「結局俺たちはお国に忠実。どんな理不尽なものだって陛下の命には従うさ。
  そんなのはお前が一番知ってるだろ?俺としては新しい魔王陛下はどんな人かなぁ。と。
  ちょこっとその辺のことを知りたいだけだって」
「それを試すというんだ」
コンラッドとヨザックが何やら話しているし。
「そんな大げさなことじゃねぇって。ちょっと準備する期間がほしいだけさ。
  もしあの王が前王と同じなら俺達兵隊は覚悟を決めなきゃいけねぇ。
  だまって死ににいく覚悟をな。誤解すんなよ?俺はツェリ様をこれっぽっちも恨んだことはないし。
  それどころか実の親以上に慕っているつもりだ。けどあの方は間違えた。
  ご自分の目ですべてを見ようとしなかった。
  シュトッフェルになぞすべて任せなかったらお前だって何人の部下を失うこともなかったはずだ。
  …ジュリアだって今頃は……」
…ジュリア?
何か懐かしいような響きの名前なんですけど?
胸の魔石が熱くなる。
「いっとくが。ヨザック。
  もし今後、陛下を惑わすような言動をしたら…その場でお前を任から外すことになる」
「悪いけど。ウェラー卿。閣下にその権限はないぜ?命令したいのなら早く復帰しろ。
  それともまさか、陛下のお守りをして一生を過ごす気じゃあるまいな?」
「陛下のお許しがいただければそうするつもりだよ」
「まじか!?嘘だろ!?どうしたらそこまで入れ込めるんだ!?
  かわいさとか生まれとかにだまされてないか!?
  ルッテンベルグの獅子、とも呼ばれたどこで牙を抜かれ……
  そういや……あの陛下がいってたな。あんたが彼の名づけ親だって。…そうなのか?」
「そうだ」
「何でソフィア様の御子にあんたが……。それに何か気にることいってたな。
  あの魔石…あれは陛下が身につけていたままでもあの湯は何の攻撃もしなかった。
  あれって…まさか…とはおもうが……」
「今は話す必要はない。ユーリはユーリだ」
「へいへい。でもグランツの若大将は真実を知りたがると思うがねぇ」
何だかそんな会話をしているし。


立ち聞きしていたのがわからないように、そっと扉を離れ外にでる。
月明かりでランプはあまり必要ないけど。
だけど洞窟の中では必要だ。
山道を一人であるいてゆくと、横の山では盛大なお祭りの賑わいが。
こちらの山までその賑わいは聞こえてきている。
パルテノン神殿のような神殿が明かりでライトアップされた様子がくっきりと浮かび上がっている。
とどろくような声が聞こえてきて、
燃え盛る神輿とそれに続くたいまつのま行列が山道を走り始めている。
二百年前の奮起を模した行事らしいが。
何でも百年くらい前までは何の罪もない女の子がいけにえとしてその火口にと身を投じていたらしい。
どこの世界でも似たようなことをしているものなんだな。
と思わず思ってしまったり。
今では地球では科学的に噴火のシステムは解明されて以後。
そういったものはないが。
昔は日本でも似たようなことをしていた、という古書が残っているし。
それは他の国でも言えること。
頂に一人、泉のほとりにたつ。
とりあえず、ボートを用意しようとうごきだし。
「…って!?」
いった〜
ついつい、はがれかけた木の欠片で手を傷つけてしまい、
こしにと挿していた鞘にと無意識にと手をあてる。
ちょぴっと血がでてるし……
と。
「――え?」
オレの手が水晶に触れたと同時。
水晶が光、文字が浮かび上がる。
オレには文字は読めないけど
読めないのに、それは頭の中にも同じように、その文字はひらめいてくる。
「……我が名はウィレムデュソイエイーライトモルギフ。我が望みは魔王とともにあり。
  わが身我が力。望むとあれば姿をあらわさん……―――水晶よ!真実の位置を指し示せ!!」
かっ!!!
頭にひらめいた文字をそのまま声にとだす。
鞘を目の前に掲げた状態で。
と。
鞘の水晶から光がほとばしり、それはやがて一筋の光となり、一点を指し示す。
「…これは…まさか……」
そっと鞘を船の中にと置いてみても、光が消える気配はない。
こういうのってよくゲームにもあるし。
とすれば。
この光が指し示しているのは、メルギフの剣の刀身のありか。
そのまま、とりあえず一人、ボートを泉の中にと漕ぎ出し、光が指し示す方向にとすすんでゆく。

