ワーワーワー!!
「うん。大分よくなってきてる」
草野球チームを作って早いものでもう二ヶ月。
一ヶ月前、オレは自分の出生の秘密を知ったわけだけど……
だけど基本的には草野球にあけくれる単なる高校一年生。
作ったばかりのときと違ってだんだんとチームの雰囲気もよくなってきている。
「よ〜し!!お疲れ様!今日はここまで!」
土曜・日曜・お休み有り。
の草野球の練習。
オレの言葉に。
「お疲れ様!」
などと口々にいい、後片付けをしてもどり始めるチームメイトたち。
「お疲れ。ユーリ」
「サンキュ〜。アンリ」
アンリからタオルをもらい、片付けの最終チェックをしてから。
いつものとおりに帰り道にお風呂にGO!
今日は一度家にもどって着替えてからプロ野球の応援に行く予定。


カッポ〜ン。
さすがに昼間の銭湯。
オレとアンリ以外の客は誰一人としていない。
「でもさぁ?あのテレビリポーター。チャメッケあったね。」
「どこが!?一応ケーブルテレビといえどレポーターだぜ!?
 『ダンディライオンズのキャプテン。渋谷有利原宿不利さんでした。』はないだろ!?
 こっちは一応気にしてるんだし!?」
本日、ローカルテレビ……
というかケーブルテレビの地域取材班が、オレたちのところに取材にきたんだけども。
……まったく……
「しかも美人なのに男なキャプテンでした。とかいわれるし……」
「それはユーリが母親似だから」
「いやまあ…そりゃそうなんだけどさぁ。もうちょい言い方、というかさぁ……」
そんな会話をしつつ、アンリと二人。
男二人で貸しきり状態の銭湯の大浴場にと入っているオレとアンリ。
「いいじゃないか。別に。何かのコンビ名みたいだし」
「ウッチャンナンチャンとか?」
「そう。オール阪神巨人とか」
「うわっ!?それはやめろっと!オレが巨人や阪神と一緒にされて喜ぶとでもおもってるのか!?
  オレは絶対にパ・リーグ派なの!」
「ま。ユーリは昔からそうだよねぇ。今日もあとで西部ドームにいく予定だし」
「そう!」
とりあえず、アンリの力を借りればあちらの世界には自由にいけるらしく。
試合のない日や練習のない日などはお土産…主にお菓子。
をもって、あちらの世界の仲良くなった子供たちのところにいって野球を教えていたりするオレ。
まあ、大概教えていたらコンラッドたちがやってきて、そのまま王城につれてかれ……
などとしつつ、二つの世界を行き来し始めて、こちらの世界ではもう一ヶ月もたつ。
は…はやい……
こちらはそろそろ梅雨入りだ。
先にオレが体を洗い終わり、ゆっくりと湯船にと浸かる。
思えばこの銭湯の大浴場よりひろかったんだよなぁ…あっちの世界のオレ専用風呂……
小市民的なオレにとっては恐縮すること限りない。
「でもさ。ユーリ。こっちから僕が道をつないでいくのは別にかまわないけど。
  エドの方から呼ばれるときにはきをつけないと。
  あっちから呼ばれるときは、時もその場の場合も関係ないからねぇ」
ごしごし体を洗いながらアンリがいってくる。
「でもさぁ?アレからあちらから呼ばれる、なんてことはないじゃん?」
「油断は禁物」
そんな会話をしているちょうどそのとき。
なぜか流れなどがあるはずのない湯船の中にと水流が出現する。
「…何かもしかしてお湯がもれてる?」
オレのつぶやきに。
「え?ああ。噂をすれば……だねぇ。ユーリ。こっちはどうにか君がいなくなったことごまかしとくから。
  時間とかもなるべくかせいでごまかすから、がんばってきてねv」
オレのほうをみて、にこやかにアンリが何やらいってくるし。
「いや、がんばって…って…うわっ!?」
流れは急に強くなり、オレの体はありえるはずのない湯船の中にと出現した渦にと飲み込まれる。
まさか!?
噂をすれば何とやらっ…ってか!?
って!?
まさかまたっ!?
「いってらっしゃぁ〜いv」

