「……で?結局とってこなかったのか?剣はみつからなかったのか?」
とりあえず、午前中。
ずっと休憩していて温泉宿にとまっていたヴォルフラムは、開口一番そういってくる。
「あったのはこれだけだよ」
いいつつ、手にした棒のような鞘を目の前に掲げる。
うっすらと青みを帯びた外見で、剣を収めるであろう場所になぜか水晶のような突起がある。
オレがはじめ、これに手を触れたとき、水晶の中からムンクの叫びをしたような顔がつきでていて。
オレの手に噛み付きそうな感覚に襲われたのであわてててを引っ込めたのだが。
だが、次にみたときにはそんなかおなど影も形もみえやしない。
観光客でごった返した街にもどるよりも、ここに泊まるほうが何かと楽だろう。
と。
もう一つツインの部屋を押さえるためにとコンラッドとヨザックは部屋からでている。
眞魔国を発つときの予定では、ヴァン・ダー・ヴィーア島では最高級のホテルに泊まるはずだったのに。
途中で海賊などに遭遇しなければ、産まれて初めての高級ホテルだったのに。
ヴォルフラムは木製の寝台に座り込み、ログハウス風の丸太壁にと寄りかかっている。
手にはギュンターの日記が握られているが。
「ギュンターの日記では
  『魔剣モルギフは魔王にしか扱えない、優雅で雄雄しい気高い輝きをもった剣である。』
  と書かれているが……」
「でも実際。中身が見つからないと意味ないじゃん?」
「他に何か気づいたこととかなかったのか?」
「ここにさ。何かまるで『ムンクの叫び』のような人の顔がはじめに映ってたようなきがしたんだけど。
  その顔、オレの手に向かって噛み付きそうになったんで手をひっこめたら、何か顔が消えてたし」
オレの言葉に。
「?顔?そのムンクとは何だ?意味がわからないが…しかし、それにかみそうになった?
  でも顔なんてないだろ?それ?」
「だから気のせいたかも」
そんなオレの言葉にしばし考え込み。
「いや。そうともいえないかもしれないぞ。何しろ魔剣だ。
  鞘が剣の状態を知らせたのかもしれない。ひょっとしたら腹が減ってるからみつからないとか?」
「腹がぁ!?金属、というか剣なのに!?」
ヴォルフラムの言葉に思わず叫ぶ。
「いいか。よくきけ。モルギフは人の命を吸収して力とするのど発動するには勢力補給の必要がある。
  公式な資料とはいいがたいが、若い女性を好む。という史書もある。
  …へぇ。ギュンターのやつ詳しく調べてるな」
日記を片手に感心しているヴォルフラムだけど。
「何だよ!?それ!?人の命を吸収!?それってまるでメルギフって妖刃じゃん!?
  オレ人殺しなんかしないぞ!?」
うろたえるオレに。
「城での説明を聞いてなかったのか?必ずしも殺せ。ということではないだろうが。
  何をうろたえているんだ?ユーリ?まさか人間ごときに情けをかけようというんじゃないだろうな?
  お前だってあいつらがどんな連中かわかっただろう。
  命を助けてやった僕らを魔族だから、と監禁したんだぞ?ああ、思い出しても腹がたつ!」
「でもでも!人間みんなそうじゃないし!」
あの恩知らずぶり…とは言いがたい。
少なくとも、ヒスクライフさんはよくしてくれた。
「お前があの人間に何かしてやったからだろうが。でなければきっとあの人間も他のやつと同じだ」
「いや。そう断言するのはよくないかと……」
淡々というヴォルフラムに一応訂正を入れておく。
「ま、何にせよ。モルギフを見つけてとってこなければ話にならない。
  これには鞘のことまでは書かれていないようだな」
「…そうですか……」
なら地道に探すしかないか?
「明日は僕が一緒にいってやる。」
「へ?」
彼が加勢してくれたところで特に手助けにもならないとおもうけど。
剣豪と呼んでも差し支えのないコンラッドですら見つけられないんだし。
オレのそんな困惑をよそに、ヴォルフラムは腕組をし。
「何しろユーリはへなちょこだからな」
「へなちょこいうなっ!」
こいつは、いつも単刀直入だ。
ずばり、と胸をえぐるようなこともいってくるけど、嘘よりやさしくて親切だ。
くすっ。
思わず笑ってしまう。
そうだよなぁ。
すぐにどうにかなるはずなんてないんだし。
気落ちしかけていたオレを高みに上げてくれるし、こいつは。
「どうした?何をにやけている?」
「何かひさしぶりだなぁ。とか思って」
「何が?」
「お前にへなちょこ。っていわれるの」
いいつつ横になる。
「それはお前が国をあけるからだ。民も土地も他人に任せきりで。
  まったく王、としての自覚がない、というか欠けている。へなちょこをへなちょこといって何がわるい?」
「悪くないよ」
考えても仕方がない。
とにかく、本当に見つかるかうんぬんより、まずは試すことを試さないと。
張り板の天井のしみを眺めていると水晶の中に見えた顔に見えてちょっと笑ってしまう。
「そうだよなぁ。
  オレみたいな成り立ての魔王が最初から何から何まで完璧に出来るはずないんだよな。
  ……ヴォルフ」
「何だ?」
オレはいきおいよく両足を振り上げて反動で起き上がる。
「ありがとな。理由はわからないけどついてきてくれて」
「なっ!?何だ!?その誠意なさそうな物言いは!?
  そもそもなぜ僕がこんなひどい旅に同行しなくちゃならないのか。お前はきちんと考えているのか!?
  お前が僕に求婚なんかしたから。
  僕はユーリが旅先でどうにかなってしまわないように目を光らせなくてはならないんだぞ!?
  その…旅先でだな。よからぬ輩たちに分不相応な感情をもたれないように、だ!」
白い頬を紅潮させて、そんなことをいってくる。
「あ?あ、あ、そっか!ってまだそれ解決してなかったの!?あれ!?
  すっかりもう忘れてたよ!?だって解決しているとばかり」
オレの言葉に。
「忘れてただとぉ!?」
無意識に両手で顔をかばうオレ。
「だってさ。いったじゃん。ごめんなさい。なかったことにしてくださいって。
  だってオレしきたりなんて知らなかったんだぜ!?」
オレの言葉に。
「こっちもいったはずだ!そんなことされたら僕のプライドに傷がつくだろうが!!」
「だからぁ!何どもいったじゃん!それならそっちから断ればいいじゃん。って。
  この話はお断りします。なかったことにしてください。って。
  オレのプライド云々は関係ないしさ。しきたりなんか知らないまでも間違えたのは事実だし」
「そんなことはできないっ!」
「だから何で?そういうルールでもあるの?宗教上の理由とか?はたまたしきたりとかで?」
「うるさい!」
言葉と同時に立ち上がり、無言で部屋の隅にとあるクローゼットの戸に手をかけるヴォルフラム。
「あっ!ヴォルフ!ごめんごめん!オレがわるかった!謝るから!クローゼットにこもるのはやめてくれ!」
「黙れ!尻がる!!」
「だからそれはフットワークが軽いってこと!?」
「知るか!!」
バッン!!
そのまま、ヴォルフラムはクローゼットの中にとこもってしまう。
というか、このやり取り…もう数回目以上なんだけど……
オレから断るだの、彼から断れだの。
そのたびに、こいつは何かに閉じこもるし……
オレの部屋そのものなどに閉じこもられ。
寝る床がなくてアンリと一緒に寝た…ということもあったしなぁ……
まったく。
こっちの世界のしきたり、というかマナーというか常識はよくわかんない……