光の道によって洞窟内部は照らし出されており、別にランプは持つ必要もないらしい。
そのまま、船を進めてゆくと、途中。
昼間鞘があった場所にとつきあたる。
だけど、光はその先を示している。
正確にいえば、お湯の中にとむけて。
意を決して服を脱いで、鞘を船にと残したまま、お湯の中にともぐってゆく。
光が指し示すままにと進んでゆくと、そこには何と岩の割れ目が。
そこをぬけ、さらにもぐっていくと、何やら光をうけて、きらきらと輝く物体が。
もしかしてあれが?
とりあえず息をしようと真上の水面にと出てみると。
そこはちょっとしたくぼみのようにとなっていて、四方が岩で囲まれている場所。
何かの弾みでここに刀身だけおちたのだろう。
「ここまできたらやってやろうじゃん!?」
先ほどの会話から推測するに。
例のシュトッフェルとか言う人にまとわりついていた怨嗟の気は。
彼がツェリ様を押し切って戦争をしてしまった。
というのが原因のようだ。
そしてコンラッドは部下をかなり失い……ヨザックもあの言葉だと共に戦っていたらしい。
確かに。
兵士は上に命令されれば意を唱えることも出来ない。
それは平和な日本で育ったオレでも過去の出来事や、よその国での出来事を見るたびにわかっている。
日本でいえばいい例が特攻隊だ。
国のために、と自らの身を弾丸として戦いの中にと若い命を散らせていった。
それでも彼らは文句をいえば、家族に迷惑がかかる。
死ねば名誉。
と自分自身に言い聞かせて……まだ若い命を散らせていった。
そのときの教育方針がそのように向いていたのでほとんどマインドコントロールのようなもの。
だけど誰だって戦いはいやだし、したくもない。
だからこそ。
今のオレにとできることは。
双方に被害を出さずに戦争を回避するには??
あくまでも、魔剣は話し合いに応じてもらうための一つの手段。
間違っているかもしれないけれど、それで皆が傷つかないですむのなら……
大きく息を吸い込んで、再びお湯の中にともぐってゆく。


…なっ!?
ごぼっ!!
思わず息を吐き出してしまう。
……あの顔があるし……
水晶の中でみた、あの顔が。
手を伸ばそうとすると、しかも何かかんでくるし!?
普通かむ!?
……よほどおなかがすいているのかもしれない。
よく小さな子供とか、動物とかでもおなかがすいたらやたらと咬んだりすることがあるし。
…例、妹のスピカがそうだったように。
だけど咬まれても、痛い、とかそういったものはない。
…これ、もしかして歯がないのかもしれない。
…少し痛いけど、ちくり、とする程度だし。
そのまま、意を決して剣の柄部分を握り、ぐっと捕まえる。
……何か魔剣ってもっとこう、おどろおどろしいものを想像していたけど。
顔以外はいたって普通。
よくゲームの中で装備して失敗する諸刃の剣や破壊の剣よりはましだろう。
思ったほどに重くもなく、とにかく片手でつかんで空気を求めて外に出ようとするけども。
光が弱くなってきているのをみてあわてて向きをかえて船のあるほうにと移動する。
冗談じゃない。
道しるべがなくなったら、オレここからどうやって出ればいいのよ?
だって誰にもいわないで一人できてるんだし。


「ぷっはぁ〜!!」
ざばっ!!
……潜水が得意でよかったよ。
自慢じゃないけど潜水で息継ぎせずに二十五メートルはいけるし、オレ。
そのまま、細い洞窟の裂け目を通り、もとの広い風呂もどきの泉へと出る。
湯からとりあえず足がつく位置でメルギフ…でなかったモルギフを水の中から引き出してみる。
刀身の剣に細い柄をつかみ、空気にかざす。
十何年ぶりにおそらく空気に触れたであろう刃は、風をきって音をたてる。
『あ〜……』
「?…あ〜?」
『う〜……』
「ってゆう、風ないじゃん!?」
『は〜う〜あ〜……』
「うわっ!?まさかなくの!?こいつ!?……ま、まあ生きてりゃなく…かな?
  顔があるし、しゃべってもおかしくは……」
この世界。
不思議なことが多すぎる。
ネコの鳴き声がメエメエだったり。
心臓が二つある馬だったり。
だったら生きている剣があっても不思議じゃない。
「……しかし…どういう剣なんだ?」
とりあえず、ざばざばと船にともどり、数回剣を振って水を振り払う。
柄は決行バットのグリップみたいにつかみやすく、決行なじんでくる。
宝石や彫刻の変わりに顔があり、しかもどうみても、ムンクの叫び。としかいえない顔だ。
何やら自己主張してそれはうなるやら呻くやらしているし。
そのまま、船にと入り、剣を鞘にと収めると。
カチンッ。
何やら小さな音とともに剣が鞘の中にと収まり。
そして。
「うわっ!?」
思わずびっくり。
何か不自然に鞘の先の部分に突き出ていた水晶は、ちょうど顔の部分と重なり。
剣を収めると同時に下から顔が浮き出てくるし。
って鞘に収めても顔はあるままですか…そ〜ですか……
とりあえず、用意していたタオルで体をふき、
服を着てから、ぎこぎこと再び船を陸にとむけてもどしてゆく。
オレには判らないけど、きっとこれで泉も元通りになるだろう。
だってオレにとってはこの泉、元々無害だったし。
剣を収めると同時に光も収まり、再び洞窟内部はほぼ真っ暗に。
ぎこぎここいで、洞窟の入り口付近にとしばらくするとようやくたどりつく。
ふとみれば、なぜつきの明るい外にとでると、コンラッドが手に腰をあてて待ってるし……
……よくオレがここにいる。
って判ったなぁ。
月明かりの下、少し微笑んでいるようだ。



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