気軽なアンリの声を最後に。
オレの体はそのままあえるはずのない渦の中にと沈み込んでゆく……


うっすらと目をあけると、見慣れない天井。
というか、アンリが移動するときのようにもっとこう、いい移動方法、というものはないものか。
召還方法さ……
そんなことを思いつつ、まだはっきりしない視界は一面の灰色で。
仰向けにと横たわった体は首にかけている魔石のペンダントのみ。
ついでにいえば魔石の横にちょっぴしオプションが増えていたりするけどそれはそれ。
それ以外はあとは素っ裸。
当然だけど。
風呂にはいってたんだし……
オレの体はゆらゆらと、まるで海月みたいにゆれている。
背中はほんのりと温かいけど逆に胸と腹は薄ら寒い。
浴槽から流されてきて、今回の出口は温水プールか、はたまた同じ風呂の中か……
灰色だったのはどうやら高い天井でゆっくりと周囲を見渡すと。
わざとらしい椰子の木みたいな木々のジャングルが。
昔、町内の子供会でいったサマーランドによく似ている。
どうやら温泉プールらしき中央にオレはゆらゆらと浮かんでいるみたいだけど。
とりあえず慎重にたってみるとちゃんと足の裏がそこにつく。
水位はへそよりもちょっと上でお子様サイズ用?といった深さくらいか。
ふと視界を見渡せば、もやの…つまりは水蒸気の向こうで数人が身を寄せ合っている。
やばっ!!?
オレ別に髪とか隠すものもってないし!?
というか全裸だし!?
オレの髪の色は日本では当たり前だけどこの世界ではそうではないらしい。
何と信じられないことに、悲しいことに黒眼・黒髪は魔族にだけに産まれる希少価値で。
ほとんどの人間たちは縁起が悪いと畏れているらしい。
縁起が悪いというよりは、不吉。
不吉というよりは邪悪。
悲しいことに、ここでは種族間の差別が激しくて魔族と人間とは敵対している。
人間は魔族を恐れ攻撃し、魔族は人間を毛嫌いして軽蔑している。
そんな状況を少しでも改善したくて、オレは王になる。と宣言したのだけど。
……ついつい、モノのはずみで……
「あ、あの!大丈夫ですよ。ほら。オレ何もしませんから。
  どっちかというと女の子には人畜無害のレッテルを貼られてますし!」
ヤバイ。
この状況をどうしよう?
「露出好きとか、そういう病気でもありませんし。ー」
もやの向こうでわからないが、はじらう様子から仕草からして人影は女性グループと思われる。
もう少し近かったらオーラで正確なことがわかるのに。
オレがこの現状をどうしよう!?
と思いつつ、とにかく相手を恐がらせないようにと言葉を選んでいると。
ふいに。
五・六人のうち、一番手前にいた、
ぼんやりと髪の色がオレンジ色にと見える、おねーさんらしき人がジャズシンガー張りのハスキーボイスで。
「……陛下?」
とといかけてくる。
「え!?」
思わずその言葉に小躍りしてしまう。
オレの日本人的黒髪をみて、『陛下』と呼べるのは魔族しかいない。
つまり、彼らは魔族の一員で、ここは眞魔国内のどこかだ、ということだ。
前回は国境外に落ちてしまって大変な目にあったのだが……
ま、まあアンリがいたから大事にはいたらなかったけど。
殺気立つ村人と今だに何を話してたのかは聞いてもあのときのことは教えてくれないが。
「よかった!今回は呼ばれてでた場所が普通…というか国内で!
  ただちょっと格好だけが風呂に入っているときに呼ばれちゃったもので…
  ……セクシーすぎたんですけど……あのぉ〜?
  誰かバスタオルとかもっていたら必ず洗濯して返しますんでかしてくれたりしませんかねぇ?
  それかみなさん、全員がしばらく目をつぶってくれれば、さ〜とこの場を立ち去るんだけど」
……え?
「陛下ぁぁ〜〜!!」
オレの言葉をさえぎるかのように、妙に肩幅の広い金髪の人々が野太い声で立ち上がる。
どうやら彼女たちも全裸らしい。
ということは、ここはお風呂!?
何て凝ってる内装風呂……
「ええ!?」
思わず後ずさる。
バシャバシャと水しぶきを上げて近づいてくるのは一見、美人な女の人たち。
だがしかし。
オレには判る。
その体から立ち上っているオーラの色で。
相手の性別など、といったものは。
「って!?!?でぇ!?何で!?どうして!?男の人なのに化粧とかしてるし!?」
逃げようにも逃げ場はない。
というか、全裸でどこにどう逃げればいい、というのだろう。
しかも、何やら叫びつつ、怒涛のごとくに押し寄せてくる彼らの姿。
「陛下よ〜!!本物よぉ〜!!か〜わ〜い〜い〜!!」
「ふぎゃっ!?」
そのまま、オレは水中にと押し倒されてしまう。
というか、この人たちかなり力が強いんですけど!?
産まれてこのかた、こんなにもてたためしはない。
彼らが女性であれば、金髪女性がオレを取り囲んで取り合うなんて夢のよう。
だがしかし、彼らは当然誰一人として胸はなく……
しかも、オレを女と間違えてきている…というのでもなさそうだ。
彼らは何やら積極的に抱きついて頬づりまでしてくるし。
「ざらり…って今のひげ!?ひげのそりあと!?」
やっぱし男性だし……
って!?うわっ!?
どこ触ってくるんだ!?
抵抗しようにも、何しろ一対五……
誰か助けてぇ……
何か、今おれ、あらゆる意味で危機がせまってるんですけど……
もやが晴れた視線の先ではオレンジ色の髪の人がそんなオレをみてただただ笑ってみてるし。
あのぉ〜…笑ってないで助けてくれないかなぁ?
と。
「陛下!!お迎えにまいりました!!」
今のオレにとっては、とっても神様のような声が聞こえてくる。
そちらのほうに視線をむければ。
「たすけてぇ!!ギュンター!!あ、でもプールサイドは走るのは禁止!!」
バシャバシャと何とかおに〜さんたちからのがれようとして水しぶきをあげながら、
オレを迎えにきたらしいギュンターにと助けを求める。
もう一人、やってきたコンラッドは、そんなオレをみて何か不謹慎な笑いをこらえているようだ。
そりゃないよ。
コンラッド。
あんたはオレの名づけ親だろ!?
子供がやばい方向に引っ張られるかもしれないんだよ!?
「陛下!ご無事です!!?その手をお放しなさい!お前たち!そのお方をどなたと心得る!?」
水戸黄門ならここで印籠ものだ。
服が濡れるのもかわまずに、オレを助けようとギュンターが風呂の中にと入ってくるけど。
だけど。
オレの言葉とギュンターの言葉に。
オレの下半身やら何やらにしがみついていたおに〜さんたちの動きがピタリ、ととまり。
そして顔色がかわる。
『ギュンター様ですって!?』
もののみごとに異口同音で叫んでるし。
「……な、何ですか?その目つきは?」
ぎゅんたが戸惑うよりはやく、おに〜さんたちの視線はギュンターに釘付け。
そして。
「きゃ〜!!陛下もかわいらしいけどギュンター様も素敵ぃぃ!
  さすが眞魔国一の超絶美形!濡れるとますます美しいわぁ!」
「ぎゃぁぁぁぁぁ!?」
嬌声、というよりは怒号に近い声をあげて、オレにしがみついていた男たちはギュンターにと向かってゆく。
「いや…ちょっと!?うわっ!?」
何かそのまま、ギュンターは彼らに押し倒されてるし。