「どうしたんですか?」
「それがさぁ。何か機嫌損ねたみたいで……」
食事にコンラッドが呼びにきたものの、いまだにヴォルフラムはクローゼットの中。
「仕方ないなぁ。ヴォルフ。俺たちご飯をたべにいくぞ?」
「勝手にしろ!!」
コンラッドの言葉にクローゼットの中から返事だけを返してくるし。
「ま、何か食べる気になったらこいよ」
「さ、いきましょうか」
「だね」
こういうときのヴォルフラムには何を言ってもムダなのだ。
と経験上オレは知っている。
コンラッドもさすがに兄であるだけのことはあり、よぉぉく判っているみたいだし。
そのままクローゼットの中にと閉じこもっているヴォルフラムを残してオレたちは食堂へと移動する。

淡水化物が中心の夕食をとりながら、
宿の人、というか従業員らしき人がオレたちにと祭りのことを聞かせてくれる。
この宿からだと、隣の山を炎の神輿が山を駆け下りる様子はよく見えるが。
横から見物するのは縁起が悪い。
とかでお勧めできない、ということ。
明日の夕方。
港近くの闘技場でグランドフィナーレがあり、それを見逃すと後悔する。
と教えてくれる。
何でも今年は参加者が直前に追加されたから例年になく大規模なイベントになりそうだ。
ということも。
剣が見つかればいってみるのもわるくない。
…見つかれば。
だけども。


部屋にもどるとヴォルフラムはいつ調達したのか、ワインをあけて、とっとと横になって寝ているし。
とりあえず、外に月が昇っているのを確認し。
鞘を片手に外にと出るのにコンラッドに声をかけようとし、彼の部屋にいこうとすると。
「…してるわけじゃねぇって。」
何やら部屋の中から話し声が。



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