入り口から入るとすぐに洞穴にとなっていて、壁も天井もむき出しの岩。 広いし高いので圧迫感はないが、外の光が届いていないのでかなり静か。 それぞれカンテラで別方向を照らしつつ、船を洞窟の中にとすすめてゆく。 水温が高いらしく、湯気があたりにと充満している。 「俗にいう、洞窟風呂。とかいうやつだな。それの大規模なやつ。温泉テーマパークとかでよくある」 思わず関心してしまう。 「っ!」 オールから湯がひねたのかヨザックが手の甲を押さえる。 「?そんなに熱いの?まさか熱湯風呂?」 「陛下。あぶな……」 コンラッドが止めるまもなく、ボートから手をひたしてみる。 適温じゃん。 ちょうどいい湯加減、といったところだし。 「ほどほどじゃん」 「平気なんですか?」 「平気も何も…あいてっ!」 濡れた指からお湯がこぼけおち、太股に落ちると同時。 ムカデに指されたような痺れと激痛が同時に走る。 「うわぁ!?やばっ!あつっ!あつつっ!ビリビルするぞ!? クラゲ。クラゲにさされたみたい。それも電気クラゲっ! でも何で手は?何で素手で触っても何ともなかったけど?」 服の上から触れた太股が大惨事なのに直接浸した指というか手はどうして何ともないのか。 「俺は手もしびれましたよ。ほら。腫れてきてます」 いってヨザックが手をみせてくれるが。 本当にぷっくりと腫れてるし。 「ほんとだ。これはつまり、泉質が酸性だったことかな?」 それにしては不可解だ。 ためしに靴下も脱いで、はだしのまま足を下ろしてみるけど。 「…何ともないし。大丈夫だし。何で?」 ただちょうどいい湯加減。 という以外に感想はない。 「まずいな」 コンラッドがヨザックとオレをみて、顔に手をやり小さくうなる。 「何が?」 「俺達は魔剣モルギフがこの山頂にある。という情報を得てここにきました。 地元の話と照らし合わせても、どうやらこの泉の魔物がモルギフらしい。 湯が特殊な変化をしているのも恐らくはあいつの仕業でしょう」 いって考えこんでいるコンラッド。 「へぇ。そんなこともできるんだ。さすが魔剣」 「関心してる場合じゃないですよ。モルギフをもてるのは魔王陛下だけ。だといったでしょう? だからこそ湯に触れても平気なんですよ。 服の部分は陛下じゃないから攻撃をうけて熱いってわけです」 「……何だかイヤな予感がしてきた」 コンラッドの言葉に一抹の何やらイヤな予感が頭をよぎる。 慎重に漕ぎ進んでいたヨザックが左手の照明を高く掲げる。 「銀のピカピカが見えてきましたぜ!」 地元民の恐れる泉の魔物は洞窟の最奥の岩陰によりかかるように沈んでいる。 灯りを反射して輝く様は、きらきら、というよりギラギラだ。 「申し訳ないですが。陛下。服をぬいでください」 「うええぇ!?やっぱり!?」 そんな予感がしてはいましたです。 ハイ。 「はい。ボートではこれ以上すすめないですし。服を着ていると先ほどのように被害もでますので」 ふぅ。 ため息をひとつつきつつ。 「了解。あそこまでいってメルギフとってくればいいのね」 「気をつけてください。足を滑らせたりしないように」 どうせヨザックにも風呂で裸はみられてるし。 男は思い切りが肝心だ。 服を脱ぎ、そしてペンダントをもはずそうとすれが、思いとどまる。 何となくだがこれは大丈夫…だと思う。 そういえば、今回、母さんたちの肖像画入りペンダント。 あっちにおいてきちゃったな…… ま、風呂の中にアレはもって入るわけにはいかないし。 「大丈夫。大丈夫。どうせ今回流されてきたのも銭湯で。出てきた場所も風呂場だったしね。 汗をかいてるからちょうどいいよ。それにここは休火山の温泉地だし。体にもいいだろうしね」 効能が何なのか知りたいところではあるが。 服をすべて脱ぎ終わり、ボートを浅瀬にとつけ。 その場所から足をおろしてゆく。 ボートの辺りは膝までの水位だけど、その先は急にと深くなる。 といってもちょうど首より下あたり。 「大丈夫ですか?しびれるとか、そういうのは?」 「ちょい熱めでいいかんじ。血圧の高い人は要注意」 そんなことをいいつつも。 少し離れて頭ごと一度湯の中にとつけてみる。 何ともないし。 コンラッドは苦笑していつもの耳に心地よい声でと。 「しばらくあったまっていきますか?」 とか聞いてくるけど。 「それは仕事しちゃってからにしよ」 簡潔に答えて、とにかく目的のものがあるほうにと進んでゆく。 問題のものが沈んでいる付近はちょうどアゴの辺りまでの水深。 場所によってはかなり浅いところや深いところもある。 さすが天然の洞窟風呂。 といったところなのだろう。 「…あれ?何か?」 とりあえず、違和感を感じ、そのままざぶり、ともぐってみる。 「陛下?」 心配そうなコンラッドの声。 「うわっ!?…コンラッド。しつも〜ん!…メルギフって確か剣なんだよな?」 今みたのは本当に? などと思いつつ、とりあえず叫んで問いかける。 「モルギフですってば。そうですが…何か?」 「これ、どうみても剣じゃないんだけど?」 『は!?』 オレの言葉に異口同音でコンラッドとヨザックの声が重なる。 「とりあえず、もってくわ。…でも、この顔…あれ?なくなってる?」 