ぜ〜ぜ〜・・・
開放され、とにかくぜいぜい言っていると。
「はい。救出成功」
こぼれたボールを拾うかのごとくにコンラッドがオレをお湯の何から抱えあげる。
そのまま、湯から引き上げられ、ホテルのバスローブらしきものをかけてもらう。
オレの貴重な野球仲間は記憶通りにさわやかな笑顔で。
「お帰りなさい。陛下」
といってくる。
「ただいま。名づけ親。あんたは名づけ親なんだから他人行儀でよぶなってば」
「そうでした。ユーリ」
いってにこやかに笑ってくる一方で。
「コンラーッ!助け!」
「お逃げにならないで!ギュンター様ぁぁ!!」
バシャバシャとあがっている水しぶき。
というか、逃がすか!という気迫がおに〜さんたちからひしひしと感じられる。
「いいの?助けなくて?」
オレの言葉に。
「尊い犠牲でした。でもギュンターも陛下のためなら本望でしょう。」
はっきりいって、このときギュンターの美しさに生まれてこのかたものすごく感謝!!
「ありがとう!ギュンター!あんたのことは一生わすれないよ!!」
オレの言葉に。
「陛下!?お待ちください!わたくしまだしんではぁ〜!!」

おに〜さんたちにギュンターが捕まっている間にと、
オレはこのどう見ても熱帯風呂のようなところから外にとでてゆく・・・


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