいってるし。 新米魔王であるオレとしては、おもわずあっさりとご案内されそうになってしまう。
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