先ほどまで見えていたはずの、まるでムンクの叫びごとくの顔がそれから消えてるし。 そこにあったのは、一つの棒のようなもの。 いや、穴があるから…これってもしかして、剣の鞘のみ? 中身は…なし。 鞘の先には水晶のようなものが出っ張っており、 先ほどみたとき、確かにその水晶の中に顔があったんだけど…… とりあえず、ざぶり、ともぐり、問題のソレにと手をかける。 手を伸ばすと逆に向こうから吸い付いてくるみたいに、すっぽりとオレの手の中にと入ってくるそれ。 暗闇の中で見た限りは、それは青っぽく、絶対にどうみても、鞘のみ。 だから…中身は? そのまま、ザブザブとコンラッドたちが待っている場所にともどり、湯の中にと入ったままで。 「あれ、これだったんだけど……」 いって、とってきた鞘らしきものを手渡そうとする。 が。 「うわっ!?」 「?コンラッド?」 触ろうとしたコンラッドがすぐに手を引っ込める。 そして。 「…オレには触れないようです。…とすれば、それは……」 「それってモルギフの鞘じゃねぇの?中身は?」 「これだけだったよ?」 『・・・・・・・・・・・』 オレの言葉に三人が無言で同時に顔を見合わせる。 「…と、とりあえず。陛下。近くにそれらしきものがないかもう一度申し訳ありませんがみてくださいますか? オレもヨザックも湯の中には入れませんから。ヨザ。オレたちは船で探してみるぞ?」 「了解。隊長」 コンラッドが気を取り直してそんなことをいってくる。 「あ、これ船の中に入れといてもいい?んじゃ、オレちょっと泳いで探してみるわ」 いってそのまま再び温泉の中にとはいってゆく。 ザブザブと誰にも遠慮することなく風呂で泳げるのって気持ちいい。 しかも、洞窟風呂のような広い温泉風呂で。 たまぁぁぁに専用風呂でも泳ぐけど。 何だか悪い気がしてあんまり出来ないし。 コンラッドたちもまた、カンテラで水面を照らして探しているが、それらしきものは発見できず。 …本当に、剣なんてあるんだろうか?
「…見つかりませんね。陛下。そっちは?」 「こっちもそれらしきものはないよ?だからぁ。陛下ってよぶなって。名づけ親」 オレの言葉にはじかれたようにコンラッドを見ているヨザックだけど。 「とりあえず、一度もどりますか?もしかしたらギュンターの日記に何か書いてあるかも……」 「うえ!?あのサブサブ日記にぃ!?」 オレの素直な感想に。 「ま。ここで時間を潰すよりはいいんじゃないですか?陛下?」 両手を肩の位置まで上げて、首を左右に振りながら言ってくるヨザック。 「…そだね。とりあえず、出直そう。もしかしたら鞘に何かヒントがあるかもしんないし」 もしかしたら、何かの条件を満たしたら鞘の中から剣がでてくるのかもしれないし。 だって、魔剣…なんだろ? それか某小説の剣のごとくに掛け声ひとつで光の刃が出現するとか。 オレの言葉に。 「ですね」 「ま。閣下も心配ですしね」 あ。 ヴォルフラムのことすっかりと忘れてた。
そんな会話をしつつ。 ひとまず、オレたちはその泉というか洞窟温泉を後にする。
「しかし…剣が見つからないんじゃあ。軍備増強どころじゃぁ……」 「オレはメルギフをそんなことのために使わないよ。強い力は力を呼び込むからね」 ヨザックの言葉に帰り道答えるオレに。 「陛下?」 戸惑い、問いかけてくるコンラッド。 「だってそうじゃん?日本人は身をもって過去に経験してるしね」 「……原爆…ですか……」 「そ。今なんかアレよりもっとひどいのが開発されてるからねぇ。 …つまり、上をみてったらキリがないんだよ。なら出来ることははじめに間違わないことじゃん」 オレのそんな言葉に。 「間違わない…って。しかし、陛下はモルギフを取りにきたんでしょ?」 「力で抑えて戦争を回避するためじゃないよ。いっとくけど。 でもさぁ。…本当にあるのかなぁ?あの泉にメルギフ……」 「あるのは間違いない。と思いますよ?それを陛下が泉から上げても。 オレもヨザも泉に触れられませんでしたし。それと。メルギフでなくてモルギフです」 「……抑える為じゃない…って…それじゃあ何で……」 ヨザックが何かいいかけてくるけど。 「とにかく。見つけないことにはね。でないと地元の人たちもこのまま困ったことに泉に近づけないし」 「ですね。ギュンターの日記に何かヒントがあればいいのですが……」 とりあえず、今はオレの考えはいうべきではない。 何か言ってしまったら、このまま剣が見つからなくてもいいからもどりましょう。 といわれてしまいそうだもん。 でも何〜か、考えどおりに行かないような予感が大きくなってきた…… なら、次は、何ごとにおいても、どんなゲームの中でも魔剣。とか聖剣。 って何かある出来事とかをクリアしているか、または特殊アイテムが必要なはず。 アイテムの場合だったら、それをはずせば問題ないし。 力が発揮できなくなるから。 そうでなければ、ちょうどここは火山もあることだし。 火山の中に投じて永久封印。 ってことにしよう。 うん。 そんなことをおもいつつ。 とりあえずは、先ほどのヴォルフラムを残してきた宿にともどってゆく。
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